せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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戦闘開始

現在時刻 開始10分前

 

アネッサとミツキは競技場の地図を見ながら何処を初期位置とするか考えていた。

 

「このルールだと俺らは点数は落ちてるのでしか稼げない。しかも戦闘はアネッサが不安定。アネッサ、お前戦えるか?」

 

「私はサポートだけするから戦闘になったらお兄に頼るつもり。でも負担になるなら一人で逃げられるよ」

 

仮として選んだのは周りが木と岩に囲まれた見つかりにくい所。入り口は岩の隙間のただ一つしかなく籠もるもよし、不意をつくのも良しだ。

 

アネッサは唯一の出口を覗く。ここは向こうからは少し崖上になっていて向こうからは草木が邪魔で見えづらい。声も聞きたくて聞き耳を立てる。

 

数人の足音と金属音がする。目を凝らすと遠くに3人組の男女がいた。皆杖と魔道具を所持している。魔力も自分より上だ。最も、それが彼女の身近に居る存在に遠く及ばない事は、なんとなく読めた。彼らと彼女らとは空気が違う、ここまで殺気立っていない……セレネの魔力に関してはこの場で触れることはしない。

 

「うわー……皆凄い豪華だ。お兄、やっぱりできないかも」

 

「ははは、俺も魔法だ。気が抜けないのは同じだし頑張ろう」

 

もう十分だと偵察を止めようとした。だが彼女の耳がある音を捉えた。高音の正弦波、鳥の声では無い、楽曲の音だ。魔法に使う物だろうがまだ競技は始まっていない。

 

だが誰かが手の内を明かしてくれたのは有り難い。この場に耳栓でもあれば今すぐ対策はできた、つまり現状どうする事もできない。厄介そうなやつがいるとだけ捉えておこう。

 

ーーーみなさーん!あと3分で競技開始でーす。

 

「久々の魔法だな。先に調子だけ確かめるか」

 

彼は手に簡単な火の玉を作る。最後に戦闘目的で魔法を使ったのは前回の戦場にて、対人相手だとあの屈辱の王都でが最後だ。だから、今日こそは本気を出そう、彼は考えた。玉を握りつぶして消火する。

 

「アネッサ、バフ」

 

「うん、【草原の疾き風よ 我らに空を纏わせよ】」【風の加護】

 

移動速度が上がる魔法だ。呪文を唱えると彼らの体がすっと軽くなったような気がした。彼らができる事はここまで。あとは賽を投げるだけだ。

 

 

ーーーさあいよいよ始まります!それではカウントを始めます。行きますよ!10……9……

 

 

 

「痛っ……」

 

突然アネッサが痛がるような声を上げた。不自然に手が太ももに近い所にある。

 

「どうした?」

 

「いや、何でもないよ。虫に噛まれただけ。それより……」

 

 

 

ーーー3……2……1……スタート!皆さん、ご健闘を!

 

 

 

「ここから出る?」

 

「そうだな。絶対に勝つぞ」

 

 

 

ーーー

 

現在位置 会場 実況席

 

 

 

「さて、競技が始まりました。まず選手らはどう動くのでしょうか」実況

 

実況席から選手の映像(機材協力:ハニカム鉄鋼工房)を見る。観客にはステージの後ろの白幕に競技の映像が流れ実況の私達は各々の席から見たい映像を見れる。観客の画面には私達の言ったことが文として表示される。

 

現在の映像に映るのは最も選手の多い比較的開けた平野部だ。既に戦闘をしている者も多いが多くは各々ランダム配置のスコア目当てに各自散っている。

 

「地図と照らし合わせるとこのまま開けたところに進むに向かう組と木が生えてる所に行く組がいるね。森組は戦いづらくないのかな」リューナ

 

「いえ、まだ全体のポイントが少ない内は戦闘となっても敵方からとっても旨味は無いからむしろ戦闘は避けるべきです。恐らく新しい魔法陣を見つけに行ったのでしょう。ですが既に面白いものがありますよ」セレネ

 

画面端の一つの魔法陣に注意を向ける。魔法陣の周りに更に別の魔法がされてその魔法が自動で魔法を分解している。

 

「あー!成程。これでその場に居なくてもポイントが手に入るし他のところに向かえるんだね。うわー、コレ絶対逆に魔法陣強固にして邪魔したり妨害されたりするでしょ」リューナ

 

「つまり火花が飛び散らない分水面下戦いは白熱していると!この先の変化に期待です!ちなみに大会で使用される魔法システム自体を改変することはルールで禁止されています。ルールを守って楽しい魔法!」実況

 

しかしこのまま保護的なスコア稼ぎが続くと盛り上がりに欠ける。映像を森の方に移す。ここもまだ平和なようでポイントを集めたり魔法陣を解除したりと比較的おとなしい。

 

この均衡が崩れた時が、この大会の多くの人の望む時。そしてそれはもうじき始まる。

 

ーーー

 

 

 

「お兄、500点取ったよ」

 

「こっちも1000点見つけた」

 

168番169番チームスコア 15500

 

彼らは後半のスコアが高くなる時まで極力戦いを避け適度にスコアを稼ぐ。魔法陣は高得点の物ほど解除が難解し手に負えない。仕方なく低ポイントのランダム配置と簡単な魔法陣で稼ぐ。それでも序盤だからか点差はそこまで開いておらず割とかんたんに上位へと食い込める。

 

だがそれではこの先は駄目だ。いくら上位になるとはいえ段々と下位の魔法陣の数自体は減る。勝つならば戦闘は避けられない。

 

地図を確認し次向かうところの目星をつける。ここからは森の奥か平野に行ける。平野はどこも開けていて見通しが良すぎる。戦闘を避けたい身としては多少誤魔化しの効く森の方を選ぶ。

 

 

 

「にしても……静かだな。さっきまで結構いた気がするがみんなどこ行ったんだ?」

 

「うーん、もしかしたら平野のほうじゃない?たまたま運がいいだけかもしれないけど警戒しちゃうよね」

 

と、丁度その時先程も聞こえた笛の音が聞こえた。距離も先程より近く進行方向もこちら。草木に紛れアネッサは棍を何時でも使えるようにしてミツキも魔法の準備をする。

 

「〜〜♪」

 

足音は二人分だ。姿はまだ見えない。一人は笛の主、もう一人は不明でどちらかが何かを引きずっているらしい。

 

「(出る?)」

 

「(まだ隠れてろ。あの笛が何なのか見てからだ)」

 

「〜〜♪〜〜♫」

 

一人が前に出た。剣と大盾を持ったフルアーマーの騎士がゆっくりとあたりを見渡す。丁度スコアが再配置され、彼らのいる草むらの目の前に現れた。そこへ騎士が近づく。回収するつもりらしい。

 

「(に、逃げないと)」

 

アネッサは怖気づきその場から更に距離を置こうとするがミツキが視線で禁じる。

 

「(駄目だ、ここまで来られたら音でバレる。策はあるからタイミングは指示したらすぐ逃げろ)」

 

しばらくその鎧の騎士はそのスコアの上に佇む。暫くして笛の音が止んだ。すると騎士の体が突然消滅した。幻影の類だろうか、思い出してみると確かに少しだけ透けていた。そして入れ替わるようにもう一人が来た。

 

「ふーん、猿だとスコアの回収はできない。面倒くさいなーもう、これで最初から最後まで通そうとしてたのに」

 

声色と身なりから女性と判断した。相手が女性であれば接近戦なら体格差で確実に勝てる。ここが好機と彼は動いた。

 

「(アネッサ、今だ。後ろに全力で逃げろ。すぐに追いつく)」

 

彼は草木から手を伸ばし女の頭を掴む。そして流れるように力技で地面へ叩きつけ離れつつ火球を数発腹へと放った。保護魔法が働いたのか熱そうだが火傷はない。

 

「うえ"っ!?え?え?」

 

「チィッ、まだ削れないか!」

 

まだ有利、続きの一撃を……とその前に足に強い刺激が走り拘束を緩ませる。続けて逆に押され体勢を崩しそのスキに距離を離された。

 

 

 

「(お兄……ごめん!)」

 

そこまではアネッサが逃げながらでも確認できた光景だ。ここから先は彼女には分からない。最後に【獄炎】と言う言葉をミツキが叫んで、その後に爆音がしたから心配ではある。

 

だけどアネッサはただ森を走った。後方で鳴る爆発音とどこからか聞こえる足音を振り切り遠くへ向かう。それが彼ら同士で決めたことだから。

 

気がつけば森を出て人の少なくなった平野に出ていた。そして自らを取り囲む環境ににはっと気がつく。逃げるといえど何もここまで彼と離れたら自身を守る者はいない。これでは元も子もないではないか。

 

「えーっと……どうしよ」

 

不安になりながらも取り敢えず外部に注意をしながら棍を両手で持ち一人で適当に歩く。範囲外まではまだありそうだし失格にはならないだろう。

 

 

 

ガサッ

 

「ひっ!?」

 

突然後ろから物音がした。恐怖心より一瞬で振り向き武器を構える。

 

物音の主は高い草むらの中。ゆっくり、ゆっくりと近づいて様子を……

 

 

 

ぴょんっ

 

「うわぁ!?……って、兎じゃん」

 

驚いて損した。草むらから兎が一匹彼女の足元に飛び込んできた。彼女は驚いた拍子に尻餅をつく。可愛らしいので彼女は接触を試みる。抱き上げようとしたら逃げられた。

 

兎は彼女を背に一目散に逃げていく。だが不思議な事だ、草むらでなく開けた平原の方に逃げていった。まるで彼女でない何者からか逃げるように。

 

「ああ……行っちゃった」

 

そして彼女は端に転がる岩陰に消えていく。そして彼女の視界から兎が消えた瞬間だった。

 

どこからか飛んできた大岩の如き槌に潰され情けない悲鳴と共に兎が絶命。それと同時に近くの地面に穴を開け見覚えのある赤い影が現れた。ルナシーだ。投げ飛ばされた槌を広い、形の崩れた肉塊を口に含んでから彼女がこちらを見る。

 

「ひ、ひいっ!」

 

「んぐ……ペッ骨と皮だけかよ」

 

この戦いは命に関わらない。だが本能は彼女を恐れた。なぜここに彼女がいるのか?そんな疑問など頭に現れる事はなくただただ恐怖に怯えた。

 

地が滴り土が混じった肉塊を口に含みながらルナシーはアネッサの存在を知る。少し嫌な顔をして、しかし直ぐに無愛想な顔に戻る。

 

「何か言いたそうだな」

 

言いたいこと、アネッサが疑問に思う事は彼女の参戦そのものだ。魔法など縁もゆかりも無い彼女がなぜこの戦いへ?上手く聞こうと口を開くも声が出ない。

 

ルナシーはそんな彼女に鉈を突きつけた。

 

「おい、蝙蝠。戦え」

 

「あ……ああ………」

 

「何へたりこんでる。小細工の心当たりはいくつかある。だけどどうせお前もそうなんだろ?なあ、そうだよな」

 

ルナシーはどこか遠くの高台をちらっと見た。どうやら意見は同じらしい。

 

そこへまた一人、黒い人影がやってきた。ルナシーはその人影を見て邪魔が入ったと残念に思った……が、再び高台を見て意見を一転し逆に酷く昂る。

 

「やめて差し上げろ。今の彼女は只の少女だ」

 

低い声で彼はルナシーを止める。

 

「誰だお前?さっきの奴か。いや、待て。まさか……チーム名の『山猫』って……あの野郎、そういう事か」

 

「お察しの通りだ。全く、もう私を見抜くなんて知らない内に私も腕が落ちたか。ああ、残念だ」

 

「お前それ、名乗って平気だったのか?私が心配することじゃねえが。それと褒めたいなら直接言ってやればいいのに。そしたら泣いて喜ぶぞ」

 

「いや、頭が働かない今合わせる顔がない。姿も醜い。最も自ら望んだことだが……いやはや数奇なものだ。彼もそうだ。再開を喜ぶのは先延ばしにしてもらおう」

 

「チッどいつもこいつも澄ました顔しやがって。対して誰も変わりゃしないのに。まあいい、地形破壊しない程度でいいな」

 

静かに彼はうなずいた。それからお手柔らかに、と付け加える。彼女の無愛想な顔が笑顔になる。そして、彼は数カ月ぶり、軍に来てから久々に骨のある相手と戦える。

 

しかしそこにまた来訪者がやって来た。まず気がついたのは『山猫』、次にルナシーだ。

 

炎に燃える森の方角……丁度アネッサが逃げてきた方角に近い一方から人の騎士がやってきた。体は青白い幻影で透けている。しかし物理的な存在でもあり足跡には黒焦げた煤が付いていた。

 

そして何より目を引くのはその体格と武器だ。

 

「ははっ!これは面白そうなのが来た」

 

彼はこの場にいる誰よりも大柄で最低でも倍近くある。だが重鈍な体ではなくアネッサが先程見た個体よりも凛々しく感じる。高貴な者に使える「犬」のようでもある。

 

体がこれなら武器も相応の巨大であり、加えて奇妙だった。見た目は槍のようだ。しかし柄の太さが絞られることなく焼け焦げた穂先まで続く。そして遠くからでも微かに硝煙の匂いがした。解釈によれば大砲にも思える。

 

『山猫』は声に出さずとも変わらず狂っていると一人考えた。呆れているようにも見える。だが武器はルナシーにとってはこれ以上となく期待させる物だった。

 

だがどうにせよ、アネッサはこれ以上となく絶望した。位置的に逃げることもできず攻めるにも敵が二人もいる。彼女には死が見えた。

 

23番24番チームスコア 34000

 

73番スコア 42500

 

 

 

暫くの静寂。風が吹き草木が揺れる。

 

ゆっくりとアネッサ以外のすべての人物が武器を構えた。

 

 

 

 

「はっ……はっ……」

 

対象にアネッサの心拍は最高潮を迎えている。もしこの均衡が崩れた後、自信が何を起こすのか彼女自身も分からない。戦うか、逃げるか。

 

 

「始めるか」「始めましょう」「………」

 

「……っ!」

 

戦いの火蓋が落とされた。

 

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