せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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戦闘狂のカルテット

手始めにルナシーが槌を「山猫」に投げる。目にも留まらぬ速度だか彼はこれを横に避けた。それを読んでルナシーは一瞬で接近しさながら狼が引っ掻くように鋭い鉈で何度も切りつける。

 

「てめぇと戦うにはこれよりこっちです!」【貪狼ノ型】

 

彼は彼女の連撃を無言で受け、ほとんど位置を変えず手元だけで弾き続ける。ルナシーの一撃一撃は凄まじい。一振りごとに余波で地面が切れ、威力も並の盾であればすぐに砕けてしまいそうだ。

 

当然、アネッサなど彼等にとって雑魚同然の存在には気をかけていない。彼女はこのスキに逃げようと試みた。丁度ルナシーの投げた槌で砕けた大岩が転がっている。その影に隠れて逃げよう。

 

「(そーっと……そーっと……)」

 

ガッ!

 

「ひいぁ!」

 

だがこの場にはもう一人いる。岩の向こうから槍の先が貫し彼女の顔のすぐ前に現れた。岩が割れ、犬の騎士が岩の隙間からこちらを上から覗く。

 

「……うぁ……っ!(逃げないと!)」

 

怖気づいている場合ではない。今すぐ魔法を盛って速度を上げれば岩の横から逃げられそうだ。

 

「【草原の疾きか……」

 

ギチギチギチッ

 

不穏な音がした。悪寒が背筋を走り後ろを振り返る。

 

「!?何あ……

 

閃光と共に槍の先が爆発した。先程から遠方で爆発は何度も起きているがそれに相当するような爆発だ。衝撃が遅れてやって来て彼女を岩壁に叩きつけた。

 

ドゴオオオオオオン!!

 

「ぐふっ!」

 

不幸中の幸いで直撃こそしなかったからか威力の割にHPは残っている。

 

「何なの……あれ……?」

 

整理のつかない頭を動かし状況を理解する。自身の近くには沢山の砕けた岩の破片が飛び散る。

 

彼は何をしたのだろう。武器の方に目をやると先程まで存在しなかった黒焦げた尖った穂先が存在した。全体長さは2倍ほどになっている。犬の騎士は倒したつもりでいるのか岩壁に叩きつけられた私を見ず出した穂先を中にしまい込んだ。どうやら爆発と同時に彼処が飛び出したらしい。

 

だが彼に吹き飛ばされたお陰で距離ができた。このまま逃げられるかも知れない。衝撃で痛む体を起こし逃げる。

 

「あ?逃げるぞあいつ!」

 

だが爆発音に気が付いたルナシーに見つかった。鉈で衝撃波を飛ばし、アネッサはすぐに引っ込む。軌道はちょうど首の高さだった。

 

「【草原の疾き風よ 我らに……」「遅い!」

 

速度上昇の為魔法の詠唱しながら逃げるも猛スピードで回り込まれた。残像が見え、目から赤い光が筋を描く、そう錯覚する程に覇気が凄まじい。 

 

捨てた槌を拾い上げ、最高速で鈍器を叩きつける。

 

「いい加減にしませんか?貴方だっ……てえっ!」

 

キィンッ!

 

そこへルナシーの直線的な軌道を狩るために横から犬の騎士が乱入した。仕方なく槌をまた手放し鉈で弾く。

 

「…………!」

 

「ッチコイツ誰だよ!おい鎧、余計な邪魔すんな!」

 

ルナシーが怒りアネッサから気がそれる。助けてくれたのかな、と一瞬考えたが……

 

ギチギチギチッ

 

また槍の軋む音がしてそんなつもり微塵もないと撤回した。私ごと倒す気だ。

 

「(まずい……また爆発する!)」

 

今度こそ彼女は倒されてしまう。そう覚悟しただ逃げる事を考え詠唱と逃亡の成功を祈る。しかし現実は甘くない。もうすぐ攻撃が当たる。恐怖と閃光の眩しさに目を閉じて衝撃に備える。

 

ドゴォォォオン!

 

「っうわあああ……あれ?」

 

しばらくしても来るべき衝撃が来ない。何事かとゆっくりと目を開けると……

 

「おい、いい加減一般人相手には手加減して貰えないだろうか」

 

何と『山猫』がそこで彼女を守っていた。光の防壁を張り、壁の向こう側で犬の騎士の首を光の刃で切り落としていた。首を切られた騎士は消滅し跡形もなくなった。

 

彼は刃を消しアネッサに手を伸ばし、アネッサは手に取った。彼は知らない筈なのに、彼の魔法の壁には知人とよく似た雰囲気を感じたからだ。恐る恐る聞いてみた。

 

「……もしかしてセレネさん、ですか?」

 

「仮に本人でもそっとしておくのがマナーで無かろうか。何の為の仮面だ」

 

答えを濁される。普通に考えれば彼とセレネとは身長も声も違う。左手もある。そんな人物をセレネと判断するのはお世辞にも正しいとは言えない。だが彼の答えも否定ではない。彼女の中ではまだ疑惑は晴れていなかった。

 

「目ぇ離して余裕そうだな!」

 

会話のスキをついて数発衝撃波を飛ばした上ルナシーは接近し追撃の準備をした。

 

「ご忠告どうも」

 

だが「山猫」は落ち着いていた。ルナシーの鉈がすぐそこまで来たその瞬間、「山猫」は手から魔法を展開し……

 

「っ!おま……!」

 

ルナシーは勘を働かせ横に大きく避ける。

 

 

 

ーーー!!

 

地面を巻き込んで極太のレーザーが光が天を貫く。ルナシーが先程までいた場所が大きくえぐれ、土が消滅していた。

 

その魔法についてルナシーは知っていた。前に見た仲間の魔法だ。

 

「っぶねぇな!何でお前がセレネの魔法使えんだよ!」

 

ルナシーのセレネという単語にアネッサは反応し仮面の彼を見た。

 

セレネと意識して初めて感じ始めた。彼の装備の下から魔法が作動している感覚がする。洗練された式から作動する速度と筋力の強化からは魔法を教えたセレネに似た温もりを感じた。

 

「っ!やっぱりセレネ姉!」

 

彼……いや彼女は、「山猫」彼女には答えずルナシーの目を見た。顔は見えず目も隠れているが心做しか睨んでいるようにアネッサには感じられた。

 

「ここでは誰もが競技者でチーム以外は敵に他ならない。最後には倒させてもらう。

 

だが人違いとはいへこれも何かの縁だ。羽の少女よ、『赤ずきん』を倒すまで共に戦わないかね。彼女は私でも少し厄介だ」

 

「山猫」からまさかの提案が返ってきた。彼女がルナシーを相手できる実力の持ち主だとは先程の戦闘だけで十分見た。敵に回せば逃げられるかも定かでない、つまり、答えは1つ。

 

「よろしくお願いします!」

 

ルナシーに「山猫」は静かに頷いた。

 

「行くぞ、羽の娘」

 

次の瞬間、アネッサの視界から二人が消えた。同時に金属音と爆発音、それと激しい風圧と飛散する瓦礫が彼女を襲う。

 

駆ければ嵐となり、鉈を振れば谷となる。比喩ではなくまさに彼女のすぐそこで字面通りの現象が起こっている。移動と斬撃の度に発生するソニックムーブと着地時の地震により人はおろか周囲の地形が大きく変動していく。故にアネッサは彼女らを目で捉えることは出来ず巻き込まれたらどうなるかは目に見えている。見えるとすれば彼女を相手する誰かだが……

 

「っ!(お姉が戦ってるんだ!)」

 

ならば、自身も役割がある。生き残り、詠唱しろ。姉を徹底して支援をする。彼女はそれに必死になった。

 

 

 

 

一方、ルナシーと「山猫」はというと。

 

「(2対1なら多少ペースアップしていいか)」

 

ルナシーは至って冷静だった。一人増えた所で少し援助が入るだけで戦力としては変わりない。

 

【貪狼ノ型】

 

低く構え、鉈を逆手持ちに変え、少し溜めてから急加速。音のほうが遅れて「山猫」へと衝突する。「山猫」の認識速度ギリギリで弾くも威力から態勢が崩れかける。

 

「くっ……やはり手強いな」

 

「喋れるって!まだ余裕っ!だろっ!」

 

三連撃は受けきれないとステップ回避、だが一撃一撃に攻撃方向へ衝撃波が飛び長くは持たないだろう。

 

それでも短時間ながら当たらない所を考えるにアネッサの速度上昇の魔法がそれなりの役割をしているというのは互いに感じていた。加速自体は元の速さから大した変化はない。だが「山猫」の挙動の感覚が加速により若干ながら変化し、つられてルナシーも戸惑っている。互いの戦闘のセンスによって不安定な均衡が保たれる。

 

焦れったくなったルナシーはここで無理やりダメージ覚悟で「山猫」に拳を叩き込む。拳は彼女の腕にクリーンヒットし関節が外れた。

 

「っ!?」

 

ここでやっと「山猫」の態勢が大きく崩れる。

 

「貰ったぁ!」

 

ルナシーは今が好機と心臓を狙い懐に踏み込む。

 

だが逆に「山猫」は手を掴んだ。ルナシーでも恐ろしい反射速度に寒気がする。「山猫」は掴んだ腕に光の刃を突き刺しルナシーの腕からは多量の血が……

 

出るはずがない。保護魔法が働き「山猫」のHPが減るだけだ。逆にルナシーが機転を利かせ腕を掴まれたまま「山猫」の顔を蹴り上げる。「山猫」は手を離して関節をはめ直してレーザーを連射しながら後退した。

 

「(『山猫』お前アホか?保護魔法とかなんとかがあるって知ってるはずだろ……って何笑ってるんだアイツ?)」

 

「くっ……私はまだこの環境には適応していないようだ」

 

「春でも来りゃ良かったな」

 

「(仕事で実戦経験は積み続けたつもりだったが……逆にそれが仇になった。これでは笑われても仕方ない。だが、次はこうは行かない)」

 

 

レーザーの不意打ちでない射撃などルナシーからしたら手元が見えれば射線が判別できるので殆ど意味をなさない。それでも接近するのに流石にうざったいと感じ地面に拳を叩き込む。砕けた地面が四方八方に飛び散った。

 

「ほう、成程。そう来たか」

 

「山猫」には今までの戦闘経験から何となく行動の理由が分かる。レーザーを砕いた岩で防ぐつもりか。だがそれでは互いの姿も視認しづらいだろう。レーザーを多めに先打ちし、その後岩陰に隠れるように移動する。計算通り先程まで「山猫」のいた位置の地面が大きく陥没した。動いたらしい。

 

「逃げんじゃねえぞニャン公!ぶっ殺……」

 

瞬間、ルナシーが高速で地面に叩きつけられる。後方からの蹴り落としで受け身も取れずに背中から突っ込んで地面に大穴が開いた。

 

「これで良いのだろう?喰らえ」

 

ルナシーが立ち上がる前に「山猫」は前程までとは比べ物にならない威力の光を溜める。流石の彼女もこれには肝を冷やす。

 

しかし、ルナシーは逆に「山猫」へと攻めるのに立ち上がる。無論そんな事をしていたら起き上がった直後に体が光に貫かれるのは必須だ。

 

彼女は立ち上がりながら近くの手頃な石を高速で投げ飛ばしたのだ。それもアネッサの頭部に向かって。

 

石の速度は彼女らですら目で追うのが限界な程度。当然アネッサはそれに気が付くことができる筈もない。そんな物が彼女に当たったら……

 

「山猫」は意図を瞬時に理解し合わせた照準を移し溜めた全てをアネッサとルナシーの導線上に放つ。事情を知らずただ詠唱を続けていたアネッサはただの余波だと一人驚き詠唱が乱れた。

 

「アネッサ!?」

 

「大丈夫、それより後ろ!」

 

彼女らの僅かな会話の時間にルナシーは槌を掴んだ。

 

「吹っ飛びやがれ!」

 

先程よりももっと深く彼女との間合いを詰め、彼女は全力で振り上げる。的確に心を捉え確実にクリーンヒットさせる。速度に魔法の処理が追いつかず骨の折れる感触が持ち手に伝わり赤い飛沫を飛ばしながら「山猫」は赤い霧になった。その音は何かが壊される音ではなく風船が割れたみたいに刺激的で儚い。

 

アネッサの顔に衝撃波と共に赤い液体が降りかかる。認識速度外の事で何が何だかさっぱりだった。その後に若干スローの光景で自身に同じ事をされてそうになりやっと理解した。理解したところで今の彼女には杖を持つも詠唱をするでもなく半端に口を開く敗北を待つ存在だ。

 

「てめえもだトリ公!」

 

目も閉じることができず段々と近づく暴力的な槌に怯える。

 

「(殺される……まだ何一つ出来てないのに……っ!)っ………っつ………!」

 

アネッサの心がそう訴えるも状況は変わらない。抵抗という抵抗は声にならない叫ぶ事くらいだった。

 

「死ね」

 

ルナシーは槌を振る。これが当たれば負ける。

 

ただ、それで良いのだろうか。いや、勿論良くはない。負けはミツキの意志を蔑ろにする事と同義だ。だが彼女は自身で決めたはずなのだ。セレネのように誰も傷つけない事を。

 

……その姉は先程まで何をしていた?

 

「(セレネ姉は、戦った。私を守った……なら私も……だけど…………」

 

削除予定「(血が出てるならあの攻撃は魔法の判定を貫通してる。当たれば死ぬな。クソッ、任務中は極力隠しておきたかったが背に腹は代えられない)」

 

「今やるしかない!」

 

持っていた杖を持ち替える。魔法を撃つような持ち方ではない。杖をまるで棍、いや槌そのものを切るための薙刀のように構え、高速で向かいに来るルナシーへと接近した。

 

削除予定「転生者がもう効いてるのね。流石森製のイカれた奴が備え付けた訳だわ」

 

ルナシーは寸前で攻撃へと転じたのは予想外であったが動き自体には然程動揺が見られない。彼女を杖もろともぶっ飛ばして倒す、それには変わりない。

 

「(ルナシーの一撃一撃は重くて早い。だけど……今日はそれを逆に使う!)」

 

「【共振 裂】」

 

莫大な質量が彼女を砕こうとする。残り数メートル切った。ここからはもう引き返せない。アネッサの間合いにルナシーが入る。彼女らの速度を加味すると間合いは等しい。 

 

「チキン野郎、てめえどう来る!」

 

ここでアネッサは地面を杖で突く。そして速度を維持し高跳びの要領で飛び上がった。

 

「さっきから鳥って、私は吸血鬼だよ!」

 

だがアネッサが槌の軌道から外れた代わりに杖に打撃が当たる。

 

「それでも頭は鳥だな!こんな細い棒っきれじゃ折れちまうだろうが!」

 

踏ん張り一撃に更に力を込め槌を振り抜いた。

 

「オラァ!………あ!?」

 

しかし相応の手応えが彼女には感じられない。違和感の正体を確かめると、まず杖は折れていない。代わりに自身の持つ槌の上半分が棍を境に裂けるように切れていた。

 

「あの糞店主がああああこんな不良品売りつけやがって!また壊れやがったこのポンコツ!ふっざけんな!」

 

二度目の武器破壊に我を忘れるルナシー、そこへすかさず追撃にもう半分残った頭に棍を狙う。体をルナシーの方に合わせ着地後に接近、槌の頭が無い分リーチは更に有利になった。

 

「はあああああ!」

 

「っ!?やっべ!」削除予定「明らかにこいつの速度が……魔法にしてはアイツと違って振り回されてもない。素の力と言う訳か」

 

ルナシーはもう使えないガラクタを捨て鉈での戦闘に切り替える。しかしここまで接近したらそれは近接武器の領域だ。武器を手にする前に手首を突く。ルナシーは思わず鉈を持つ手が縺れた。

 

「っ"!嘘だ……」

 

「上出来だ小娘」

 

ルナシーの背面から心臓に光の刃が突き刺さり貫通する。これもまた魔法の判定を貫通し彼女の肉を突き抜けた。そして間髪入れず返り血に濡れる手からレーザーを最高出力で撃ち込んだ。

 

そして、攻撃の主は先程血の霧と化した……

 

「『山猫』おおおおテメメメメ生きてやがったのかああ"!」

 

「山猫」だ。

 

「全く、貴公のせいで四肢と内蔵が暫く使い物にならなくなった。満身創痍と言った所だ。心臓はその仕返しだ」

 

「セレネ姉、生きてたんだね!……って何で保護魔法があるのに大怪我してるの!?」

 

「山猫」服には血が滲み、足が折れているのか膝下がありえない支え方のまま立ち少し体が震えている。表情は仮面で見えないが呼吸が荒く仮面が上下に動く。普通の人間なら回復魔法すら使うのを躊躇われる死亡とそう変わらない状態だ。

 

「心配をさせてしまってすまない、だがありがとう。貴公が動かなければ本当に死んでいた。魔法については家に帰ってから調べでもしろ。それより治りょ……赤ずきんはどうだ?」

 

端末に表示されるルナシーのHPは一桁、こうなってしまったらいくら彼女とはいえ誰との戦闘でも負けてしまうだろう。それは一般人は勿論アネッサが相手でもだ。「山猫」も武器を投げるくらいは出来る。

 

そして本人は今地面にうつ伏せで倒れている。抗う術が無くなり勝負を諦めたように微動だにせずに浅い呼吸をする。今回ばかりは彼女も辛い。もう分かっているのだろう。

 

この大会にてルナシー一人に勝ち筋は無くなった。

 

「う、うゔ……くっそ、やっちまったか」

 

ルナシーは体を起こした。

 

「………魔法か?」

 

それから破れた血塗れの服を脱ぎ、濡れた服を絞りながら呟く。

 

「赤ずきんよ、そこはお前の読みでほぼ正解だ。最も勘が鈍らず武器の選択を誤らなければこの事態も避けられた筈だったのだがな」

 

「…………本性見たりって事だな。ちょっと本気出すのが遅すぎじゃねえか?うっしょっと」

 

彼女は立ち上がる。だが怪我が出血が酷く貧血でふらふらと足元がおぼつかない。状況は最悪であるのに口調はいつに無く明るい。親しい友人と話しているようで普段の無愛想さとはかなりかけ離れている。

 

「(お姉、今のルナシー本当に大丈夫なの……だって心臓に穴空いているのに……立ち上がって……笑ってるよ……)」

 

「(耐えろ。顔色が悪いが正気を保て。)」

 

アネッサと「山猫」は小声で会話した。先程までの戦闘とは別の方向性の恐怖によりアネッサは顔面蒼白だ。

 

「あーあ、ここまで怪我させやがって糞が。回復も時間かかるんだぞ、面倒くせえ事させやがってニャン公。もう最近中々本気なれねえしここでなら良いと思ったんだがな。よし、帰るか」

 

そして彼女は遠くに手を振る。すると直ぐに何処かからか狼が飛び出してきた。

 

「はい、お嬢只今……お嬢裸っ!?しかも胸にお怪我が「帰る」「えっ!?えっとそれなら大会運営に掛け合って棄権を」「んなの連れがやりますよ。こんくらいの不始末あいつにゃ慣れてます」

 

そうして彼女は狼に乗り何処かへと行ってしまった。

 

 

 

「お姉、追いかけないの?」

 

「小娘こそどうなんだ?彼女程度の手負いの獣なら貴公でも十分狩れる筈だと思うが」

 

「私は誰も傷つけない。お姉の前で言ったことだよ。それだけは守らなきゃ」

 

「なら何故彼女に反撃した。本当に約束を遵守するならあの場で素直に倒されるべきであろう」

 

「………………」

 

「(適当に丸め込まなきゃ。えーとどうしよう)」

 

「小娘?」

 

「…………………………傷つけないって難しいね。お姉はこの後どうするの?ルナシーは倒したし私を倒すの?」

 

アネッサと「山猫」は見事な連携こそあれど共闘をしていただけで元は敵同士。敵が居なくなったのなら再び倒し合うのが道理だ。もしかすると今の怪我であるのならアネッサでも勝機があるのかも知れない。だが現実的にはその確率は低いだろう。

 

アネッサはその事実について問い、そして問を投げかけた後に意味を理解した。妙な緊張感を感じたアネッサはすぐにでも逃げ出したい気持ちを抑え答えをじっと待つ。

 

「…………そうだな」

 

答えに迷っているのか妙に答えるのに時間をかける。そうしている内にもアネッサは脈動を早めているのだ。

 

 

 

「…………成程」

 

「どうなの?お姉」

 

 

 

 

 

「弟子よ、降参だ。殺s

 

ドッ!

 

「………え?」

 

答える前に「山猫」から嫌な音がして、転送されたのか光と共に彼が消えた。彼がそして状況を理解する間もなく妙な空気の揺れを感じる。

 

「えっえっえっ?何々何々?」

 

それから少しして不吉な予感の正体が判明した。それは木々や岩を轟音と共に消し炭にしまとめて破壊するような……更に最悪なことに丁度先程逃げて来た方角から迫る強大な爆発だった。

 

「おに

 

ドッ!

 

本当はもっと絶叫に似た叫びをしたかった。だが、爆発はアネッサに嘆きを許さない。その前に彼女のHPは0となった。HPが無くなったのは彼女だけでは無い。彼女以外の殆どの者はこの爆発に巻き込まれている。

 

 

 

 

唯一この爆破に巻き込まれなかったのはルナシーの仲間位であろう。最もそんな者がいたとするのならば彼は相当なひねくれ者であろう。酔狂な者の内にいる者というのは、往々にして酔狂な物なのだから。

 

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