せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在位置 自室
「これがその小説の解析結果。あんまりデータ取れてないのはご★愛☆嬌」
「あんまりって、全部手書きでこれですか」
解読が進んでないと言っておいてリューナさんが出したのは原本と、それとは別に1cmの厚さの紙束。しかも紙束には言及した通り小さな手書きの字で考察が書いてある。流石に謙遜にもほどがある。ほら、アネッサが引いてるしこれは私の感覚が正しい筈だ。
「何これ……何?」ペラッ
「上の方は愚痴とかもあるからあんまり関係ないのがある。ちょっと待ってね今分類するから」
彼女がその内容を確かめつつ紙束をいくつかに分ける。書いてある内容も少しだけ見えた。いつの間にか大学とここを接続したらしく大学からと思わしき本からの引用もチラホラ見られた。
分けられた資料は研究過程で使用したメモ書きという名目のただの愚痴が半分、引用資料と実際に考察が書かれた資料がそこから半分づつ。考察分の内容だけ更に分割すると呪文の効果と詠唱についてと本の単語をまとめた物に分けられる。
しかし……
「詠唱と効果についてだけ記述が少ない。やはりそれ程難解と」
「うん、予想以上に複雑だったの。それにこの魔法だいぶ古い系統の魔法らしくて大学でも中々資料が見つからないんだよ」
「『古い』ですか。難しいならまだしも古いのはどうしょうもないですね」
魔法の歴史はかなり長い。数百年から数千年単位で研究されてきた中の古いとなると一括に古いでもピンキリまである。その為制作時期によって作られる魔法は当然異なってくる。
それなら字体やら文面やらから測定できるのでは?となるだろう。残念な事にこれは制作年代が古いと分かる前に既に読んでいる時点で言語として普通に読める物であるのは保証されているのだ。つまり、文化的に大きな変動が起きるような年代は経っていない。せいぜい書かれてから数十年単位だろう。
なのに態々古い系統の魔法を使用しているという疑問がある。もしかしたらナツメさんがここを家具付きで購入できたのはある意味幸運だったのかもしれない。木を隠すならなんとやら、その答えはこの家にある……のかも知れない。もし持ち込まれた物だと発覚したならその時はその時だ。
ちなみに解読するにあたって最悪のパターンは感覚魔法を変換して出来た呪文魔法で、そうなるともはやこれは理論派二人には無謀だろう。
単語の方に目を向ける。
「この単語は?」
「その本の単語。呪文魔法だから細かい所は記録して損はないからね」
見たところ天体、とりわけ太陽と月、時間、罪、竜に関連した単語が多い。前半の文とも合わせて考えると確かに所々星や月、長い年月を思わせる表現が使われていた事を思い出した。それでリューナさんの見つけた罪の意味から作者は何か長い年月の間で誰かにした行為、あるいは他人の行った行為への罪について言及したかったのだろう……内容をあまり深く読み込んでいないから当たり前の事しか出てこない。自分でも流石にこれはないだろうと恥ずかしくなる。
これでは私達だけだとお手上げだ。これはじっくり原本を読んだ上でその道の方にお話を伺いに行くしかない。
「リューナ姉、この原本見ていい?」
「アネッサちゃんももう立派な魔法仲間なんでしょ。いーよいーよー!!」
「私も隣よろしいでしょうか」
「うん。セレネ姉も読もうよ」
アネッサが原本を手に取り読み始める。相変わらず狂った文面が延々と続き読めたもんじゃない。彼女も私と同様それを読み物として認識した途端に顔をしかめた。
「これがお姉達の研究対象なのね。当たり前だけど私じゃよくかんない」
「ねー!!どうしてこんなのを書こうと思ったのか作者の頭を疑っちゃう……って、流石にこれは口が悪かった。でもこれが読めればきっとなんか強い魔法が使えるんだー!!」
「(でも魔法の効果はまだ発覚していませんよ)」
そうして意気込んで始めたはいいものの解読は実質詰みである事に変わりはない。
リューナさんは辞書を片手に自分の考察を何度も整理し直しては消しを繰り返し落書きされた紙屑を作り出すだけ。アネッサは原本を読んだ段階で力及ばないことを悟りいつの間にか持ち込んでいた小説を読んでいる。私はというとまだ原本を読み終えていない為読み込んでいる所だ。しかし読み終えていないといえどもう半分ほどは読み終えた。段々と話が拗れてきて理解が更に難しくなりページが思うように進まないから全部読み終えるのは何時だろうか。
私は席を立つ。
「リューナさん」
「…………何ー?」
「気分転換にちょっと探し物へ」
「?」
「この小説がここで書かれたのならもしかしたらそれに纏わる資料がまだ残っているかも知れません。外部から持ち込まれたとしてもどこから来たのかに繋がる何かがここにあるかもですし。取り敢えずアレのあった物置とかに行ってきます」
「あーいってらー」
どうでもよさそうな返事を背中で聞く。この前掃除したときに片付けた住人の残した物から思い当たる物が無いか考えながら私は扉を開け……
「…………それdっい"っ!!」ガッ
「姉!?」
「リューナさん平気ですか?!?」【回復魔法】
立ち上がろうとして思いっきり何処かにぶつけた音がした。しばらく打った箇所を抑えて悶てから先程中断された何かの続きを話す。
「何で気が付かなかったかなー……普通ここにあったならここのことについて調べればいいのに」
てっきりもう家の探索は済んでいるものだと勝手に、いや逆に彼女の頭をもってしてこれに気が付かないほうが何故なのか謎だがそういう体でいろいろを考えていた。
「という訳でセレネちゃんのそれに賛成して私も捜索してくるねー!!」
そして彼女は部屋を出ていった。こういう行動力では彼女に勝てないな……とりあえず反射でした回復魔法の必要性を問いつつ私も部屋を出る。
「……私、置いてかれちゃった」
一人話について行けなかったアネッサはこの部屋においてかれた。
「さて
…………
誰だこんな馬鹿な事しようとしたのは」
現在位置 屋外 物置
屋外の狭い物置。掃除してから数日放置していただけなのにもう埃だらけだ。しかし確実に誰かは出入りしているらしく使わない武器やその周辺道具は増えていた。間違いなくあの近接二人の物だろうし壊さないように気をつけて中を探す。
5分経過
「(こう物を探すとなると減らしたとしても結構まだ捨てられそうな物がありますね……)」
ちなみに掃除する前にあった物は使えそうな物以外は処分しているからこれでも減った方だ。
10分経過
「例えば実は床の一部の色が違ってそこに何かがってそんなわけ無いか」
「ははは、案外隠し通路とかがあったりして」
15分経過
「無い!」
「別の所で何かありそうな所といえば図書館ですかね。資料の数ならあそこは一番ですし」
現在位置 屋外 物置 → 教会 図書館
定期的に誰かが出入りしている為地下故の暗くジメジメした不気味な雰囲気だが人の気配はある。物の物量だけならここが一番だろう。最も、望みの品がそこに紛れている確信はない。しかしアレが魔導書の類であるならば参考になるものがある可能性はある。
「普段使う棚は限られてますし使わない所から調べましょう」
「私はあえてその逆に賭ける!捜索開始!」
5分経過
「意外とまだ見たことの無い本もありますね」
「でもあの小説とは関係が薄そう。もっとよく探せばあるのかな?」
十分経過
「(あっそうだ。あの式をあそこに接続してああしたらもうちょっと綺麗な式に圧縮できるかも)」
「(?料理の本がなんかぽっかり空いてる。しかも赤黒く汚れてる……赤?しかもゼリー寄せ……)」
十五分経過
「うーん、無い!!」
「そうですね」
規模の割に探す時間の事もあるし単に見つかってない可能性もあり得るけれど流石に希望が無くなってきた。あとここにあるとすれば……まさかナツメさんの小説の処分をした時か?彼は私達の知らない時に既にここに本を置いていた。だから正確にいえばこの図書館の初期の状態は私は知らない。それに片付けに大規模に動かした時に既に巻き込まれ処分された可能性もある。
「はぁ……」
魔法に関わる重要な手がかりがもう無いかもしれないと思うと途端に無力感に襲われる。棚から出した本の山に腰掛けどこに何があったのかを思い出す。
あの棚は図鑑類、その隣は……何だっけ、それで……
そうやって少しづつ棚の位置を思い出していくととある事に気がついた。
「リューナさん」
「なーに?」
「ここの棚、いくつありましたっけ?」
「さあ、いっぱい?」
一つ一つの棚を調べている内に壁際の一列だけ棚が一つ多いことに気付く。それだけならまだただ誰も知らないだけで済みそうなものだがその増えた1つが怪しかった。
「……まただ」
「何々?セレネちゃんなにか見つけたの?」
その棚には他と違い殆ど空に等しかった。ただ最下段にだけ一冊の小説が置かれていた。あの戦記だ。こんな不自然な配置がされた棚に覚えはない。
「こんな棚ありました?」
「…………無かった、気がする」
こちらに来たリューナさんが壁と棚の隙間を見る。私も光で照らしてあげるとどうやら棚と壁の間に隙間はない。床も異常はないし本当にただ気付かなかったのか?
とりあえずその本を調べる。調べてはないが多分まだ見たことの無い巻だった。少なくとも知っている巻数よりもかなり飛んだ数字である。
「アネッサちゃんの読んでる奴?」
「はい。よく彼女が持ち出しています」
「変なところにあるね。リビングの棚に戻しておこうか」
…………うん、いま率直に思った事を伝える。
「リューナさん」
「セレネちゃん?」
「どう考えてもこれ怪しいですよね。前からもそうですけどこの本やたら変な所にありません?」
3回目となると流石に不自然にも思う。彼女には昼間にも変わった所から本を見つけた事を伝えた(ちなみにその本と今回見つけた本は違う、そしてオルガンの本は既にリビングの棚に戻した)。やはり彼女も怪しいとのそと。しかし流石にある場所がおかしいというだけでは解読中の小説との関連は無いから証拠としては薄いと指摘される。勿論言い返せない。
だが私もリューナさんこの家には何か私達の知らない何かがあるかも知れないという仮説はできた。魔法での隠蔽はないとしても隠し収納や隠し部屋でもあったなら最高だ。とりあえずこれはしばらくここにはいるんだからゆっくり魔法の解析でもしながら調べようか、と笑いながら約束した。それこそクーやアネッサに教えて彼女らに頼るのもいいのかもしれない。子供は隠し事にこそ目が行くのだから。
ーーー
この後一応ナツメさんに話を聞くも……
「……という訳でナッツー、心当たりある?」
「うーん、無い。僕もえっちいのをしまうのに元の本は動かしたけど隙間隙間に入れる感じだったから捨てたりとかは無いよ」
「本当に?」
「そんな怖い顔しなくてもセレネ君の事故はもう起きないよ。ちゃんとある場所は把握してたしもう無いから安心して。でも隠し部屋があるかもっていうのは面白い話だね。もう一度間取りの紙取り寄せようか?」
と、特に収穫もなかった。しかし彼がこの建物について調べてくれるそうなのでお願いした。しかし直接魔法に関係しそうな物は特に見つからず、手元に残ったのはこの架空戦記だけだった。
ガチャ
「お姉おかえり。どうだったの?」
「駄目だったよー!でも別にいいものを見つけたんだー!!」
リューナさんはアネッサにさっきまでの一連の流れを説明する。目を輝かせ先程までの少ない発見を自慢するリューナさんとそれを聞くアネッサ、どちらが姉か分からないような対話をよそに私はしなければならない事があった。
必要なのは肉筆の小説とその考察資料。それとここへの道中にリビングから持ってきた架空戦記の1巻。それと……
「アネッサ、貴方この本についてどこまで詳しいですか?」
「え、今は4巻目まで読んでるけど……」
「この本に竜はいますか?」
「いるよ。もしかしてそれがお姉達の調べてるのと関係がありそうなの?」
察しが良くて助かる。椅子に座って1巻をパラパラとめくりながら内容を把握する。続けて研究中の小説も流し読みした。そして適当にリューナさんの考察を読んで目を閉じて熟考する。
「…………成程、そういう事ですか」
「お、セレネちゃんもしかして分かった!?」
閉じていた目を開け起き上がり彼女のその問いに答える。
「何一つとして分かりかねます」
当たり前だ、それに研究はまだ始まったばかりだ。
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