せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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呪文というロマン 理論という芸術 感覚という奇跡

現在位置 庭

 

教会から出るとミツキさんとクーの剣の練習は一時休憩していた。

 

「ふーきゅーけー」

 

「これが終わったらどうする?再開するか?」

 

「いんや、ねこはつぎはみるものがあるので」

 

丁度いい時に来た。彼らがまだ剣の練習をするようならば別の場所に行かなければならなかったが使っていないそうなのでここでしてしまおう。

 

「それで出てきたのは良いけれど何するの?」

 

彼女は不思議そうにしていた。彼女からしてみればこれから学ぶというのを中断しここに来たのだ。

 

「ふふふっ本当はもう分かっているのではないですか?」

 

何をするのか……それは勿論決まっている。

 

「『実践』をするなら地下よりも外でしょう?」

 

それを聞いて彼女は一瞬納得した。しかしすぐに私の過去の言動を思い出し矛盾点を指摘する。

 

「魔法ってそう簡単に出来なさそうみたいに言ってたよね!なのに……もう実践?」

 

珍しくさっきぶりの驚き方で取り乱している。声量も普段より大きい。

 

彼女の指摘したのは間違いではない。専門性を持つ使用用途は膨大な知識や経験、それと才能が必要……だが実用をしない趣味程度であれば理論上だけなら可能だったりする。しかしそれは足が地に着く前に足を上げて飛ぶ位には理不尽で高難度である。

 

例は少ないが修道院の先輩や私の真似をした孤児院の子供の感想をまとめた具体例は「なんとなく温かい力の流れを感じる」「マジになってやると恥ずかしい」「それとなく効果こそ現れたが日常の用途にすら使えない」「『検閲済み』(暴発とだけ言っておこう これは不運な事故であり怪我は完治した)」

 

それでも彼女は態々外に出る必要性は……と反論を続けようとしたのだが具体例の最後まで来てやっと察しがついて納得した。

 

「もしかして出来ないじゃなくて『出来た』時が危険だから?」

 

「初めての魔法はいつでも『出来てしまった』時が最も危険です。効果が分からなくて加減も出来ない。しかも人生初めてなら尚更です」

 

それと単にお世辞にもいい環境と言はえないジメジメした地下より日の光の下の方が気分がいいからというのもある。集中して本を読むにはいい環境必ず必要だ。

 

しかしそのままでは吸血鬼の彼女には酷なので魔法で日光を少し減衰させている。一応問題は無くしているつもりだ。

 

「そうだよね。それなら仕方がないか」

 

「ええ」

 

「肌が焼けるのは嫌だからね。セレネ姉ごめんね」

 

そっちにか。私が言ったからだけど優先してるのはそっちだったのか。

 

ーーー

 

それから十数分。

 

「…………」

 

「なんとなくいってることはわかる。だがおおむねてつがくのはなし」

 

庭の木の木陰でクーと彼女は二人して座り魔導書を読んでいる。図書館で見せた集中と同じくクーの言葉に微塵も反応せずにただその字を目で追って頭の中に呪文を入れている。

 

解読用に読み始めた「理論派でも分かる呪文魔法(著者 S.K)」曰くこれが呪文魔法を使う上でまず最初にする実践らしい。「体で感じ、知識を入れる」正確には扱う属性を肌で感じられる環境を作りそれを用いて学習する。何度も言うが呪文魔法はイメージ、つまり扱いたいものに関しての知識と感性が必須である。私もはじめは何をふざけた事を言っているんだ、とは思ったがその理由を知って納得した。この点で地下は魔法を使わなくても不向きであるから私はここへ来たのだ。

 

そして幸運にも今日はいい風が吹いている。

 

 

さあああ………

 

 

木々が風になびき、雲は青い空をゆっくりと動く。鳥は鳴き、一匹のねこが可憐な吸血鬼の少女の膝下ですやすやと寝る。無意識に揺れる羽と尻尾は彼女らの安らぎを表すかのよう。

 

至極、これ以上無い平穏な一時。戦闘続きで忘れていた。

 

こんな時間が一番幸せだ。

 

 

 

「………うん、だいたい把握できた」

 

彼女は膝のクーを退かし立ち上がる。集中して読み込んで分量にしてはかなり早く読み終えた。

 

「イメージは湧きましたか?」

 

「うん。それと姉が苦手そうだなって」

 

「うっ……そこも当てられてしまいましたか」

 

「うん。だってセレネ姉って冒険譚とか推理物ばっかり読んでるから毛色が違うから。でも可愛いね。普段は完璧そうなのにやっぱり姉も人なんだなって」

 

かわ……!?予想外の言葉にドキッとする。顔が赤くなってないかだけ気がかりだ。

 

「ほ、褒めても何も出ませんよ!それより魔法はどうでしょうか」

 

「この魔法はどう思う?」

 

彼女は本を開きページを指差した。そこには風属性の簡単な魔法の詠唱が書いてある。【旋風】という名称でその後に続く効果の解説をざっくり意訳して読むにただ風を起こすだけのシンプルな効果らしい。風属性魔法を使う者なら誰もがこれの取得から始めるともあり彼女にぴったりだ。

 

「セレネ姉、やるから」

 

彼女は建物に当たらないように向きと位置を変える。覚悟を決め、魔導書の記述道理に手を伸ばし呪文を詠唱した。

 

「スー……『風よ翔けろ』!」

 

………

 

……………

 

…………………

 

 

 

 

「……何も起きないね。もしかして失敗しちゃった?」

 

「いえ、作動してますよ。効果も今も現れています」

 

風だから目に見えた効果は判断しづらい。しかし確かに彼女の魔法は成功した。魔法が作動して少しだけ風向きの違う風が吹いた。詠唱の文面の荒っぽさとは違うまるで春風を連想させる暖かく優しい風。温度も体感数℃高く時期に似合わない風で人為的に起こしたと推測できる。

 

「うー……なんか魔導書と違うような……」

 

私も魔法の記述と余りにも違う理由が気になって確認してみると「イメージが制作された時の想定と違うとそうなる」らしい。私も呪文魔法が出来たら似たような事になってそうだな。

 

まあ、今は魔法が出来ただけいい。まず魔法が作動できなければそもそも駄目な話だからこれからも安心して教えられる。彼女は性格やさっきの魔法の発動の感覚から後方支援向きかな。

 

「ちなみにどんな魔法が使いたいのですか?」

 

「姉達とクーに使える魔法がいい……でもかっこいい魔法も使いたいな」

 

後半が小声だったが私にはしっかりと聞こえた。冒険小説のような派手な魔法が好きなのか、はたまた本当は戦ってみたいのか。どちらにせよ彼女の努力次第だろう。

 

ーーー

 

それから更に十数分。

 

「……zzz……zzz」

 

もっと練習して上手くならなきゃと意気込んで魔法を試していると案の定魔力が切れ彼女は寝てしまった。彼女の参考にしていた魔導書を参考程度に読みながら彼女を見守っていた。が、想定外に解読に集中してしまいまい気づいた時には地面に五体投地していた。まあ、致死量には届かないだろうとは読んでいた。

 

「(魔導書には読む者に魅了の魔法でもかけているんですかね)」

 

軍に来てから時間が出来て少し緩んできたのかな?生活に慣れてきたのはいいけど守るところはしっかりしておかないと。取り敢えず彼女は着替えさせてからベッドに寝かせておいた。

 

……さて

 

「(次は私の番ですね。知的好奇心でウズウズしてきました)」

 

長文だらけで嫌な文だったが斜め読みなら案外何とかなるものだ。魔導書の魔法を試したいというのは何もアネッサだけではない。当然の事ながら私もその一人である。

 

風属性があるなら光の魔法も……と安直ながら予想通り見つけて覚えた。今の私は技術が大人なだけの玩具を渡されたただの子供だ。あるいは遠出前日の眠れない子供、どちらにせよ無性にワクワクしている。

 

試す魔法は【月穿】。簡潔に表すと【光柱】の呪文版だ。非圧縮な事を除けばほぼ似たようなものである。余談だが何故かこの魔法、初出より改良後の方が弱い……何故?

 

そろそろ実践に入ろう。いつもの様に手を伸ばし構える。物に当たらないように細心の注意を払って照準を合わせ詠唱する。

 

「『銀の月 宵闇を裂き混沌に 秩序となりし光の矢を射れ』」

 

イメージするのは儚く消えてしまいそうな光の筋。威力の抑制の面もあるが関数での制御でない直感的な制御という呪文の最大の特徴を生かさない訳がない。

 

詠唱を開始した瞬間、普段との同じく魔法陣らしき光が現れた。しかし形や模様は大きく異なり幾何的な図形から不定形へと変化し記号の羅列がそれを埋め尽くしている。形としては汚い、しかしどこか美しく魅入ってしまいそうだ。

 

そして、来る。

 

 

…………

 

………………

 

………………………

 

 

 

 

静寂、風の音が響く庭。

 

視覚的には全くと言っていいほど効果は現れない。昼間に星が見えない様に先程の魔法は威力を低出力過ぎて昼間の光に掻き消されてしまった。

 

だがそれでいい。体感的には魔法は出力できているし望み通りの火力に抑えられた訳だ。実験は成功だ。迫りくる地面にどうする事も出来ない落ち行く意識の中、私は静かに喜んだ。

 

 

 

 

ーーー

 

「リューナちゃん帰宅ッ!ってあれれ?」

 

町での用を済ませたリューナちゃん。お家の前の庭で何かを発見。白と黒と肌色の物体、見間違えのないほどにセレネちゃんだ。

 

「おーい、セレネちゃーん?」

 

えーセレネちゃんの現在の状況は地面にうつ伏せで倒れてる状態。脱水や病気の異常はない、魔力は少ないが致死量でもないからひとまず安心安心。普段使わないような種類の魔導書が木陰に落ちてるし魔法の練習でもしてたのかな?随分と熱心だね!お姉さんも見習わないとその内抜かされちゃうかもなー……なーんて、ね。

 

「セレネちゃん起きてー」ツンツン

 

彼女の頬を突く。反応なし。うーんこの可愛子ちゃんめ。完全に寝てるならお姉さんが家の中へ連れてってやろうぞ……んしょっ

 

ほう、中々軽い。

 

彼女を家の中に運ぶ。地面に倒れてたから服も土と砂で汚れてるから着替えさせるのもしないと。

 

……同性だしセレネちゃんも平気だよね?

 

「(そういえばセレネちゃんの私服って見ないよね。いつも黒い服か最近は白い服だけだし)もっとお洒落したらいいのに勿体ない」

 

私のナイスバディーとは傾向が違うだけでスタイルはいいのに、そう愚痴をこぼした。実際問題セレネちゃんがあの服以外を着ている所は見たことが無い。王都で何回かナッツーのプレゼントを着てたけど最近は白ばっかりだし……案の定クローゼットの中はカラーリングが白、黒、黒で同じ服ばっかり。あ、でも見たことのない新しい服もある。ってこれかなりエゲツない露出度だ。きっと買った時顔真っ赤だっただろうなー。この新しいのもいいけどせっかくだから最近見てない黒い方を勝手に着させちゃおう!

 

「服よし!それではセレネちゃんの柔肌をご開帳……」

 

「……………っ!?」

 

 

 

 

【回復魔法】

 

「(これってつまり……)」

 

少し悩んでから白い服を着せてあげた。それにしても凄い物を見てしまった。いつも穏やかだからなのもあるけど心の闇は誰にでもあるんだね。町のお土産のお話もあるし夕食まで何も起きなきゃいいけど……あとで詳しく教えてもらいたいな。

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