せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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夜を舞う蝙蝠

まずマウントから逃れないと。幸い両手は開いている。まずは身体強化を載せ、動体視力と力を底上げする。

 

「あ"ああああ!お前のせいで!お前が!お前がぁあああ!」

 

私が魔法を掛けている最中にもアネッサは顔を殴打する。彼女らの邪魔をしたのは悪いとは覚悟していた。だが今のアネッサから感じられるのは明らかにまた別の怨嗟だ。しかし、冷静さを欠いているせいで拳の軌道は直線的で見切りやすい。

 

殴りかかる拳の動きを見切り腕を掴む。そのまま手を引いて態勢を崩し逆にマウントを奪い取った。

 

「っんの!」

 

その前に鳩尾拳を一撃叩き込む。強化の乗った一撃は彼女の拳よりも遥かに強く、悶え、抵抗に大きなスキを見せる。私はこのチャンスを物にすべくすかさず彼女の頭に魔法の照準を合わせ……

 

「……!?」

 

だが何か悪寒のような何かを直前で感じアネッサの上から離れる。直後、周りの建物から何かが割れる不穏な音が響き渡る。そして音が示す通り周囲の建物全ての外壁にヒビが走る。間違いなく崩壊前の音だ。

 

弾幕を置いてバックステップ、直後先程までの場所に建物の外壁が落下し狭い裏路地を塞ぐ。しかし建物のヒビは私を追い詰めるように連鎖的に倒壊していく。ここは一度戦闘を離脱して複雑かつ狭い路地からの離脱が優先だ。周囲を警戒しつつ魔法で移動速度を強化して一時離脱。

 

「(しかしアネッサの場所を見失ったのは痛手です。何とかして逃げ出す前に発見しないと!)」

 

瓦礫を魔法で撃ち抜きながら夜の街を駆ける。それと並行して彼女の気配を魔法で感知する。しかし彼女を倒した周辺から移動できそうな範囲を感知しているにもかかわらず一行に見つからない。いっそこのまま建物全てを薙ぎ払う手もあるが誰かの家を壊すのは気が引ける。

 

「(うう……皆さん、ごめんなさい……)」

 

罪悪感に苛まれつつ路地の曲がり角を曲がる。が、しかし。

 

「ッそっちから!?」

 

目の前には後方と同様の建物の崩落が私に迫る。完全に想定外、恐らく後方の音と振動に紛れて把握できなかったんだ。となれば逃げられる先は上方のみ、倒壊寸前の建物の壁を蹴り上がり跳躍し倒壊を逃れる。しかし同時にここは高所で移動もできない無防備な状態だ。どこからでも攻撃が来るか分からない以上【円環】の防壁を張って防ぐ。

 

「(アネッサ、どこから来ますか?)」

 

【トーン:サイレント】【共振 裂】

 

バゴンッ! ガンッ!

 

突然防壁に激しい衝撃が走る。同時に【円環】が割れた。

 

「え!?何で割れて……」

 

瞬間、後方から殺気を感じる。そして振り返る間もなくアネッサは手持ちの棍で私を叩き落した。

 

「くぅっ!」

 

咄嵯の判断で防御したものの勢いを殺すことができず地面へ墜落してしまう。受け身を取り即座に立ち上がる。しかし彼女は追撃することなくその場で立ち止まっていた。まるで私の出方を窺っているかのように。

 

彼女は自身の武器を横に両手で持つと真ん中から膝で折った。あれではもうただの棒切れに過ぎないだろう。

 

そして短く折れた棍の一本をこちらに向けると構えを取った。一体その折れた2本の棒でアネッサは何をしようとしている?

 

彼女はそれに魔力を流し込むろ私に向けた先が内部の技巧部が裂けて現れる。もう一本の私に向かない方も先が開き、彼女が手を離すと宙に浮いた。そして、棍は剣と砲になった。

 

「あ、アネッ「その名前で呼ぶな!」

 

私の言葉を遮る。

 

「マジに余計なことしやがって。お前みたいな何も知らない外野のせいでこっちは殺されるんだよ!お前も!私も!」

 

彼女は錯乱に似た癇癪を起こし冷静さを欠いている。性格も大きく変わりまるで別人である。どう考えても戦闘前に打ち込んた何かが原因だろう。

 

「あなたは何をしたんですか!?戦闘前に何か高濃度の魔力を注入していたようですが」

 

「どうせあんたは知らないでしょうね。でも私はアンタみたいに何もせずに死にたくないのよ!」

 

彼女は接近する。魔法を展開しようにも初めから距離が近く魔法の間合いではない。即興で【彗星の尾】を改造し光の剣として用意、斬撃を防ぐ。だが……

 

パンッ

 

「……!?」

 

防いだ斬撃とは別に数発の魔法弾が自身の体に当たった。動揺するまもなく彼女からの斬撃は止まることはない。接近でどうこうするよりまた距離を取らないと。【光柱】を後方で置きバックスステップを踏む。

 

【光柱 ピラーオブムーンライト】

 

アネッサも素早い動きで簡単にレーザーを避け、光は誰もいない地面を貫く。しかし同時に私はまた弾幕が体に当たった。

 

どうしてここまで被弾するのか。理由は明白だ。

 

「(『魔力すら無い見えない弾幕』!?何で、どうしてそのような物が存在するのですか!?)」

 

彼女の放つ弾幕には一切の魔力が感じられず尚且不視界なのだ。魔法の弾幕なら魔力を感じないのはおかしい。専用に式を組めばまた別の話だがそれも完全でないから多少は分かるものだ。

 

しかし弾幕の性質は壁に当たった痕跡から予測できる。小中規模の弾幕で拡散し着弾後の変質は無し、発生源も一つ。性質自体は普通のものだ。

 

しかし、そこに接近かつ連撃が加わるとどうだろう。

 

「さっさと!くたばりやがれ!」

 

「くっ……!強いですね……っ!」

 

【彗星の尾】と剣が当たる金属音が幾度にも響く中、容赦なく弾幕が体を擦る。幸い急所はまだ外れているも着弾する度に出血する。アネッサの体が小さいことも相まってこちらからは攻撃が当たらないのに相手からは被弾する。状況は相手にあるのだ。

 

「(クーよりは接近は劣るのだけが救いですけれ……どっ!)」

 

【円環】を張り後方だけは射線を塞いでおいている分前からの弾幕を警戒する。だがそれでも並行で捌ける物ではなく防ぎきれない弾が確実に体力を削っていく。

 

【烈日 灼熱SummerSunnyRay】

 

無理やり状況を変えるべく一度目潰しをして形勢逆転を試みる。弾幕を激しく発光させる。剣撃と弾幕に夢中の彼女は当然これをモロに見てしまい目元を手で隠し斬撃が一瞬止んだ。

 

「あ"あっ!」

 

「やりました!ここからは私の番ですよ!」

 

光で周りが見えない中ありったけの弾幕を彼女を倒すために展開する。とにかく相手を近づけてならない。長射程の間合いを兎に角詰められたらいけない。適当に弾を散らしつつ必殺用の【光柱】を仕込んで……

 

「聖女の癖にせっこい引き撃ちするなよ!」

 

アネッサの声と同時に砲から光の壁を貫くように細く、だが確かに輝くレーザーが放たれる。私の作り出した光源を飲み込み逆光すらさせるパルスは、反応すら許さない暴力的な速度と距離感の優位性を崩壊させる圧倒的な射程で横腹の一部を小さく吹き飛ばす。貫通した弾はそのまま数件の家々を貫き、街はずれにて消滅するまで軌道上の建物を破壊し続けた。

 

「ぐっ!」

 

不意の激痛に魔法の制御を失う。エラーコードでの暴発はどうにか防げたものの全ての弾が射出され【光柱】も私のすぐ上で発射された。先の見えない光の中に数多の弾幕が撃ち込まれ、凄まじい爆音とともにアネッサのレーザーの光は消え去る。代わりに私の魔法での光を更に強くし誤魔化す。目が慣れるまではこれでいいだろう。

 

「(落ち着いて、私。止血、回復、そしてあの武器をこれ以上使われるのはいけない。解析して内部から破壊を!)」

 

ここは一度完全に逃げよう。近くの建物の上に跳んで障害物に潜伏する。この建物ももしかしたら壊されるかもしれない。その前に十分な強化と回復、遠隔での解析を開始しないと。

 

適当に武器の場所を感知して内部破壊を試みる。しかし武器の中はシンプルな外部構造とは裏腹に恐ろしく強固なセキュリティだ。これを作った職人は相当魔法を学んだ者なのだろう。美しい式だが今はそれが恨めしい。物理破壊の方が現実的だろうか。

 

となると技巧部だけを破壊して最低限遠距離だけを抑えられれば

十分だ。はっきりって近づけさえしなければいい。だから彼女から射程有利を取るのにレーザーが厄介なだけなのだ。

 

「……視点を変えましょう」

 

私は解析をする場所をレーザーの射出部から浮遊機構に帰る。ここだけは剣とは違い接合が不自然だ。恐らく後付けされている。これさえ解除できれば少なくとも照準を合わせる機能は消滅する。しかし……まあ、ロマン主義な機構だ。接合部がかなり無茶な接続だ。私でもこれを作り上げるのは憚られる。

 

作戦が練れた所で私は建物の下に飛び降りる。この距離では概要以上は解析をするには遠すぎる。細部の構造を見極める為に接近の間合いに一入る必要がありそうだ。武器の気配はまだ下、白兵戦を想定していないせいで癇癪玉でも投げたいけれど今はそんなものはない。弾幕で牽制しつつ下に降りる。

 

しかし、私はあえて上には何もしない。

 

「そこだ!」

 

【光柱 ピラーオブムーンライト】

 

下りると同時に上方にレーザーを放つ。たった数回交えただけで何となく彼女の行動が読めた。恐らく戦いにくいのはお互い様なのだろう。横から薙ぎ払って極太なレーザーを放ち建物の上部を巻き込みながらさっきまでいた場所を撃ち抜いた。

 

建物に飛散した瞬間、視界の端で動く影がある。やはり彼女は裏どりの為に上ってきていたか。つまり今後方にある彼女の武器の魔力はというと……魔力の感知では今にもはち切れんばかりの魔力が充填された私を狙う浮遊する砲だけが残されていた。

 

 

 

「っあんたも悪い性格してるね!」「あなただって同じ何ですね!」

 

お互い、お互いの罠にかかっていた。

 

 

さて、彼女の対処は一度置いておこう。私の背中に【円環】を張る。あの威力の砲撃は簡単に撃ち抜く勢いだろう。だから薄く彩度を抑え透明に近づいた壁を重ねる。何重にも重ねた防壁は魔力量は普段より多めで総合的な防御は上がっている。しかし、それでも撃ち抜かれればきっとそれまでであろう。

 

「(だけど、直接防ぐ必要はありません。最低直撃さえしなければ生き残れる!)」

 

受けはしない、いなし、軌道を逸らすのだ。

 

外側から何枚かは砲により割れる。しかし十数枚目からは威力より減衰、屈折、拡散の影響が強まり防壁に沿ってレーザーの軌道が曲がる。今の防壁はただ防ぐだけではない、レンズとしての役割を担える……のに賭けた。

 

「(私だってこんな使い方、流石に想定してませんでしたよ〜!)」

 

それでも結果的に私は賭けに勝った。レーザーは思惑通り防壁に沿って曲がり明後日の空へと飛んでいく。と、同時にそのうちのいくつかがアネッサの方に飛ぶのも見え間接的に追撃もできたらしい。

 

「……っぶね!」

 

最も、お互いに無傷らしけれども。

 

落下し地面に地の足がついて彼女に再び照準を向ける。が、すでに彼女は砲を手に持ち剣でこちらに切りかかっていた。

 

【75式-彗星の尾】

 

彼女の剣がもう目の前、流石にどの弾幕でも手の届く距離にいるのなら間に合うはずもない。ただ経験からの予測をしながらギリギリで不可視の弾幕を避け続ける。

 

「ああもういい加減に倒れろ!」

 

刺突、アネッサが痺れを切らし強引に私の胸を剣を突く。それを見切り私は素手で引いて踏みつけた。

 

「っあ!?」

 

「ごめんなさい!」

 

私は彼女の砲の発射口から剣を差し込んだ。金属と魔法の式が崩れる感覚が固く手に伝わって、だがそれでも力を込めて私は技巧部を砕いた。

 

しかし私は彼女の間合いに深入りしすぎたみたいだ。慣れない接近戦のせいで本当に超えては行けないラインが見えなかった。視界の外から内側へ彼女の剣が迫る。

 

咄嗟に彼女から離れるもやはり彼女には接近を挑むべきではなかった。避けきれない斬撃が無慈悲にも私に迫り顔に一本の線が走った。

 

「ははっ!聖女様のくせに傷物になっちゃったわね」

 

アネッサが私を嘲笑する声が聞こえる。しかし傷であるのなら治せるし別にそれはどうでもいい。大きな問題もあるけれど、今は彼女の制圧を……

 

「……えっ!」

 

作戦変更、この状態での接近戦にさらなるリスクが加わった。即座に足払いを挟み一瞬だけスキを作り出し、ステップ。レーザーを放ち反動でその場から遠くに離れる。

 

「はぁ……はぁ……お見事、ですね。名前も知らない兵士のお方」

 

「あんたこそ……兵士だなんて、私はただの兵器よ。型落ちで旧式の、兵士というのも烏滸がましい……でもまさか、私もここまでやれるとはね」

 

彼女は壊れた砲を拾い上げると魔力を消し技工部を閉じ剣と繋げて槍とする。少なくともこれで理不尽な即死は無くなった。残り対処すべき項目は棍と弾幕、そして、彼女自身。

 

「最後に教えて下さい」

 

「何よ」

 

「あなたは……楽しかったですか?私達との生活は」

 

手を向けて魔法を打てるように構えながら私は問う。しかし鼓動が早まるのを抑えられない。知っているはずなのにまだ彼女にはアネッサがいると期待している私がいた。

 

「苦しくはないのですか!?共に過ごして、学んで、食べて、でも裏切って!」

 

 

 

気が付けば私でも精神の抑制がどうかしてしまった。

 

私は知っている、笑顔で仲間と囲った食卓を。

 

私は知っている、魔法の為にお互い修練した日々を。

 

私は知っている、地の底で抱き合った温かみを。

 

私は知っている、死の恐怖に怯え逃げ出そうとした絶望を。

 

私は知っている、だがそんな都合のいいことなんてそうそう起りはしない。

 

 

 

興奮と慟哭で体が心について行かない。

 

「ねえ、教えて下さい!あなたは誰なんですか!?私達のアネッサは、誰だったのですか!?」

 

彼女は興奮する私というチャンスを放棄して私の心の内を全て聞いてくれた。同情だろうか、呆れだろうか、どこか憐れんだ目で私を見る。

 

「コリノリヌス、兵器としてはRe-Corynorhinus、これからは私をそう呼びなさい。もっとも……

 

 

 

呼べたらの話だけれどね」

 

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