せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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勇者さんでも私はなにかおかしいらしい

「………ふぁーぁ」

 

現在時刻 午後3:00くらい

 

「今日は聖女様が町に来るから護衛しっかりしろって言われたけど全く来ねえな。やっぱ今日もサボるか」

 

ドドド………

 

 

「……やっと件の馬車が来たな。聖女様を乗せるにしては随分と暴れちらしてんな」

 

ドドドドドド………

 

「んー……馬にしてはなんか小さい、て、あれ?馬じゃなくて騎手しかいな……」

 

 

ドドドドドドドド!!!

 

「ちょあれ人じゃねえか!?そこらの獣より速えしなんか担いでるぞ!!」

 

「衛兵さーん!!気をつけて下さーい!!」

 

「減速するぞ」

 

ズザァァァァァァァッ!!

 

砂埃をたたせながらミツキは速度を殺す。地面表層の土を剥ぎ取りながら十数メートル程ずって衛兵ギリギリのところで停止した。

 

「……ふう、どうにか着いたな、セレネ」

 

「ええ、一時はどうなる事かと思いましたがひとまずこれで安心ですね」

 

衛兵は突然の出来事に放心している。

 

「あのー衛兵さん?」

 

「ああ、すまない。急に聖女様が走って来たからこちらも驚いてしまって。あの特徴の無い男は?」

 

「ミツキ、勇者って言ったほうがいいか?」

 

「!?勇者様でしたか、これは失礼」

 

「「(あの反応ですと(だと)絶対分からなかったようですね(な))」」

 

ーーー

 

「ところでセレネは何で馬車が襲われてたんだ?」

 

町で馬車を乗り換えて暫くしてから彼が聞いてきた。あの事については森で大体話したと思っていたがまだなにか話すことがあったか?

 

「何でって、賊に襲われたからですよ。ミツキさんが撃退したあの方たちです」

 

「その前、護衛とかはどこ行った?」

 

「護衛は初めからついていませんでした。しかも自分で対処しろとも言われてます」

 

「(おいおい、こいつ対処できてなかったぞ。命令下した奴あの賊よりアホじゃねえか?)それで危険な目にあって……上が何考えてるのか分からないなら」

 

「ははは……ミツキさんはそうでも国にも考えがきっとあっての事ですよ、きっと」

 

だけど実際問題が起きてから考えてみると……やっぱり最終的には私自身が手を汚さなければならないのかも知れない。

 

「……やはり、私も戦うのでしょうか」

 

外の景色を眺める。今は平原の街道を走っていて、地平線に落ちる夕日が見える。

 

あの時私は彼らを脅すのに魔法を使うのが正しかったのか?聖職者としては人を傷つける行動は避けるべき。殺すのなんて言語道断だ。

 

だけと……やっぱり国は私が彼らを殺す事を想定していた事を認めざるを得ない。事実、あの場であの魔法を彼らに使っていなかったのならあんな事態にはならなかった筈だ。

 

人殺し、私には出来るの?

 

「たしかセレネは魔法が得意だったな」

 

「はい。回復が主ですけと」

 

「ちょっと魔導書見せてくれ。俺も少しなら魔法は使えるから何か分かるかもしれない」  

 

彼は冒険者だ。攻撃魔法については彼のほうが知っていそうだ。

 

「それなら魔導書じゃなくて……これを」

 

「これは……お前の手書き?」

 

「研究書です。稚拙な式ですが使いやすいように自分好みに改良したのでそちらのほうが参考にするのがいいです」

 

適当に攻撃魔法の研究データのあるページを彼に見せる。見た感じレーザーメスとか不可視光射出とか少し危ないから使いたくない魔法ばかりだった。

 

これらは私ですら本当の使用用途では人生で1、2回使ったか使わないかくらいの魔法だ。それだけならここに書く必要は無かったけど魔法の組み方の参考として書いたんだと思う。正直自分でもこんなきれいな式二度と書ける気がしない。

 

彼は私が書いた資料を見て少し何かを考えている。

 

「………へぇ、成程」

 

「何か分かりましたか?」

 

「いや、さっぱり」

 

「あ、そうでしたか。やっぱり自己流で圧縮してるから難化してました?」

 

「いや、そもそも俺魔法の式とか知らないし」

 

「ええ!?それじゃあ意味ないじゃないですか!!そもそもなんで見たの!?」

 

馬車内なのに思わず立ち上がって突っ込んでしまった。ギリギリ高さが天井に届かなくて頭がぶつかりそうになった、そしてすぐに謝ってから座る。

 

「よく考えたら俺の魔法ここまで体系化してやって無かったからこんな式見たの初めてだな」

 

ああ、もしかしてこの人感覚で魔法使ってる人か。自分で魔法の概念を発見して実用するに至る運と才能に恵まれた方も居るらしいからその類いだろう。

 

「もうっ!……結局分からずじまいですね」

 

「いや?一つ分かったことがある」

 

「でもさっき魔法は分からないって……」

 

「うん、魔法は分からないんだ。でも丁寧に説明書きがされてるから大体どんな時に使うかとかは内容はわかる。ほら、こことか」

 

彼は研究書の文章の一つを指差した。

 

「丁寧なんてそんな。まだまだ未熟ですよ」

 

「でもやってる事と要求される魔力の精度から察するに……セレネは相当魔法の才能あるぞ」

 

「いやいや……そんな……才能なんて」

 

「そうじゃなきゃ誰がこんなことやろうとするんだ?」

 

彼が指差した所は外科手術の為の魔法。たまに切開が必要な時に使っている。患部だけでなく色々なものを切るのにも便利だ。

 

患者の精神を保つのに大丈夫だと言い聞かせる事を心がけて、ついでにレーザーでの切除時に併用すべき薬品と補助的な魔法として……

 

「ストップ、そこ」

 

へ?

 

「普通の人は……少なくとも俺の知ってる奴らの中では複雑な回復魔法とバフを同時掛けしがら繊細なレーザー撃ってなおかつメンタルケアで勇気づけるなんて不可能だ」

 

「……そんなもんなんです?」

 

「それに、回復魔法自体魔力の消費が多めの部類に入るから高頻度で使えるとなると感知できないだけで魔力量も人の数倍はありそうだな」

 

それは知らなかっ……あ、魔法が使えるのは圧縮していたからそのせいもあるのだと思う。実際魔導書の魔法は普通に使うと機械的で楽だけど少し疲れる。それに比べて研究書の魔法は改造のかいあって発動が楽でいい。

 

そして彼は御者さんと話し始めた。何をするのかと話を盗み聞きする前に馬車が止まった。

 

「おい、降りるぞ」

 

「えっ?でも……」

 

今の場所は王都までの中継の町から離れた平原。とても降りる場所とは思えない。

 

「ちょちょ、ミツキさん。ここで止まって日没までに次の町に着くのですか?それに着くとしてもとしても何をするんですか?」

 

「セレネの魔法がどれくらい強いのか試して行かないか?ほら、この先王都に近づくと人も多いから道とか建物とか壊すと不味いだろ?」

 

「えぇ……そんなことの為に態々ここで?」

 

「実力を知るのはいい事だぞ」


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