せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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そして日常が崩れ去る

ある日の深夜、めずらしく夜中に尿意を感じ目覚めた。ベッドから起き別に何事もなくトイレに向かい用を足す。再び眠りにつこうと布団に潜る。

 

 

 

……ベッドに謎の人肌の温かみを感じた。布団を開けてみる。

 

「おはようセレネちゃん♪」

 

「ナツメさん、さすがの私も人です。あまり巫山戯たことをしていると怒りますよ」

 

布団の中に彼が潜伏していた。いつか彼には割と本気でお説教が必要だろう。怒りを抑えつつ彼から布団を剥いだ。

 

「まあまあ、そう怒らないで」

 

「いい加減そこを退いてください」

 

眠くていつもより口が悪い。しかし彼は目は覚めてるみたいだと笑っていた。

 

「その調子なら平気そうだね」

 

「何がでしょうか」

 

「久々のお仕事の時間だよ。アネッサとクーが逃げ出した。残念だけど彼女らは少し手荒く扱わないとならなくなっちゃったねー。ただの遊びでなら杞憂だけど……まあ、『その時』は今だろうね」

 

……!?

 

彼らが動いたのか!?それに決行日も聞かされていた予定日と違う。予定変更だなんて聞かされていない。つまり彼らは……私を切り捨てた?

 

思い当たる節はある。きっといつまでも答えを出さずにいたから彼らが敵と見なして予定日を変えたのだ。眠い頭で思いついた事だがこれなら多少筋は通る。私は、決断するのに遅すぎたんだ。

 

「下に眠気覚ましにお茶を淹れた。飲んだら全員で出発だよ」

 

「ありがとうござ……いや、それなら早く教えて下さいよ」

 

 

 

 

 

ーーー

 

現在時刻 深夜 夜明け前

 

現在位置 地方都市 旧市街 路地裏

 

旧市街、一世代前の町の中心地。今は歴史ある建物がかつての栄華を残すのみである。町の黎明から発展しただけあり複雑に入り組んだ道が迷路のように敷かれる。

 

その町の深夜、人気のない裏通りの路地裏にて彼らはいた。

 

「クソっ……馬車はまだなのか。もう約束の時刻は過ぎてるんだぞ」

 

脱走用の馬車が遅れ彼は焦る。そんな彼をアネッサは不安げに見て杖を強く握り己の先行きを祈る。対象にクーはいつもと変わらない。むしろ少し楽しげにも見えよう。

 

「(こいつらの為にもセレネを仲間にしようとしたんだけどな。結局あいつは答えなかった。さすがに国は裏切れないか。教えた計画はだいたい全部変更したしバレても秘策はあるから問題は無いだろうが……)」

 

「アネッサ、たのしみだね」

 

「クー、静かにしてて。今は大事な時だから」

 

「……もしかして、まだきづいてないの?」

 

クーは懐から六角形の模様の黒い袋、アネッサの武器と付いてきたのと似た物を取り出した。

 

「何でこれを持ってきたの!?」

 

「ひつようだから。まーたぶんそのときになればへいきそうだけどいちおう」

 

焦りながらもクーが袋を渡すのをミツキは見た。そしてふと思う。この状況の中でも必要という袋には何が入っているのだろうか。

 

「なあ、その黒いの何入ってんだ?」

 

「……秘密」「しんたいきょうかといえばいいもののはず」

 

「ふーん、ちょっと貸してみろ」

 

「「あっ!」」

 

ミツキは彼女らからその袋を取り上げる。彼と彼女らとでは身長差もあり取り返すのは難しい。

 

「返して!それは大切な物なの!」

 

「ちょっと中を覗くだけだ。すぐに返すから」

 

触った感じは前と同じ短い棒だ。彼は袋の口を開き中身を出す。

 

「…………は?」

 

彼は袋の中身のそれを知っている。だが決して多く見る物ではない。むしろ手にして初めて隠されていたままならばよかったとも考えた。

 

袋の中身は青い液体の充填された二本の注射器だった。

 

「えっ…………クー、アネッサ、これ、どういうことだ?注射なんて、一体…………どこで手に入れた?」

 

「えっと……ああ、うん……考えさせて」

 

「うぼあー」

 

あまりの予想外に整理がつかない。だがそれもここに近づく一人の足音にかき消された。

 

「!誰か来た。取り敢えず話は乗ってからでいい。そしたら詳しく教えてくれ」

 

クーとアネッサを建物の影に隠す。彼は1人息を殺し通りに近づいてその人物が来ないか見張る。静寂が包む町では早くなる鼓動の他に来る者の独り言が微かに聞こえた。

 

「……の場……定が変わ………………………近……」

 

若い女性、しかもこの声は……

 

「たしかここを曲がって……ああ、いました」

 

現れたのはセレネ。彼にとってはいるはずのない人間だ。大方彼の敵としてここに来たのだろう。

 

「セレネ、お前どうしてここに?」

 

「偶然あのとき起きていまして。跡を付けてきたんです」

 

「(バレてたのか)」

 

「脱走、本当に決行したのですね。あなたには計画の相談をされましたね。できれば机上の空論であってほしかったものです」

 

「ああ、そうさ。俺だって国を裏切る真似をしたくはなかった」

 

セレネは悲しそうに彼から目をそらし右手を強く握る。

 

「聞くまでもないですが二人をつれて国を去る責任を被る覚悟は「俺には俺の正義がある。其のためなら地位もなんでも捨ててやる」

 

「……貴方はいい人ですね。出来ればただの医者と患者として出会えていたのならもっと望ましかったのに」

 

そしてセレネはミツキに2つの選択肢を与えた。アネッサとクーを引き渡し彼自身も裏切り者として処罰されるか、逃げて国中から命を狙われるか。

 

「ですが答えは聞くまでもありませんね。どうせ貴方は逃げるのでしょう?」

 

「当たり前だ。それでお前も仲間だから戦闘は避けたい、そうだろ」

 

図星だ。与えられた司令は「ミツキ、アネッサ、クーの捕縛。そして彼らがこちらに応じず逃げるようであれば殺害も構わない」そう、伝えられた。

 

「ついでに当てさせてもらう。お前の二択もナツメの指示だ。お前は俺を消せと、他にも居るんだろ。どうした、狙わなくていいのか?それとも殺したくないのか?それか俺の仲間にならないか?」

 

「私も短い時間ながら生死を共にした仲間に手をかけたくないです。しかし誘いには乗れません。これも聖女の仕事ですから」

 

セレネの言葉は実に無慈悲だ。しかし心優しく、どこかか弱い彼女にはかなり無理をしてひり出した言葉だろう。強いのは言葉だけで悲しそうな顔だ。だからミツキは聞いた。

 

「今なら見なかった振りも出来る。だけどな、お前は本当にそれでいいのか。百歩譲って俺を殺すなら別にいい。だけどお前が手塩にかけて育てた教え子のアネッサとクーをお前は殺すのか!」

 

だが、言葉にしてはいけなかった。むしろそれは彼女の迷いを悪化させるだけだ。

 

「っいいわけないですよ!私は……私は……っ!」

 

そして、彼女は最悪の手を踏んだ。

 

【光柱 ピラーオブムーンライト】

 

 

ーーー

 

同刻

 

現在位置 旧市街 大通り

 

「あーあ、アネッサちゃんとの生活は楽しかったけどこれで終わっちゃうだなんて。悲しいなぁ」

 

旧市街の大通りにてリューナはナツメの派遣した兵士を引き連れていた。兵士の数はまあまあいる。

 

彼女も彼らを探し、逃げたのならば殺す役目を指示された。だがしかし彼女は地域住民の避難も任されていた。深夜の屈強な兵が家々に尋ねているのは中々に珍しい。深夜だが当然騒ぎになった。

 

「みなさーん!兵士さんの指示に従って避難して下さーい!」

 

彼女も大声で人々に避難を呼びかける。深夜で多くが寝ている時で住民は皆迷惑そうにしていた。しかししばらくして建物が倒壊する轟音が響くと態度を一変させ兵士に従って全員逃げ出した。そして再び深夜の静寂が訪れた。

 

「これでよし!あとはリューナちゃんのお仕事……あ"ー!いやだいやだ!あんな可愛い子に魔法で攻撃したくないー!!」

 

「賢者様、どうか落ち着いて」

 

たまたま近くにいた兵士になだめられる。

 

「ゔ〜まあまあ!?ここでまた戻って来てくれれば命は保証されるからリューナちゃんの巧みな話術で交渉してみせましょうぞー!じゃあ兵士の皆にローラー作戦開始を伝えて!」

 

「はっ!」

 

兵士らは大通りから細い路地に次々に入っていく。この兵士の数なら多少広く入り組んでいても見つけるだけならすぐに済みそうだ。彼女自身も発見するのに高所に行こうと建物の上を見上げる。月が綺麗だった。

 

「(ちゃんと、殺せるかな)」

 

「よし、探すか!」

 

踏ん切りをつけ、気合を入れなおし路地へと向かおうとした。だがもう彼女は彼らを探す必要がなくなったようだ。

 

 

 

「…………クー?」

 

「魔力も足音も気配も消していたのですがよく気が付きましたね。流石です」

 

彼女、明らかに雰囲気が違う。言葉を交わすだけで分かる。声が違う。今リューナはクーに背後をとられている。明確に殺意、というより好奇を持つのも感じる。

 

「ねえ、おねえさんクーちゃんに頼み、いやお願いがあるの。クーちゃんだけでも家に戻らない?」

 

裏を取られてもなおリューナは最後の希望を抱いて聞いてみた。

 

「遠慮しておきます。猫にも帰る所はありますし気ままな猫なので今日で帰らせて頂きます」

 

「じゃあアネッサちゃんもいれば来る?」

 

「いいえ。彼女は仕事の内に出来た知り合いなだけです。なのでもう彼女とは何も関係ありません。依頼は全てこなし終えましたから」

 

つまりはどうやっても戻るつもりはないようだ。どうやら戦闘は避けられないらしい。

 

「ですが彼女とのおままごとは有機義なものでしたね。遊戯というのはいくつになっても楽しいものです。貴方もお姉さんを演じきれていましたね」

 

「ちょちょ……クーちゃん?」

 

「リューナさん、短いあいだですがありがとうございました。次はまた別の機会に会いましょう」

 

「クーちゃん!」

 

リューナは振り返る。彼女はダガーナイフを持ち既に飛びかかっていた。だが、彼女はもうリューナの知る「クー」ではない。

 

クーの死んだ目に光が灯っていた。幼子が美しい細身の女性になっていた。思考の読めないあどけない顔が微笑みの似合う大人の顔つきになっていた。服もやる気のない白い長袖から戦闘用のぴっちりした服。短くなった袖からは肌が見え「ねこ」の入れ墨が出ている。

 

隠していたものが、全て曝け出されていた。

 

そこには変わり果てた彼女がいたのだ。空に登る月のように美しい彼女が。

 

ーーー

 

同刻

 

現在位置 地方都市 自宅 庭

 

 

 

「お嬢、本当に来るんですか?皆様お仕事で町へと向かわれましたよ。お嬢も彼らと同行したほうがよろしいのでは」

 

「いいえ。『山猫』から以前ここが重要だと聞いたので来ますよ。それ以外なら事故死させる」

 

「事故、戦闘はお嬢に任せますが、その、いえ。しかし随分『山猫』様を信用されていますね。あ、『狩人』様から頂いた馬肉も焼けましたよ」

 

「ありがとうございます……美味しいです。あいつの送ってくる食べ物は当たりばかりですね」

 

「あの、私にも分けて頂けますか」

 

「どうぞ。お頭とかです」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

パチ……パチ……

 

庭で焚いた焼火で肉を焼き食べるルナシーと狼。石と骨で作った簡素な台に骨付きの肉を乗せ慣れた手付きで淡々と焼く。味付けはせずとも彼女からすれば慣れた味だ。ジビエよりかは人に育てられた分美味しい。少々火力が高く焦げた部分もまた香ばしい。

 

何故肉を焼くか。というのも前日に「狩人」から仕事途中にしょっぴかれそうになったそうで馬車の後処理を任されたのだ。焚き火の薪もかつての馬車で肉も馬肉だ。馬1頭と車1台は焼き場所を選ぶ。幸い自宅の庭にはスペースがあるしここなら何をしても怒られないだろう。肉と木材であるのならば、少しだけ食べて残りは炭にしてしまうのが一番である。「狩人」はだから彼女を選んだのだ。

 

そして、しばらくしてルナシーの予想通り来客がきた。だが誰が来るのかまでは、予想はできなかったようだ。

 

「あ?何故あなたなのですか」

 

「俺で悪かったなルナシー」

 

「勇者様!?」「狼さん仕事ですよ。はぁ、でもこいつ嫌いなんですよ」

 

「なら汚名返上出来るな。存分に戦って倒してやるよ。俺の手に入れた『唯一無二のチートスキル』でな。後悔するなよ」

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

【光柱 ピラーオブムーンライト】

 

セレネは感情のままレーザーを放った。自身の技量もあり照準は彼の頭を的確に捕らえ背後の建物を巻き込み彼を撃ち抜いた。彼は急に力が抜け力なく倒れる。頭部から血が噴き出し、彼がもうただの肉塊と化すのは時間の問題だろう。

 

ああ、目の前の建物が音を立てて崩れ行く。時間も経たぬ内に眠る人々は音に気づき倒壊した建物に集まるだろう。だが一人、この場で既に目覚めていた者は一足先にそこへと到達するのだろう。

 

「はぁ……はぁ……ははは……これでアネッサとクーとは敵同士ですね……はは……ははは……もう、戻れないんだ…………さて、あと二人、殺さないと」

 

一人目の殺害を終えたと同時に彼らへの罪悪感と不安定な均衡が崩れたある種の開放感により自信もどういう環状を抱いていいのか分からなかった。混乱のまま、残りの二人を捕まえる手立てを建てないと。

 

だが標的は彼女の方から歩いてきた。

 

「セレ……ネ、姉?なにその……ミツキ兄、回復しない、の?」

 

最悪だ、アネッサに惨状を見られた。

 

「彼は、その……残念でした。ですが、貴方はまだ助かります。私と家に帰りましょう」

 

もはや言い訳する気にもなれなかった。血に濡れた地面と頭のない彼の死体、隠す方が無理がある。アネッサは受け入れがたくも理解し、ミツキの死体に目を落としながら私を問い詰める。

 

「お姉、何で、何で殺したの!あんなに優しくて逃げようとしたのに、それに仲間でしょ……ねえ、答えてよ!……この裏切り者!卑怯だよ、こんなの」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

生の希望を託していた彼を親しい者が殺した。即ちアネッサにとってはこの上なく絶望である。嘆く彼女に、私は謝ることしかできなかった。

 

ああ、可愛そうだ。だが私も仕事がある。どうであれ彼女を連れ帰らなければならない。座り込んで泣きじゃくる彼女の手を取ろうとする。

 

「やめて!触らないで!」

 

伸ばした手をアネッサに手を叩かれた。弱く痛みもない強い拒否は逆にセレネの心に痛みを与える。それから彼女は何かを決意し泣くのをやめて立ち上がる。

 

「もういいよ。さよなら。思えば今までも朧気に知ってはいたけど……もう全部思い出すから」

 

「ごめんなさい……って何をする気で!?」

 

私の問には答えずアネッサは青い液体の注射器を取り出し、セレネは止めることもできず、思い切り太腿に突き刺した。

 

「ああ……効いてきた。頭に、少し、思い出してきた。あ、消えてく。隠してたあたしが……あ……あ"あ"っ!」

 

「アネッサ!」

 

絶叫を上げミツキの亡骸倒れる彼女セレネは支える。呼吸が荒い、急いであの液体を調べないと、彼女は魔法で刺し跡付近の液体を解析する。

 

「うっ……これ、薬じゃない、でも魔法じゃない」

 

セレネが戸惑うのも無理はない。まだ全身に周り切らない腿周辺の極微量の液に恐ろしい分量の術式が施されているらしいのだ。しかも実に冷徹で、だが非常に複雑な処理の数々はもはやただの魔法ではなく一種の偏屈な呪怨にも近い物だった。

 

彼女の知る範囲で言うのなら、呪術だろうか。

 

「なんてものを、こんなのを体に入れたら何が起こるか……」

 

ドゴッ!

 

不意打ちで顔に肘打ちをされた。逆にセレネが倒れアネッサが馬乗りになる。

 

「えっ……アネッ……サ?」

 

「アンタのせいで……アンタのせいで皆死ぬんだ!お前も!私も!アンタが黙ってれば死ぬのは私以外なのに、何も知らないくせに余計なことしやがって!」

 

アネッサは急に別人のように豹変した。絶望はそのままで泣き顔から一点、怒気溢れこちらを罵声を叫ぶ。気弱で、それでも健気で優しいアネッサの面影はもうそこにはなかった。

 

「ああああああああああああ!!糞があああ!」

 

ドカッ バコッ

 

羽の少女はセレネの顔面を両の手の拳で殴りつける。あの液体のせいか、力任せなのもあり彼女のか弱い力は暴力として成り立つ威力である。その力を持って何度も何度も、己の怨嗟をありったけぶつけ、セレネの顔にいくつもの跡を作る。

 

「あ"っ!やめでっ!お願い、やめて下さい!」

 

「煩い黙れ!お前のせいでこのままみんな死ぬんだよ!この何もできない甘ったれた糞雌風情が!」

 

 

 

 

罵り、殴り、裏切り、裏切られた。それで一線まで超えた羽の少女にはもうセレネへの感情はもう無いのだろう。

 

「(ごめんなさい、アネッサ。貴方に、ここまで辛いことをさせてしまって)」

 

だからこそ、セレネにもやっと遅すぎた覚悟ができた。

 

豹変した彼女はアネッサとは別人だ。だから彼女を殺す。聖女の任務の為に。そう割り切ればそこからは早い。

 

反撃開始だ。

 

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