せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
席についてしばらくしない内に前菜が運ばれてきた。料理は見た所、王都でのゴタゴタ中に連れられた店と大差ない。
味は美味しい。だが初めての味だ。
スタッフに使われている食材を聞いた所聞き慣れない食材ばかりで恐らく貴重な物なのだろう。そのあたりが他店と大きく差別化されている。
「お高い食事にもちょっと慣れたな」
「そうですね。最後に食べたのは王都での挨拶回り以来ですから久々にも感じます」
言葉にして思う。こんな豪華な食事について久々、という言葉で表したのはつい数ヶ月までの修道院にいた私では考えられなかっただろう。アネッサのアワアワしながら苦戦して私達の真似する姿を見て思い出した。
「無理して上品にしなくても構いませんよ。ここには私達しかいませんから」
「うー……もう少しだけ頑張らせて」
食事も暫くしてミツキさんが話を切り出す。
「そろそろセレネ、お前を呼んだ理由を話す」
場に緊張が走る。私も食事をする手を止めた。
「いや、まずは……ここからの話は今後の俺達の関係に大きく関わる話だ。それでも聞くか?」
本題の前に彼から警告される。もし断ったらと聞くとそれならただの優勝祝のお食事会が続くだけだ、とのこと。彼の隠す物がどれほどの物かは分からない。私の協力が必要であれば何かしてあげたい。だが彼の抱えている何かが手に負えないものならば……
「相談だけでしたら」
卑怯だが逃げられるようにだけはしておく。
「後悔するなよ…………なあセレネ、お前は聖職者だよな」
勿論、今も心はそのつもりである。
「そうか。なら当然神様も信じてる事でいいな」
「そうですけど……?」
仕事柄信仰心はある。何を当たり前のことを聞いているのか。しかし彼は一人納得したように独り言を呟いた。多くは聞き取れなかった、唯一「クソ神」の単語が判断できた。そして、深呼吸して覚悟を決めた。
「地底の街を覚えてるか?」
「ええ、彼女らと初めて会ったあの場所ですね。よく覚えています」
「あの街についてお前はどう思う」
「どう思う、とは……人気がなく不気味としか思えません」
「そうか……」
彼はまた黙り込み、それから続けた。
「俺は、あの場所を知ってる」
「……そうでしたか」
「驚かないのか?」
驚いてはいる。ただ、現状を理解するのに驚く労力を費やしている場合でない。
「知っているなら何故他の方に伝えなかったのですか。ナツメさんに教えれば役に立つはずですよ」
「いやあそこ自体をを知ってる訳じゃないんだ。寧ろ俺の生きてた世界よりもっと進んでるかも知れない」
「……?」
つまりそれはどういう事だ。
「俺はあそこと良く似た所に住んでたんだ。アスファルトとコンクリートのビル街なんてもう見ないと思ってたがまさかギリギリアプデ後の世界だったとは」
アスファルト、コンクリート……あまり多く聞く言葉ではない。敵国の物らしいが、もしかして、そういう事なのか。
「ミツキさん、つまり貴方は自身が敵国の者だと言っているのですか?」
「違う。今から説明する。だがこの話はかなり非現実になる。それでも信じてくれ。俺の中じゃこんなのが真実なんだ。
セレネ、お前は転生を信じるか。信じなくてもいい。せめて言わせてくれ。俺は転生者だ」
「……転生者、ですか?」
「ああ。俺は異世界の日本で死んで、神様がこの世界へ転生させたんだ」
転生者、これは初めて聞く言葉ではない。だが生活で聞く物でもなく多くは神話や創作物の類で見る物だ。架空の存在が眼の前にいる。常識的に考えるのならば彼は正気でない。
「この世界は、俺の住んでいた世界だとネットゲームだった」
「ねっとげーむとはどのような物でしょうか」
「物語だ、この世界は俺がやっていた遊びの舞台だったんだ」
ーーー
それからの話をまとめる。彼の話は余りにも突拍子もなく馬鹿げていた。ある程度纏めないと頭が痛いのだ。
どうやら彼は日本という魔法が無い代わりに科学が発達した国で生まれて死んだらしい。そして神様に転生をさせてもらいこの世界で生まれ変わった。話し始めに神の存在を問ったのはこの為か。
日本では私達の世界は「セイクリッドフロンティア」という「ネットゲーム」だったらしい。彼らからすればこの世界は空想そのものであり、奇跡的に言語だけが同じだったのが彼の唯一の救いだったそうだ。そして日本からこの世界へ来た彼の視界には常に自他のHPやMPのバーが見えているとのこと。
ちなみにゲームには私とよく似たキャラがいるらしいのだがどちらの世界でも数値上とても弱いそうだ。悔しい。
一通り話し終えグラスの中身を飲み干す。
「改めて聞く。こんな話信じられるか」
本音を言うのなら彼の話の内容ははっきり言ってにわかには信じられない。転生、架空の世界、日本、全てに現実味が無いからだ。答えはもちろん一つだ。
「…………信じますよ」
「っそうか!」
「ですが貴方の話が反証出来ないという点でもあるとは留意して下さい」
自分でも言葉が厳しいと思う。それに実際は彼を信用しているのだ。ただ、理由は彼に伝えた理由もある。
「それに私は貴方以外にも転生をするお方を知っています」
「俺以外にも?誰だ」
「聖典にはかつての聖女は転生する存在だと書かれていました。つまり私もある種転生者なのかも知れません。最も、真偽も怪しい古い伝承にしか過ぎませんけど」
「……セレネ。ありがとう。俺の話を信じてくれて」
一応の信用を得られたからか深刻そうな彼の表情も少し和らいだ。
「なら次の話だ。ナツメが実は「ミツキ兄、これは私が自分で説明する」
アネッサが強引に会話に割り込んできた。それから彼に話を代わる。
「セレネ姉、本当はナツメ兄から何かあったら私を殺してって言われてるんでしょ。実はつい最近知ったの。でも待って、今は話だけでも聞いてくれる?」
「っどうしてそれを貴方が!」
ナツメさんの警告
魔法を教えたい?うーん、有事の際しっかり殺してくれるなら構わないよ
その言葉が頭によぎる。そして、それが今この瞬間だろう。既に準備はできていて、テーブルの下に隠している右手の震えは見つかっていないだろうか。
とるべき行為をする魔法は出来ているのだ。ただ殺すべきという理性と今はその時ではないという感情が葛藤している。
「ルナシーから知ったの。でも初めて会った時から何となく怪しい目で見られてるのは知ってた。たまに本当にいやらしい目の時もあるけど時々、本当に……うぅ……」
嗚呼、かわいそうに。それにルナシーとは、意外な人物の名前だ。一応付け加えておくと私からは彼女には何も教えていない。まさか彼女が自力で知った?なんの為に?
詳細を尋ねるとどうやら町で怪しい人物らから監視されていたらしく、それだけならまだしもつい最近その人物らが家の中を覗いていたのを知ったらしい。その他私達の気付かれない手段で様々な監視をされていた。
「随分と辛い思いをさせましたね。気付けなくてごめんなさい」
しかしまさか彼が真面目な目的で働いていると意外な面が知れた。最も、知りたくも無い側面なのだが。普段はお世辞にもいい人とは言えないにも一応の軍人としての自覚はあったのか。最悪だが見返した。
「ナツメ兄は……怖いの。いつもは笑ってるのに、あの時から、笑ってるのに……ナツメ兄はいつも楽しそうで、怖い」
前言撤回、もしかしたらまだ彼を称賛するには早かった。しかし余裕そうな態度からするに彼には何か裏があるらしい。もしそれが私なら心当たりがあるが多分まだ機密があるのだろう。
「ルナシーからはどの様に話を聞いたのですか。彼女がどうやって知ったとかは何か話せますか」
アネッサは3枚の絵を渡してきた。4つに折られた血塗れの紙にアネッサとクー、そして私の絵が名前と共に描かれ、注釈としてアネッサには「異常があれば規定の手段で捕獲または殺害すること」クーには「ナツメ騎士団長の指示を仰ぐこと」、私には名前だけが書かれている。
「この前の夜ルナシーが血まみれで心配になって話をしたら私を監視してた人と喧嘩したらしいの。その時に一緒に話してくれたの。それはその人達が持ってた物だよ」
ここまでされてしまったら彼らに悪意があるのは火を見るより明らかだ。それと私の写真にだけ魔術的な加工がされている。多少複雑だが暗算の範囲だ、解析してみると注釈にある規定の手段の詳細が書かれていた。……のだが
「どうしたセレネ。固まってるが」
「い、いえ。ミツキさん平気です。心配しないで下さい」
「(最後の項脱の『脱走を観測次第指定された部隊員はナツメ クロヒメ騎士団長の部下としてとコンタクトし銀の聖女を中心としたチームを対象の元に派遣し捕獲、または殺害する』……知らない内に随分としてくれましたね)」
これは後で彼と話しておきたい。が、立場は彼が上だ。アネッサらとの関係が知られたらそれこそ「派遣」されかねない。沈黙が正解だ。
「それでだ。セレネ、お前は……まだ引き返せる。まだ何も知らずに過ごせるんだ。最後の話をしたい」
最後……いよいよ最後だ。
「構いません。最初に私の心は伝えました。とうに覚悟はできています」
「一度しか言わない。
俺はアネッサと国を裏切る」
…………?
「…………え?」
覚悟はしていた。それでもいざ口に出されると思いもしない反応が出るものだ。
つまりそれは今度こそ私は彼らの敵になるべきなのだ。
「さて、これでやっと本題に入れる。セレネ、お前にも脱走の計画にお前の頭脳が欲しい。お前だって仲間が死ぬのは何があっても避けたいはずだ。
俺だってナツメが何の根拠もなしにアネッサを暗殺するとは思えない。だけどもうアイツの事を信じられない。セレネだけに責任が向くんじゃなくて、せめて俺らにも教えてくれてれば……」
まさかその根拠の一つがまさか私も関係している彼は思うまい。立場さえ無ければ彼女との出合いそのが怪しいと教えられるのに……何が聖職だ。立場を気にして躊躇だなんて、卑怯な私でごめんなさい。
「仲間が恐怖に怯えながら暮らしてるのに俺らだけいい生活だなんて、幸福を犠牲にして生きるなら俺だって勇者なんて立場を捨ててやる。
俺らは何処か目の届かない安全な所まで逃げた方がいい。その為の知識は前世で覚えて来たんだ。俺に協力してくれ。そうさせてくれ。頼む!」
「で、でもそれは、貴方も裏切り者として狙われるんじゃ「覚悟してるさ!頼む、この通りだ!」
彼は立ち、土下座した。店内であるにも関わらずに。だが分かかる。私が何も知らなければ同じ事をしていたのかも知れない。
「顔を上げてください」
まずは彼を起こし椅子に戻して落ち着かせてから私の答えを伝える。
「恥ずかしながら私も決断に迷っています。答えはまだ考えさせて下さい」
先延ばし、私が出した答えだ。抱えているものは解決してあげたかったがこの超重量の爆薬を前に即決をする勇気は無い。
その後はしばらく優勝祝の食事会に戻り店員がデザートを運んできた。甘味で空気も良くなるかと期待したがそんな事は無く、デザートの味は感じ取る余裕も無かった。
食事会も終わり三人で馬車に乗る。どうしょうもなく重い空気だ。静寂を打ち破ったのはミツキさんだった。
「下調べの時間も考えると……決行は位までは半月位かかるだろうな」
外を見ながら彼は呟く。今日も綺麗な月の登る日だ。星が明かりで見えずともそれだけは見える。
「それだけあれば逃げる準備も整いそうです
。しかしその後の生活には何か考えがあるのでしょうか」
「敵の国の地理は辛うじておぼえてる。前世のゲームの知識も多少の役に立つだろうし下調べすれば何とかなるだろう」
そうか、彼は敵国について知っているのか。しかし彼の年を考慮すると彼の知識は10年以上の物。使い物にならないかも知れない。そうなるとアネッサが重要となる……あれ?
「クーは食事会に来なかったのですか?彼女もあの街で会いましたよね」
「誘った。そしたら断られた。『ねこにもかえるいえはある。アネッサにはついていけない』って。で、馬車で家に帰った」
帰る場所とは、私達のあの家をそう言ってくれるならさっきまでは嬉しかった。もし脱走をクーに打明けたとしたらアネッサと共に着いていくのだろうか。
アネッサはずっと何処か遠くを見ている。時に屋外を、時に壁を、だが方角は常に決まった方を向いていた。その先にあるのはあの地下都市と、私の知らない彼女の思い馳せる地だろう。
ふと彼女がまた別の方を向く。今は酒場に繋がる道の近くで彼女とは縁のない場所だ。今日は何故か妙にうるさいようにも感じるしそのせいだろうか。すると彼女は外を見てなんと馬車から飛び降りた。
「アネッサ!」「おいアネッサ!何してんだよ!」
酒場への道の人が捌けている、アネッサはあちらに行ったらしい。私達も走って追いかけるとなぜ彼女が飛び降りた理由も分かった。
「クー!早くそれ持って帰るよ!」
「えーここのごはんおいしいのに。ねーるな。まだいしきある?おさけのめる?」
「昼過ぎからもう5件目なのに……ヒック……またはしご酒…………ゔっ……うお"げええええ!」
血と吐瀉物で汚れたボロボロの服で泥酔し七色の液体を吐き醜態を晒すルナシー。それを引きずり安酒の瓶を持ったクーが道の真ん中でアネッサと喧嘩をしていた。
「…………」
「回復魔法頼んだぞ」
驚きの余り声すら出ない。人が避けるのも無理ない、何なら私でも関わりたくない。しかし彼女らも家族だ。通り掛かる人に不審がられながらルナシーを回復魔法で治療しつつミツキさんと共にどうにか馬車へ乗り込んで急いで帰宅した。
ルナシーは乗り物酔いで道中2回吐いていた。
どのキャラが好きですか?
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セレネ
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リューナ
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ルナシー
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狼さん
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ミツキ
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ナツメ