魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~   作:strike

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お久しぶりです。
丁度一か月ぶりですね…。
書き出した頃の勢いはどこへやらと言わんばかりの更新速度になっていますが、
完結までは何とか書きたいと思ってますのでこれからもよろしくお願いします。

さて、今回からオリジナルの展開が多く含まれる予定です。
今まで原作沿いもいい所でしたので、最後の展開位はと思いました。
これを読んで楽しんでいって貰えたらうれしいです。

相変わらずご意見ご感想はお待ちしてます。

それでは第31話スタートです。



第31話 離れて行く想い

 

 

管理局地上本部襲撃事件は一時、幕を閉じた。

結果としては地上本部は壊滅。地上本部がその役割を取り戻すにはしばらく時間が掛かるだろう。外部から見ればジェイル・スカリエッティの目的は達したように見えた。しかし、聖王の器であるヴィヴィオの死守には成功し、聖王のゆりかごがすぐに起動する危険は無くなる。そのため、スカリエッティ一味、そして機動6課から見れば目的の達成は半々という結果となったのだが、当事者たちがそんな結果を知る由も無く、事件の後始末は続いていた。現在機動6課含め管理局魔導師は事後処理に追われており、そんな中、なのはは地上本部の事後処理を行いながらある知らせを待っていた。

 

『…こちらライトニング1。機動6課各隊長に報告します。』

『フェイト執務官。そっちの状況はどないや?』

『隊員達は…無事?』

 

機動6課に向かったフェイトからの報告が届き、はやてとなのはは一旦手を止めて報告に耳を傾ける。

 

『こちらは隊舎が半壊…というよりほぼ全壊と言った方が良いかな。今は消火活動を最優先で動いてます。隊員達は重軽傷者をすべて搬送完了。一番酷いのはヴァイス陸曹とザフィーラ。意識不明の重体。それ以外の隊員はバックヤード含め軽傷みたいで中には意識を失ってた人もいたけど、復帰は早そうだったよ。』

『そっか…。』

 

その報告を受けたはやては最悪の事態には陥っていないものの負傷者を多く出してしまったことに対して責任を感じながら、少しだけ悔しそうに表情を歪める。一方でなのはは、一番気掛かりだった報告が無かったため、焦りが募り堪え切れず状況を知るフェイトに対して不安げな表情を向けた。

 

『フェイトちゃん。…あの。』

『なのは…。…今回、ジェイル・スカリエッティが目標としたヴィヴィオ。そして、ヴィヴィオの保護を務めていたアイナさんは、現在……行方不明です。』

『『なっ!?』』

 

フェイトはなのはの表情を見て少し言いにくそうにしてから状況を伝えると、はやては考え事を中断して自分の対応の甘さに唇をかみ締めながら向け先の無い怒りを瞳にこめてスカリエッティ一味が撤退して行った方向を見つめた。そして、なのははフェイトの報告に対して言葉を発することも出来ず、目の前が真っ暗になるかのような感覚を感じながら唇を震わせて俯いた。そして、思い出すのはここに来る前に交わしたあの別れ際の指切りだった。

 

《明日の夜には帰るからね。…いい子にしてたらヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげる。》

 

その言葉を聞いたヴィヴィオは不安そうにしながらもなのはの事を見送ってくれた。それなのに、あの言葉を反故にしてしまった。守ると決めた大切な娘同然の少女を守ることができなかった。その感情で胸が締め付けられる思いを感じながらなのははフェイトの声で我に返る。

 

『…のは。なのは!!』

『っ!?…フェイト……ちゃん?』

『なのはちゃん…。大丈夫?』

 

呼びかけに返事の無いなのはを心配した2人の声になのはは無理矢理笑って見せ、頷いた。

 

『うん。私は大丈夫だよ。…ゴメンね。フェイトちゃん。はやてちゃん。…ありがと。まずは目の前の事を片付けなくちゃ…。』

『待って!なのは。まだ報告には続きがあるの。』

 

現場の仕事を早く終わらせようとなのはが足を踏み出した瞬間、フェイトからの声が掛かりなのははその足を止める。しかし、今の状態ではフェイトの顔を見ることは出来ず、そのままの状態で耳を傾けることにしたが、被害状況と人員の確認が終わった時点で、いや、ヴィヴィオが無事ではない事を聞いた時点でこれ以上聞くことは無いと思いながら、俯いた形でフェイトの言葉を待った。

 

『さっきのヴィヴィオとアイナさんが行方不明になってるって報告だけど、…実は、その行方を知っている人がいないか少し確認を取ってみたの。そしたら、意識を取り戻した隊員達数名が機動6課の襲撃前にアイナさんとヴィヴィオが手を繋いでどこかへ出かけるのを見かけたという証言があって、…行方や詳細は聞かなかったらしいからまだ確定はでないけど、もしかしたらまだ攫われたって訳じゃないかも知れない。だから、現在捜索部隊を編成して…』

『報告途中すまない。その件でこっちも報告がある。』

『『『翔馬(君)!?』』』

 

フェイトがヴィヴィオの行方について詳細の報告とこれからの対応を言い切ろうとした瞬間、新たな回線が開き、報告を行っていたフェイトとそれを聞いていたはやて、なのははその人物の突然の割り込みに驚きの表情でモニターに映る翔馬を見つめた。そして、なのはは翔馬の顔を見つめた瞬間、緊張の糸が切れてしまったのか堪え切れず目に涙を浮かべながら翔馬を見つめた。

 

『翔馬君…。私、ヴィヴィオが…。うっ…。』

『なのは。…取り敢えず落ち着け。大丈夫だから。ヴィヴィオは俺の元に居る。ヴィヴィオ。ほら。』

 

なのはの泣き出しそうな顔を見た翔馬は、優しい笑みを浮かべながら落ち着かせようとしてなのはに声を掛けてから、ヴィヴィオの顔がモニターに映る様に調整した。するとヴィヴィオは母親の顔を見るなりとびっきりの笑顔を浮かべて声を上げた。

 

『ママ~。良い子してた!!』

『うそ…。ヴィヴィオ!?…本当に、ヴィヴィオなの!?』

 

なのははモニターに写るヴィヴィオを見ても信じられない様子で思わず目の前のヴィヴィオに正体を問いかける。しかし、当の本人は現状を理解しているはずも無いため首を傾げながら不思議そうになのはを見つめた。

 

『ん?ヴィヴィオだよ~。』

『本物だ。6課が襲撃を受ける前に病院へ俺の見舞いに来てたんだ。…俺ももヴィヴィオが顔を出した時、焦ってな。そちらに報告するのが遅れてしまった。…悪かった。』

 

翔馬はなのはがまだ信じられないような表情を浮かべていたので、ヴィヴィオの頭を撫でながら事情を簡単に説明した。そして、普段と変わらないヴィヴィオの姿と、翔馬の言葉を聞いてやっとなのははヴィヴィオが攫われることなく無事だったのだと理解し、一旦回線を切ってその場に崩れ落ちた。

 

「あ、あぁ。…ヴィヴィオ。良かった……。本当に…。」

 

そう言ってなのはは1人、安堵の涙を少しだけ流しながら、娘の無事を心から喜ぶのだった。そして、暫くして落ち着いてから再度通信でそれぞれが報告を終わらせると、少しだけヴィヴィオとの会話をしたなのはは、仕事モードに切り替えて現場の作業をいつもより少しだけ気合を入れて進めて行ったのだった。

 

 

 

 

----------------------------------------------------

 

 

 

 

あれから数日が経ち、機動6課では管理局本部と同様に事後処理が行われていた。

襲撃のあった隊舎は施設としての面影はあったがその姿は以前の職場とは思えない程、至る場所が崩壊していた。その中でもまだ使用できる物資や情報をかき集め、そして、今回の襲撃で傷を負った負傷者達のデータをまとめていた。機動6課の再稼働にはいましばらくの時間が掛かりそうで、今日も各隊長はそれぞれの持ち場で処理を進める。その中には入院中であるはずの翔馬の姿もあった。

 

「翔馬君。……無理しない方が良いんじゃない?ここの処理は私達だけでも回せるんだし…。」

 

当たり前のように隣を歩く翔馬になのはは耐え切れずに声を掛けた。しかし、当の本人はそれを気にする様子も無く携帯端末を操作しながら口を開く。

 

「今は1人でも作業者は多い方が良いだろ?ただでさえ、あの襲撃で動けない人間が多いんだから。…他のとこから応援を呼んでるとは言え、ここの施設を知っている人がいた方が効率もいいしな。」

 

そう言って、翔馬はその場で報告内容に目を通しながらまだ報告がないエリアへと足を延ばす。それを見たなのはは慌てて翔馬の隣に付くと相変わらず無理を通してしまう性格に溜息をつきながらも翔馬の向かう先に足を向けた。そして、暫く歩いていると隊員達が集まって作業している所に出くわし、翔馬はそちらに駆け寄って状況の確認を行うと的確に指示を出し、隊員達が効率よく動き始めるのを見ると満足そうにしてなのはの元に帰って来た。そして、その様子を見たなのはは何かに気付いたかのように厳しい表情で翔馬を見つめていたが、当の本人はそれに気付くことも無く、相変わらず仕事熱心なだけなのか鈍感なのか携帯端末に目を落しながら歩みを再開した。なのはが気付いたのは怪我の事ではない。なのはは既に翔馬の怪我については現状を知っているし、翔馬がこの場にいるのも無理の無いことだと言う事も理解している。今、怪我人の多い機動6課の中で、動ける隊員達は少しの無理をしてでも1日も早く機動6課が運用できるようにと働いているし、翔馬の怪我も完治とは言えなくともこのような雑務なら問題は無いだろう。翔馬が怪我しながらも仕事進めることに関しては何も問題は無い。だが、なのはが気にしていたのはそこではなくここ数日の翔馬の様子だった。最近、なのはは翔馬の様子を見ていると何か違和感を感じる事が多くなっていた。その違和感が何かと問われると答えるのは難しいのだが、とにかく、いつも共に仕事をこなす翔馬の姿とはどこか違う印象を受ける。そう思ったなのはは直接本人に聞くのが一番良い事だと理解しながらも、なんとなくそれが躊躇われたため、代わりに先日、昔からの付き合いがあるフェイトやはやてに相談を持ち掛けてみた。しかし、2人の回答はなのはの満足いくような回答ではなく、翔馬に何か変わった様子など何もないと言う。それどころか

 

『さては、なのはちゃん。翔馬君に恋しとるんちゃうか?』

 

と、はやてにはからかわれ、さらにフェイトからも驚いた様子を浮かべながら興味津々で2人に色々と聞かれてしまった。しかし、なのは自分自身、今の関係をうまく話すことができなかったため何とか誤魔化したのだが、部隊長室から出て行く際に見たはやての表情は絶対に何かを悟られてしまったと確信できる表情を浮かべており、後で何を言われるものかと後悔しながらその場を後にするのだった。…話は逸れてしまったが、なのははそのようなこともあって翔馬の様子は自分の勘違いだと思い込み、仕事の時も普段の生活の中でも意識しないようにしてきた。しかし、今日、1日ペアを組んでみてやはり翔馬の様子が何かおかしいという事に気付いてしまった。そして、それはなのはの不安を募らせるようなとても嫌な予感と共に。…あの日、翔馬がヴィヴィオを保護していた事がわかった日はとてつもなく忙しい日となった。地上本部での事後処理が一旦キリの良い所まで終わったのは既に日が昇りかけていた頃で、その後、機動6課の隊員達は地上部隊の隊員達に引継ぎを行って襲撃のあった隊舎へと帰投した。その中でも、なのははヴィヴィオの無事を一刻も早くこの目で確認するため、隊舎に着くなり翔馬の病院へと直ぐに駆け付けた。その時の様子は翔馬も驚いたほどで、病室のドアが大きな音を立てて開けられたかと思うとそこには額に汗を滲ませて大きく息を切らしながらヴィヴィオの姿を探すなのはの姿があり、探していた大事な娘の姿を見つけたなのははその場にへたり込んでしまった。いつものなのはからは考えられないような行動に翔馬だけではなくアイナも驚いていたようだった。その時の翔馬の様子は確認していなかったが思えばすでにその時から何かがおかしかったのだろう。しかし、病室の前で座り込んでしまい、安心して涙目のなのははそれに気付く事無く優しく微笑んで近くに来てくれた翔馬の胸を貸りて少しだけ誰にも見えない所で涙流していた。だから、なのはが翔馬の異変に気付き始めたのはその翌日以降の事。翔馬の行動に違和感を感じながらも、それを傍から見守り続けて今日に至る。しかし、いつまでもこのままにして置くわけにも行かないと考えたなのはは報告の無かったエリア。つまり、誰もいない場所に辿り着いてから意を決して翔馬に声を掛けた。

 

「あのさ…。翔馬君。」

「ん?どうした?」

 

翔馬はなのはの声のトーンがいつもの仕事の時と違うことに気付いて足を止めるとなのはに向き直った。すると、なのはは少しだけ戸惑いの表情を見せながらも口を開く。

 

「えっと、…翔馬君、あの事件以降…何かあった?」

「何かって…。どうしてだ?」

 

なのはの言葉を聞いても翔馬の様子は変わらず、自分の勘違いかと思いたくなるような返答だった。しかし、それは翔馬の口から聞かなければ本当かどうかは分からない。何でもないと言いそうになった声をどうにか押し留めて、再度口を開らいた。

 

「ここ数日、翔馬君いつもと違う感じがするの…。だから、何かあったんじゃないかって。」

 

そう言ったなのはの瞳は酷く不安げに揺れていて、胸元で握りしめていた手は少しだけ震えていた。その様子を見て流石の翔馬も動揺せずにはいられず少し考える素振りをしたがそれも一瞬で、翔馬は吹っ切れたかのようないつもの優しい笑みを浮かべてなのはの頭を撫でながら不安げに揺れていた瞳をしっかりと見つめる。

 

「…上手く隠してたつもりだったんだけどな。やっぱり、なのはにはばれるか。」

「それじゃ、やっぱり、何かあったの?」

「…少しな。ただ、今ここでは言えない。…誰が聴いてるかもわからないところで話せる内容じゃないんだ。この話は今夜、必ず話す。だから、それまで待っていてくれないか?」

 

翔馬は今まで隠していた事や今すぐに話せないことに罪悪感を感じているのか、笑みを引っ込めて申し訳なさそうにしながらも小声でなのはに告げる。それを見たなのははそれ以上聞くことはできずに最後に一つだけ尋ねることにした。

 

「必ず、話しを聞かせてくれるんだよね?」

 

相変わらず心配そうに揺らす瞳に翔馬は力強く頷いた。

 

「ああ、必ずだ。」

 

そう言って約束を交わした2人はその後、必要最低限の言葉しか交わさず目の前のある仕事を確実に進めて行った。しかし、そのエリアにはパッと見て使えそうな物は残っておらず、後から来た隊員達にその場を任せると一旦外へと出て隊員達への指示を出しながら情報の整理を行っていった。そして、気が付けば日は暮れ、暗所での作業は危険ということでそれぞれ隊員達は奇跡的に無事だった宿舎の方へと移動を開始した。そんな中、なのはは1人そわそわしながらその隊員達の後を付いて行き、その様子を後ろから見ていた翔馬はなのはの肩を叩いて耳元に口を寄せた。

 

「今日の22時、宿舎の屋上で待ってる。」

「えっ!?」

 

唐突に耳元で囁かれ、驚いてその声の方向を見ると既にその姿は無く、視線を前に戻すといつの間にか翔馬は先に行っていた他の隊員と話しながら隊舎へと向かっていた。それを見ながらなのはは何とも言えない気持ちになりつつも1つ深呼吸をして、覚悟を決めたかのような強い眼差しを翔馬の後姿に向けながら宿舎の中へと入って行った。そしてさらに時は過ぎて、約束の時間の少し前。こうして待っている間の時間は長いものだが、実際にその時になってみると早かったなと思ってしまうのは誰でも経験のある事だろう。なのはは夜風になびく髪を押さえながら約束の場所で人を待っていた。そして約束の時間ぴったりになると屋上と宿舎を繋ぐ唯一のドアが開いた。

 

「悪い。待たせたか?」

「ううん。私もさっき来たところだから。」

「…そうか。」

 

翔馬は、なのはのなびく髪を押さえながら振り向く姿に一瞬見惚れて声に詰まるが、何事も無かったかのように誤魔化して隣に立つと夜空を見上げ、なのはも翔馬に倣うようにして夜空を見上げた。

 

「何から話すかな…。まずは、大雑把に結果からな。」

「…うん。」

 

なのはは、夜風が寒いのか体を震わせる。いや、もしかしたら本能的に翔馬がこれから話す内容が自分にとって良くないものだと感じ取ったからだろうか。どちらにせよ、翔馬はその様子を放って置けるはずも無く自分の体に引き寄せるとなのはの肩を抱きしめ、なのはもそれに抗う事無く身を委ねた。すると、先程震えてた体が嘘のように静まり2人は見つめ合って少しだけ笑った。そして翔馬は表情を引き締めると、あの日シエルと出会ったことを話し始めた。

 

「実は、事件の終盤、多分機動6課隊舎での戦闘が終わりかけ位の時刻だと思う。その時にシエルが病院に来た。目的はヴィヴィオの誘拐。それと、…俺をスカリエッティの所に連れて行くことだったらしい。」

「…翔馬君を?」

 

なのはは翔馬の言葉を聞いてもそこまで驚いた様子も無く、ただ、翔馬の肩に頭を預けて先を促した。そして、翔馬はそれに頷いて色々な話をした。スカリエティが聖王のゆりかご以外の殺戮兵器を持っているという事、そしてそのカギは既に手の中にあり、いつでも動かすことが可能だという事。そして、シエルはそれを阻止するために自分1人だけの力では足らず、翔馬の力も借りたいと言われた事。そして、

 

「…そして俺は、スカリエッティの元に行くことを……シエルと約束した。」

「翔馬、君?」

 

流石に何かがあったことを前もって知って、覚悟を決めていたなのはでもこの事には動揺を隠さずにはいれなかった。今までの翔馬の言葉に内心驚きを隠せない内容もあったが、それを表に出しては翔馬の話す全てを聞くことは出来ないと思ったからだ。そして、その考えは当たっていた。翔馬は元々、なのはの様子が変わり始めた時点で全ての内容が話せなくとも話を切り上げようと考えていたからだ。しかし、なのはは翔馬の交わした約束には流石に隠し切ることができずに、今まで預けていた体を起こして翔馬の顔を覗き込んだ。すると、そこには酷く歪んだ翔馬の顔があり、噛みしめた唇からは少しだけ血が滲んでいた。

 

「どう…して?…そんなことしたって翔馬君1人じゃ!!」

 

顔を見れば翔馬もとても悩んだ末に出した答えなのだという事はわかる。しかしそれでもなのはは叫ばずにはいられなかった。敵地に単騎で乗り込むことの危険性を翔馬だって理解している筈。むしろ、作戦のセオリーすら外れて危険を冒してまで得られるメリット等この方法には何もないことを一番よく知っているのも翔馬の筈だった。それなのに目の前の人はそれを選択しようとしている。いや、既にしてしまっていたのだ。

 

「悪いな…。相談もなしにこんな大事なこと決めて。」

「そうだよ…。何でこんな大事な事…!!」

 

翔馬は少し罪悪感を感じながら俯くと、なのはも俯いて呟き、2人の間にしばらくの沈黙が流れた。しかし、その長かったようで短かった沈黙は翔馬から破られた。

 

「ただ、わかって欲しいのは俺は身を投げてあの兵器を壊しにいくんじゃないってこと。そして何より、俺個人の事になるんだが…単騎で飛び込むデメリットを抱えてでも欲しかったメリットがあるんだ。」

「そんなメリットなんて…。」

 

なのはは翔馬の言葉を聞いても納得できなかった。確かに自分の命を掛けてでも何かを守らなければいけない場面は武装隊に所属している限り、必ずでは無いが運が悪ければやってきてしまう。しかし、今はそんな状況でも仲間と共に乗り越えることができる。少しでも多くの命を救うため、その手段を徹底的に模索して実行する技量と、知識を持つのが武装隊だ。救える命を、手放す必要のない命を取り零すなどあってはならないのだから。しかし、それを無視してまでに欲するものが何なのかは全く見当がつかなかったが、なのはは反対を押し通してでも先に行かせないつもりだった。翔馬から意外な望みを聞くまでは。

 

「俺が欲しいのは、ヴィヴィオが怯えて過ごさなくてもいい世界。…それが、欲しかった。」

「っ!?…翔馬…君?」

「俺らしくない戦う理由だろ?…でも、…病室にやってきたヴィヴィオを俺が守らないとと思った時、こうも思った。あの聖王のゆりかごが存在する限り、ヴィヴィオはきっと何者かに狙われ続けるんじゃないかって。そう思ったら、シエルの言葉は俺にとって好都合の話だった。あいつらの基地に行けば聖王のゆりかごの在処がわかる。そして、もしうまく行けばこの事件に関わった全ての物を取り押える、もしくは破壊ができるかもしれない。他にも俺が向こうに行くことで出来ることがたくさんあった。…だから、俺は向こうに行くことを決めたんだ。」

 

翔馬がそう答えるとなのはは驚いた様子で翔馬を見るが、次の瞬間には含みのある笑みで翔馬の事を優しく見つめた。

 

「ううん。そんなこと無いよ。…翔馬君がそこまで考えてくれてたの、すごく嬉しい。」

「その表情は勘弁してくれるか?…俺だってあいつと関わっちまったんだ、何も思わないわけ無いだろ?…救えるのなら、人造魔導師としてじゃなく、普通の女の子として生きて欲しいんだ。」

「うん。そうだね。…でも」

 

なのはは、翔馬の言葉を聞いて嬉しそうな表情から一転してやはり心配げな、不安そうな表情に変わり少しだけ顔を伏せた。それに対して翔馬はなのはの肩を優しく掴んで顔を上げさせると真剣な表情でなのはを見つめ返す。

 

「分かってる。危険が大きすぎることぐらい。でも、今やらなきゃ何時までもそれに怯えて暮らすことになる。それに、今回の件で人々が傷つきすぎた。またこんなことがあれば、更に被害が増えることになる。…いや、むしろスカリエッティのように自身の技術証明だけじゃなく、本当に殺戮を望む人間の手に渡れば、確実に被害は今回の比じゃないだろう。それを食い止めるためにも今行かなきゃならないんだ。」

 

翔馬の言葉をしっかりと受け止めた上でなのはは翔馬の決意の固さを理解し、悲しそうな目で翔馬を見つめ、ポツリと言葉を漏らした。

 

「翔馬君…。…私ね、教導隊に入っていろんな人を見てきた。その人達は、武装隊として色んな事件に挑むことになるんだけど、その事件は大小様々あって、中には命の危険もあるようなものもある。そんな状況になってもきっと笑って明日が迎えられるように、私は教導して来たつもりなんだ。でもね、…それでも明日を失った人たちもいるの。どんな状況でも絶対は無い。…それが、どうしようもない事だって言うのもわかってる。だけど…それでも、少しでも皆が生きて帰れる可能性が上がる道があるなら、私はその道を選びたい。それは今も変わらないんだよ?」

 

なのはは、自分の教導、そして行動の意義と想いを改めて翔馬に告げ、もう一度翔馬が考え直してくれればと強い眼差しを向けた。しかし、それも一瞬。なぜなら、翔馬はなのはの想いを既に理解していたし、どれだけ、自分が危ない橋を渡ろうとしているのかも全て理解した上で自分の成すべきことを見つけ、その道を歩もうとしていたのだ。想いを告げた先の瞳は、一度たりとも揺れる事無く、なのはを見つめ続けていた。そして、なのはは悟りたくない事実を悟ってしまう。もう、自分の声すら届きはしない。それほどまでに翔馬の意思は強固なものだとということを。

 

「どうしても、行っちゃうんだね…。」

「ああ、話せば確実にお前に止められることは予想できていた。…でも、それで俺の考えが変わることは無い。今は、これを成し遂げるために俺はこの機動六課に配属されたんだって、そう思ってるから。」

 

そう言った翔馬はまだ言って置きたいこともあったし、あわよくばなのはに理解してもらった上でここを離れたいと考えていたが、当初想像していた通りに彼女の意志も強かった。これ以上自分が話を続けても彼女の負担になるのは目に見えていたため今以上の迷惑を掛けないように、肩に置いた手を退けて背中を向け、その場から去るために足を進めた。

 

「こんな夜中に悪かったな。…それじゃ。」

 

それだけなのはに向かって声を掛けるとドアの前に立ち、後ろを振り向きたくなるのを必死にこらえながらドアノブ手を掛けた。

 

-----トスッ

 

そんな、軽い何かがぶつかるような音と共に翔馬の体に重みが増し、開けようとしていたドアを翔馬は開くことが出来なかった。

 

「行かないでよ…。どうして?…どうして、翔馬君が行かなきゃならないの!?」

「なのは…。」

 

ドアを開けようとした翔馬が感じた重みの原因は、背後から翔馬を引き止めるように抱きついたなのはだった。そして、なのはの口から漏れる声を聞いてきっと背中で涙を流していること、そして、翔馬はもうこの話をした時点で遅かったのだということを理解した。彼女にとってこれ以上の迷惑なんて有ったものではない。翔馬がいなくなる、それだけで負担も迷惑も、悲しみも既に許容オーバーだったのだから。そんな彼女に対して言葉が見つからず、翔馬はその場に立ち尽くすしかなかった。

 

「…分かってた。話を聞いた時点で、きっと翔馬君は行っちゃうんだろうって。…でも、私達は、ううん。私はどうなるの?確かに、翔馬君の行動で救われる命は多いかもしれない。…でも、もし失敗したら?…翔馬君の作戦が成しなかったら得られるものも無い、それどころか翔馬君までいなくなっちゃう!…そしたら私の生活はどうなるの!?…大切な、好きな人がいなくなった世界で、私は…。」

 

なのはの言葉に翔馬は自分の前に回された手を握ろうと手を動かすが、その直前で自分が彼女に触れる資格は無いと思ってしまうとその手に触れることは出来なかった。

 

「こんな言葉は慰めにもならないかもしれないが、必ず作戦を成功させる。そして帰ってくるよ。…なのはの所に。だから、今は行かせてくれ。…頼む。」

 

翔馬が口に出来たのはここまでだった。すると、ゆっくりとなのはの腕が解け翔馬の体から重みが無くなったことで翔馬は今まで感じていた温もりが感じられないことに、何かを失ってしまった喪失感を覚えた。しかし、翔馬はこれで良かったのだと自分に言い聞かせて改めてドアノブに手を掛けようとした時、聞き間違えだと思いたい言葉が夜風に乗って翔馬の耳に届き、思わず後ろを振り向いた。

 

「なの、は?」

「…私と、勝負をして。そして、負けた方が勝った方の言う事を何でも聞く。翔馬君が私に勝ってそれでも行くって言うなら私はもう止めないよ。…だから、…私と真剣勝負をして。」

 

そう言ったなのはの目からは涙が溢れ、その涙は頬を伝い地面に跡を残していく。しかし、そんな状況でもその瞳には不屈の炎が燃えている事が翔馬には分かった。彼女はきっとこれまで通り自分の意思を伝える為、そして大切なものを守るためにその力を振るうのだろう。そんな彼女の姿を見て、翔馬はこんな状況でも思わず、なのはを失いたく無いと思ってしまう程綺麗に見えてしまった。だからと言って翔馬の抱いていた思いもまた揺らぐことは無く、翔馬はついに首を横に振ることは出来なかった。そして、命運を分けるお互いの真剣な模擬戦が今ここに始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

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