せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在時刻 大会から数日後
脱走の話の後ミツキさんは他の方の目に付かないように色々なことを調べている。つい先日も「狩人」と名乗る人が馬車を出してくれると喜んでいた。脱走の具体的な日付も決まり、あとは脱走の下準備とその後の事について策を練っているらしい。決行は彼の当初の読み通り半月後だ。それにしても「狩人」とは、どこかで聞いたような。
アネッサも脱走中に生き残るのにますます勉学に励んでいる。そして、クーも話をしたらしく彼女らは大会後から剣と魔法の訓練をし始めた。
彼らには己の命がかかっているのだ、だから本当は私も協力したい。だが情けない事に私は今だ彼らへの答えを返せていない。彼らの計画を悟られぬよう、何も知らぬ振りをして自身の研究に没頭しているだけである。結果乱れた精神でまともに研究が捗る訳もなくただただ怠惰に過ごしている。
仲間を守るべきか、国に尽くすべきか。彼らの命は私が握っている。
現在位置 地方都市 自室
「……ああ、駄目だ」
自身の書いた誤った式の上に横線を引き、紙を丸め屑籠に捨てる。しばらくしていない例の本についての式を構築しようにもどこかうまく行かない。これでは必死に頑張っているミツキさんらに顔向けできない。
「はぁ……」
そこへリューナさんが入室してきて、私は慌てていつもの調子を取り繕う。
「魔法の調子はどう?」
「順調に進んでいますよ」
しかし彼女はどこか訝しげだ。魔導書を持っていて彼女は机に置いた後いつの間にか屑籠から溢れた紙くずを押し込んでからベッドに腰を掛ける。
「ふーん、順調ね。あーなーんか急にセレネちゃんを手伝いたくなってきちゃったなー。今なら何でも相談に乗るよ」
手を魔法で洗浄しながらわざとらしい様子で彼女は協力を申し出る。つまり、彼女にはお見通しという訳か。
「……いえ、何も」
しかしもう暫くとぼける事にする。心配は嬉しい、だが今ではないのだ。
「…………ふーん。じゃあ代わりにお姉さんが相談してやる!」
「私にできることであれば協力しますよ」
「ありがと。で、相談なんだけど次の任務で使う魔法を決めたくて」
次の任務か。時期的にはまあ来てもおかしくないしそろそろ動き出してもいい時期か。私は追加の必要もないし改良だけでいいかな。
「次の任務の派遣先はどこでしょうか。まずはそこが分からなければ対策のしようもありませんから」
「次は海らしいよ」
海か。実は私は生まれてから海という場所を見たことが無い。観光であればどれほど嬉しかった事だろうか。しかし何故彼女が行き先を知っているのか。ナツメさんが全員を呼んでから発表すると思うのだが彼女はどうやって知ったのだろう。
「ん?普通に気になってナッツーに聞いたら教えてくれたけど。具体的な出発日は未定だけどあと半月位先に正式に決まるとかなんとか」
「半月後ですか。それなら十分な猶予が……」
半月後……
「リューナさん、その具体的な決定日を知っていますか?」
「うん。確か……」
彼女は遠征先の決定日を教えてくれた。そして、その日について私には心当たりがあった。彼の脱走の予定日、その日と丁度同じだ。その日全員で集まらなければならないとなると当然脱走を考える上での状況は変化する。
「(そうなると彼らはかなり急いだ方がよろしいですが教えたら彼らに側につくことになります……はぁ……)」
何故私は決断出来ないのだろうか。結局は保身に走るしかできない。こんなので何が聖女だ。
魔法も行き詰まり何もしないと悩みこむだけだ。仕方がないから別の事でもして気を紛らわしたい。リビングの本棚に家の各所から持ってきた架空戦記があるしそれを読む事にする。
リビングに来て本棚を見る。聖典他の中に例の架空戦記がある。前半の10巻までは揃っていてそこからの巻は飛び飛びだ。私は1巻と2巻の冒頭だけしか読んでおらず今から読むのが楽しみだ。取り敢えず内容も少し忘れているし1巻から5巻をいっぺんに取り出す。
…………?もう一度しまう。
……………………?何か、違和感がある。
……………………………成程、魔法で何かが作動しているのか。本を取り出した瞬間魔力が僅かに流れている。一冊だと誤差に過ぎないが数冊同時に出すと処理の複雑さから多少ボロが出る。それがたまたま「何か」の発見に繋がった。そしてその「何か」について一つ心当たりがある。
「(隠し部屋)」
本格的に解析してみると本を一定の配列に並び替えると対応する仕掛けが働くらしい。巻数が飛び飛びなのは巻数を入力に使うからか。並べると数桁程度まで満足に組み合わせられる。取り敢えず仕掛けの基本形は理解した。
だがしかし何冊もある本をを1つ人1つ組み替えるのは面倒だ。内部の仕掛けを解析してしまってから内部から開けよう。幸い桁数はそこまででなく、暗算可能な範囲だ。
適当に出した値を仮入力し仕掛けを作動させる。すると予想通り本棚から動力が働き仕掛けが作動し物音がした。
「うぇぁあああああああ!?床抜けしたのこの家ぁ!」
同時に天井に四角い穴が空いて2階からナツメさんが落ちてきた。回復魔法を使って謝る。
「ご、ごめんなさい!仕掛けを弄っていたら急に……」
「お尻の穴が痛い。あぁ、君の実験で開いたのか。だからか。ん?じゃあもしかして……」
彼は一人何かに納得してるようだが一体何が分かったのだろうか。
「ルナシーが『たまに地下からガコガコ音がするんです。お前、聞こえないのですか』って愚痴をもらってさ」
「地下から?」
「特にその本棚がそうみたい。よーく耳を澄ますとそこから教会の方向にかけて地響きみたいな低音が聞こえるらしいよ。僕の耳じゃ小さすぎてなんも聞こえないけれどね」
彼は棚の本を的当に出し入れし並べ替える。それから聴覚の強化を頼まれ魔法を使い耳を澄ます。すると何か仕掛けが動く小さな音が床の下から聞こえた。この下にも何かがあるというのは本当らしい。
そうであるなら解析範囲を教会含め全方位に広げる。やはり回路が棚から伸びて家の壁や床を通じ様々な場所へと繋がっていた。その中にルナシーの示す教会へと伸びる回路もある。だがこの回路はさらにもう一つ不明な箇所に分岐している。
教会で怪しいものといえば図書館の空だったあの棚だ。案の定それにも回路は伸びており式の通りに本を組み替えると音とともに作動を検知した。もしかしたら図書館へ向かうと空の本棚が現れていた。そしてこの棚の内部にも似たような回路が仕込んであった。
「ルナシーの言ってたことは本当だったのか」
仕掛けを動かすための本を運ぶのを手伝ってもらっているナツメさんが本を地面に置いて呟く。ルナシーは確かに地下の音を聞いて、この仕組みが実際にあった。だが、まだだ。私には聴覚でなく魔力の流れで更に下に続く回路、不明な分岐の先を発見してしまっまた。
「本を貸してください」
動力はこの本棚のみ、それから桁違いに厳重なセキュリティー。しかし、解読はできた。
「どの本をご所望で?」
「えーと……」
解読はできたのだが偶然なのか仕組まれていたものなのか、ここの鍵は家のあちこちに隠されていた本ばかりだ。誰かが意図して隠したとも考えられる。真意は不明だが私は意を決して本を棚に並べた。
ガコッ……ゴゴゴゴゴ……
地下の図書館に低い音が響き棚が横に動き鉄扉があらわれた。鍵は無く、開けた先には暗く先の見えない階段。明らかに雰囲気が違うのが目に見えてわかる。雰囲気は視覚だけでない。魔法の回路自体もここの階段を境に完全に断絶され魔力が漏れ出さないよう厳重に保護されていた。予想はしていたが思わず息を呑む。
「なんですか、これは。こんな物が教会に隠されていたとは……」
「あはははは!何だか面白いことになってきたねえセレネ君」
「ええ。面白そうですね。背筋がゾクゾクしてきました。下りましょう」
魔法で明かりを確保し石階段を少しづつ下る。予想以上に長くかれこれ2分程下っただろうか。やっと下りきりまた鉄扉が現れた。こちらには鍵がかかっていたので適当に解除した。桁数二桁の暗号程度なら暗算の範囲内だ。
鍵が開き扉が開く。空いた隙間から青い光が差し込んだ。地下に隠されたそこは天井は見えないほどに高く、広い空間。無機質に青く光るガラスの円柱が無数に並び、何処か恐ろしく、神聖にも見える。
地面には黒ずんだ汚れ、何かを引きずった跡がそこかしこにある。解析するまでもなくそれらの正体は分かる。ガラス柱の青い光は柱に満たされた液体から来るものらしい。そして幾つかにはまた別のものも入っている。白髮の水を吸って膨らんだ四肢を持つ肉塊。あまり見たくはない。それと少なくとも人とはとても似つかない。
だがこんな惨状でもかつてここが何だったかを示すものを見つけた。無数の拘束具付きのベッドと見たことのない赤錆びた道具。簡素な机に乗る青い粉末の付着した大小の硝子杯、それと空間の奥に立つ書見台に、一冊の古い旧版の聖典が置かれていた。つまりは、そういうことなのだろう。
探していた答えは予想以上に禁忌に近い物らしい。全てを知る前に知れたのは幸か不幸か。
現在位置 教会地下
「あ、これ不味いやつだ」
「悍ましい……あまりに酷い……」
私達は凄惨な光景の痕跡を調べる。硝子柱の彼らは解析によるとやはり死んでいた。液体の成分はなにかの薬品だろうが私の知識では説明の付かない物だ。魔法の式が膨大な書き込める性質があるがこんなものは私の知識には無い。だが死体漬けの液でもこれだけ量があったらなにかに使えそうだ。
その他ここには調べれば調べるほど不可解なものばかりだ。せめてもう少しくこれらが知れればいいのだが。どこかに残された資料でも無いものか。
資料を探すという点に絞るとあることに気が付く。紙が一枚もない。代わりに共通して二つ折りにされた金属の板が各机にほぼ一つづつ置かれている。開いてみると無数の文字、英語と平仮名の単語が不規則に並んだ文字盤と黒い面がある。
「うーん、これはどういったものですかね?」
「さあ?」
二人してこれについて何も知らない。適当に押せるところを押してみても何も起きない。ここにある全てがこうであるのだろうか。一つ一つ調べていくと壁と紐で繋げられた一つのみ、ボタンを押した途端に黒い画面が光りだした。この前の魔法大会で使った端末にどこか似ている雰囲気だ。
しばらくは画面に英数字の羅列が続いて、それから野原の絵となる。画面端に定期報告と書かれた書類の絵があり、恐らくこれが紙の代わりをしているのだろう。取り敢えずこれを触る。すると画面が切り替わり文字列が並ぶ画面へとなった。
内容は私達の生活についての報告らしい。そしてそれ以外の情報はこの「パソコン」と呼ばれる「SSD」には無いとも書かれていた。序盤の書き出しを見るに相当切羽詰まった状況で書かれたと見て取れる。ここについて何も情報が獲られなかったのは残念だ。
一つだけ分かるのは私の知らない所で誰かが動いていた、という事実だけだ。しかしこの家の監視をする人物となるとナツメさんの部下の所持品だろうか。だがしかしそれにしては動作しない道具の数が多い。つまり何かしらここを知る人物がこれを使ったわけだがそうなると心当たりがない。一体誰がこの書類を作ったのだろうか。
ナツメさんもこの道具の存在を知らず解析のために持っていくからこれには手を出さなくていいと指示された。魔法外は分野外だ。ここは時間をかけてゆっくりと彼の結果待ちをしよう?
それにしてもここは不思議だ。普段本のために出入りする建物の下にここまで巨大な空間があるのは考えもしなかった。
「…………まるで非現実ですね」
「そう?意外と世界にはこういう変わった物程当たり前に隠されている、そう考えるのが僕は好きだよ」
彼がそう返す。いつの間にやら口に出ていたそうだ。
「君はここが在るはずのない場所だと思うのかい?」
「何というか、実感が沸かないといった感じです」
「それならこれは悪い夢にしてしまおう。僕と部下、それと君との秘密に。在る物じゃない、見える物でもない、信じるものが現実だよ」
つまり、遠回しに誰にも教えるな、というわけか。しかし私が関わっても仕方がないのだ。ここは大人しくして上へと戻ろう。
「してセレネ君。どうせ二人っきりだし前々から気になることがあって」
階段を上る前に彼が問う。
「突然で悪いけれど君は聖女をどう思う?」
どう思うとは?
「『聖女はどんな人柄でどんな姿か』考えたことはあるかい?もしくは聖典は2版?現行の3版?」
「3版です。それで、そうですね……私が名乗るのもおこがましい程に尊く清く、崇高な存在です。『真癒やしの存在、有難き者』聖典にはそうありました」
「そう。じゃあ『神様』については?」
「神の容姿に関しては現行でも記載されていません。もっと過去に遡れば記述があるそうですが。でもそうですね、勝手に考えるとするならよくある髭の伸びた老人でしょうか」
それを聞くと彼はお礼を言い階段を上る。それから一言。
「僕は神様はもっと気ままでかわいい女の子だといいなー」
……彼は、どうしてこうなのか。それが神にも分ればいいのだが。
そして、私は何も知らず、何もしないまま決断の日を迎えた。
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