せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
まだ相手が戦えるならリューナは死ぬわけにはいかない。痛む体を奮い立たせて無理やり立ち上がり魔法が撃てるように構えた。
「(何でまだ生きてる……いやそれより『転生者』とかが問題だ。多分【秒針】が自分にも当たったのは『転生者』のせいだけど一体何をされた?時間を止めて、それから私は何をした?)」
何をしたかと考えるならば逃げなかったのであるから「何もしていない」と表せる。そういえばこの戦いには不自然な点が多い。透明化はいつの間にか解けているし弾幕な不自然に当らない時もあった。
「(当らない……じゃない。違うんだ。そもそも『撃ってないんだ』。照準が合った瞬間だけ何故か私は弾幕が撃てなくなる。まるで『そこだけ気が逸れるように』ピンポイントで何もできなくなる。【秒針】を避けなかったのもそもそも時間停止自体をキャンセルされたから回避も出来ないのも辻褄が合う。いつの間にか目の前に現れたのも単に見落としていたのなら……)」
「あの、どうしました?今のうちに魔法で回復をしないのでしょうか」
こちらを睨みながら静寂を保つ彼女に不安になりながら「山猫」は聞いた。リューナははっとなり、それからまとめた考えをクーに突きつけた。
「『無理やり意識を逸らす』能力。『山猫』、あなたは『転生者』で『無意識を作り出せる』」
「山猫」はニヤリと笑う。
「流石学者だ。この短時間で辿り着くとは。センスは『狩人』と『赤ずきん』と同程度ですね」
「赤ずきん」?まさか……いや今はいい。「狩人」は大会のスポンサーの一人だった気がするがそれもいい。問題は特殊な能力を持つこの化け物にまだ立ち向かわなければならないのか。体力も魔力も底をつき満身創痍であるのに果たして生き残れるだろうか。
「お褒めは光栄。そっちはまだ戦えそうだね。まだ隠してる力はあるの?」
リューナが聞くと「山猫」は笑顔でリューナに手を向けた。するとその手に光が宿る。どこかで見覚えがある光り方で、まさかだとは思うがローリングで横に避ける。
【光柱 ピラーオブムーンライト】
ーーー!
「それってセレネちゃんの……」
そして避けた先に投げてきた光のナイフを避けようとした。しかしここで足が傷が痛み地面に勢いよく倒れた。ナイフは彼女の頭の上を通過し地面に刺さって消滅した。
「ええそうですよ。これで手の内は明かしました。さて、それでは再開しましょう。まさかウォーミングアップで死ぬだなんてそんな興ざめありはしませんよね。お姉さん?」
ーーー
戦闘前に今後の方針を考える。
魔法は魔力切れで時間停止【虚次元】共に利用不可、魔力が回復し次第怪我の治療をすべきだが体の状態を考慮するとそれは現実的ではない。それなら死ぬ前に攻撃にすべての魔力を回して殺す方が勝算がある。戦闘はじめに使った速度上昇と身体強化はまだ効力を発揮しているから強化に回す必要もない。最悪接近戦に持ち込むのも辞さない。
まとめると残存する残りの魔力で一撃食らったら死亡する中裏の取り合いをする。
失敗すれば死ぬ。
覚悟を決めて弾幕を展開しようとしたがその前に「山猫」が突然現れ中断した。即座にその分の魔力を杖に込め刃を生成してナイフを受ける。続けて「山猫」の逆の手に光の刃を作り出し横腹を突かれかけるが腕を掴んでそれを阻止した。
「ほう、この速度を見切りますか」
「(冗談じゃない。更に速度が上がるの?)」
一瞬の攻防、彼女はどうにか全て防ぎきった。しかしただでさえ早い速度の攻撃が数倍単位で攻撃頻度と攻撃速度が共に増す。しかも動きは乱れる様子もなくまだまだ速度は上がりそうだ。
「(このままだとこっちも更に攻撃をしないと短期決戦にできない。どうにかして殺さないと)」
「手負いの獣ほど確実に殺したくなる。ですが焦っても逆に痛い手を食らうのは狩る側ですよ。落ち着いて」
考えが見透かされたように「山猫」は的確なアドバイスをした。全力で戦っているはずなのに確実に舐められている。
ふと「山猫」が消えた。またどこかから攻撃が来ると魔力感知を強め警戒する。下から魔力がとてつもない速度で近づいてくる。範囲的にこれはレーザーだ。バックステップで避ける。
「っでそこか!」
後方への牽制で放射状に広がる狭めの【火時計】を放つ。しかしそこには誰もおらず無意味に壁に当たる。だが視界の隅に「山猫」を捉えた。
「当たれっ!」
【秒針】を最高速で放つ。流石に距離が近すぎたのか腕に掠った。だが受けた傷はすぐに塞がりダメージにはならなそうだ。だが振りかぶったナイフがリューナから外れたのは大きい。
「成程、この速度でも当てますか。適応するとは素晴らしい」
言葉を聞いてる暇はない。間髪入れずに【秒針】を一斉に射出する。「山猫」を中心に囲うように配置し飛び襲いかかる。しかしその瞬間意識がふわっと浮いた。そして魔法の形を維持する力が抜け弾が消滅した。
「(………はっ!今確かに意識が落ちた。急に集中力が無くなったと思ったら……『転生者』の効果、予想以上に魔法と相性が悪いかも)」
そのスキに「山猫」は懐にまで入り込んでいる。腹にナイフを刺そうとするがこれをどうにか杖で守ろうと杖を振るう。が、二度目は流石にうまくいかず杖が弾かれて太腿の付け根に刃か刺さる。
「うっ!(ただでさえギリギリなのに足をやられたら……)」
「これで動きづらくなりましたね」
ここはチャンスだと「山猫」は更に手数を増やすだろう。その前に少しでも距離を取らないと。
太ももに刺さったナイフをそのままにして「山猫」はリューナの足を払う。痛む足を蹴られ踏ん張りもつかず彼女は簡単に倒れた。続けてやっとナイフを抜き倒れた彼女の心臓にナイフを振り下ろした。
「さようなら。リューナさ
ドゴッ
顔左面に強化の乗った強烈な右ストレート。片腕で体を跳ね上げ勝ちに目が向き心臓に意識を集中させた彼女なら逆にチャンスだ。起き上がりの上向きのベクトルを乗せて顔面に全力で拳を叩き込む。
「ぐえっ!」
結果は見事「山猫」の顔にクリーンヒットした。彼女の華奢な体が少し浮いた。だがそんな状態からでも空中で体制を整えきれいな体制で見事に着地した。その僅かな時間でもリューナと「山猫」は魔法の間合いへと戻した。
「フーッ…………フーッ…………」
無理やり足を動かしたせいでかなり痛む。今までの怪我のせいで気絶しかけるが歯を食いしばりどうにか持ちこたえた。殴られた「山猫」は何が起きたか分からなそうに赤い頬を触る。
「頬が痛い。まったく、弟子にも殴られたこともないのに。でもいい機転の効かせ方です」
【2nd=秒針】【3rd=火時計】
「山猫」の座標を中心に常に弾が行くように魔法を張る。それから痛む体に鞭打ち逃げるように後退しながら魔法弾を撃ち続ける。足が怪我しては接近戦には気軽に持ち込めない、複雑な魔法も組む余裕もないしただ物量作戦しかできないのが悔しい。時間を稼がなければ。
「ですが逃しはしませんよ」
【光柱】
後方から極太レーザーが薙ぎ払う。どうにかローリングで避けるも足がもつれてバランスを崩して転んだ。というよりも意識が落ちたのだ。逃げている最中も時々意識が落ちる感覚がしていた。
「(早く牽制を……!)」
起き上がり急いで広範囲に弾幕を放つ。だが照準が「山猫」に向く弾のみ弾幕が撃てない。立ち上がろうにも足の力がガクッと力が抜ける。逃げられずこれ以上弾幕を撃っても殆ど無駄打ちになる。しかし攻撃の手を緩めれば一瞬で追いつかれるから攻撃を止めるわけにも行かない。
立ち上がれないのは体力が尽きてきたのもある。出血が酷くなり意識が朦朧とする。何だか外気が寒く感じる。仕方がないから弾幕を少しだけ緩め魔法で止血だけはしよう。しかしもう肉体も精神も限界を迎えている感覚が恐怖を誘う。杖で体を支えおぼつかない足取りで歩いて逃げる。
「(冷静になれ冷静になれ冷静になれ……魔法を撃つ手を止めるな勝つ術を考えろ……)」
どうにか精神の平静を取り戻そうと思案する。何か妙案は無いものか。制作した魔法、セレネやアネッサとの研究成果、その他すべてなにかに役立ちそうな知識、脳の全てに思考を巡らすも考えつくのは何故か今までの思い出ばかりであった。
クーとアネッサと親睦を深めた思い出、セレネとの夜遅くまで続いた勉強の思い出、大学での辛くそれでも楽しかった思い出。振り払おうとしてもこびりついて頭から離れない。なぜそれらを今思い出したのか……
「……もしかして、死ぬのが怖い?」
走馬灯、知識や物語の中でしか知らない現象。死ぬ直前に楽しい思い出やつらい思い出が一気に吹き出る、よくある話だ。
もしかして負けると知って死を悟っているのか。
「だああああああ!情けないぞ私、ここまでたたかえて死ぬわけなんてないじゃない!」
腹の底から叫び己を奮い立たせ振り返る。自身の強化を全て外し全てを攻撃に回す。そして杖を構えて「山猫」を睨んで宣言した。
「【2nd=秒針】っ!ここからは魔法のペースのまま終わらせる!」
強化のない状態で攻められたのなら今度こそ死が待つ。必死に逃げただけあって距離はかなり空いているから今は有利な間合いだ。しかし仕留めきれずに近づかれたら落ちた速度では守ることさえできない。
「有利不利なんて細かいことは今は考えない、勝ちへの道筋を実行するだけ!」
だが怖気づけば何もせずに死ぬ。ならば最後に全力で迎え撃つのだ。
宣言の後彼女は最後にありったけの魔法を展開した。量は今までの比でなく文字通り空一杯、壁と地面一面に埋め尽くされた弾幕。視界全てが魔法弾だらけで発動したら避ける場所などない。そしてもしこれらで倒しきれないならば魔力切れで戦闘不能になる。
だが窮地で頭が冴えたのだろう。奥の手はまだある。
「ここまでやられてしまいますと迂闊に近づけない。こちらも本気を出さざるを得ません」
ダッ!
「山猫」はリューナに向かって真っ向から突っ切る。四方の弾幕を柔軟な体とスピードの前にはただの弾幕と変わりない。空中で体を捻じ曲げ、意識を飛ばし、幾度の連続ステップで紙一重で避け続ける。まるで嵐の雨粒を濡れずに歩くような絶望を豊富な技術のみで実現する。
「(しかし終わらせるという割にはただ物量を上げただけのような。意識さえ飛ばせれば勝ててしまいますね。恐らく彼女には作戦があるようですが間に合いそうです)」
数秒でリューナとの距離は数メートル。「山猫」はリューナの意識を一瞬だけ飛ばした。瞬間弾幕が止まりリューナも硬直する。その間に掴んだ首を支点に後ろに飛び首元に一突きナイフを根本まで差し込んで……
「エクスキューション」
全体重をかけて胸元までを一気に切り裂いた。差し込まれた部分から血が吹き、弾幕の雨に混ざる。明らかに致命的なダメージを受けたリューナは膝を付き閉じた目で天を仰ぎ見た。
「………………」
「………………」
最後の攻防を制したのは………リューナだった。
「……………………何を……した……?」
「血液に……ゴホッ……魔力を含めて、噴しゴフッゲホゲホ……噴射した……きっとクーちゃんは……こうする………って……」
切らせたのはリューナの考えた作戦の一つだ。血に予め魔力を仕込みあえて体に致命傷を与えさせる。そして斬撃で血が体外に出た瞬間にそれを弾幕に変質させる。
首を切っただけあって水圧は高く、散弾状の血液が「山猫」の全身に穴を空けて体を吹き飛ばした。全身蜂の巣にされ地面に伏す。再生能力で少しづつ傷が塞がっているが流血や他の怪我の大きさを差し引きしても戦闘は暫くできない。
「(本当はもう一つが失敗した時の保険のつもりだったけど……こっちが先になっちゃったか。もう魔法も維持する必要もないし攻撃をやめちゃうか)」
「な……でもそれは…………あなたも…………」
「本命は別にあるの。空を見て」
「空?…………ああ……」
二人が見上げる空にはまだ撃たれていない多数の弾が残っていた。色とりどりの弾幕は夏の天の川のように強く輝いている。思わず「山猫」は感嘆の声を漏らす。
「綺麗でしょ。でもあれ全部エラーコードなんだよ」
「エラーコード?」
「ふっふっふ、普段クーちゃんには魔法は教えてこなかったけれど最期に教えてあげる。これだけ大量の魔法だと維持するだけでも精一杯。オート制御を使ったとしても維持には何かしらの理力が必要なの。あなたから無意識を引き出す力とは当然相性が悪い」
段々と瞬く間隔が狭くなる。それに呼応するかのように輝きが増した。
「でもね、一部の魔法だと私の意志関係なしで発動できる魔法もあるの。例えば暴走した魔法が該当する。クーちゃんが短期間に意識を多く落としてくれたからこんなにできちゃったよ」
「もしあの空の魔法が暴走を始めたら一体どうなってしまいますかね」
「制御の枷が外れた瞬間全部の弾が一斉に全弾分発射して全てを無差別に破壊し尽くす」
つまりあの魔法の瞬きは莫大な魔力を持ったまま飽和した魔法が崩壊に向井不安定になりゆく様を表している。
「…………へぇ?」
「無論、私諸共で殺し切る確信もない。でもこの密度の絨毯爆撃、いくら動きが早くても果たして避けられるかな?」
「その挑戦状、是非受けましょう。避けきってみせますよ。この姉妹殺し」
それから二人は笑いあった。お互い体力も魔力も尽き戦う気力もない。師弟が談笑するには皮肉めいた刺々しい会話だ。未明の薄明るい空の星が美しい。もう少しすれば朝日も登って来るだろう。
「もうすぐ夜が明けますね」
「うん」
「朝日、拝めますかね」
「さあ?あ、でももうそろそろだね。さよなら!また会おうね!」
「ええ。また会いましょう」
【鬲疲ウ輔′豁」蟶ク縺ォ菴懷虚縺輔l縺セ縺帙s縺ァ縺励◆】
空に閃光が走る。同時に不安定な魔法が遂に崩壊を始め用意した全弾が一斉に放たれた。「山猫」は発生と同時弾幕から逃げ切ろうと全力でスタートを決める。そして道の真ん中で一人リューナが取り残された。
「…………セレネちゃんにまた会いたいな」
リューナはそう呟いた後、自身の振りまいた大量の弾幕を裁く、己との戦いを始めた。
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