せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在時刻 夕食後
現在位置 自室
「それで、お話とは何でしょうか?」
お互いベッドに腰掛けて向き合う。
夕食の最中リューナさんから食後に話があると言われた。内容については彼女がお楽しみ、と教えてくれなかったから私も知らない。それに何か特別心当たりがある訳でもないし彼女が何を話すのか全く見当がつかない。
「いい話と悪い話、どっちからが好み?」
いい話すら何か予想がつかないのに悪い話まであるのか。
「じゃあ悪い話からで」
「…………おっけー」
「一応先に聞きたいのですが私何かしちゃいましたか?」
彼女は横に首を振る。それなら自覚症状が無いのもまだ分かる。だとしたら一体?それを口にする前に彼女は話し始めた。
「まず確認なんだけどセレネちゃんは今日の昼間に魔法の練習してた。それで倒れた。これでいいんだよね」
「ええ。中へ運んでくれて本当にありがとうございます」
これは食事中に聞いた。未圧縮の魔法で魔力を使い果たして気絶した所までは私も記憶にある。その後町から帰宅した彼女が庭で倒れた私をベッドまで運んでくれたのだ。
これも悪い話といえば悪い話だが恐らくこの事ではない。私がそれを肯定してから彼女も無意識な内に段々と深刻そうな表情になっているからだ。本人がいつも明るいだけあって少しの変化でもかなり思い悩んでいるのが分かる。
「……実は、倒れてからの事なんだけど……ご飯の時だと皆の前だから隠してたんだけど……その……見ちゃった」
「見ちゃったって………っ!?」
頭の中で言葉とそれが一瞬で繋がった。咄嗟に服の下を確認するとなんの異変も無く白く健康的な肌だった。むしろそのせいで彼女が私に何をしたのかも概ね予想がついた。
「もしかして回復しました?」
「うん。服を着替えさる時に治しておいた」
だから倒れたにも関わらず服が綺麗だったのか……と今更気がついて一人納得した。
「それで……話してくれる?」
アレを見られてしまったのなら彼女には隠し通す必要もない。ただあの醜い物は何も知らない者の目に触れるべきでは無い。
「…………分かりました。ただ、他の方には秘密にして頂けますか」
「勿論」
ーーー
事の発端はあの地下都市を発見してあの場で過ごしていた時だ。もしかしたら既にあの段階で私は何処か壊れていたのかも知れない。
その日、戦闘服から着替えて普段通りに寝ていた。これまでの事、明日の事、これからの事を考えて床に就いた。大怪我もしたし魔力も不足していたから今日は泥のように眠る……筈だった。
ふと、深夜に目を覚ます。寝たのもかなり夜も更けてからなのにもう目が覚めたと寝ぼけた頭で考えた。戦闘の疲れもまだ回復し終わってもいないし再び眠りに就こうとしたした。
痒い。全身が焼けるように痒い。
虫刺されではない。直感でそう感じた。首、腕、腹、背中、足、全てに不快な感覚を感じる。今すぐにでも掻き毟りたくなる衝動を抑え服の袖を捲った。肌は赤く腫れている。服に隠れた部位全てを覆うように赤い醜悪な不快感が、私の肌に引っ付いていた。
身体の異常から頭の眠気も一気に覚めた。それと同時に自身の身に起きる異常が、不快さが、一気に襲いかかる。
しかし不幸中の幸いで私はこうなってしまっても本能より理性が勝っていた。
【回復魔法】
「っ………はぁっ!……はぁ…………」
全身にできる限りの回復魔法を使い肌の腫れを治す。赤い肌が急速に元に戻って不快さも次第に薄れていく。もしあのまま本能の赴く限りの行動をしていたら今は地獄だっただろう。
まだむず痒い感覚の残る肌を再び見る。……先程の赤さは何処かへ消えてしまった。少なくとも一時的には抑制は出来たらしい。
「(それより早く服を脱がないと!)」
それから度重なる人体実験の末に得た結論はどうやら私は下着や小物を除いた戦闘に使用する目的でない衣服を着用すると肌に蕁麻疹が出来るようになってしまったらしい。まるで神が私に殺しを望むように体を作り変えたみたいだ。その内私は戦い以外の何もかもを捨てざるを得なくなるのか。そのような考えすら浮かぶ。
少なくとも修道女、いや修道院でとうの昔に捨てた「普通の女の子」としての生活すらもう望めないであろう。
決意の代償は必ず返ってくる。これは呪いか天命か、正体は神のみぞ知る。
ーーー
「それで今日のお昼前に意図しない形で服を着てしまってこのようになってしまいました」
「で、でもそれなら何処かのタイミングを見計らって治せば良かったんじゃ!」
真っ当すぎる意見をぶつけられた。だが私にはそれ以上の理由があって出来なかったのだ。
「はい、おっしゃる通りです。でも心配させる「セレネちゃんの体が一番大事だよ!」
彼女に大声で叱咤された。少しの怒りと心配の眼差しで私の目を真剣な目でじっと見つめる。が、しかし私の言葉を聞いてその態度も一変する。
「子供を、アネッサとクーがせっかく楽しんいるのに私が邪魔する訳にはいけませんから」
そのまま私は続けた。
「子供はどんなに小さくても周りの人の行動はよく観察しているものです。身振り手振りから表情や口調、些細な変化を彼らは子供ながらよく理解しているんです」
「そ、そうなんだ。もしかして修道院の?」
「全部長年の修道院の経験です。その分隠すのも上手くなるからもう慣れましたけどね。……だからこそ、子供には私の悩みを悟られてはいけないのです」
「…………戦争は教育上悪いからね」
「子供は血生臭さとは無縁なのがこれ以上無い今の私の幸せですから」
しばらく私達はお互い黙りこんだ。暫くの静寂が部屋の隅の魔導書の山に染み入る。沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「……あの」
「はい」
「空気崩すようで今まで聞いてこなかったけど今聞くね。あの服を着たの?」
「はい」
「私、セレネちゃんのどの部位がかぶれてたのか覚えてるけど何で大部分は無事だったの?」
「……………………」
「流石にあの服のセレネちゃんはエッチすぎだと思うの。不謹慎だけどあの格好のセレネちゃんを見たかったね!!」
「…………はい」カオマッカ
完全に不意打ちだった。恥ずかしいし顔が熱い。穴があったら入りたい。
ーーー
一通り赤面するだけ赤面して話の続きをする。お次はいい話だそうだから是非とも期待したい。
「ふっふっふっ……セレネちゃんにはこれを見て欲しい」
彼女から数枚の書類を渡された。一枚は魔法の大会のポスター。それとパンフレット。ポスターの方は昼間町で見たものと同じ物だ。
ああ、成程。そういう事か。彼女なら絶対に参加するだろうなとは予想していたアレだ。私の知らない何処かで噂を開いて貰ってきたのだろう。そして私とともに出場してみたいと。
「今日町で貰ってきたんだー。セレネちゃんこういうの興味ある?」
当然。しかし……
「あるかと言われればあります」
「んー?もしかして乗り気じゃない?」
「大会みたいに競うのは余り好きではありません。今回は降りさせて頂きますね。態々持ってきてもらってごめんなさい」
「ありゃりゃ。もしかしてとは思ったけどやっぱりか」
じゃあこれはいらないね、と彼女は私に渡すはずの書類を見せてきた。2枚の事前のエントリー用紙だ。飛び入り参加も出来るのにこんな物を持ってくるだなんてどこまで用意周到だったのだろう。一枚は既に記入が済んでいてリューナさんの名前が書かれていた。断った後だが少し酷いことをしたな。
だけど今ならこれは無駄になることは無いだろう。使い道がなくなったとそれをしまう彼女に考えを話す。
「どうしたの?」
「いえ、今丁度面白い話がありまして」
「おっとセレネちゃんからの提案と。これは本当に面白い奴かな?」
「とは言っても出来るかは分からないです。ですがきっと興味は持っているはずですからそれは彼女に渡して下さい。今連れてきます」
私はリューナさんを残して退室しこれを求めるであろう彼女を呼びに行った。そしてしばらくして……
「リューナ姉、私に渡したい物があるの?私何かしちゃったっけ……?」
「!?っきききききたあーーー!!えっえっ?つまりつまり……そーゆーことー!?!?」
リューナさんこわれる。というよりこの時点でここまで喜ぶなんて予想外だ。突然こんなのになってしまったリューナさんにアネッサも驚いて怯えてしまっているしこれでは話にならない。とりあえず二人を落ち着けてリューナさんに事情を説明させた。
「魔法の……大会!?セレネ姉、まさか私が出るの?」
「どうせ魔法を学ぶならいい機会だと思いまして。無理にとは言いません。でも興味はありませんか?」
「あるか無いかなら………ちょっと。でもまだ始めたばっかりで早すぎるし無理があ「そんな心配なっしんぐー!!お姉さん達がぜーんぶ教えちゃいまーす」
「あ、あのリューナさん。落ち着いて」
急に立ち上がって話に割り込んできた彼女を抑える。が、抑制できず彼女はそのまま暴走する。
「だってだってだって!!魔法は初めてなんでしょ!こんなの落ち着いてられないよ!初めて全くの初心者から魔法の指導ができるんだよ!今から苦楽を共にして才能の極限を目指すんでしょ!」
寧ろそれは私の方がご教授願いたいくらいなのだけれど。
「セレネちゃんは研究仲間だから別腹なの!」
そうなのか。それはそれで私のような独学一筋が学者と対等に扱われる事を純粋に喜ぶべきなのか、何だか複雑な気持ちだ。
「あの……私もう魔法できるよ……姉……」
そんなカオスの渦中からアネッサが申し訳無さそうに呟いた。あ、そういえばまだ言ってなかったから魔法が使えた事まで伝えてなかった。
「え?」
「リューナさんが来る前に確認だけしたら出来てました。楽しみな所本当にごめんなさい」
「ああ、うん。分かった。仕事早いね」スンッ
あの騒ぎようから一転、目に見えて一瞬でテンションが下がった。
「そっかー。ちなみにそれってやっぱり呪文?」
「ええ、そうです」
「そう。……呪文だとしたら大会期間までならここの分だけで足りる技術的なのはひとまず保留にしておくとして理論と座学は……そもそも私の勉強量がな……」
何やら小声で独り言をし始めたリューナさん。僅かに聞き取れる単語からするに今から何を教えるのか思案しているらしい。
「セレネ姉、大会だけど……」
あ、リューナさんの暴走に付き合っていたから彼女の事を少し忘れていた。彼女は部屋を出ようと扉の前で話す。時間もだいぶいい時間だしもう寝るのだろう。
「もう少しだけ結果を待ってくれる?ごめんね、始めたばっかりだから何ができるかとか分からないし……まだ止めておく」
「そうですか。分かりました」
「でも……きっと出るよ。だって姉達がいるから……うまくなれるよ」
そして彼女は部屋を去った。結局断られてしまった。私も彼女を呼ぶ最中に薄々まだ参加の判断に十分な知識量が不足しているしこうなるだろうというのは想定していた。だから、ここからは私達の技量との勝負だ。いかにして彼女に自身を持たせるか、それによってすべて決まる。
「よし!決まった……ってアネッサちゃんは?」
落ち着いたリューナさんに彼女は答えるのを先延ばしにして帰ったと伝えた。そして考える事は私と同じで二人で頑張ろうねと協力する意志を伝えてくれた。
「…………あっ!そういえばセレネちゃん。実はこういう物もあるんだよ」
いい話は全て話終わったと思ったら三枚目もあったのか。どれどれ…………
「…………は?」
リューナさん、なんて物を持ってきたの?それに書かれた予想外の事実に私はその紙を床に落とす。リューナさんはそれを拾って私にもう一度渡してきた。リューナさんは混乱する私を見て笑っていた。
それもしてやったりと悪い笑顔だ。完全に想定外。確かにこれなら……うん、ちゃんと条件にも合うし……だけどとてもありがたい。念願の腕試しの機会がこんな風に訪れるだなんて。
「それじゃあ最後に聞くけど、出る?」
「勿論です」
迷わず即答する。やはり賢い友は持つべきだ。
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