秘密の先に恋をして   作:ゴマ醤油

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ぐだぐだ

 mdさんのお気に入りになってから数日が経ち、ボイスチャットの相手がmdさんになることが増えてきた。

 まあその他と固有の人間なら多いには当然後者になるとは思うのだが、それを考慮したとしても意外なくらい話している気がする。

 

 正直、嬉しい気持ちが大きいので問題は無いかのように思える。当然だ。聞いてて苦痛にならない声の持ち主が、俺との話で盛り上がって笑ってくれるのだからこれで浮かれない男子高校生がいるのだろうか。いや、いない。

 

 偏りすぎている。そう感じ始めてしまった俺の心は、随分と傲慢であることは否めない。そう思いつつも、必然的に浮かんでくるもやもやとした気持ちに眼を背けることは出来なかった。

 

 別にこの心地良い関係に浸っていても別に損は無いと思う。一応会話スキルは磨いていけてる訳であって、本来の目的から完全に逸脱しているというわけでもない。

 それでも、何となくよろしくないと思ってしまうのが面倒くさいマイメンタル。こういうしょうもない所だけは早く動く出来る無駄極まりない積極性が売りである。

 

「というわけなんだけどどうすれば良いと思う? あ、出来るだけ平和的な方法で」

「何その相談。自分で考えれば?」

 

 落ち込みを表わすかのように、俺のコップからからんと音が漏れる。

 正面でスパゲッティをすする翼の辛口な返事にめげないように自身の緑色の液体を喉に流し込み、再度頭を下げてみることにしよう。

 

「いや、まじでお願いしますよ翼さん。この哀れなコミュ力ミジンコな俺にアドバイスを下されば……!!」

「…………はあっ。まあ、わざわざ放課後に勉強へ誘ってきたから何かあるとは思っていたけどさぁ」

 

 もう言わずとも面倒くさいと告げているこの男にへーこら頭を下げながら、どうにか相談に乗ってもらうことにする。

 っていうか、相変わらずのセンスだ。その可愛いんだかよくわからないキーホルダーは彼女からのプレゼントか。嫌みか。

 

「で? 別に僕に聞くまでもなく案は浮かんでるんでしょ?」

「……そりゃ一応ね? 一応、空気読んで言い訳する事が特技みたいなものだしね」

「……はあっ」

 

 何だそのため息。去年から勉強見てやってるのは俺だぞ。あんまり雑に扱われるとすぐへたれちゃうんだぞ?

 まあ翼の言う通り、一応方法がないわけではない。というか簡単に解決する問題であるのは、他ならぬ俺が一番よくわかっている。

 

 ──出なければ良い。それが最も単純で楽な解決手段。

 ボイスチャットという性質上、どうしても両者の時間があるときしか成立しないツールであるのがウィズフレというものだ。それ故、例えパソコンをいじっている時であっても俺が通話に出なければ特に問題無く終わるのは言うまでもない事ではある。

 

「けどさぁ。知ってて出ないとか申し訳なくない? なんていうかこう、罪悪感的な物が首をがちっ!! って感じで」

「顔すら知らない人のためによくそこまで考えられるね?」

 

 薄情な奴め。なんでこんな奴にあんな可憐な彼女さんがいるのか、甚だ疑問が抑えきれない。

 俺みたいな聖人君子が誰にも愛されずこんながわだけ畜生野郎が人気者なんだから、やっぱり世間は辛いものであると再認識させられるわぁ。辛い。

 

「僕はあんまりやらないからわからないけど、そういうネット上の繋がりってぱっと切っても問題なんじゃないの?」

「んなことねーぞ。むしろ、ネットだからこそやべーって奴は多いんだわ」

 

 ちゅるちゅるとストローで液体を喉に流し込みながらこの機械音痴に説明する。

 

 ──ネットは怖い。そういう認識を持ちながら、それが何故か知らない人間の方が多いのがあの電子の世界の共通認識。

 便利な物として重宝されるのは良い。けれど一度でも己に害が生じれば途端にアンチ一直線なのが、浅ましき人間の感情というものであると俺は考えている。

 

 ネットとはその欲深いエゴが貯まる掃き溜めのようなもの。上っ面にある便利な物(きん)に目を奪われ、奥底にあるヘドロ(あくい)に足を突っ込めば終わり。──それがこの現代を支配する情報社会を支える基盤の正体である。

 

 ……まあ俺の考えなんて所詮にわかがイキリ散らしたうんちくと同義なのだが、そんな俺でもわかるくらいには利便性と危険性が混同している場──それがインターネットというものなのだ。

 

「……ふーん。僕的には、現実の方がヤバいと思うんだけどね?」

「そのヤバい奴が使うから際限がないんだっていう話。……って、そんな話してーわけじゃないんだよ今は」

 

 まったく、こいつのポンコツさのせいで随分と脱線してしまった気がする。

 助言が欲しいのは俺なのに、どうしてこいつに説明しなくてはならないのか。テスト勉強も教えなきゃいけないのに、これじゃあ本当に奢り損だ。

 

「……ドリンク取ってくる。何飲む?」

「コーラ。氷足してきてー」

 

 その精悍な顔つきに似合うようにはにかみながらこっちに手を振る翼をスルーし、ドリンクバーに向かう。

 平日だというのに、いつもより若干混んでいる気がしなくもないこの場所。これは運が悪かったか。

 

「あら、もしかして垣根君?」

 

 とりあえず氷でも入れようかと思ったとき、後ろから俺の名が呼ばれたのが聞こえた。

 決して大きくはない声。それでも俺の名字なんて呼ぶ人間は少ないため、店内に掛かっている最近流行の曲よりも耳がはっきりと捉えてきた。

 

 後ろを確認する。そこにいたのは馴染みのある制服をこれでもかと着こなしている黒髪の美少女──月村雫であった。

 

「つ、月村さんじゃん。ぐ、偶然だね……」

「ええそうね。こんな所で会えるなんて嬉しいわ」

 

 言葉の通り本当に嬉しそうな笑顔を作る彼女とは対称的に、俺の心はどうにか焦りを隠そうと必死になっていた。

 

 ──ああくそっ! どうしてこう、運が悪いんだ俺は。厄年か何かか!?

 

 帰り道に寄ったファミレスでクラスの美少女と遭遇。それは人によっては、運命とか楽観的なことを言い出せるシチュエーションなのかもしれない。

 けど俺にとっては厄災──吹き抜ける台風でしかない。というか世の陰キャだったらそれが普通なはずだ。

 

 そりゃこんな綺麗な人と話せるなら、思春期全開恋心マックスの学生からしたら嬉しいんだろうさ。

 けど生憎俺は陰キャなんだ。道の端っこで細々と暮らしてるような奴が金持ちに声を掛けられても警戒しかしないのと同じで、例え鼻腔をくすぐる花のように人を癒やせる香りがしたとしても、俺の心を癒やしてはくれないんだ。

 

 そもそもどうして話しかけて来たんだ。普通学外でクラスメイトを見つけても、仲が良くないと声なんて掛けてこないだろうに。

 

「月村さんはどうしてここに? 帰り道とか?」

「……ええ、そんなとこよ。家だと集中できそうにないから、今日はここで勉強中なのよ」

 

 それはまた、随分とご大層な理由な事で。正直違和感しかない。

 陽キャっていちゃいちゃわはわはするためだけにファミレス来るんでしょ? ファミレスで勉強とか期末テストとかお受験の時だけじゃないんですか?

 

「……ねえ垣根君? 良ければだけど少しお話しない?」

「え?」

「折角こんな所で会えたんだから、これを機にちょっと仲良くなれたなぁって。どう?」

 

 こちらの顔を伺うように覗きながらそんなことを提案をされ、もう脳内はてんわやんわで大騒ぎな状態に陥ってしまいそうだ。

 ……どうって言われても困るんだよなぁ。こんな公衆の面前で美少女の顔を曇らせるとか、もう完全に通報案件じゃん。どうかと思うよそういうの。

 

 ドリンクバーの機械がタイミング良く空いたので、この場面において最適解を導くために都合良く利用する。

 どうしようかなあ。この場を穏便に乗り越えられる方法なんてどっかに都合良く転がって足りはしないかなぁ。

 

 一つ目のコップにメロンソーダを注ぎ、もう一方のコップをセットする。……あっ。

 

「ごめん月村さん。今柏原の勉強見てやってるからさ。流石にあいつの補修回避のために付き合わせるのは悪いから遠慮しとくよ」

 

 ──これだ。これが最適解だ。ナイス俺。

 翼の成績の悪さはクラスの仲でもよく知られていることだ。顔と運動能力と愛想だけでクラスの中心位置するあの男の勉強を見るなんて罰ゲームを進んで引き受ける気にはならないはずだ。……本当、なんであいつは人気あるんだろう。

 

 あ、でも月村さんって翼のこと狙ってるんだっけ? ……やっべ。

 

「……別に構わないのだけど」

「あんなさもしい詰め込み場に月村さん呼んだらこっちが気にしちゃうからさ。──じゃあまたね!」

 

 注ぎ終わったコップに乱雑に掴み、軽く会釈をしてすぐに離れる。

 流石に失礼だったかもしれないが、これ以上俺の最弱心臓を乱されては困るので致し方なしだ。

 

 どうやら月村さんも無理矢理こっちに来ようとはしないようだ。……うん、本当に良かった。

 

「あ、おかえりー」

 

 未だぷるぷると震える我が両手でコップを運びながら席に戻れば、如何にも退屈してましたよと言わんばかりに(バカ)がペンをゆらゆらと揺らしていた。

 

 あーむかつく。どうしてこんな暢気そうな男のために俺が気を遣わなくてはならんのだ。この年で最も周りを振り回すのがリア充王に至るための資格だったりするのだろうか。

 

「遅かったなー。ついでにトイレでも行ってたん?」

「さっきあそこで月村さんに話しかけられてな。勉強中だったんだと」

「……まじ?」

 

 一言くらい愚痴ってやろうと月村さんの名前を出した途端、ごほっと強く咳き込む翼。どうしたんだろう?

 月村さんがいたことがそんなに恐ろしいことなんだろうか。もしかして、まじでやましいことがあったりするのかこいつわぁ。

 

「……前から思ってたけど月村さん苦手だったりするの? 実は不仲説あったり?」

「苦手っていうよりは……。……あーごめんなんでも無い別に仲悪いとそういうのはこれっぽちもないから大丈夫だからね!?」

「あ、そう……。なら良いんだけど」

 

 ものすごい勢いを出しながら喰い気味で否定してくる翼。どうやら嫌っているわけではないらしい。

 この反応的に嫌っているというよりは恐ろしさを含んでいるような気もするが、何かあったんだろうか。

 

 ……まあいいか! こいつが話したくなったら聞けば良いだろう! うん!

 

「じゃあ勉強続けるぞー。とっととやらなきゃ夜ご飯の時間になっちまう」

「……冬夜の相談は?」

「もういいや。そも無理矢理勉強させるために呼んだんだし」

「──えっ!?」

 

 そんなこんなで勉強会は続く。嫌々ノートと睨めっこする翼と共に勉強する──それがこいつとの日常であった。

 

 そういえば月村さんといえばだが。どうしてか、最近聞き馴染みのある声質な気がするんだが気のせいだろうか。……気のせいだろうな、うん。

 

 

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