せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在時刻 帰宅後
現在位置 自宅 庭
「えーいやーとー」ブンブン
「そうだクーいいぞ。その調子だ」
家の庭でミツキさんとクーは早速買った剣を持って素振りをしている。彼女が剣を振る姿は子供が木の棒を持って遊ぶ時のようでいて剣術にしてはまだまだ遅い。素人目に見ても明白である。対して彼の持つ片手剣は振るたびに風を切る音がしてまさに洗練されたといった感じだ。戦争では活躍する姿は見れなかったけれどギルドではあの剣裁きで数々の獲物を葬ってきたのであろう。……それにしても彼女、動きやすいように着替えたせいで腕の彫りが見えてるが……いや、見られてまずい人は誰もいないし別にいいか。
で、私達はというと。
「まずは魔法の適性を調べるんだよね。どうやるの?」
「専用の魔法の機構を組んで適性を算出します」
アネッサに魔法を教える上でまずやらなければならない事、魔法の適性について調べようとしていた。地面に光る半径2m程の簡単な幾何学模様の式が張られた円がそれをするのに必要な魔法だ。
「なんか思ってたのと違うね。本であった水晶球とか水で計るのじゃないんだ」
「その方法は私は見たことがありませんね、というか私自身適正というのを正しく調べたことが無いのでこれしか知りません。恐らく適性を調べる専用の魔道具でしょうが今回診断に使う魔法も構造的にはほぼ同じなので何も問題ありません」
仕組みとしては魔力を入れると属性に対応した値が出力されそれを適当に可視化する。今回は式の円の中に入ると出力し対応した箇所が対応した色に発光するようにしている。試しに円の中に入ると一部が白く光った。
「……よし、それではこの上に立ってください」
「は、はい」
彼女は恐る恐る式の上に立ち何が起こるのかを期待と不安の入り交じる顔で待っている。私は動作確認ができたし余計な事をしない簡単な式なので不安がる事もないと彼女を安心させる。
しばらくすると式が反応して一部が光りだした。緑色だ。
「セレネ姉、これは?」
「風属性ですね」
風属性か。私は光にしか適正が無かったから詳しいことはよく知らない。どんな魔法があるのかや効果等も正直そこまでだ。ただイメージとして扱えるのは突風や天候、空気そのものだろう。
「風って強いの?」
「さぁ?戦闘どころか光以外の属性の運用については私の範囲外なので分かりかねます。実用に関してはリューナさんが専門で知ってますし帰ってきたら頼みましょう」
式に出力された値を調べながら彼女の疑問に答える。この値を元に次の作業の魔力量の測定をする。と言っても適当な式に入れて計算するだけである……が、予想外の結果が出た。
「えっ!?これって……つまり……」
試しに自分の魔力の値も調べてみる。……嘘でしょ……?
「姉?…どうしたの?」
「いいや……えーと、たった今貴方の魔力量を算出したのですが……というか薄々気がつくべきだったと言えばそうだったのですが
アネッサ、あなたは魔力だけなら私より上です」
「………え?……えぇーーーー!!?」
うん、理論もなにもなくありえない話ではない。私は魔法こそ使えるが改造した魔法があっての事で魔力量自体はそこまででは無い。それこそ才能のある一般人程度でなら超えられるくらいには。だけどいざ実例と出会うとかなり負けた気になる。
しばらく二人で驚くだけ驚き落ち着きを取り戻す。
「えーと……魔法の才能があるの?」
「スタート地点には立てる最低限の才能は保証します。あとはどの系統を覚えるのかですが……」
彼女の場合は既に方針は決めている。ここ数日のアネッサの本の好みを見る限り私とリューナさんとは別のタイプの選出をする。端的に言えば物語や詩集等を好む。ならその特性を活かす他ない。
「貴方には呪文魔法が向いていると思います」
「呪文魔法ってその魔法以外にも何かあるの?」
あ、そういえば彼女にはまだその手の実践分野については教えていなかった。だけどまあ良いや、あの系統は想像力と才能が全て、その他の要素や厳密な理論は必要な時に教えればいい。
次は教会の図書館で魔導書選びだ。
ーーー
現在位置 教会
普段本を取りに来る以外ではあまり立ち寄らない教会。だけど今日は珍しく読書目的以外で使う者がいた。
「セレネ姉」
「どうしました?」
「音、楽器。ルナシーと狼さんがいるね」
「(楽器の音?)」
言われてみれば中から誰かが楽器を使っている音がする。曲を引くわけでもなく、ただ子供が遊ぶみたいな単音が不規則に続く。
ガチャ
「ミ、ファ、ソ……ピアノの鍵盤は分かりました。楽譜の読みはこれでいいですか?」
「はい、音階が一つづつズレてます。流石に独学二人は無理がありますよ」
「あ、本当にルナシーだ」
どうやら楽譜と数枚の鍵盤を狼さんと二人でにらめっこしている。……何故に?普段の彼女とのギャップから恐る恐る声をかける。
「え、えー……うん「夜間外出禁止されて夜糞暇なんで新しい趣味を見つけようと思いまして」
あ、丁度気になっていた事を本人が教えてくれた。私も戦闘が出来ないストレスを物や人に当たるのではなく芸術に昇華するのは普通ならいいと思う。しかしそれも相手が相手でルナシーが楽器だなんて夢にも思わなかった。一体誰がそそのかしたのだろうか、少なくともあるとするなら狼さんだが……正直彼女の初めての文化的な趣向の目覚めるには少しハードルが高い趣味だとは思う。一体何年後にいい曲が聞けるのだろう、その時が楽しみだ。
それでも夜に楽器は不味いのでは?と彼女に指摘した。
「……うるさい。私がピアノをしたいならいつでもいいでしょう」「ほら、聖女様も同じことを言っています。お嬢も皆さんと読書「あ?」「何でもないです」
「(解析をした限り音量が魔法で制御できるので機構だけ組んであげましょう)」
そういえば仲間の内何人が楽器が出来るのは何人できるのだろう。私は勿論出来ないしミツキさんはあまりそのような印象がない。ナツメさんリューナさんあたりはもしかしたらあり得るかもしれない。
「それと先程から指摘しようか迷っていたのですが」
「何です?」
「それはピアノではありません。パイプオルガンです」
「…………鍵盤があればどれも一緒です」
さて、パイプオルガンに四苦八苦している彼らを横に私達は地下へと降りる。そして魔導書の棚の前まで来て適当に本を見繕い数冊の分厚い本を取り出す。中身を見て魔法の種類を確認する……よし、ある。
「これがあなたの使う魔導書です。きっといい本ですよ」
彼女に魔導書を手渡す。私でも厚く大きいと思う本で彼女が持った途端重量を見誤り地面に落とす。本は傷つかず足に落とさなくて良かった。
「えっ……これ全部覚える訳じゃないよね?ね?」
「うーんそこまで身構えなくてもいいんじゃないでしょうか。多分覚えられるのはその本の4〜6分の1位、実用するのは多くても十数個位です。気長に少しづつ覚えればいいんですよ」
彼女は床に本を置いてページをペラペラとめくる。目次を調べ風属性の魔法のページに飛び彼女は初めて「魔法」と対面した。私もその中身を見てみる。
「うへぇ……」
「セレネ姉?」
「いいえ、何でもないです。ちょっと分量に目眩がして……」
「風を操る術」と大きな見出しのページに砂粒の様な文字で呪文魔法について書かれている。隙間なく並べられた字は僅かな空白の方が埃に見違える程、加えて内容も到底他人が読むようにフォーマット化されていない読むに耐えない文章だ。詩的で、定義のない、とにかく抽象的。読んだ数は少ないけれどやっぱり呪文魔法は苦手だ。
「…………」
しかし私とは対象的に彼女はそれを食い入る様に読んでいる。リューナさんが式を解く時と似ている、本当に集中している人の顔つきだ。
「……アネッサ?」
「ふぇ!?あ、ごめんなさい。つい面白くて……」
それが面白いなら幸先がいい。きっと彼女は魔法を使いこなせそうだ。
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