せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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店構えに対して店名が壮大すぎる

「………」

 

ペラッ

 

「………………」

 

ペラッ

 

「…………………………」

 

「お客さん、立ち読みは止めてもらえますか?」 

 

「……あ!ごごごごめんなさーい!!」

 

書店を巡ること数店舗、リューナちゃんのお眼鏡にかなう魔導書と魔道具はなっしんぐ!みーんな似通った内容のつまんない式と意味のわからない文章ばっかりで飽きてきちゃった。

 

「(でも内容は大体覚えられたしキリもいいや)」

 

そういえば別れてから結構経ったけど今セレネちゃん達どうしてるんだろう。お姉さんはこういうときの為に全員に秘密で盗聴用の魔法を仕込んでおいたのだー!!早速起動!

 

「(…………ふむふむ、今は武器屋から出てお昼に向かうと)」

 

それならリューナちゃんの読書タイムも潮時みたい。売り物の本を戻してから店を出て集合場所に行かないと。

 

「あとこれどうぞ。今度町でやる魔法の大会の広告です。お客さん、たいそう魔法にご興味が……」

 

パシッ

 

「これはいいもの貰っちゃった。ありがと店員さん!急いでるから雑になってごめんね!」

 

タッタッタッ

 

ーーー

 

現在時刻 12:00

 

現在位置 地方都市 町 中心部

 

リューナさんとナツメさんと事前に話し合った集合場所に着いた。ここで昼食を取った後午後はどうするのかを相談する予定だ。

 

それにしても、ナツメさんから「この町には他にはないいい店があるからそこで」とオススメされた店に決めたのだが……私はてっきりいつもの国が選んだ過剰に良待遇な店を選んだと思っていた。

 

それが今日は違う。

 

 

『喫茶 リヴァイアさん 3号店』

 

 

 

「……えーと、私は俗的な事にはあまり詳しくないのですが少なくともここは国家機関の要人が集団で来るところなのでしょうか?私はそうとは思えません」

 

一通りの多い町の中心部の人目につかない絶妙な死角。中心部には他にも飲食店はあるがその店は他とは全てが違った。町の綺麗な景観から浮く古く薄汚れた小さな木組みの建物。オシャレとは言い難い独特なタッチの書体の奇妙な大きな看板の付いた店。何よりも店名が喫茶店とは思えない程物々しい。

 

普通なら誰もが避けたがるそこに不思議な事に人は吸い寄せられる様に入っていく。それも一般人から裕福そうな商人まで客層は広い。もう一度言うがここは中心部、綺麗な店なら他にもある。

 

「……つーか喫茶つーより雰囲気的にはここってアレじゃね?」

 

「たいしゅーしょくどうだこれいにしえからつづくふるきよきてんぷれじゃねーかこれ」

 

 

 

 

 

「……あっリューナ姉だ。おーいこっちだよー!」ブンブン

 

「お待たせー!って3号店ってこの町なんだ!」

 

……リューナさん、何故知ってるんだ?

 

まあいいや、ナツメさんからは先入ってていいと言われてるし勇気を出して入店する。

 

店内は外観と似たような雰囲気だ。しかし建物そのものや設備が古いだけで飲食店の体裁として標準的な清潔さだろう。

 

昼時の飲食店だけあって人はかなり居る。そんな中でも彼は独特な雰囲気を醸し出していた。

 

「遅かったね。6人分の席取りは大変だったよ」

 

角の席の見知った顔から声をかけられる。ナツメさんだ。私達は手招きされて彼の近くの席に座る。混雑の中この席を用意するのは確かに難しそうだ……6人?

 

「ルナちゃんから町に来る前に昼食は自前で買い食いするって」

 

勝手に居なくなったようだったのだがそれならよかった。と同時に彼女はどこまでも集団で動く事をしたがらないのかと疑問に思う。

 

立ちながら談笑を続けるのも他の人や店に失礼なのでそろそろ何を食べるか決めよう。

 

「……ん?(そういえば気づきませんでしたが今まで普通の飲食店に入った事がありませんでしたね)」

 

勿論宿王都での内外問わない食事で店を使う事はあれどそういうのは大抵メニューは予め決められていた。宿屋でも大抵人と同じ物を量を減らして注文するといった受動的な頼み方だ。そう考えると初めての事で途端に好奇心が湧く。チラッと隣に座るリューナさんを見てみるとクーを膝に座らせてメニューを読んでいた。

 

「にくにくしいものばっかだね。だがあえておむらいす」

 

「そりゃそうだよ。ここの店は肉料理が美味しい店って有名だからね!お姉さんハンバーグ!」

 

そうなのか。私は名前こそ知っているものの食べたことはないのでそれにしてみよう。私、クー、リューナさんの向かいに座るミツキさん、アネッサ、ナツメさんは何を頼むのだろうか。どうやらミツキさんはメニューの多さから悩んでいる様子である。ナツメさんは何を頼むかもう決まったらしくアネッサと話していた。

 

「ね、ねえナツメ兄。ほんとに何でも頼んでいいの?ほんとに?」

 

「うん、可愛い君のためならね」

 

それは11の少女にしていい口説き方ではないと思いつつ邪魔するのも面倒くさいのでスルーする。

 

「なら……10名様限定『本店店長が厳選しオススメする極上ステーキ(※提供速度を維持する為焼き加減はローかブルー固定となります)』がいい。焼きはローで。駄目ならこのナポリタンにする」

 

「う"っいいんじゃない?…………でもやっぱりそういう訳か」

 

「なら俺も迷ってたしアネッサのにするか。店員さーん!」

 

「ミツキ君、悪い事言わないから今すぐ止めておきな。その頼み方は僕はオススメしない」

 

どうやら決まったらしい。すぐに店員がかけつけ注文をし、しばらく待つ。

 

「リューナさんはこのお店に入った事はあるんですか?何故か妙に詳しかったですが」

 

「いやーさ、実は大学の近くにもここ系列のお店があって噂を聞いてて。来たのは初めて」

 

ここ以外にもお店があるのか。もしかしなくてもここはかなり有名なお店なのかも。ちなみにナツメさんは王都2号店行ったことがあるらしい。

 

「僕の目当ての物はなかったけれどね。いつか本店にも行ってみたいな」

 

「本店ですか?」

 

「うん。試したかったサービスっていうの本店だけにしか無くてね」「え、なにそれ!?リューナちゃん初耳」

 

「それなら俺も聞いたことがあるな。『店が見つからない』とか噂だったアレだよな」

 

へー、ミツキさんも知ってるんだ。知らないのは私だけと、何だか少し恥ずかしい。

 

と、いけないいけない。私達だけで盛り上がってたけれどアネッサとクーもいるんだ。そう思い彼女らの方に視線を向けると……

 

 

 

 

 

「…………」

 

「すべてはおりのなかでかんけつするはずだった。させるべきでしているつもりだった」

 

 

 

 

 

何故だか、いつもの雰囲気とは違う真剣な顔つきでお互い目を合わせていた。クーはいつもよりさらに淀んだ目で虚無を見つめいつもに増して意味の分からない妄言を小さな声で呟きアネッサは見たことの無い真剣な顔つきだった。

 

「……え?」

 

私に気がついたのかすぐに何でもないようにいつもの笑顔に戻る。なんとも言えない不気味さでゾッとする。

 

「セレネ姉はハンバーグだよね」

 

「え、あ、はい。そうですよ。初食べる料理なので楽しみです」

 

「そーかー」

 

……きっとさっきのは気のせいだろう。今はそう自分に言い聞かせておこう。

 

 

 

<ご注文のお品です

 

あ、来た。

 

運ばれてきたのは熱々の鉄板に乗った大きな肉塊が二皿。

 

「お姉さんのハンバーグだー!」

 

それならもう一皿は私のだろう。

 

それで、これがハンバーグか。顔ほどに大きさのソースのかかった肉の塊、熱と脂に満たされたエネルギーに圧倒され食欲をそそる香りに本能の部分が刺激される。

 

他の人を待っていてはせっかくの料理も冷めてしまう。他の方には申し訳ないがお先に頂こう。フォークで肉を人より小さな一口大に切り口に入れる。

 

「……おいしい」

 

「ん〜うんまーい!ほっぺた落ちちゃちそうだよー!!」

 

詳細な感想については何も言うまい。数日前の事もあり今の私の舌には自信が無い。だけど誰が食べても美味しいという事実だけは確信を持って表せる。

 

<こちらオムライスになります

 

「それはねこのものです。おいしくいただきましょう、いただきまうめーちょーうめー」

 

彼女の頼んだオムライスも来たようだ。次来るような事があればこちらの方も頼んでみたい。

 

 

…………こうして、楽しいお昼時は過ぎていく。

 

「私のも早く来ないかな……」

 

「ところで焼き加減のローって何なんだ?初めて聞いたが」

 

「……………きっと物が来れば分かるよ」

 

<お待たせしましたー

 

 

 

ーーー

 

 

 

それから昼食も済んで午後になる。途中経過はここでは詳細には書かないが……あるときを境に食事の雰囲気が一気に変わったとだけ伝えておこう。

 

「セレネ姉、ご飯美味しかったね」

 

「ええ、お肉が美味しいというのは噂だけでは無かったようですね」

 

「俺とアネッサの場合はまさしく『肉の味』だったしな。セレネの魔法が無かったらどうしようかと」

 

店からは衛生上には問題はないと言われたが彼から適当な魔法を使うよう求められた。私も事情が事情なので彼にお腹の魔法をかけて現状まだ異常はない。勿論彼と同じ物を食べたアネッサにも同様の処理をした。……やっぱり人のようでいて人ではないのだな、と楽しそうに羽を揺らしながら食べる彼女を見て思った。

 

さて、午後に関してだがほとんどやる事はやり尽くしてしまい殆どはもう家に帰る。リューナさんだけはまだ用があるらしい。

 

「リューナさんは自分で帰るのですか?何をしに?」

 

「秘密。だけど楽しみにしててね!」

 

何故だろう、今の彼女はなんだか少し悪い事をしそうな笑顔だった。

 

 

 

私達は帰りの馬車に乗り町を離れる。帰り道の途中、家についたらアネッサは魔法の練習をしたいと提案してきた。彼らも家についたら早速剣技の基礎を教え始めるそう。取り敢えず彼女には適正と魔力量を調べるのが最初かな。

 

少しだけ真上からズレた昼の太陽に照らされ、私達は丘の上の家に帰る。




うっかり校閲を忘れたせいで谷の村編からの校閲をする事が確定した為暫く更新は無さそうです。ストレスが溜まったら投稿再開します。

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