せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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対クー狩り

「(ゼロ距離は魔法の発生が間に合わない!)」

 

まだ間に合う速度上昇のみをかけステップで距離を稼ぐ。クーのダガーナイフの間合いは脱しあと少しで喉元を貫かれていただろう。

 

「へぇ。お得意の技は使わないのですね」

 

「必殺技は最後まで残してって……うわっ!」

 

クーは壁際まで追い詰めるまで追撃を続ける。牽制と急所狙いと織り交ぜた技量に富んだ連撃をリューナは杖で何とか防いでいる。

 

「くっ……一度魔法を展開出来れば何とか巻き返せるんだけ……どおっ!」

 

刃を掻い潜り杖のリーチを使い一突きする。だがクーには当たらず、逆に見切り杖を踏みつけた。崩れそうな体幹を耐えきれず遂にリューナは体制を崩した。

 

「捉えた」

 

好機を見逃すはずなく即座にクーは彼女の懐に入り刃に心臓刃を向ける。

 

「(うっそ、大ピンチじゃん!もう時間を止めるしかない!)」

 

 

 

【No.i=時間停止】

 

カチッ

 

ナイフが胸の寸前のギリギリで時間が停止する。あともう少し停止のタイミングが遅ければ、そう考えると寒気がした。ひとまずこれで魔法が撃てる間合いは確実に取れる。適当にあたりを見回す、そういえば人気がない。事前に人払いをしていたから当たり前のことだが少しいいことを考えた。

 

 

【解除】

 

 

 

「っ!……逃しましたか。噂に聞いていましたが今のが時間停止のようですね。急に目の前から人が消えるというのは思ったよりも衝撃的でした。して、彼女は何処へ隠れたのか探しませんと」

 

時間停止が解けクーは再びリューナを殺そうと探す。しかし目に見える範囲には見当たらない。となると見えない所にいるのだろう。ここには建物が多い、きっと隠れて魔法を仕込むはずだ。クーはそう考えた。

 

「しかしそうなると厄介ですね。これは出会い次第本気を出しましょう。きっと不意打ちは2度も効きませんから、ね」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「(ありったけの【速度上昇】と【身体強化】を今のうちに仕込まなきゃ。それと【虚次元展開】していつでも魔法を撃てるように。じゃないと一方的に殺される!)」

 

彼女が隠れているのは人のいない建物の一室。先程まで住民がおりかなり生活感がある。侵入した際に窓が割れてしまったので人がいなくて幸いである。その分物資もあるからやろうと思えば何でもできるだろう。

 

「だけど特に今できる対策は無いから物資は放置。強化は終わったからクーの居場所を探そう!」

 

感知魔法を展開しクーの魔力の場所を解析する。しかし誰も判定には引っかからない。少なくともこの場にはいないようだ。

 

「(見つからないかーそっかー。ならばお姉さん直々に見つけてあげるか!ここでセレネちゃん作の魔法の出番。秘技、透明感!)」

 

【霞隠れのネビュラ】

 

この魔法はいわば透明化の魔法だ。リューナがセレネに教えられた認識阻害魔法であり、阻害を強めると透明になれる仕様だ。効果の通り鏡を見ると姿が映らずちゃんと透明になっていた。

 

「おおっ!ちゃんと消えてる。セレネちゃんよく作ったね」

 

そうして玄関の扉に手をかけた。

 

 

 

ガッ!

 

が、すぐに手を離す。黒いナイフが斜めに差し込まれ続けてドアノブが切断され、ドアが勢いよく開いた。そして扉から現れたのはクーで彼女は家の中に素早く侵入した。

 

「(む、いない?じゃあ一体どこへ……やはり後ろ?)」

 

彼女が振り返ると彼女が開けたドアの裏側が不自然に開いていた。思えばドアの勢いに対して音がしないような気がしていた。

 

「(どうやら消えているだけだったようですね)」

 

「間に合え!」

 

【2nd=秒針】

 

何発もの赤黒い針状弾が建物ごと縦向きに貫く。天井が割れていくつもの家具が使い物にならなくなる。また追加で更に火炎弾を連続で放ったせいで家の中はもうめちゃくちゃだ。だが弾は1つも掠りもせずクーはこの弾幕を避けきった。

 

「危ない危ない。やはりああでも魔法の発生が早いあたり魔女ですね」

 

リューナの攻撃の手腕にクーは感心する。だが建物の外にまで逃げ出したのはいただけないとも感じた。

 

「ありがとね!でもそこにいて平気かな?」

 

ピキピキと音が鳴り壁に亀裂が走る。弾幕の破壊力に耐えきれなかった建物が崩れる前の前兆だ。程なくして天井の破片が落ちてきた。

 

「おっとこれは」

 

「悲しいけどお姉さん容赦しないから!」

 

容赦しないの言葉のままにリューナは建物に向かって数々の弾幕を放つ。着弾箇所には大穴が空いてそれが散弾のように拡散しながら建物を破壊しつくす。結果倒壊を早めて砂煙を巻き上げながら建物は崩壊した。だが轟音に混じり背後からの拍手の音がするのをリューナは聞き逃さなかった。

 

「そこぉっ!」

 

即座に振り向き杖で突く。だが手応えはない。

 

「残念」

 

「(既に後ろっ!?しくじった!)」

 

彼女が気がついた頃には後ろを取られていた。今度は時止めも間に合わない距離に的確に急所を狙う刃は届き攻撃を受けるしかない。クーは為す術もないリューナの首を掻き切る。

 

「ぐっ……」

 

首を刎ねられた彼女は力なく倒れ込む。だが想定の範囲内だ。切られる直前に体に式を仕込んだ。そして体内に残存する魔力を元に体を動かして首を拾い上げ魔法で無理やり癒着させた。あまりにも強引な手段で魔力も時止め以上に必要だ。しかし背に腹は代えられない。更にそこから時止めをして10m以上距離を取りたいのだが……

 

「(でもここで時間を止めたところで解除後には魔力不足で何もできないから迂闊にも使えない)」

 

セレネとの戦闘での時間停止はリューナの戦闘が終わっていて魔力のリソースを気にしなかったからできた所業でありあのときは魔力の殆どを使っていた。今同じことをすれば確実に殺されるだろう。

 

「(つまり)「(今は攻めないと!)」(魔女はそう動く)」

 

リューナは自爆覚悟でセレネの魔法でも使用した切断弾幕を自身の杖の先に仮組して簡易的な刃を作り槍にする。それからクーに突く。クーもそれを見越して同じように槍を踏みつける。ここでリューナは魔法を解除した。

 

「っと!(踏みつけられた槍先を消して拘束を解きましたか。よく一瞬で判断しますね)」

 

槍が踏める距離であるなら体に当たる距離でもある。杖に刃を付け直しながら振り上げる。

 

「はぁ!」

 

クーの下腹部に刃先が突き刺さる。もう一踏ん張りして更に刃の腹まで深く入り込んだ。彼女の余裕のある笑みが少しだけ苦痛に歪む。そこから肩に向かって杖を振ると綺麗に軌道に沿って赤い血が吹き出た。しかし心臓やその他急所にはまるでそこを避けるかのように当たらなかった。

 

それから両者離れてまま息を整える。

 

「ふぅ……ちょっと休憩。魔力もうほぼすっからかん。クーちゃんも疲れた?」

 

「いえ、仕事ではもっと激しいこともしばしば。ですが高頻度の大怪我は堪えます」

 

傷口を抑えながら彼女は淡々と答える。見かけの怪我は酷く息も絶え絶えに話しそうな物だがあいも変わらず余裕そうに話す。

 

ふと、リューナは気になった。先程からクーの言う「仕事」とは何を示すものなのか。彼女も今は動けない、聞くなら今のうちだろう。

 

「クーちゃんてお仕事何してたの?兵士……は自由が好きだからあんまり向かなそうだし。でもただの旅人でも無い。よし、お姉さんは情報関係と見た?」

 

「一概にこれとは言えません。仕事柄血なまぐさい仕事も請け負う職種です」

 

「あちゃー」

 

「しかし情報も取り扱ってはいます。もしよければこの仕事を終えたら仕事のご依頼でもされますか」

 

「いいね!大学のお仕事一緒にしようよ!でもそれなら『お名前』を教えて。『クー』って名前も偽名でしょ?」

 

名前を指摘された途端クーは少しだけ含みのある笑いをした。なかなか勘が鋭いな、といった顔だ。

 

「『山猫』、趣味と仕事上の名義はそう名乗ってます。」

 

「てことは本名はアウトって訳?」

 

「アウトです。個人特定に繋がるので本名までは今は教えられませんね」

 

「えー何で?いいじゃん別に。教えてよーねー」

 

内心50%くらいの確率で教えて貰えると思ったのにあっさりと断られ駄々をこねる。

 

「駄目です。少々ローカルですが実名を教えないのはマナーですので」

 

「それは残念……でも許すよ。だって」

 

そろそろ魔力も弾幕分は溜まってきた。そういえば透明感はいつの間にか解けていた。首をはねられて効果が切れたのだろうか。まあそれは別にいい。クー改め「山猫」が回復し切る前に押し切ろう。【虚次元】を使わない自力生成の魔法【虚次元】を使う魔力が惜しい。

 

「お姉さんは捕まえてでも聞いちゃうもんね!」

 

【5th=水時計】

 

壁を作るように全方囲に酸のシャボンを追尾を切って撒き散らす。同時に「山猫」は傷を押さえながら回り込んで壁の向こうへと攻め込む。しかし回り込むのは「山猫」でも少し思考が必要だ。弾速が遅く、かつ的の大きい弾幕は市街地のような囲まれた地形においてはかなり動きを制限される。シャボンだから割れば穴こそ開くだろうが辺からする発泡音からそれも躊躇した。半端な武器で触れれば武器の方が溶けてしまう。

 

「そーれ、まだまだ止まらないよ!電撃を追加だ!」

 

【4th=DIGITALTIMER】

 

それに加えてリューナは電撃の弾幕を追加した。低精度の追尾で緩く「山猫」を貫かんと高速で飛び交う。それだけなら機動力に長ける彼女ならば回避を続けるのは容易い。しかし……

 

「っ!(足が痺れて……)」

 

泡が弾けて水が辺りに散り、弾幕の分水が量も多く水溜りがそこらに広がる。電撃が当たると水溜りが通電し広範囲に高電圧が襲いかかるのだ。当然水分量が多いところは酸により溶けるのに加えてだ。つまりリューナ周辺の地面や壁の全てが触れてはいけない。

 

「(だけど逆に言うならこうでしょう。それはあなたを縛る檻でもある)」

 

「一生一人で籠もる。そして一人の良き姉として死ぬ。狂人はいつまでも歪みありません」

 

シャボンは多少透けているが視界はあまり通らない。ならば彼女は魔力にて居場所を感知しているに違いない。見えないなら得意の不意打ちもできる。勿論別の場所から攻撃をしているのも考えられるが気配は確かにそこにあるからいないということはない。

 

そして泡の壁、というのなら乗り越えればいいではないか。幸運にもここは市街地だ。高低差ならいくらでもある。泡の当たりにくい室内を経由して行けばどこからでも手頃な場所から奇襲できるだろう。

 

「……しかし、それではあまりにもつまらない」

 

ダッ!

 

 

 

「(魔力動いた!けどこれまさかの突撃ですかあ!?)」

 

「山猫」の予想のようにリューナは魔力で位置を特定していた。しかしこの弾幕を正面突破してくるのには驚く。しかし……

 

「うん、だよねえ。今のクーちゃんは天邪鬼さんだしここでこそきっと正面突破する。だから、全力で迎え撃つよ!」

 

リューナはそれに敬意を評す。求められたのならば姉として応えねば。弾幕の数を増やして追尾の強さの違う弾も追加する。しかし焼け石に水だろう。「山猫」の為の何重にも立つ弾幕の壁ももうすぐ突破されそうだ。それと【秒針】一つだけ用意しておく。

 

クーも更に苛烈になる弾幕を正面から攻略していく。密度は質量共にこの前のセレネ以上だ。更に体格はあの時より大きくそこを加味してさらに難易度は大きく上昇している。だが、技術は確実に上がっていてリューナへ距離を詰めていく。

 

「ふぅ……よし、あと壁は一枚。勝負はここで決まります。もうゴリ押ししましょう」

 

「(あと一波近づかれたら接近戦になる。クーの姿が見えたらそこが勝負時)」

 

「山猫」は弾幕の薄れるまであえてリューナから離れ、それから全力速で壁に突っ込む。

 

「っ来r」

 

言い切る前にリューナの前に「山猫」は現れた。弾幕の素早い動きに目を慣れている彼女ですら目で追えず、本当に突然現れたように正面に現れた。こんな速度は彼女の人生のうち初めて経験したものである。

 

「きゃっ!?(な、早すぎ!いつの間に現れてたの!?)」

 

「これでチェックメイトですね」

 

後ろに回り込まずとも今の「山猫」の速度ならリューナを真正面から殺すのは容易い。小細工なしに彼女の首元にナイフが突き刺さろうとする。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

「(ここだ!発射!【時間停止】っ!)」

 

【No.1=時間停止】

 

カチッ

 

 

 

 

 

 

「山猫」の攻める前に用意した【秒針】の弾が一つある。全てはこの時のためだ。

 

その弾だけは実はすぐには撃っていない。常に自身の体を挟んで「山猫」の影となる箇所に待機させていたのだ。そのために細く、確実に捉えるために貫通させる程の長い弾幕は隠すのに苦労した。もし上から攻められていたならまた別の手を打たねばならなかった。

 

つまり「山猫」には時間停止の解除と同時にこの弾が飛ぶのだ。

 

 

 

 

【解除】

 

時間が動き出し【秒針】が高速で射出された。細長い弾は「山猫」の死角から「山猫」の移動速度よりも早く的確に心臓を貫く。体が弾の慣性で浮き地面に投げ出され受け身も取れず酸塗れの地面に転がる。

 

 

 

「……『山猫』、いやクーちゃん。今までお姉さんを頼ってくれてありがとう。魔法は教えはれなかったけれどお話は面白いしなんだか波長も近そうだからずっとあの家でゆっくりしたかった。けれど……ごめん」

 

リューナの魔力はもう空だ。体力ももう持ちそうにない、意識も朦朧としてきた。だが戦闘を終え警戒に割いていた動かない頭には彼女との思い出が過ぎ、いつの間にか口に出て謝罪と感謝を呟いていた。

 

そしてフラフラとした足取りで彼女の亡骸の側による。

 

「君が敵でも味方でも最後まで守りたかった…………な?」

 

 

 

ドサッ

 

「(あ、あれ?何で地面に倒れてるんだろ。それに上手く力も入らない。何だか寒くなってきてるし怪我がどんどん酷くなってる?でも地面があったかい……な)」

 

 

 

そこで彼女は自身の状態を自覚して背筋が凍った。リューナにも胸に穴が空いていたのだ。【秒針】は元々時間停止の最中に避けるつもりで自身に向けるような形で配置した弾だ。なのに何故避けなかったのか、あまりにも理解できなかった。

 

「な、なんで……私…………が………?」

 

 

 

 

 

 

「時間停止パリィ」

 

「山猫」の声が聞こえた。

 

「時間停止と同時に『転生者』を作動させ停止を無理やり作動前に止める。理論上は正解でしたけれどまさか自分の体を犠牲にしてまで攻撃されるとはね。現実はそう上手い具合に行きませんか」

 

彼女はゆっくりと起き上がり、リューナを見下ろす。彼女の怪我は依然として酷いままだ。なのになぜ立てるのだろう。リューナは目の前の化け物に血の気が引いた。

 

「な、なんで……立て…………て……だって胸が……」

 

「ああ、怪我はあまりお気になさらず。今治しますよ」

 

「山猫」は全身の傷をなぞるように触れる。すると先程までの大怪我がまるで嘘のように跡一つなく傷が無くなり胸の穴も塞がっていた。恐ろしいことにこれは魔法でない純粋な再生能力である、魔力の流れからリューナは判断した。

 

「ば、化け……化け物っ!」

 

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