魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~ 作:strike
日常を書くのもやはり難しいですね。
少しでもわかりやすくて自然な文章が書けるように頑張りますので
温かく見守ってやって下さい。
第23話スタートです。
ここは隊舎の中庭。
その中で月光に照らされながら剣を振るう人影があった。
そして、その影を見つめる影がもう1つ。金色の髪をなびかせながらその影の動きが止まるのをじっと待っていた。
「翔馬。」
「…フェイトか。」
翔馬が剣の切先を地面に向け、一息つくとフェイトは物陰から出て翔馬に声を掛ける。
その声を聞いた翔馬は先程から感じていた気配の方向に顔だけ向けてその相手を確認すると、鞘に剣を収めてベンチに座り込む。
「お疲れ様。…これ、良かったら飲んで。」
フェイトは座り込んだ翔馬の隣に腰掛けるとどこかで買ってきたのかミネラルウォーターの入ったペットボトルを翔馬に差し出す。
「ん?ああ、サンキュ。…悪いな。」
翔馬は何を差し出されたのかわからず、なんとなく手に取ってみてそれが飲み物だとわかるとフェイトに礼を言ってから早速口をつけ、ペットボトルの半分まで一気に飲み干してしまう。
「随分長かったね。流石に疲れた?」
「別にこれくらいなら何ともない。少し激しめのスポーツが終わった後みたいな感覚があるくらいだ。」
「そっか。」
翔馬はもう一度水を飲んでのどを潤し、フェイトはそれっきり月を眺めるだけで言葉は発さず、その場にはゆったりとした空気が流れていた。
そして、暫くの時間が過ぎると翔馬の手に持っていたペットボトルは空になり、上っていた息もとっくに落ち着いて汗も引いていた。落ち着いた翔馬は部屋へそろそろ戻ろうかと思ったのだがフェイトを横目で見ると何か言いたげな視線をこちらに投げて来たため、仕方なくその場に残り、フェイトから発せられる言葉を待っていた。しかし、いつまで経っても話が出てこないため翔馬は溜息をついて立ち上がる。
「…はぁ。それで?いつまでこんなところにいるつもりだ?用が無いなら俺は部屋に戻るぞ。」
「え!?…あ、ちょっとだけ待って。…聞きたいことがあるの。」
翔馬はもう一度溜息をついてからベンチに座り直すとフェイトに先を促す。
「えっと。そう言えば前にもこんなことあったね。…私と翔馬の2人っきりで話したこと。」
「…あの話はお互いに忘れるって約束だったんじゃないのか?」
「あ、そうだったね…。」
やっと話し始めたフェイトの言葉に翔馬は項垂れると仕方なしに突っ込みを入れる。するとフェイトも少し顔を赤くしながら苦笑いを浮かべ、話を続けることにした。
「ゴメン。前置きは要らないよね。…聞きたいことは多分想像ついてると思うけど、ヴィヴィオの父親の件。」
「…だろうな。と言ってもこっちは何も話すことないぞ?」
「どうして、断ったの?…翔馬、あの子の事嫌いなんかじゃないでしょ?」
フェイトは表情を真剣なものにすると、翔馬の顔を見つめる。
翔馬はその瞳を見てやはりフェイト同様、前回のここでの出来事を思い出していた。
(そう言えば、あの時もこんな表情してたな…。)
「…言っただろ?俺はガキの相手は嫌いなんだ。それ以上の理由はない。」
翔馬はそんなことを思いながらもしっかりとフェイトの問いに答えその場を後にするため立ち上がろうとするがフェイトにその腕を掴まれ、立ち上がることが出来なかった。
「…何のつもりだ?」
「まだ答えを聞いていない。」
翔馬は掴まれた腕を見てからフェイトに問いかけるとフェイトは一層真剣な目で翔馬を見つめ返した。
「…俺はさっきそれ以上の理由は無いと言ったが?」
「それは嘘だよ。翔馬がヴィヴィオのことを嫌いなら最初から関わらずにいることも出来たはず。」
「それは、あの場で何もせずに去るなんてできないだろ。それにガキの泣き声を響かせてたら仕事の邪魔もいいところだろ。」
「だったらなおさらオフィスに籠るべきだったんじゃないかな?翔馬が本当は何を思って行動しているのかまでは知ら無いけどヴィヴィオの事嫌っていたら、あやしてあげることなんて…ましてやヴィヴィオを笑顔にするなんてできなかったはず。」
フェイトは真面目に自分の限りなく真実に近い推測を翔馬にぶつける。
それを聞いた翔馬はもう一度《言い訳》を繰り返すために口を開こうとするがそれを止め、落ち着いた様子でフェイトを見つめた。
「…お前って本当に頭がいいだけ損してるよな。」
「え?…いきなり何?」
自分の言葉に対する返事ではなかったためフェイトは翔馬の言葉にキョトンとしてしまい、翔馬はそれを見ると少しやり返せたか、なんてことを思いながら視線を夜空へ向ける。
「前回の時もそうだし今回の事もそうだ。いつも人の心配ばかりして余計なことに首を突っ込む。」
「そ、そんなこと…!」
「前回や今回の件でフェイトが何か不利益を被る出来事があったか?…これまでの事に関してお前は関与しなくていいはずだろ?」
「それは…」
翔馬の言葉にフェイトは身を乗り出して否定をするが、翔馬に問われると直ぐに言葉が出てこずに俯いてしまう。
しかし、それも束の間。フェイトは顔を上げて翔馬を真っ直ぐに見つめる。
「私の大切な人達が悲しそうな顔をすると私も悲しくなる。それが嫌だから私は皆が笑顔になれるように行動するんだ。」
翔馬はフェイトがほぼ自分の思った通りの返答を返したため、一瞬表情を固めるが直後に思わず笑い出し、フェイトはその様子を見て驚いた後、顔を赤くしながら頬を膨らませて翔馬を睨み付けていた。
「悪い、悪い。…あまりにわかりやすい返答だったから思わず。」
「どういうこと?」
「昔からその性格は変わらないなってことだ。」
「…意味が分からないよ。」
フェイトはそう呟くと自分の顔が赤くなっていることに気付き未だに肩を震わせる翔馬から目を逸らしてその顔を隠した。
「さてと…俺がヴィヴィオの親にならない理由だったか?」
翔馬は落ち着きを取り戻した後で顔を俯かせるフェイトに向かって声を掛ける。すると、フェイトはハッとしたように顔を上げて翔馬を見る。
「教えてくれるの?」
「…本来なら教えたくはないけどな。まぁ、ここまでやらせといて黙っとくのも…」
「翔馬!!」
「「ユーノ?」」
翔馬が口を開こうとした瞬間に渡り廊下から翔馬を呼ぶ声が聞こえその方向に顔を向けるとそこには焦った様子のユーノの姿があった。
「どうしたんだ?そんなに血相変えて。」
「翔馬。実はさっきなのはの部屋でヴィヴィオのお世話をしていたんだけど…その時にヴィヴィオが!」
「落ち着いて。ヴィヴィオに何かあったの?」
翔馬とフェイトは一旦会話を終了してユーノに近づくとユーノは息を切らし、まともに話が出来ない程疲弊しきっていた。状況は理解できないが助けを求めているのだとわかった翔馬とフェイトはお互いに頷くとユーノを連れてなのはの部屋へと向かった。
そして、なのはの部屋に向かうとドア付近のチャイムを鳴らしてなのはの存在を確認しようとするが中からは全く人が動いている気配がなく翔馬は焦り始める。
「ユーノ。本当に中になのはとヴィヴィオがいるのか!?」
「え、う、うん。中にはいるけど…」
翔馬はそれを聞くとドアを開けようとしてみるが内側からカギがかかっているのか開けることが出来なかった。
「あの、翔馬今は…」
「翔馬少し待って。…今カギ出すから。…えっと。確かここに…あれ?」
ユーノが何かを言おうとするがフェイトの声に邪魔されて何も言えず、そのフェイトは自分の部屋のカギを出すためにポケットの中を探っているが見当たらずにいた。
そんな様子の2人を見ると翔馬は目つきを変えてドアを見据える。
「もういい。…蹴破るぞ。」
「「え?…翔馬…さん?」」
日常では聞く筈のない戦闘中の時のような翔馬の声色に2人はポカンとした表情で後ろ姿を見守る。
翔馬はドアから少しだけ離れて片足を後ろに引き息を整えると、一瞬でドアの間近まで接近して引いた足を思いっきり前へと蹴り出す。
「はぁぁ…。はっ!!!」
「ゴメンね。フェイト…」
「え?」
しかし、その瞬間聞こえてはならないはずの声が聞こえ翔馬は思わず気の抜けた声を漏らすが、すでに時遅し。
翔馬は思いっきりドアを蹴破り、なのはのベッドまで吹き飛ばしていた。中の様子は特に争った痕跡もなく、何の変哲もない女の子らしい部屋だった。
「やっちゃった…。」
「えっと…。」
しかし、翔馬の頭が働いていたのもそこまでだった。ユーノはこの事を予想していたのかなのはの部屋の壁伝いに背中を預ながら額に手を当て、フェイトは後ろから翔馬の様子を見守っていたが声を漏らすとオロオロとし始める。
「…翔馬君?」
「なの…は?」
なのはは現状の理解が出来ていない様子で翔馬を見つめ、翔馬はなのはの格好に思考を停止させていた。なのはは風呂に入っていたのか水を多分に含んだ髪をおろし全身に水滴を残しながらバスタオル1枚で翔馬の前に立っていた。体に残る水滴は艶やかに光り、頬は上気してほんのり赤く染まっていた。なのはは不安げな瞳を揺らしながら翔馬を上目づかいで見つめ、バスタオルを握り締める。
「あ、あ…。」
なのはは思考が追い付いてきたのか現在の状況を理解し顔を真っ赤に染め、翔馬を睨み付けると翔馬は思わず顔を赤くし、慌てて弁解を始めようとする。
「悪い!!…実はユーノに…」
「いいからあっち向いて!!」
「わ、悪い。」
しかし、その瞬間なのはの声に遮られて先の言葉を発することはできなかった。そして、なのはは翔馬に対し怒鳴るように命令するとサッと自分の体を隠してその場にしゃがみ込む。
「なのは大丈夫?」
「フェイトちゃ~ん…。」
「…あはは。よしよし。」
翔馬がやっとなのはから目を背けると、すかさずフェイトが部屋へと入ってなのはに駆け寄る。するとなのはは涙目でフェイトに縋り、フェイトは苦笑いしながらなのはの頭を撫でていた。これで何とかおさまりが着くかと思い、翔馬はその場から歩き出そうとしたが、そこで今回の悩みの種である人物があらわれる。
「…ママ。まだ~?」
「ヴィヴィオ!?…裸で出てきちゃダメでしょ!…フェイトちゃん小さいタオル持って来てもらえる?」
「うん。了解。」
ヴィヴィオが素っ裸でトテトテとなのはに近づいて腕を引っ張るとなのはは驚きながらもヴィヴィオを抱えるようにして、フェイトにタオルを持ってくるように伝える。しかし、ヴィヴィオはなのはに背を向けて立つ翔馬を見つけると今度は嬉しそうになのはの手を振りほどき翔馬の足にしがみ付いた。
「…っと、ってヴィヴィオ!?」
「あはは。」
「あはは。じゃないだろ…。体拭いてすらないし…。」
翔馬はいきなり足に掛かる重みに驚くとそこには翔馬の顔を見上げて笑うヴィヴィオの姿があった。そんな様子を見て翔馬は溜息をつく。
「体濡れたままじゃ風邪ひくぞ。」
「ヴィヴィオはこっちだよ。翔馬君に迷惑かけないの。」
翔馬となのはがヴィヴィオに声を掛けるとヴィヴィオは頬を可愛く膨らませて一層翔馬にしがみ付く。
「ヴィヴィオ、言うこと聞かないとなのはが困るだろ?」
「や。」
「なのは。タオル持って…」
「パパも一緒がいい!!」
「「「え?」」」
ヴィヴィオの言葉に翔馬達3人は驚きの声を上げてしまう。
「ヴィヴィオ?…パパって誰?」
「パパって誰?って、ユーノじゃないのか?」
「ん…。…ヴィヴィオは翔馬君達と別れてから一度もユーノ君の事をパパなんて呼んだこと…ないんだよ。」
なのはの問いかけに違和感を感じた翔馬はなのはの真意を尋ねるが、帰って来た返事はヴィヴィオの言っている意味を理解するに十分の言葉だった。
「翔馬パパ!!…ママとパパ一緒にお風呂入るの。」
「「「…っ!?」」」
3人がそれぞれ結論に至ったとき、ヴィヴィオの口から予想通りの単語と爆弾発言に息を飲む。
「ヴィヴィオ。その人は…!」
「…取り敢えず話は後だ。お前達一度体を温め直して来い。本当に風邪引くぞ?…それとヴィヴィオ。俺はお前の父親じゃないんだ。だから、なのはと一緒に行って来い。」
翔馬はなのはとヴィヴィオに声を掛けるとその場を後にしようとするが中々ヴィヴィオが足から離れてくれずにその場から動けない状態だった。
「…ヴィヴィオほらこっちに。いつまでも翔馬君にしがみ付いてたら動けないでしょ?」
「や~だ~。パパと一緒!!」
なのはは翔馬が見ていないことを確認してからヴィヴィオに近づいて抱きかかえようとするが駄々を捏ねて翔馬の足から離れず困り果ててしまう。
「パパ?…っくしゅん。」
「おい。ヴィヴィオいい加減にしろ。ホントに…」
「取り敢えずヴィヴィオの体を拭かないと。」
フェイトはなのはの横から手を出すと持ってきたタオルで水を拭き取っていく。
「ダメ、体冷めちゃってる。早く暖めないと風邪引いちゃうよ。」
「ヴィヴィオ我がまま言わないの!…早くこっちに」
「いや!!…っくしゅん。」
翔馬達3人はヴィヴィオの対応に困っているとそこにはやてが通りかかる。
「なんかうるさいと思ったら4人で何してるん?」
「「「はやて!?」」」
翔馬達は事情が事情なだけに素早く説明するとはやては苦笑いを浮かべて翔馬に同情していた。
「しゃあないな…。大浴場だったら結構広いから3人でも入れる。…貸し切りの札立てておけば間違ってはいる人もいないやろし。」
「「「え(は)?」」」
「なのはちゃんが決めなあかんよ。早くしないとヴィヴィオちゃんが風邪引いちゃうんやろ?」
はやては真面目な表情でなのはに問いかけ、なのは達ははやてが冗談で言っているのではないことがわかると戸惑ってしまう。しかし、なのはは既に決めたようで顔を真っ赤に染めながら翔馬の袖を引っ張った。
「なのは?…本気なの?」
「…うん。いいよ。翔馬君なら。それに急がないとヴィヴィオが…。」
「なのは!?……ったく。知らないからな。」
なのはの行動に驚きを隠せないフェイトと翔馬だったが、翔馬は仕方なしにそう言うと急遽なのはと翔馬、ヴィヴィオの3人で入浴することが決まってしまった。そして廊下に出ると申し訳なさそうな表情をしたユーノが待っていた。
「ゴメン。翔馬。ここまで大事になると思わなくて…。」
「後で山ほど話があるから待っておけよ?」
翔馬は頬を引きつらせながらユーノを睨み付けると大浴場へと向かった。
そして…
「最近仕事よりも精神的に疲れがたまってる気がしてならないんだが…。それより、この状況どうするつもりなんだあいつは…。」
翔馬は先に1人浴場へと愚痴を零しながら入り、辺りを見回すと結構な広さでそこらへんのスーパー銭湯よりも格段に良い設備と言えるほどの場所だった。翔馬はこの隊舎にこんな設備があることを感心しながら湯船に浸かると、それから程なくして2つの影が浴場に入ってくる。
「パパ~。」
「こら、ヴィヴィオ。走ったらダメでしょ!」
翔馬はこちらへ一直線に向かってくる危なっかしいヴィヴィオを見ると折角入った湯船から重い腰を上げて、ヴィヴィオを受け止める。
「えへへ。」
「風呂で走り回るなってなのはに言われなかったか?」
翔馬は自分の腰に笑顔で抱き付くヴィヴィオに呆れながらそう言うとヴィヴィオは翔馬に顔を向けてはにかんだ。
「うん。」
「うん。ってお前な…。」
「翔馬君。…大丈夫?」
ヴィヴィオの次に現れたのは先程とは少し違い髪をアップに纏めて相変わらず頬を赤く染めたなのはだった。翔馬は思わずなのはから視線を逸らしてヴィヴィオの手を振りほどく。
「…大丈夫な訳ないだろ。」
「あはは。だよね…。私も少し恥ずかしいかな…。」
「だったら……!」
翔馬はなのはに抗議しようとするがこの場で何を言っても仕方ない。それに、これ以上お互いに布一枚を巻いているとはいえほぼ裸の状態で向き合うのも色々と不味いと思い言葉を引っ込める。
「取り敢えず湯船に浸かっとけ。…俺は体洗ってくる。」
翔馬はそのままシャワーの方まで歩くとなのはたちに背を向けて椅子に座り、なのは達は大人しく湯船に浸かることにしたようで後ろで湯船のお湯が流れる音が聞こえた。その音を聞いた翔馬は少し安心して体を洗い始めるのだが、なのはから声が掛かり少し体を強張らせる。
「翔馬君。…その……ゴメンね?」
なのはは大きい湯船ではしゃぐヴィヴィオの面倒を見ながらこちらに声を掛けているのだろう。翔馬は体の緊張を解いて手を動かし始めて返事を返す。
「どうしてなのはが謝るんだよ。…事の発端は勘違いしてたとは言え俺が無神経になのはの部屋に入ったからだろ。」
「でも…。」
「でもも何もない。俺が悪かった。…それで終わりだ。」
その後、2人の会話が続くことも無く、広い浴場にはヴィヴィオのはしゃぐ声とシャワーの流れる音だけが響いていた。しかし、翔馬はこのままでは埒が明かないと思いなのはに声を掛けることにした。
「なのは。」
「ひゃい!?」
「…ぷっ。…何の声真似だよ?」
突然声を掛けられて驚いたのか、なのはの奇声と共に湯船のお湯が揺れる音がすると翔馬は思わず吹き出す。
「と、突然声かけられたら驚くよ!」
「悪い、悪い。」
翔馬は笑いを堪えながらなのはに謝ると笑いが収まったところでもう一度話しかける。が、なのはは翔馬が笑い続けていたことが面白くなかったのか少し不機嫌な返事を返し、翔馬はそれを指摘したところで今更治らないだろうと思い手短に用件を伝える。
「なのは、2人が温まったら先に出てくれ。俺はその後、湯船でゆっくりするから。」
「私達が浸かってる間はどうするの?」
翔馬がそう言うとなのはの視線がこちらに向いたのがわかったがそれに構わず話を進める。
「目的は果たせたわけだし、これ以上ヴィヴィオの我がままに付き合う必要もないだろ?それまではここでシャワーでも浴びてる。そいつが満足したら俺に構わず出て行ってくれ。」
「そんなことしたら、逆に翔馬君が風邪引いちゃうよ。…こっちに来て。」
「は?」
翔馬の言葉に対しなのはは即答ですると、今度は翔馬がおかしな声を漏らす番だった。翔馬はなのはの言葉の意味を理解するまでに数秒の時間を要したがその間に湯船から人が上がる音と共に小さな手が翔馬の腕にかかると無理矢理どこかへ連れて行こうと力が加えられる。
「…ヴィヴィオ、何してんだ?」
「パパも一緒!」
翔馬は最初、その手に抗っていたのだが徐々にその力が強まってきたため嫌な予感を感じ、振り向いた。その瞬間にその嫌な予感は的中することとなり、ヴィヴィオは手を滑らせ翔馬を引っ張ろうとした勢いのまま床に頭を叩きつけるような勢いで後ろに転びそうになる。それを見た翔馬は思わず舌打ちをしてその場で足元に魔法陣を張り固定された足場を作ると思いっきり足を蹴り出しヴィヴィオを抱きかかえ、自分が下敷きになる様に体を入れ替えて、無事に済むはずだった。
「ヴィヴィオ!!…って、きゃぁぁ!!」
「なっ!?」
湯煙の所為でお互いの姿が見えていなかったのか翔馬となのははヴィヴィオに手が届く瞬間にお互いを認知する。翔馬の勢いは止まるはずもなく仕方なしに翔馬はヴィヴィオを抱きかかえ、なのはが回避することに賭けた。しかし、なのはは翔馬の思惑通りにヴィヴィオを任せその場で回避しようとするが、足場が悪かったのかなのはまで転びそうになってしまう。
「この馬鹿どもが!!…っ!!」
翔馬はさらに悪態を付くとヴィヴィオを片手に抱きかかえ直し、空いた片手でなのはを自分の方に引き寄せて2人のクッションになる事を決めたのだが、そこまでの無理をすれば安全に地面を転げられるはずもなく翔馬は地面へ叩きつけられるような衝撃の後、自分の腹に重力が圧し掛かり息を詰まらせる。しかし、翔馬はそれよりも2人の心配をし無理矢理声を絞り出す。
「…ぐっ。…おい。2人…とも大丈…夫……か?」
「うっ。ぐすん。…うん。」
「私も大丈夫。…って、それより翔馬…君……は?」
翔馬は息を詰まらせた結果か視界がぼやけて見えなかったが2人の声が聞こえて安心すると今度は落ち着いて息を整えてもう一度目を開けようとするがその時になって、なのはの最後の声がおかしかったことに気付き慌てて目を開けて体を起こそうとした。しかし、翔馬はほんの少し体を持ち上げたところでその体を緊急停止させる。
目を開けた先に危うく頭突きしてしまいそうな近い位置になのはの顔があったためだ。
「なのは?…無事…か?」
「…うん。私は…大丈夫だよ?」
お互いの距離に戸惑いながら必死に声を出すが、その会話は一瞬で途絶え翔馬は思わず状況を確認してしまう。
すると、自分がなのはを庇った所為かヴィヴィオを左半身の腹に乗せ、なのはは頭を翔馬の胸に乗せていたのかそこから起き上がろうと翔馬の首の左横に手を付いて翔馬の顔を覗きこんでいるような体勢だった。それに加え、激しく動いたためか、体を隠していたタオルがずれてなのはの胸元が大きく開き、ほんの少し動いただけで全てが見えてしまうのではないかと心配しそうな状況で、翔馬は思わず顔を赤面させる。
傍から見ればなのはが翔馬を押し倒している様な格好に見えただろう。
「翔馬君は?…頭打ったりしてない?」
「…前線で戦ってる奴がそんなへまするかよ。」
翔馬はそう言って顔を逸らすと、なのはは今の状態に気付いたのか慌てて体を起こしてタオルを握りしめると沸騰したかのように、顔を真っ赤に染め、翔馬に一言。
「翔馬君の…エッチ。」
「なっ!?…誰のせいでこうなったと思ってんだ!!」
翔馬は赤くなった顔を誤魔化すのも諦めてなのはに抗議するが、お互いが泥沼にはまっていくだけだと気付き2人は口論を止めて大人しくする。すると、今まで黙っていたヴィヴィオが翔馬の手を引いた。
「パパ。お風呂は?」
「「今行くよ…。」」
そう言って結局2人は一緒の湯船に浸かりそれ以降何も話すことなく、ヴィヴィオが満足したことを確認するとなのははヴィヴィオを連れて先に風呂から上がった。そして、1人取り残された翔馬はやっと1人になれたことに安堵して大きく息を吐き出す。
「はぁぁぁ。…だから、ガキの相手は嫌なんだ。」
翔馬は決まり文句になりつつある言葉を呟くと顔の火照りが収まるまでのんびりとその時を待つのであった。