魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~   作:strike

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次話から終盤に入っていきます!!
と、いってもですね。…なんかうまく表現が伝えられて
いないんじゃないかなと思って、どうにかしようと
しているのですが…。ね?
書いていればマシになるかなっと思っていたのですが、
全然ですね…。

まぁ、そんな私事は置いておいてこれからもがんばりますよ!

第27話スタートです!!




第27話 終わりの始まり

 

 

 

「悪い。…待たせたな。」

 

そう言って後ろで倒れている仲間たちに苦笑いを浮かべる男は紛れもなく藤田翔馬、その人だった。思いもよらない人物の登場に3人は驚きで声を出すこともできず、ただその姿を見つめ表情を固める。そんな中で翔馬に声を掛けられたのは事情を知らないヴィヴィオだけだった。

 

「パパ?」

「だからっ……はぁ、もう勝手にしろ。それよりもヴィヴィオ。なのはの所まで動けそうか?」

 

自分の居ない数日間はユーノとべったりだと考えていた翔馬は未だに自分の事をパパと呼ぶヴィヴィオにいい加減言い飽きた言葉を掛けようとしたが、ヴィヴィオの表情を見て諦めたかのようにため息を付いた。不安げな表情を浮かべるヴィヴィオに対してその言葉はこれからの行動にも影響が出ると考えたためだ。その甲斐あってかどうかはわからないが、ヴィヴィオはコクリと頷きシエルに対して一番遠くで倒れているなのはの所までゆっくりとだが歩みを進めて行った。それを見た翔馬は取り敢えず安心してシエルを見据える。

 

「案外サービスがいいんだな?」

「どうせ、どこに行こうと結果は変わりませんからね。」

「ああ、そうかよっ!!」

 

翔馬はシエルの自信たっぷりな言葉を聞くとその場を蹴ってシエルに向かって剣を振り降ろす。対して、シエルは翔馬の放つ攻撃にゆっくりと自分の大太刀を合わせると片手でそれを受け止めた。翔馬は自分の剣がここまであっさり受け止められると思わなかったのか驚きの表情を浮かべて目の前のシエルの様子を見る。しかし、それで納得がいったのか少し厄介なものに襲い掛かってしまったと少しだけ後悔して苦笑いする。

 

「…やっぱりそういう事か。」

「お気付きになりましたか?」

「まぁな。本当にお前は面倒な奴だな…。」

 

翔馬は今まで何度かシエルと戦闘を重ねて疑問を感じていた。昔、2人が管理局の魔導士として働いていた頃の実力はお互いに均衡しており、タッグを組ませれば大人顔負けの働きっぷりでそうそうこの2人を超えられるものはいなかった。確かに例外はあるが、それこそなのは達の様な規格外の人物位だ。そんなシエルがこの数年間何もせず、無駄に過ごしてきたというのはありえない。戦闘中の体捌き、剣の扱いどれをとっても以前のシエルとは比べ物にならない位成長していた。しかし、その中でも翔馬が気になったのは、剣を振るう初動と戦域を自由に動き回るだけの防御力。いや、シエルの場合は力と言った方が良いだろうか。昔のシエルならその体に似合わない程の大きな大太刀を目にも止まらぬ初動の速さで辺りの敵を反応させることすらさせなかった。さらに敵からの攻撃さえもそれ以上の力で捻じ伏せ、シエルが行く道を塞がったものは今までいなかった。しかし、今までのシエルにはその速さと力が感じられなかった。確かに翔馬には劣るもののそれなりの速さと力が伴っていたはずだった。それを翔馬は今までの戦いの中で違和感として感じ取っていた。そしてその違和感は最悪の形で払拭されることになる。鍔迫り合いをしていた翔馬の剣は時間と共に押し戻され、ついに弾き飛ばされる。

 

「くっ…。」

「今度はこちらから行きますよ!!」

 

シエルはそう言うと大太刀を何故か鞘に納めて弾き飛ばした翔馬に向かって接近する。翔馬は弾き飛ばされた衝撃を殺すために着地すると同時に深く屈み込みシエルを見据え嫌な予感を感じるとシエルの間合いに入る前に屈み込んだ足を思いっきり延ばして跳躍する。その瞬間、シエルは大太刀の柄に手を添えると次に見たのは先程まで翔馬の居た空間を薙ぎ払った後のシエルの姿だった。音も衝撃も無く、そして薙ぎ払うという工程をも飛ばしてシエルは大太刀を振るった。そして翔馬がシエルの真後ろに着地し背中に向かって剣を下から上に斬り上げる。しかし、シエルは笑顔のまま振り向きざまに遠心力も利用して大太刀を翔馬の剣に叩きつけると、その時になってシエルの後ろで轟音と共に激しい衝撃波が生まれシエルの後ろにあった雑材は消え去ってしまった。それを見て以前よりも強力なっているシエルの攻撃に翔馬は焦りを感じ、地面に倒れているなのは達は驚きで声も出なかった。その翔馬達の様子を見てさらに顔に笑みを浮かべると力をさらに込めたのだが思ったより手応えが無かったため、シエルは1人納得したように頷くと力尽くで翔馬をその場から大きく吹き飛ばし、吹き飛ばされた翔馬は壁に大きなクレーターの跡を付けた。

 

「ぐあっ!!」

「「翔馬!!」」

「…まさか、翔馬君。」

 

翔馬が地面に崩れ落ちるとフェイトとユーノは思わず声を上げ、驚きで固まっていた2人はそのことも忘れて自分の体を動かそうと必死に腕で地面を押しながら翔馬の事を見つめていた。一方でなのははヴィヴィオを何とか抱きかかえ戦闘を見せないように顔を自分の胸にあてながら翔馬の様子を見ていて気付いたことがあった。それは…。

 

「この戦闘は貴方方には不利過ぎますね。動けない魔導師が3人。子供が1人。そして…怪我の治っていない重傷人が1人。対してこちらはそちらで言うリミッター解除の魔導師が1人。合計戦力としてはそちらの方が圧倒的ですが…状況が悪すぎましたね。」

「やっぱり翔馬君、無理してここまで…。」

「そんな…。」

「翔馬…。」

 

シエルの言葉を聞いてた3人はそれぞれ複雑な表情を浮かべていた。翔馬の負傷に感付き始めていたなのはは、やはりと表情を歪め、フェイトは傷や翔馬の心情を気にして心配げに、ユーノはこんな状況で考えることでは無いという事がわかっていても怪我を隠してでもこの場に駆け付け仲間を守るために命を張る翔馬を見て本当に『あの』翔馬がなのはの事を傷付けたのかと悩み翔馬から目を逸らしながらも、体を一刻も早く動かすためにもがいていた。一方、地面からやっとの思いで立ち上がった翔馬は焦りを感じていた。

 

(気付かれた上にさっきの衝撃で傷が完全に開いた。…急がないと不味いことになるな。)

 

翔馬は心の中でシエルを倒すためのイメージを沸かせていたが、シエルとなのはの声でそれは中断せざるを得なくなってしまう。

 

「それでは、あまり長引かせるとこちらとしても不都合があるのでそろそろ終わりにしましょうか。」

「あの構え…。翔馬君!それをやらせちゃダメ!私達、あの技で魔力を…!!」

「ちっ!!…はぁぁぁ!!!」

 

シエルがなのは達に放ったISを発動しようとした時、怪我をしていて無理をさせるという事がわかっていてもなのはは叫ばずにいられなかった。その攻撃だけは放たせてはならないと。その言葉を受けた翔馬は弾かれた様に飛び出してシエルに向かって剣を振り降ろした。しかし、シエルは苦も無く翔馬の剣を受け止めるとそのままISを発動させようとした。

 

「IS発…」

「させない!!」

 

しかし、翔馬はシエルがISを発動させようとした時、雄叫びを上げながら零距離で魔法陣を展開させた。するとまさかの展開にシエルは驚き、遅れて自分のIS発動よりも翔馬の攻撃の方が速いことを理解するとISの発動を急遽止め、その場から大きく離れ翔馬の射線上から離脱しようとする。しかし、翔馬の砲撃が放たれるまでの速度はシエルの予想を上回り、苦い表情を浮かべた。その瞬間。

 

「エアリアル・スマッシャー!!!」

「くっ!!これは避けられ…」

 

シエルは苦し紛れに大太刀を自分の前に掲げるが容赦ない翔馬の砲撃がほぼ零距離で放たれる。シエルはその魔力に身を包まれ緑の閃光がシエルごと天を貫き、翔馬の全力の砲撃は周囲にも衝撃を与え、吹き飛ばされそうになるなのは達は必死に地面にしがみ付いて、なのははヴィヴィオが飛ばされないように必死に庇いながら結末を見守る。

 

「はぁ、はぁ。ぐっ…。」

「翔馬君!?」

 

しかし、砲撃を放った衝撃は翔馬にも響いたようで翔馬は砲撃が収束する前に片膝をついて荒い息を吐き、胸の痛みに耐えていた。それを見たなのはは思わず声を上げて近くに行こうとするが未だに動かない体に歯痒い思いを募らせる。そして、暫くもしない間に翔馬の放った魔力は収束し緑色の閃光が消えるとそこにあったのは、ほぼ無傷で佇むシエルの姿だった。

 

「うそ…。」

「翔馬の砲撃を食らって無傷!?」

「くっ…そ!」

 

翔馬の攻撃に耐えきったシエルにフェイトとユーノは驚きの表情を浮かべ、翔馬に至っては自分の失敗に苛立ちを隠せず一度ついた膝を剣を地面に刺して支えにすると何とか体を持ち上げ、シエルを睨み付ける。対してシエルは少しだけ微笑むと翔馬に向かって大太刀を構え攻撃の態勢を取ると、翔馬も重い腕とそれにぶら下がる剣を持ち上げて戦闘の準備をする。しかし、その姿を見たなのはは只でさえ重症の傷を負っている翔馬がこれ以上傷付く姿を見ていられず大声を上げる。

 

「もういいよ!!…これ以上は翔馬君が死んじゃう!!私達の事はいいから逃げて!!」

 

なのはの泣き叫ぶかのような声に翔馬は一瞬、振り向くがなのはたちの表情を見てフッと笑い、シエルに視線を戻した。

 

「お前達を置いて逃げられる訳ないだろ?大切な仲間を見殺しにして自分だけが助かるなんて…死んでもゴメンだ。」

「「翔馬…。」」

 

翔馬は静かに、しかし確かな意思を持ってなのはにそう言うとシエルを迎え撃つために剣の先をシエルに向けた。そんな翔馬の言葉を聞き、姿を見て何かを感じたのかフェイトとユーノは今まで以上に自分の体を動かそうと必死になりながら翔馬を見つめる。すると、シエルは翔馬の言葉に対して面白くなさそうな表情を浮かべ剣の切先を光らせた。

 

「先程の攻撃には流石には驚きました。…まさか反動を顧みずに撃ってくるとは。でも、やはり恨むのならその体にしてしまった自分を恨むことです。…万全の貴方の攻撃なら私も無傷では済まなかったでしょうが、今の貴方には私は倒せない。」

「悔しいがそうみたいだな。…だが、お前を倒せなくてもここから先を通さないこと位はできる。」

 

翔馬はなのは達を庇うように立ち、剣を構えるとシエルを見据えて動きに集中する。これから始まる激しい戦闘に備えて。しかし、翔馬のそんな背中を見たなのは達は更に自分たちが動けない事に焦り始める。まるでその背中は自分の命を犠牲にしてでも4人の仲間だけは守ってみせると、そう言っているような気がしたからだ。

 

「どうしてこんな時に…!!」

「動け!頼むから動いてくれ!!」

 

フェイトとユーノは歯を食いしばり動かない体に鞭打って地面から体を引き剥がそうとする。一方なのはは翔馬の先ほどの言葉を聞いてヴィヴィオを片手できつく抱きしめて肩を震わせながら、もう片方の力の入らない腕で地面を押していた。

 

「どうしてそこまで…。いつもいつも自分が犠牲になるようなことばっかりして…!!おかしいよこんなの。どうして翔馬君ばっかり!!!」

「なの…は?」

 

なのはが勢いよく腕を伸ばして上半身を起こすことに成功すると顔を上げて翔馬をきつく睨み付けた。そして、なのはの言葉に振り向いた翔馬はその様子を見て少しだけ顔を俯かせた。顔を上げたなのはの瞳は揺れ、頬には一筋の涙が流れていたからだ。

 

「すまない。…俺は…お前にそんな顔をして欲しかった訳じゃなんだけどな。」

「危ない!!」

「翔馬!!」

 

翔馬がなのはに謝罪の言葉を投げかけると同時にシエルが飛び出し、容赦なく翔馬に斬りかかるとそれを見ていたフェイトとユーノは大声をあげた。その声を聞いても翔馬は焦った様子も見せず振り向きざまに剣を振り上げて迎撃する。

 

「はぁぁぁ!!!」

「っ!?受け止めた?」

 

シエルはこの一撃で翔馬を沈められるだろうと思っていただけに驚きを隠せなかった。しかし、本気のシエルの攻撃を受けて翔馬が何の衝撃も受けないはずも無かった。シエルは一旦引いて体勢を整えると翔馬は剣を支えに何とか立っていたが、口からは内臓がやられたのか血を流していた。それに、今更気付いた翔馬は血を吐き捨てると支えにしていた剣を引き抜いて再度シエルに剣先を向ける。

 

「まさか、あの状態で剣を受け止めるなんて…。ですがもう終わりにしましょう。今度は確実に仕留めます。」

「…やれるもんなら、やってみろ!!!」

 

今度は翔馬が地面を蹴ってシエルに向かって行った。シエルはそれを受け流して体勢の崩れた翔馬に向かって魔法陣を輝かせるとその場で大きく大太刀を後ろに引く。それを見た翔馬は前のめりになった体勢ではまともに攻撃できないと判断し前宙の要領で体を逆さにして宙に浮くとこちらも魔法陣を描く。

 

「水円陣!!」

「エアリアルサイス!!」

 

2人は衝撃で引き離されるがお互いに衝撃を緩和させた後、直ぐに敵に向かって走り出し剣を数度交える。お互いの剣を剣で受け止め或は躱し、振り降ろす。そして、その攻防の中、翔馬は傷の所為か動きが鈍るとその隙を逃さずシエルが確実にその体に傷を負わせていった。そして、長かったようで短い時間が過ぎ去った後、

 

「ゲイル…」

「水鏡…」

 

2人は距離を取ると最後の大技をぶつけ合おうと強力な魔法陣の光を放ちながら得物を構える。それを見た3人は黙っていられるはずも無かった。

 

「ダメ!!翔馬!!!」

「そんなことしたら翔馬の体が持たない!!止めるんだ!!」

「お願い!!もうやめてぇぇぇ!!!」

 

そんな3人の声に今のシエルが耳を貸す筈も無く無情にも2人の魔法の準備が整ってしまった。

3人は相変わらず動かない体を痛めつけるかのように酷使して体を動かそうとし、なのはは届かないとわかっていてもその手を翔馬に伸ばしてその背中を引き留めようとした。そして、3人がそれぞれに自分の体と必死に戦っている最中に2人の魔法は放たれてしまう。

 

「スティング!!」

「衝閃穿!!」

 

水色と緑色の魔力が激しくぶつかり合い大きな衝撃と音を発生させ、なのは達は思わず顔を覆って衝撃に耐えていた。辺りは爆発の煙幕で包まれ結果がわからない状態だった。しかし、3人の不安は増すばかりだった。この状況、状態で翔馬が万全の状態のシエルに太刀打ちできるはずもない。そして、分かりきったこの結果が目の前に現実として現れる。

 

「重傷を負いながらも私とここまで渡り合えただけでも十分過ぎるほどです。…誇ってすらいいと思いますよ。」

「…。」

 

そこには魔法を放つ前と同じように変わらず2人が立っていた。しかし、シエルの姿は何も変わらないのに、翔馬の姿だけが大きく異なっていた。体からは血が滴り、バリアジャケットは全損寸前と言った所まで破壊され、翔馬の体がぐらりと揺れたと思った瞬間、手に握っていたゼフィロスが零れ落ち地面にドサリと音を立てて倒れた。シエルは歩きながら地面にうつ伏せとなっている翔馬に声を掛けるとなのはの正面に立って片手を大太刀から離しその手をなのはに向けた。それを見てなのははシエルを涙目で睨み付けるとヴィヴィオを両手で抱きしめて自分の体で庇うようにその小さな体を隠した。

 

「そんなことされると、反抗の意思があると認識していまいますよ?…私だってなるべくなら手荒な真似はしたくはないんです。この状況なら聖王の器が奪われても文句なんて誰も言いませんよ。…その子を早くこちらに渡してください。…でないと、後悔しますよ。」

 

穏やかに諭すシエルだったがなのはの手が緩むどころかきつくなったのを見て、シエルは表情を変えると言葉に殺気を込めてなのはに言い放った。

 

「なの…は!!」

「ぐっ!!!」

 

フェイトとユーノは翔馬が倒れたことで放心していたがなのはの危機に再度、体に力を入れた。すると、そろそろ効力が切れそうなのか何とかなのはの様に上半身を起こすことに成功し、片膝をついて立ち上がろうとしていた。しかし、まだ効果は消えておらずその体には相当な重りが付いているかのようなぎこちない動きで、今の状態を保つことに集中していないと再度地面に倒れ込みそうになってしまう。その3人の様子を見たシエルは少しだけ驚きの表情を浮かべると、表情を引き締めて剣を振り上げた。

 

「すみませんがこれ以上は待てません。これが最後です。…聖王の器をこちらに渡してください。」

「お断りします!!」

 

なのはは涙を浮かべながらも一瞬の躊躇いも無くそう言い放つとしっかりとシエルを見つめながらヴィヴィオを抱きしめた。しかし、態度は堂々としているもののなのはは内心で様々な感情が混じり合い今にも発狂しそうな状態だ。目の前で仲間が自分を守るために倒れ、そして今は、剣を振り上げられ死ぬ寸前の状態。恐怖を感じない訳もない。そんな状態で思い出すのは8年前の事件。初めて自分が死ぬかも知れないと本気で思った瞬間、そしてそれを見ていたヴィータのこと。今もそれに似た気分を味わっていた。しかし、そんな状態でも正気で居られたのは腕の中にいる娘の存在がとても大きかったのだろう。この子をこの場所で渡すわけにはいかないとこんな状況でも勝機を見出すために頭を働かせている。自分に大丈夫と言い聞かせて、シエルから振り下ろされるであろう大太刀に目をやる。まだ体は動かない。でも、必ず動き出すタイミングがあるはずだ。たとえそれが自分の命を奪われた後だとしても。その時が最初で最後のチャンスとなるだろうとなのはは考えていた。そして、今まで辛い思いしかしてこなかった彼の役に立てるのだろうか。と少しだけ思い最後に目を向けた。

 

「…翔馬君。」

 

なのはがそう呟いたとき、ピクりとも動かなかった翔馬が息を吹き返したかのように顔をなのはに向け、現状を認識したのか必死に歯を食いしばって立ち上がろうとする翔馬が居た。しかし、その姿はとても痛々しくコートの下のシャツは開いた傷口から溢れる血で染まり、体のあちこちに傷が刻まれていた。それでも尚翔馬は大切な人達を守るために立ち上がろうとしていた。そんな姿を見てなのはは微笑むと少しだけ彼の事に付いて考えた。いつも無茶して皆に心配を掛ける、でも、それはいつだって大切な仲間の事を想っての行動でそれを何のためらいも無しに出来るとても優しく、真っ直ぐな人。そんな彼と私はいったいどんな関係だったのだろうかとなのはは思って翔馬を見つめる。しかし、そんなことをしても答えが見つかるはずもなくなのはは苦笑いを浮かべると視線をシエルに戻した。遠くで翔馬が何か叫び声にならない声を発していたような気もするが今は作戦を正確に実行するため外の音をシャットアウトして集中し始める。そしてフェイトとユーノは翔馬よりも早く立つことができ荒くなった息を整えていた。しかし、1歩踏み出すのもやっとの状態ではなのはとの距離がありすぎて今にも振り降ろされそうな大太刀を受け止めるどころか触る事すらできないだろう。そしてついにその時が来てしまった。

 

「それでは、さようなら。高町一等空尉。」

「「なのは!!!」」

 

フェイトとユーノは思わず大きな声を上げるが、なのははヴィヴィオを剣筋から離すようにしてしかし、剣の軌跡を一瞬も見逃すことが無いように見つめ一瞬の時を待った。そして振り下ろされるシエルの大太刀を見て翔馬は以前大切なものを失ったあのときの事を思い出していた。

 

(また…俺はまた、守れないのか?いつも俺は…。)

 

翔馬はそんな後悔を頭の中で繰り返す。どうにもならないこの状況。覆すなんて到底無理だ。そう、よっぽどのことが無ければ覆らない。そんな負の感情がぐるぐると頭の中を駆け巡る。しかし、それ以上に強い確かな想いがあることに翔馬は気付く。大切な人を無くし大声で泣き喚きその喪失感に心を閉じたあの頃の思い、あんな思いはしたくない。させたくない!!その一心が膨れ上がると翔馬は体に鞭打ってゼフィロスに命じる。無理やり自分の体を動かせと。

 

「ぐっ!!…う、おぉ、うおおぉぉぉぉ!!!!! ゼフィロス!!!」

「なっ!?」

「させねぇぇぇぇ!!!」

 

翔馬は最初の一歩を蹴り出すと後の制御をゼフィロス任せた。しかし、その制御はいつもの翔馬の体に比べると劣ってしまう動きだ。しかし、今の状況では翔馬はいつもの動きなどできる筈もない。しかし、ゼフィロスの記録通りに動かせば、翔馬の動きに近い動きはできるつまり…この状態で使える筈のないエアリアルブリッツだろうと使って見せる。

 

「ぐっ!!…間に合った…な。…後は、任せるぞ。」

 

翔馬の苦痛から洩れる声と同時にシエルの攻撃を剣をクロスさせて受け止めると思いっきりはじき返した。そしてその様子をシエル含め4人は驚いた表情で見つめるが翔馬は、それを少し笑って受け止めると今度は完全に動かなくなりその場に倒れてしまう。

 

「今日はホントに驚かされっぱなしですね…。まさか、リミットまで時間を稼がれるとは。」

 

そう言ってシエルは溜息をつくが実際の所、リミットまでにはまだ数分の時間がある。しかしその間の相手はすでに目の前に迫っていた。

 

「うおりゃああああ!!!」

「はっ!!」

 

シエルは斜め上から攻撃を仕掛けてきた人間に向かって剣を振り上げるが予想外の重さに足を踏ん張りさらに体重を掛ける。しかし、その人間はお構いなしにカートリッジを吐き出させ、拳を振り抜いた。シエルは大きく後退させられたが、その衝撃を和らげて着地すると次は正面からの攻撃が迫っていた。

 

「ヴァリアブル・シュート!!!」

「受け取って!!ツイン・ブースト。スラッシュ&ストライク!!!」

 

シエルは目の前に迫ったオレンジ色の魔力弾に対して即座に回避行動を起こして地面を転げるとそこには待ち構えていたかのように槍を構えた少年が居た。

 

「確かに受け取ったよ!!…ストラーダ!!」

 

少年は雷を身に纏うとシエルに向かって突進した。しかし、只の突進と侮るなかれ。雷は光の速さで目的地まで走りその衝撃は何十倍にも膨れ上がる。さらに援護魔法も加わりそんな攻撃を受ければひとたまりも無いだろう。そして少年は回避する時間も与えずに全力の攻撃をシエルにぶつけ、爆発が巻き起こる。そして、攻撃を掛けた4人は集まってなのはたちの前に立ち塞がった。その4人とはフォワード陣の教え子たちだった。スバル達は翔馬に指示を出されこちらに急遽向かう事となったが、翔馬の様に高速移動できるわけではないので歯痒い思いをしながらも現地までヘリでやって来たのだった。つまり元々翔馬とフォワード陣の2部隊構成で時間を稼ぐ手筈だったのだ。しかし、本来なら翔馬が倒れる前にこちらに到着する予定だったのだがこの結果だ。4人は唇を噛みしめ倒れる翔馬に目を向けるが翔馬に事前から言われていた通りシエルから意識を離すことだけはしなかった。やがて、爆煙が晴れて現れるのは予想通り、無傷のシエルの姿だった。

 

「やっぱり…。」

「どうします?…ここからは少し厳しいと思いますけど」

「私とエリオで前は抑える。ティアとキャロで援護。いつものフォーメーション!!」

「しか、無いですよね…!!」

 

4人は気合を入れるとそれぞれにデバイスを構えるがシエルはつまらなそうに溜息を吐くと剣を鞘に納めた。その瞬間シエルの足元に紫の魔法陣が浮かび上がりその様子にキャロが反応する。

 

「あれは召喚魔法!!…あれを使ってここから離脱するつもりです。」

「なっ!?…くっそぉ!!」

「止めなさい!!スバル!!…このまま行かせる。」

「ティア!?」

「それがいいと思います。…多分僕達で戦っても勝つことはできないと思います。」

 

全員に引き留められたスバルは突撃を止めるとシエルをキッと睨み付けた。

 

「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。必ずまた戦闘の機会はありますから。そうですよね?」

「…そんなことが無いことを祈りたいけど。まだ、あの事件にかかわると言うなら…!!」

「ふふっ。それでは、またお会いしましょう。」

 

問いかけたフェイトからいい返事がもらえるとシエルは少しだけ微笑んで最後にヴィヴィオを一瞥するとその身を魔力に任せ、その場から消えて行った。その瞬間全員から緊張の糸が途切れ少し息切れを起こした。しかし、いと行き着くと全員は翔馬の容態を心配し倒れた翔馬の元に駆け寄る。なのはは体が自由になると一番に翔馬に駆け寄り翔馬の体を抱きかかて様子を見つめる。

 

「翔馬君!!大丈夫!?」

「う…。ああ、…何とかな。」

 

翔馬は閉じていた目を開くとなのはの問いに億劫そうに答えて掌をひらひらと振った。それを見た全員はホッと一息ついてフォワード陣が乗ってきたヘリに翔馬を乗せ、全員で隊舎まで移動しようとした。しかし、そこで待っていたのはとてもいい笑顔を浮かべていたシャマルだった。

 

「翔馬君?…私、翔馬君が起きた直後、一番最初に2週間は絶対安静だって言いましたよね?」

「えっ…と。そう、だった…か?」

 

翔馬はシャマルがいるとは思わなかったのか、バツが悪くなり目を逸らしながらとぼけると、シャマルは真剣な表情を浮かべてクラールヴィントを光らせて応急処置に入った。

 

「本当に無茶はしないで下さい。…この体は貴方だけのものではないんですよ?これ以上無理を続ければ確実に…。」

「…悪かった。なるべく、シャマルのいう事は聞くようにする。」

「…絶対とは言ってくれないんですね。ちゃんと自分の体の状態は把握して行動して下さい。そして、今回みたいな行動を起こす前には絶対に私に声をかけて下さい。それなりの処置があるのとないのでは全然違いますから。」

「本当にすまなかった…。」

 

翔馬は自分の体を気遣ってくれるシャマルに申し訳なさそうな顔をすると「だったら、こんなことしないで下さい!!」と患部を叩かれ翔馬は悶絶しながらヘリで隊舎へと戻るのだった。その道中、ヘリの中はとても重い雰囲気だった。理由は言うまでもないだろう。翔馬1人があれだけの傷を負い傷付いた。その中でも、3人は何もできずに見つめることしかできなかったのだから。だが、翔馬でなければあの傷で無事でいられるはずも無かったのだろうという事も事実だ。翔馬は元々の体質(魔力云々を抜き)で生存能力が高い。それは、あの8年前の生存者として病院に運ばれた時に知らされたことだ。だが、今回は確実に翔馬の命を幾らか削ってしまっている。そのことを気にしないで居られるほど機動6課の面々は冷徹になれなかった。だからこそ、翔馬の負担を軽減させるために自分達に何ができるか真剣に考え始めるのだった。

 

ーーー大切な人がこれ以上傷付かなくてもいいように。

 

 

 

 

 

 

 

 

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