魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~ 作:strike
あれから2ヶ月…。
テンポよくいきたいと言っておきながらこんな状態です。
更新は少し遅くなってしまうかもしれませんが、なるべく早くできるようにしますので今後もよろしくお願いします。
では、第28話スタートです。
あれから、翔馬は隊舎ではなく大きな医療病院に搬送され、以前とは比べ物にならない位の包帯を体に巻いてベッドに横になっていた。と言っても、幸いな事に体に付いた多少の傷は除いて大きな怪我は前回の傷口が完全に広がった程度で他には無かった。しかし、翔馬も傷を負った状態での戦闘は体に負荷が掛かったのか搬送された直後には再度意識を失う事になった。そして、機動6課の面々はまたしても深い眠りにつくのかと少し落ち込んでいたのだが、前回と同じ位の怪我を負ったというのに翔馬は翌日には目を覚まして会話位なら問題なくできるようになっていた。
しかし、翔馬は主治医や6課の面々に今度こそ絶対安静を言い渡され、体を動かすことのできない翔馬は朝に目を覚ましても晴れ渡る青い空を窓越しに見つめていることしかできずにた。
「明後日、か…。」
翔馬は窓の外を見つめながらそう呟くと、今、機動6課で忙しく業務をこなしているであろうメンバーを思い浮かべる。特にフォワード陣のスバル達の事だ。心配はもちろんある。きっと、今度起こる戦闘は今までとは比べ物にならない位の激戦になるであろうことは想像がつくし、さらに今回はどれだけの犠牲者が出るかもわからない。そんな中にスバル達を送っても良いのだろうかとふと、そんなことを思った。しかし、彼女達の近くで戦ってきた翔馬は彼女たちの強さも知っている。なのはとティアナの一件以来、スバル達はティアナを筆頭に今までとは比べ物にならない位の集中力と技術の吸収力を見せつけていた。あの姿は翔馬達にとっても意外で、まさかここまでの能力があるとは思っておらずスバル達は今ではなのは達との模擬戦で一本を取ることも多くみられるようになった。その当初は急激な成長に戸惑いもあったが、今ではむしろ自分を超えるのではないかとその瞬間を待ち遠しく思うほどにスバル達の成長を心地よく感じていた。そのため、この戦闘は彼女たちにとって辛いものにはなるだろうが、きっと今回も元気に帰って来るだろうと、そう思って翔馬はベットに体の体重を完全に預ける。まぁ、本来なら病室を飛び出して警護に当りたいところなのだが…。今は、皆を信じて待つことにしたのだった。
そんなことを考えていると突然病室のドアが開きそこから今丁度考え事をしていた4人が現れ、翔馬は思わず苦笑いをした。
「お前達どうしたんだ?こんな時間に。…訓練じゃないのか?」
翔馬はこんな朝の時間に4人が来たためどうしたのかと思いながらも問いかけると4人は気まずそうに視線を彷徨わせて口を開く。
「えっと、あの、…翔馬さん。」
「「「「ごめんなさい!!!」」」」
「…は?」
と、スバルの声の後で4人は口を揃えてそう言うと思いっきり頭を下げた。その様子に翔馬は何事かと理解できずに気の抜けたような声が漏れてしまう。すると、自分たちの行動が理解されていないと理解したスバル達は今日ここに来た理由を説明するために一度顔を上げる。
「その、…私達の到着が遅れてしまったばっかりに、翔馬さんにこんな酷い怪我を負わせてしまって…。」
「もっと、僕達が速く駆け付けていられれば…。」
「だから、翔馬さんに謝らないとって…皆で来たんです。」
ティアナとエリオ、キャロも申し訳なさそうな表情を浮かべながら翔馬の怪我を見つめていた。そんな姿を見て翔馬は堪え切れなくなったように笑い出し、その様子を見た4人はポカンとした表情を浮かべて翔馬を見る。
「くくっ…あははっ!! お前達、そんなこと気にしてたのか?」
「えっ…と。」
スバル達は未だに戸惑った表情を浮かべながら翔馬を見つめて、どう答えたものかと返答に迷っていると翔馬は自然と口元に笑みを浮かべてスバル達を優しい目で見つめる。
「お前達の思いは嬉しいけどな。お前達を俺が頼るほど落ちぶれちゃいない。むしろお前達が俺の代わりに相手をしていたらと考えるとぞっとするくらいだ。…だから、これはお前達が気にする必要はない。お前達は十分良くやってくれたよ。」
「翔馬さん…。」
「でも…!!」
翔馬の言葉にスバル達は納得した様子が見られず、それでもと翔馬に食い下がる。自分たちの所為で翔馬が酷い怪我をしてしまったと考えているスバル達にとって何のお咎めも無しにされると言うのは納得がいかなかった。罰が欲しい訳じゃないが、流石に自分たちの落ち度を胸に留めているにも拘らずそれを無しにされてはこれから翔馬に対してどう償えばいいのか見当もつかない。だからこそ、翔馬に謝った時には何を言われてもしっかりと受け止める覚悟をしてきたのだが、結果はこれだ。しかし、翔馬は首を横に軽く振るとスバル達を見つめる。
「だったら、逆に聞くがお前達はどんな命令を受けて現場に立ったんだ?俺を守れと言う命令か?俺がなるべく傷付かないように援護しろという命令か?…違うだろう。お前達が受けた命令はヴィヴィオの護衛だ。そして、それは俺も同じ。…もっと早く駆け付けられていればなのは達に苦しい思いをさせずに済んだかもしれない。でもその中には俺は含まれていないはずだ。…俺自身こうなる事は覚悟の上だった。それでも行かなきゃ、守れないものもある。…と言い訳はいくらでも言えるが、…ティアナに説教する資格は俺には無かったかもしれないな。話がずれたが、こうなる事を知っていたにも拘らず戦場に立った俺が悪い。…それで終わりだ。」
「「「翔馬さん…」」」
「だからお前達だけがそうやって気にする必要はない。むしろお前達はちゃんと守るべきものを守れた。それは胸を張っていい事だ。決して後ろ向きになるようなことじゃない。…わかったか?」
翔馬は言いたいことは全て言い切ったとばかりに深くベッドに沈み込んだ。流石に起き抜けの真面目な話は少しだけ体に障ったのだろう。スバル達は心配そうに駆け寄り翔馬の体に気を遣う。そんなスバル達の様子を見て翔馬は溜息を吐くと、右手で拳を作るとスバルの頭をコツンと叩いた。
「…ったく。気にするなって言ってるはずなんだが?…そんなに俺の事を気遣っている暇があったら訓練をこなして俺よりも強くなって見せろ。俺を心配するなんてお前達にはまだ早い。わかったらさっさと行け。」
翔馬はスバル達を病室から追い出すように言うとスバル達は真剣な表情で一度翔馬を見つめてから、入って来た時同様深く頭を下げた。
「「「「本当にすみませんでした!!」」」」
「はぁ…。分かったからさっさと行け。」
「「「「はい!!」」」」
翔馬は度々の謝罪に対して呆れた様に溜息を吐いてスバル達を見送った。しかし、スバル達が居なくなると翔馬は呆れ顔から笑みに表情を変えた。なぜなら、スバル達が顔を上げた瞬間の表情は何かを決意した様な真っ直ぐな瞳を翔馬に向けていたからだ。あの目ができる人間は居そうで実は少なかったりする。人間決意をすると言っても、若干の揺らぎが生じるものだ。しかし、彼女達の目からはその揺らぎが一切見えなかった。
「また、あいつらに火を点けちまったみたいだな…。」
翔馬は今から楽しみで仕方ないというような表情で窓越しに隊舎へと帰っていくスバル達を見つめ、心地いい感覚に身を委ねてまた、眠りにつくのだった。
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それから半刻程の時間が過ぎ、自分の手に何か温かく包まれている感覚を感じながら翔馬はまた目を覚ました。そして、白い天井から視線を横にずらすとそこにいたのはなのはとそれを後ろから見守っているフェイトの姿だった。
「今日はやけに来客が多いな…。」
翔馬は再度目を瞑って、口元に笑みを浮かべながらそう言うと、なのはとフェイトは苦笑いを浮かべる。
「仕方ないよ。翔馬君がこんなことになって6課の皆、すっごく心配してるんだから。」
「そうだよ?寝ている間にもシグナムやヴィータもお見舞いに来てくれて。…2人は出張のついでだって言ってたけど、2共、ずっと気にしててくれたんだよ。もちろん私やなのはもね。」
そう言われて翔馬は頭のすぐそばにある机の上を見ると確かにスバル達が来た時よりも明らかにお見舞いの品が多くなっていた。
「結構心配かけてたんだな…。」
流石の翔馬も少しバツが悪いような顔をしてそのお土産の品を見つめる。対してなのはた達は翔馬の体に気を遣うかのように心配げな表情を浮かべながら、少し体勢を変えたそうにした翔馬の体を少しだけ体を起こすと顔を覗き込むようにして尋ねる。
「体は大丈夫?」
「と言っても、完全に6課からも絶対安静が出てるわけだし…辛いよね。」
2人の心配そうな表情を見ると嘘でも大丈夫だと言い張りたいところだが、それはかえって2人を辛い思いにするだけだろうと考え、自分が感じる現状を素直に話すことに決めると1つ深く息を吐いてからなのは達に顔を向ける。
「まぁ、今の所は主治医の言っていた通りだ。状態じゃ、体は動かせても戦場ではまともに戦えないだろう。ここは設備が良くて普通の治療以外にも手を尽くしてくれるそうだから、シャマルの医務室にいるよりはある程度回復を早められるらしいが…、実際にどの程度短縮できるかはまだわからない。丸一日経ってこの様子なら明後日の意見陳述会にも何とか顔を出す位はできるだろうけどな…。」
と、翔馬は少しだけ笑って見せてから、言葉を続けようとしたがなのはとフェイトは翔馬の最後の言葉に驚いた表情を見せる。
「そんなのダメだよ!!…ただでさえ怪我も塞がってないのに!」
「翔馬。また同じことを繰り返すつもりなの?」
真剣に翔馬を気遣う2人はなのはは心配げな表情を浮かべながら必死に、フェイトは怒ったような表情で冷静にそう言うと、逆に翔馬が驚いてから苦笑いを浮かべる。
「いや、悪い。そんなつもりは全くないから安心してくれ。例え話だ。もし行くことになれば行けるかもしれないが、確実にお前達のお荷物になるだけだから、ここで安静にしとくつもりだ。…って言いたかっただけなんだけどな。流石の俺も、2度あることは3度あるなんて事をこれで実践したくないしな。」
そう言い終わると2人はやっと、安堵したかのように肩の力を抜いた。
「それなら妙なところで、溜め作らないでよ…。」
「もう。また無茶するつもりなのかと思っちゃったよ?」
2人はまだ言い足りないのかその後も翔馬に説教の様に捲し立てること20分。
「これからは無茶なんか絶対ダメなんだからね?」
「分かった?翔馬。」
「…十分理解した。」
翔馬は疲れ切ったかのように頷くと2人はやっと満足したのか笑顔になる。
「…っと、話してたらなんか喉乾いちゃった。翔馬も飲み物位は飲めるよね?私ちょっと買って来るから、少し待ってて。」
と、フェイトはそう言っておもむろに立ち上がるとそのまま病室を出て行ってしまう。
「あ、…行っちゃった。」
「だな。」
なのはと翔馬は咄嗟の事に反応できず、フェイトの後ろ姿を見送ってしまい遅れて声が漏れる。話はある程度終わったので隊舎に戻ろうかと考えていたなのははいきなり2人きりにされてしまったため、何を話した物かと少し考え込む。が、その必要は無かったようで、内容はともかく翔馬の方から話題が振られた。
「…意見陳述会、大丈夫そうか?」
少しだけ心配そうな表情で尋ねる翔馬になのはは真剣な表情で答える。
「楽観視はできないだろうけど、今のスバル達なら問題ないと思うよ。それに、今回はスターズ隊、ライトニング隊のフルメンバーに加えてはやてちゃんも警護に当たってくれるし、聖王教会も手を貸してくれる。」
その回答は翔馬が安心出来るほど手厚い警備体制だったが、その回答を口にした本人に陰りが差していることに気付いた翔馬はすんなりと安心することはできず、更に問いかけた。
「何か懸念でもあるのか?」
「あはは…。」
なのはは、『やっぱりわかっちゃう?』とおどけた様に言って見せるが、何かを危惧しているよう、いや、何かに不安を抱いているかのような表情浮かべながら翔馬に顔を向けた。
「ちょっとだけね、不安があるんだ。…グレアム中将が警備に対して、対応がやっぱり良くないってこと。後は、今回の相手がジェイル・スカリエッティなら、騒動を起こすだけのメリットが見当たらない。わざわざ、危険な敵地にまで乗り込んで何がしたいのか。…想像はいくらでもできるけど、これっていう理由が全く見当たらない…。そんな感じで色々と考えてたら、ホントに何事も無くこの事件が終わるのかなって。…少しだけ思っちゃったんだ。」
なのはのいつになく後ろ向きな発言に翔馬は少し驚くが、なのはの言葉が終わる頃には少しだけ笑みを浮かべてなのはを見つめていた。そんな翔馬の様子になのはは面白くなさそうにそっぽを向いたが翔馬は構わずに声を掛けた。
「誰かの考えてることなんて、口にしないと他人じゃ絶対に理解できないし、口にしたって理解出来るって訳でもない。…それは他の誰でもない、なのはが一番よく知っている事の筈だろ?何の事情も知らずに戦わなくてはいけなくなった時、話をして相手の事を理解しても譲れないものがあった時、なのははいつもどうしていた?」
「……。えっと…。」
「もう、なのはの中で答えは出てるはずだ。…そうだろ?」
翔馬の言葉になのはは胸の中でつっかえていた何かが取り除かれるような不思議な感覚と共に、今まで感じていた不安が消え去っていた。そして、なのはが顔を上げるとそこにはいつも通りの笑顔があり、翔馬はそれを見て何故かドキリと心臓が跳ねてしまった。
「ありがと。翔馬君、そうだね。翔馬君の言う通りかもしれない。」
「あ、ああ。…それならよかった。」
なのはの言葉に翔馬は思わず顔を逸らして取り敢えず頷くと、何故自分がこんな状況に陥っているのか整理しようと少し考え込む。しかし、何故か頭が回らず原因の追及もまともにできず、頭の中にはなのはの笑顔が浮かんできてしまっていた。それを振り払うかのように軽く頭を振って追い出そうとすると、なのはが翔馬の様子がおかしいことに気付きベッドに寝ている翔馬の顔を覗き込んだ。
「翔馬君?…どうかしたの?…もしかして話し過ぎて疲れちゃったとか?」
「っ!?…そうじゃない。俺は大丈夫だから。」
「?…そっか。」
なのはは翔馬の言葉に疑問符を浮かべるが翔馬が嘘をついているわけではない事がわかるとまた先程の様な笑顔を浮かべて、『良かった』と一言言うとゆったりと歩いて椅子に座りなおした。そして、翔馬は再度、なのはの笑顔を見た瞬間に理解した。何故こんな時にこんなにも自分の胸の高まりが収まらないのか。
「そういう、事か…。」
「ん?…翔馬君、何か言った?」
「いや…。」
なのはは首を傾げて翔馬に問いかけるが、翔馬は首を振って誤魔化すように少し苦笑いを浮かべ、なのはとの出会いについて記憶を振り返っていた。なのはとの出会いはあの事件の時だ。最初の印象は他の魔導師ともさほど変わらなかっただろう。幼いながらも大人顔負けの膨大な魔力量、制御が難しいと言われている飛行魔法。そして、なによりレアスキルの魔力収束。ベテランと言われている魔導士ですら敵わない才能をなのはは持っていた。だから、翔馬はこの子に負けられないと思う反面、彼女の持つ才能を羨ましくも思った。その頃の翔馬はレアスキルがないどころかまともに飛ぶことすらできなかったのだから。しかし、なのははそれを自慢げにする訳でもなく年相応の笑顔を浮かべながら1人の魔導師として『皆さんのお手伝いに来ました』と、そう言って熱心に仕事に取り組んでいた。さらに、翔馬の印象を強くしたのはなのはの瞳に映る強さだった。それが何なのかは当時、良くわからなかったが今ならわかる。何かを必死で何かを守ろうとする強い意志。その瞳を見た瞬間、翔馬は直感的ではあったが自分よりも多くの経験を積み苦難を乗り越えてきたのだいう事を理解することになり、きっとこの子には敵わないのだろうと思わざるを得なかった。そのため、翔馬は羨ましさと悔しさが入り混じったとても複雑な思いをさせられ、パートナーのシエルにその感情を打ち明け気分を落ち着けたものだ。しかし、当の本人はこっちの気も知らずに隣に佇む不愛想な赤い服の女の子と無邪気に笑い合っているというなんとも翔馬にとって面白くない出会いだった。そんななのはとの初対面は、思い返そうと思えば昨日の様に鮮明に思い出すことができる。翔馬にとってそれ程までになのはとの出会いは色んな意味でとても印象的だったのだ。しかし、そんな出会いから悲劇は始まりなのはと共に翔馬は病院へ担ぎ込まれる。戦場で生きる意味を失った翔馬はまさに抜け殻の状態だった。しかし、なのはの友人やなのは自身に励まされ翔馬は人のために生きることを決意することができた。そして、リハビリを終えて彼女が久々に空を飛んだときの笑顔。それは僅かながらも共に過ごした翔馬が見た中でも最高の笑顔だった。そして、辺りを少し見回してみればそこにはたくさんの笑顔があった。彼女の笑顔は誰かを幸せにできる笑顔なのだ。今思えば、そう思った時から翔馬は少なからず彼女に惹かれていたのだろう。仲間想いの優しさと、自分の想いを付き通す不屈の精神という強さを兼ね揃えた高町なのはという少女に。
「…君。しょ…君。翔馬君ってば!!」
「っ!?…なのは?」
「なのは?じゃないよ。心配したんだよ?…声かけても全く気が付かないし。」
翔馬はビクッと体を震わせて大袈裟になのはの方を振り向くと、なのははそう言って頬を膨らませながら翔馬を軽くの睨んでいた。そんななのはを見て翔馬は軽く笑ってベッドに背中を預ける。
「悪い。少し昔の事を思い出してた。…少し懐かしい記憶を。」
「…もう。」
翔馬がそう言うとなのはは呆れた様に溜息をつき、しかし、最後にはやはり笑顔を浮かべるのだった。そんな様子を部屋の外から見ていた人物が1人。
「2人共、仲いいなぁ。…全く。少し妬けちゃうよ。…なのは。」
そう言って寂しげに微笑むと何かを振り切ったようにいつもの笑顔を浮かべ、大袈裟に空いている部屋のドアをノックした。
「お2人さん。良い雰囲気のところお邪魔します。お飲み物をお持ちしましたが?」
「あ、フェイトちゃん。…あはは。お帰り。」
「……覗いてたのか?」
突然のフェイトの登場になのはは少し気まずげに、翔馬は訝しむような目でフェイトを見つめる。すると、フェイトは悪戯な表情を浮かべると手に持った缶ジュースを弄びながらベッドへと歩いてくる。
「覗きなんてひどいなぁ。私はただジュース買ってきただけなのに。…それとも私に知られたらまずい事でもしてたの?」
「…そんなことする訳ないだろ。」
「そうそう。ただ、私達お喋りしてただけだし…。」
2人は何故かお互いにフェイトの表情に何か嫌なものを感じ、別に疚しいことをした自覚も無いのになぜか言い訳じみた返しになってしまった。しかし、見られても恥ずかしくなかったかと言われればそうではなかったため、2人共内心で軽く安堵の溜息をついたのだが…今のフェイトはそんなに甘くは無かった。
「そうだよね。…翔馬がなのはに近寄られて顔を赤くしてたりとか。なのはが翔馬の心配をする振りして手を離して何とか恥ずかしさを紛らわしてたりとか。…うん。私、何にも知らないよ?」
「なっ!?」
「フェイトちゃん!?」
「ふふっ。はい。ジュース。」
フェイトは2人の慌てっぷりに満足したのかとてもいい笑顔を浮かべながら2人に買ってきた飲み物を手渡す。対して2人は突然の羞恥プレイに顔を赤くしながら飲み物を呷る様に飲み干した。
「んんっ。…ところで」
「ん?」
「なぁに?」
翔馬は気まずさを誤魔化すために一つ咳払いをしてから2人に視線を移す。なのははまだ恥ずかしさが抜けないのか横目で伺うように、フェイトはニヤニヤしながら翔馬を方を向いた。翔馬はフェイトの視線から逃れるように目を逸らそうとするが、諦めた様に溜息をついてから少し気になっていたことを尋ねる。
「…ヴィヴィオはどうするつもりなんだ?面倒を見てくれる人いるのか?」
「ああ、そうだったね。今回は機動6課の主要メンバーは全員出動だし…。」
「一応、アイナさんにいない間は面倒を見てもらうことになってるよ。ここに来る前に話をしたばかりだったから、フェイトちゃんにも伝え忘れてたよ。」
翔馬の問いにフェイトは思い出したかのように頭を悩ませている様子だったが、なのはが既に手を打っていたようでフェイトは安心したような表情を浮かべた。
「それなら、安心かな。」
「そうだな。でも、シエルのあの言葉。…少し気になるな。」
「シエルちゃんがホントはジェイル・スカリエッティを止めるために向こうにいる…ってやつ?」
なのはの言葉に翔馬は軽く首を横に振った。
「いや、それも気になるにはなるが、シエルがどう動こうと俺達は俺達のやることをするだけだ。…ただ、あいつの言っていたヴィヴィオがスカリエッティの手に渡らなかったときに起こる被害、そして渡ったときに起こる被害。そして、あいつはシエルはどうしてもヴィヴィオが手に入らなかったときの被害を恐れている。…それが引っ掛かる。」
なのはとフェイトは翔馬の言葉に真剣に悩みながら目線を翔馬に合わせる。
「どちらにせよ、何かが起こるのは間違いないってことだね。」
「だとしたら…ううん。どんなことが起きたってヴィヴィオは守りきってみせるよ。…あ、そういうことか。」
「気付いたか?」
フェイトとなのはは何が起きても解決して見せると意気込んだが、なのはは自分の言葉に翔馬の言おうとしていることを理解した。
「シエルちゃんがヴィヴィオのいない時に起こる何かを気にしているなら今回の機動6課が手薄な所を狙ってくる可能性がある?」
「正解だ。…もしかしたら本当の狙いはそちらにあるのかもしれない。シエルだけでなく、ジェイル・スカリエッティにも。」
「そんな。…でも。」
なのはと翔馬のいう事はわかるが、それでも管理局地上本部を逆に手薄にする訳にもいかない。だからこそ、3人は難しい顔をして悩み込んだ。しかし、それでも答えは出なかった。先延ばしにする訳にいかない状況だが現状打つ手は無いと言っても過言ではないだろう。なんせ相手はジェイル・スカリエッティの本気なのだから。
「やっぱり俺が…。」
「「それはダメ!!」」
翔馬が一度は引っ込めたはずの言葉を再度口にした瞬間、2人は病院であることも忘れて大声で叫んだ。方法がないのも分かっている。確かに翔馬が機動6課に残るだけでヴィヴィオが攫われる可能性はずっと低くなるだろう。しかし、それでもこれ以上翔馬に無理を重ねさせるわけにはいかなかった。だからこそ、2人は頼りたい思いに必死に蓋をしたのだった。
「それだけはダメだよ…。これ以上は翔馬君が…。」
「だけどそうする以外に方法が無いのはわかってるだろ?」
「…大丈夫。私がやるよ。機動力のあるライトニング隊は遊撃部隊として何かあれば機動6課に直ぐに向かう。最悪私のブリッツアクションで6課まで飛べばいい。あの距離なら襲撃が判明してからでも十分間に合うよ。…それに、6課にはちゃんと守ってくれる人たちがいる。」
フェイトは優しい微笑みを浮かべた。
「だから、翔馬は少しでも早く復帰できるようにここで待ってて。」
「うん。フェイトちゃんが動いてくれるなら、私は確実に地上本部を守るよ。…私達だけでもやれる。うん。やれるよ。だから、ね?」
「フェイト、なのは…。…はぁ。わかったよ。俺はここで待ってる。だけど、約束してくれ。絶対に誰一人として欠けずに帰って来てくれ。俺のわがままだってことはわかってる。無茶をした俺が言える義理でもないのかもしれない…。でも…!!」
そう言って翔馬は言葉を発している最中に俯いてしまった顔を上げた瞬間そこには2人の優しい笑顔があり、いつの間にか翔馬の手は2人の温もりに包まれていた。それを見て翔馬は思わず言葉を止めて2人を見つめていた。
「…。」
「大丈夫。私達はちゃんと帰って来るよ。」
「うん。誰一人欠けずに帰って来る。ちゃんと守ってみせるよ。そのための機動6課だからね。」
「…そうか。任せたぞ。」
「「任せて!!」」
そう言った2人は瞳の中に決意の炎を灯していた。