秘密の先に恋をして   作:ゴマ醤油

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決勝

 午前中よりも濃かった気がするランチタイムが終わり、球技大会の午後の部はつつがなく進行していく。

 うちのチームはどうしてかやる気がすこぶる高く、早く終われという俺の願望が叶うことなく破竹の勢いで勝ち上がっていった。

 

『これより、A組とE組による決勝戦を行います』

 

 アナウンスと共に盛り上がる観客に、ただでさえチキンなハートが張り裂けそうなくらいに活動していた。

 敗北した他クラスの男に運動部共の活躍を一目見ようと群がる女ども。流石に決勝戦ともなればギャラリーの数も多い、か。

 どうして女子のバレーボールの決勝戦と被っていないのか。一緒にやってくれれば、半分くらいはいなくなるというのに。

 

 ……嫌だなぁ。お腹痛くなってきたし誰かと変わってもらってトイレ行こうかなぁ。

 失敗するよりウェイ共のモテポイントでも作ってやった方があっちも喜ぶだろ。あそこで叫んでるバスケ部の奴とか言えばすぐに交代してもらえそうだしそうしようかなぁ。

 

『翼くーん!! がんばってー!!』

 

 思わず吐きたくなるほどの猫なで声の声援に、いつものように爽やかスマイルを送り返す翼。

 ああいうのが一番面倒くさいとずっとぼやいているのに、よく良く顔に出さずに対応出来るよなぁ。……あれがリア充力の差というやつか。

 

 あれよりはましと心の中で折り合いを付けつつ、緊張を解きほぐしながら開始を待つ。

 向こうのコートでは、A組が湯気でも見えそうなくらいな熱気を出しながら円陣を組んで高め合っている熱血集団っぷり。相変わらずどいつもこいつも全力全開だことで。

 

 ちなみにうちのクラスは、陽キャが勝手に円陣を組んで終わりなので、当然だが俺は参加していない。

 ……何かもうテクニックとか以前に負けている気がするのだが気のせいだろう。うん。

 

「はっはー柏原! 今日も絶好調だなあ!!」

「やあ牛松。今日も筋肉が躍動しているね」

 

 外野に手を振っていた翼に、のしのしと重い足音が立ちそうなくらいにごつい男が話しかけている。

 確かA組の牛松だったか。丸太のような筋肉を持つ学年一暑苦しい男で、その容姿と圧から重戦車とかいうあだ名が付いているやつだ。

 

「今日は負けないぜ! 我がA組が運動最強だと証明してやるぜ!!」

「こっちだって負けないさ。良い試合にしよう」

 

 二人ががっしりと握手を交わすと、会場に更なる興奮が充満していく。

 どこぞのスポーツ漫画のような青春具合だ。あれを俺がやってもただただ痛々しいだけになるのに、どうして絵になるのだろうか。

 ……所で、あの二人はサッカー部じゃないはずだけど良いのかな。サッカー部ってプライド高いイメージあるしふて腐れると嫌なんだけど。

 

 ……まあいいや。こっちに迷惑掛からないならなんでも良いし。

 

 そうこう言ってる間に相手チームがボールを蹴り、試合が開始していた。

 

「ふーはーはーっ!!」

 

 ラグビーだかアメフトだか競技を間違えてそうなくらいコートを蹂躙していくA組。

 さすがはフィジカル最強チーム。その熱気に相応しいくらい、暑苦しく荒々しいドリブルが俺の後ろのゴールに突進していく。

 

 止めに行かないといけないのか。よりのもよってあれをブロックしなければいけないのか。

 避ければ非難の視線。ぶつかれば割と本気で怪我しかねない猪の突進。前門の虎、後門の狼とはまさにこのことか。

 

 ──それでもやるしかない。こんなしょうも無いところで、負傷してたまるか!

 意識を集中させる。大丈夫、所詮は動けるだけの素人。なら実行出来ない道理があるはずがない──!!

 

「なっ──!?」

 

 大きく前に蹴られたところに足を入れ、ボールを奪いするりと抜ける。

 驚く声が聞こえた気がするが全く気にする余裕がない。それくらい久しぶりに、ちゃんとブロックをした。

 

 取ったはいいが持っていたくもないサッカーボール(呪いのアイテム)を手放すためすぐさま周りを伺う。

 どいつもこいつもでかい相手チームが、壁のように圧倒的に味方を遮っており誰も動ける状況ではない。

 

 どうする。肝心の翼も三人にがっちりマークされていて外せそうにない。すぐに後ろから牛松が押し寄せててくるだろうしどうすれば──!!

 

「シュートだ!! 冬夜!!」

「──っ!!」

 

 声が聞こえた瞬間、体がその指示に応えるかのように、悩むよりも早く勝手に動いた。

 

 ──狙いを定めるのは一瞬。体を捻り、力を込めて足を振る。

 

 次の瞬間には、数えられないくらいにかつて聞いた──小気味の良いボールを蹴る音が耳に入ってくる。

 白黒の球体は、空中に弧を描くように曲がりながら選手達の頭上を越え、そして──。

 

 脳を揺らす重低音が、ゴールポストに当たったことを実感させる。

 外した。そう脳が認識し、言いようのない恐怖が寒気となって体を巡ろうとした瞬間。

 

「うおおおおっ──!!!」

 

 咆哮と共に、弾かれて空を舞うボールへとその声の主──翼が飛び込んでいた。

 その勢いのまま頭にぶつかり、ボールは再度ゴールへと向かい、そのままネットを揺らす。

 

 瞬き程でしかない刹那の静寂。そしてその直後、鼓膜を突き破る勢いで巻き起こる喝采の嵐。

 誰もがシュートを決めた(スター)に目を向け、賞賛と興奮を溢れさせていた。

 

 今度は味方にもみくちゃにされながら翼と目が合い、これっぽちも嬉しさを隠さないその輝く笑顔が向けられた。

 それを見てようやく、この無謀な案は上手くいったのだという現実を受け止めて、どっと安心感が湧き出てきた。

 

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