せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
ルナシー、彼女には個人的に恨みがある。ギルドの修練場で完膚なきまでに叩きの目され、その後も幾度となく戦闘で負けてきた。
それ以外にも周りからの扱いも俺だけはあまりにも下だったのだ。仮にも俺は勇者なんだ。周りからも認められ、ギルドでは最強と名高い剣士。聖女のセレネや魔法のスペシャリストのリューナには納得がいく。しかし幾ら強いとはいえルナシー、お前だけには負けたくないのだ。
彼女は召集されたメンバーの中で同じ剣士だった。だから初めて彼女の存在を知った時、親近感を覚えた。初めての俺と並ぶ剣士、その称号に純粋に興味を持っていた。
しかしどうだろうか。彼女は剣士とは程遠い。野蛮で粗暴、俺とはまるっきり違う彼女は理解が出来ない存在だった。その上実力は俺が手の出せない程に上ときて彼女は内心嫌いに変貌したのだ。
嫉妬だと思うだろうか。ああそうだ、今までは嫉妬だったさ。正確には今も嫉妬は抱いてはいる。しかし今の俺には守りたい物がある。アネッサとクー、二人の命の決定権は俺にかかっている。
だから神様は俺の意思をくみ取り転生から時がたった今、ついに夢枕に立ったのだ。
それは今から3日前、俺が二人を逃がすための策を思案していた時だった。俺はあの時どうあがいても勝てそうにないかつての仲間をどうにかして倒す術を考えていた。勿論何もなければそれに越した事はない。だが相手は国だ、いつかは絶対に戦う事にはなるだろう。だが、答えは見つからず刻一刻と迫る決断の時を前に俺はその日も床に就いた。
しかしその時奇跡が起きたのだ。俺を転生させた女神が夢を通じて曰く、忘れ物をくれたのだ。チートスキル、既存の規則を壊すようなぶっ壊れな力、ありがちで、だがそれ以上に魅力的なその力はまさに今欲しかった物だったのだ。
実際俺も効果を聞いて納得した。これがあれば俺も仲間に勝てるかもしれない。その一途な希望を頼りに俺は宿敵のルナシーを前に剣を抜き、殺さんとしている。
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「……チートスキル、ですか」
「ああ、今の俺ならお前が幾ら強かろうt」
会話が終わる前にルナシーはミツキの首を跳ねる。あまりの無慈悲な一撃に彼自身全く想定していなかった。跳ねた首が庭を血濡れにしながら転がり庭の木に当たってやっと静止した。
「思ったよりあっけないですね」
「お嬢」
「何です?」
「もっとこう、せめてお話は最後まで聞いた方がよろしかったのでは?彼も一応元仲間ですよ」
「敵対したなら殺す以外は無いに決まってるでしょう。さて、じゃあまた食事を……」
そこで彼女は違和感を感じる。首を切り落とした死体はすぐ目の前にある。しかし殺気彼の殺気はまた別の場所から感じる。これは彼女にも初めての感覚であり珍しく動揺した。
「(不気味ですね。幾ら虫けらとはいえ死んでも気配がするだなんて)」
気配の方向は後方からだ。血油に濡れた鉈を片手に振り向くとそこには先ほど死亡したはずのミツキが立っている。彼女自身、確かに殺した感触があったのは確実だ。だがもう一度彼の死体を見るとなんと死体が消えていた。
「ほう?搦め手ですか。タネでもあるのですか?」
「これが俺のチート能力だ。お前は俺を殺せない」
「……そうですか」
彼女も流石に彼の余裕さに不気味さを覚えたらしい。切っ先を彼に向け睨みつけ、あくまで戦う前提で得も言われぬ彼の力を測ろうとしている。見た目や身体、殺気には特に変わりはない。しかし死んだ彼がここに立っているという事自体がおかしい。
そこで彼女は意を決して珍しく戦略を立てる事にした。【貪狼ノ型】で加速しルナシーは今度は殺さずに腕を一本だけ切り落とした。スピードがより上がった彼女の斬撃により腕は肩までを衝撃波で飛ばす。
「っ痛ああああああああ!?」
腕が吹き飛んだ痛みに彼は無い腕を抱えて地面に転がり悶える。しかし彼女には全く持って関係なく、少なくとも復活は肉体再生で賄っている物ではないと判断する。
なら次だ。一度彼の首を落とし再び復活させる。思惑通り彼は庭の近くに復活し後ろから切りかかる。しかし彼女は反応は多少遅れたとしても持ち前の速度で剣ごと体を両断し3回目の殺害をした。だが彼はまた平然とそこで剣を構えている。
「相変わらず死にはしないんですね。あなたなんてさっさとくたばってもらって『山猫』と殺し合いたいんですよ」
彼女は苦虫を嚙み潰したような顔で彼を軽蔑する。まるで蟲のようにいくら潰した所で無限に復活する彼は見た目こそただの青年でも彼女にはゴミ虫と同等に写っている。しかし彼は今だに闘志は衰えないらしい。これには彼女もため息を付いた。
「ンと、厄介で意味不明だよこいつ……」
しかしいい加減戦闘を終わらせたいと彼女は呆れている。手尾多恵の無い戦いを延々と続ける精神力は彼女には無い。どうにかしてコイツを倒したい。元々頭を使うのが得意でない彼女には今までとは別の形でこの強敵を相手しなければならない。
一度頭を冷やすために彼女は一度鉈を降ろした。
「どうした?敵の前で戦闘放棄か?」
彼が煽るも彼女は特に気にしない。ただ自分より頭のいい誰かに頼る事にした。後ろからのミツキの攻撃を捌きつつ狼に教えを乞う事にした。
「狼さん、どう思います?」
「どう思うとは、彼は先ほどから戦闘面は死んでばかりで一方的……」
「あいつの再生はどこから来てる。あなたの感覚器なら何か分かる事がありますよね」
彼女はいつもの脅すような態度で狼に問う。彼もいつもの事なので彼女を背中に乗せ何も言わずに走り出した。
「! 野郎、2対1は卑怯……」
ここで彼は考えた、ルナシ―、彼女は確かに強い。しかし彼女の飼う狼は位置も彼女にされたい放題だ。ならば自分でも狼なら勝てる筈。彼は魔法で体を強化し今はその足を射る事に集中することした。
しかし彼は大きな誤算をしていた。狼は彼女に隷属し、普段は一方的にされている彼も一応は彼女に関わる存在だ。そんな狼が卑小な人如きに勝てる筈がない。
狼は一度膝を折り、それから無音無風で走り出した。遅い訳ではない、高い技量から成る隠密性が高い静かな加速。速度は彼女より数段劣るものの速度は彼の数倍、彼が剣を振い始める前に剣を弾き飛ばし、続けて胴体を噛みちぎり地面に叩きつけた。彼の体は2つに千切れ、勿論絶命した。
同時に狼は彼に嚙みついて彼の異常に気が付き何かを閃いた。
「! お嬢、匂いです!彼は今皮脂の匂いがほとんどしません。しかも食事の匂いも混じっています!」
「ああ?それが今何の意味がある駄犬野郎」
「食事の時間は今から3,4時間以上前、余程腐ってでもいないと濃く匂いなんて残りません。しかも体臭が少ないとなると修練の後に風呂でも入ったような状態です」
「どういう事だ?」
「『彼は時間を遡っています』!彼は死ぬ度にひたすら過去に体に戻っているんです!」
「時間がぁ?そんな生物いるのか……でも狼さん、ありがとうございます。勝ち筋がこれで見えてきそうです」
ルナシーは新しいタイプではあるけれどせめて歯ごたえ位もう少し欲しいと思いつつ狼の上から飛び降りた。凄まじい狼の加速を物ともせず地面に数メートルの跡を引きずって停止した。
「そんな特別な力?あるんなら私のサンドバックになってくださいよ」
「……っ!」
再び彼女は鉈を彼に向ける。そろそろ彼も初めの勝ち気を失いつつあり最早勝てる希望がないと剣を持つ手が震える。それも当然で彼女は今、彼をただ狩るべき獲物としかもはや見えていない。この場だけは戦闘ではなく野生の弱肉強食の場なのだ。
「あと、その力『いつ手に入れました』?少なくとも私と会ってから今の今までお前にはそんな能力あったとは到底思えないのです。それも自分でも実は力の正体が掴めていないように」
「どうしてそう思う……?」
「そうですね、私なら……」
不意に彼の視点からルナシーが消える。しかし彼は消えた彼女を追い始める前に顎の下から拳が飛んできた。顎を砕き、頭を穿ち、何度目かの死を彼に与える。しかし今の攻撃が今までと明確に違う点がある。
「もっと捨て身で戦えますから」
僅かに彼女の中に残っていた得体の知れない恐怖への忌避感が少しも残っていないのだ。
そこから先は最早一方的である。幾度の死の度に彼は蘇り、直後にルナシーが殺す。死の繰り返しの過程で彼は何故勝てないのか、どうしてこんなものがいるのかとあらゆる理不尽を彼女にぶつけていた。勇者としてのプライドと彼女への救い難い嫉妬を死亡までの僅かなインターバルの内に考えていた。
一方、彼女は「山猫」の為に残す予定の肉が焦げないか心配して、もはや彼は眼中にない。ただ彼は血こそ散るも少し経てば消えてくれるから汚れずに済むのは嬉しいと微かに便利な体だと思っている。
しかし50回ほど殺すと彼女も段々と特性を掴めてきた。確かに狼の見立通り約8回周期でどこかで嗅いだ食事の匂いがしなくもない。恐らく1死亡につき1時間時が遡っているのだろう。
そうして計24回の死亡を繰り返した後にルナシーは一度手を止めた。
「今丁度昨日の体ですか?」
「はっはっはっはっ……」
ミツキは過剰なストレスに少し過呼吸になっている。が、ルナシーか会話になりそうにないので一度殺して正気に戻す。最も今の彼にまともな受け答えができる精神はとうの昔に無い。
「手間かけさせんじゃねえ。今の体はいつのだ?」
「……昨日の体だ」
しかしどうにか質問に答えられる余裕はあったらしい。
「能力を手に入れたのはいつ?」
「……三日前」
だが不幸にもそれが己の運命を決定づけた。
「ならあと48回ですか」
ーーー
ドゴオオオオオオン バゴオオオオン ズドオオオオオン
とある建物の一室にて
「……? ああ、彼女がやったのですか。街の近くからでもよく見える爆散です。でも家の近くでしょうし話が早いといえば早くていいのですが。朝食を食べる場所、残っていれば良いほうですね」
ーーー
強烈な爆発音と共に地面が裂かれる。一振りで崖を作り、二振りで地盤を砕く。これが短い鉈一本で実現されるとは誰が信じるだろうか。奇跡的に家と教会は崩れずにいるものの、それ以外の周辺は無惨な姿となる。
しかしこれは衝撃波から来るもので鉈が体にヒットした彼の体は最早形すら残らない。一撃一撃が致命であり、斬撃以外にも瓦礫が高速で衝突し肉体が裂けていく。
その際、彼は彼女の放った48回というのを走馬灯のように思い返していた。死亡の回数の残り?彼は確かに死ぬと肉体が一時間前に戻る。先程までは24回分、一日前の体。残りがもし48回とすると今までの分を含めると合計は72回、72時間前の……体……に……
「ゔあああああああ!?」
3日、彼が能力を手にしたのは丁度3日前だ。つまりそれ以降の体に戻ってしまうと……
「やっと気づいたか!遅ぇんだよこの無能!てめぇは不死じゃねえ、力がなきゃ確実に死ぬ!」「お嬢……」「狼さん、なにか文句あります?」「いいえ」
狼はもう何も言わなかった。彼も既に戦意はなく、今更何を言ったところで意味はないのだから。
ルナシーはそれでも不快なゴミを片付ける為に鉈を振るう。気がつけば彼を切った回数は50、60と迫っていた。着々と迫る残機の消失に彼も段々と焦り始め、その様子にルナシーはようやくこの男を倒し切る楽しみを見つけた。
そして遂に彼の体力が尽きかけた時、彼女は彼にとどめをさすべく最後の力を込め始めた。
「72回殺しきった……もうてめぇには能力を得る前だ!」
ルナシーの最後の一撃はまるで雷の如く速かった。最早避けることはおろか視認することさえ敵わない程の速度だった。衝撃波は天を断ち、斬撃は地を割る。攻撃は一つの災害でありこの余波は周辺地域にまで地震と崩落として脅威をもたらした。
当然、まともな生物が生きられるわけもなく彼は血肉を土砂とともに散らし、彼は死んだ。美しい家と自然の風景はもうなく、ただ教会と家、肉を焼く篝火とそのそばに座る狼と一人の少女がそこには残っていた。
「……さて、狼さん。肉は」
「はい、まだ焦げずに残っています」
「ありがとうございます。あ、骨ももらえますか?」
「え?あ、はい。でも肉は付いてないようですが」
「ん"!」バキッ
「えぇ……」
「骨を砕いて髄を食べるのはよくやるでしょう?馬の物は初めてです。結構美味しいですね」
「いや、何度もやってはおりましたけど歯で砕くのは痛くありません?」
「……あー、素手でやったほうが良かったかも。口の中が鉄の味です」
「家の倉庫に薬草のストックがどこかにありました。取りに行きましょうか?」
「あと塩と胡椒、そろそろ肉の味を変えたい」
「承知しました」とことこ……
……スタッ
「……遅い」
「街から見えましたよ『赤ずきん』」
「でしょうね、『山猫』」
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ミツキ
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