魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~   作:strike

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明けましておめでとうございます。
では、遅すぎでしょうか…。

昨年は皆様に助けて頂いたり、応援を頂いたりとてもありがたい気持ちで小説を書かせて貰ってました。本当にありがとうございます。
書き始めの頃がとても懐かしく思いますね~。(半年と少ししか経っていませんがw)
今年も昨年以上に頑張って行こうと思っていますのでこれからもよろしくお願い致します。

関係ありませんが私はおみくじ大吉でしたw
いいことあるかも?…なんてw


長々となってしまいましたがお待たせしました。
いつもの通り感想やご意見お待ちしております。
それでは第32話スタートです。


第32話 別れと約束

 

場所は機動6課の訓練場上空。嵐が来る前の静けさとはこのような事を言うのだろうかと翔馬は目を閉じながら思っていた。現在、時刻は夜中ということもあり、辺りに明かりは見えず聞こえるのは波が岩礁に打ち付けられる音と、少し離れた場所で翔馬と同じように目を閉じる彼女の静かな息遣いだけだった。こんな格好では無く、状況も違えばいい雰囲とも言えるのだろうが、生憎とこれから始まるのは甘い男女のひと時とはかけ離れた、辛辣な戦闘だ。2人はそれぞれに思うこともあるのだろう。しかし、今は頭に浮かぶ雑念を捨て去り、ただ目の前の『敵』を倒すため、神経を集中させていた。そして、示し合わせた訳でもないのにお互いに同時のタイミングで目を開くと既にそこには行く手を阻む敵を見据える魔導師が2人いるだけだった。

 

「…準備はいい?」

「ああ、こっちは問題ない。」

 

沈黙を先に破ったのはなのはだった。険しい表情で翔馬を見据えながら声を掛け、それに対して翔馬は落ち着いた様子で頷き返す。このやり取りが戦闘開始のカウントダウンとなる事はお互いに理解していた事だ。それでも歩むべき道を行くために2人は秒読みのカウントダウンを進めて行く。

 

「真剣勝負だけど、このタイミングで怪我はちょっと良くないからルールは模擬戦と同じ。相手に一撃でも入れられたらそこで勝負は終了。いいよね?」

「…そうだな。」

 

翔馬はなのはの言葉に再度頷き返すと、これ以上の話はいらないとばかりに左腰の剣を引き抜いて右手に持ち、ゼフィロスの切先をなのはに向けて構えた。それを見たなのはも同様にレイジングハートを翔馬に向け、軽く腰を落として構える。そんな動作をしながらも本当の所はお互いに話し足りないことが多くあった。しかし、それを語りだしても何も変わらないことはお互いに理解している。だからこそ、自分の想いを伝えるため、2人は戦いの中で語り合おうとしていた。…そして命運を分ける戦いは大きな波が砕け散る音と共に始まる。

 

「はぁぁぁ!!」

 

先に動き出したのは翔馬だった。波が砕け散った瞬間に、なのはへと向かって一直線に飛び出すと引き絞った右腕に力を込めながらなのはに襲い掛かろうとする。翔馬の行動を確認したなのははそれを簡単にさせる筈も無く翔馬を迎撃するためにアクセルシューターを周囲に展開させ、発射の準備を整えて狙いを定めようとした。しかし、なのはが行動に移した時には既に翔馬の姿は目の前から消えていた。だが、そんな状況でもなのは慌てた様子も無くレイジングハートを振りかざすと上空に向かってアクセルシュータを打ち出す。するとそこには高速で移動し、なのはの死角から攻めようとしていた翔馬の姿があり、翔馬はなのはの放つアクセルシューターに歯を食いしばりながら狙いを定めるとさらに加速を始めた。そして、下から迫り来るアクセルシューターが衝突する直前で一閃。そして、続けざまに迫るアクセルシュータを的確にそして確実に撃ち落とし、そして、最後の攻撃を凌ぐとなのはから少し離れた場所でゼフィロスを右肩に担ぐように振りかぶり、溜めこんだ力を解放するかのようにそれを勢いよく振り降ろす。翔馬の得意技、エアリアルサイス。翔馬から放たれた2つの魔法刃はなのはの左右から弧を描いて襲い掛かる。それを受け身で取ってしまっては確実に防ぐことができないと判断したなのはは険しい表情を浮かべながらも、翔馬の攻撃から逃げるように空を滑走した。そして少し距離が離れたことを確認すると、なのはは急に方向転換して今度は逆にエアリアルサイスに向かって飛び出した。それと同時にレイジングハートをエアリアルサイスに向かって構え、ショートバスターで翔馬の攻撃を撃ち落とすと、迎撃を成功させたなのはは体制を立て直して翔馬の姿を探す。しかし、またしてもなのはの視界から翔馬が消えてしまっていた。翔馬の速さにはなのはも追いつけるはずが無く周囲に神経を張り巡らせるがその表情は微かに笑っていた。翔馬の強さを嬉しく思っているかのように。

 

「やっぱり速い…。でもっ!!」

 

なのはは一言呟くと即座に後ろを振り向き、同時にプロテクションを展開して背後からゼフィロスを振り降ろそうとしていた翔馬の攻撃を受け止めた。決まるだろうと思っていた翔馬は思わず悔しそうにするがそれでも諦めることなくさらに力を込めてプロテクションの破壊を試みる。鍔迫り合いのような状態でお互いに力を込めていると、不意になのはが何かを呟いたような気がした。と思った瞬間、翔馬は嫌な気配を感じてその場から後ろに飛んだ。その直後になのはのアクセルシューターが3つ、翔馬がさっきいた場所に襲い掛かり間一髪で回避することに成功した。しかし、狙いを外したアクセルシューターは目標に向かって更に襲い掛かる。翔馬は唇を噛んでその場から飛び立つとなのはの攻撃から逃げつつエアリアルシューターを生成して迎撃しようとするが、なのはのコントロールは翔馬を上回り中々迎撃を成功させることができずにいた。そして、ついにアクセルシューターが翔馬を捉え一撃が決まるかと思った瞬間、翔馬はアクセルシューターを真正面で迎え撃つために体を捻るとその回転力を利用してゼフィロスを横薙ぎに一閃。その後、目にも止まらぬ速さでほぼ同時に迫る残り2つの攻撃を一瞬にして叩き伏せた。その時の剣筋はなのはでも捉えることはできなかった程で、あまりの出鱈目さになのはは内心焦りを感じるが、表には出さないように苦しげな笑みを浮かべると直ぐに砲撃体勢を取って狙いを定め、体勢が整っていない今がチャンスとばかりに魔力を1点に集中させる。

 

「ディバイン…バスター!!!」

 

翔馬は剣を振り切った直後、視界になのはの魔力光を見つけ砲撃が来るとわかった瞬間、苦しげに息を漏らしながらも無理矢理に振り切った剣を引き戻し、体を捻る様にして右腕を引き絞ると砲撃体勢を取って迎撃に備える。

 

「くっ!!…ゲイルスティング!!!」

 

2人の掛け声と同時に砲撃がぶつかり合い強い衝撃と共に2人の間で爆発が起き、そして辺りには爆煙が巻き起こり視界が極端に悪くなってしまう。翔馬はこの隙に移動して奇襲を掛けようと考え、気配を悟られないギリギリのスピードで移動を始めたが、爆煙の中に映る桜色の光を見て思わず動きを止めてしまった。なぜなら爆煙がまだ晴れ渡っていないと言うのにも拘らず移動中の翔馬を『正確に』捉えたアクセルシューターが複数迫って来ていたからだ。その光景に驚きを隠せず、焦りが募るが今はこの状況を打ち破るためと後ろに飛びながらこちらに迫り来る攻撃に集中し、先程も見せた目にも止まらない速さでゼフィロスを操ると目の前に迫っていたアクセルシューターを全て叩き伏せ、流石に奇襲の効果があったのか先程とは違い、翔馬は荒い息を付きながら爆煙が晴れた先に居るなのはを睨み付けた。

 

「…やっぱりすごいね。流石に1発位は当たると思ったんだけど…。」

「エリアサーチか…。」

 

なのはの言葉に耳を傾けることもせずに翔馬はそう呟くと、エアリアルシューターを1つ作り出し高速で打ち出した。しかしその先は海面。何もないように見えたが海面ギリギリまで到達すると激しい爆発音が耳に届きなのはのサーチャーを破壊出来たことを確信し、再度なのはに顔を向けた。先程のサーチャーは爆煙で視界が悪くなることを見越したなのはが事前に放つことで視界が悪い状態にあっても決して翔馬の行動から目を離さないよう先手を打っていたものだ。そして、案の定爆煙によって視界が悪くなった瞬間サーチャを介して翔馬の行動を認知するとアクセルシューターを作り出して見えないはずの翔馬を正確に狙い撃ったという仕組みだった。つまり、簡単に言ってしまえばサーチャーはこのような見通しのいい場所では打って付けの高性能監視カメラとなるため、それを利用したということだ。そして、それを一瞬で理解した翔馬は荒い息を整えると低く構えてなのはを見据え、攻撃の準備を整える。

 

「今度はこっちから行かせてもらう!!」

 

翔馬はそう言うと、今まで以上の速さでなのはの真正面に移動し、ゼフィロスを振り上げてなのはを斬りつけようとする。そして、翔馬のあまりの速さになのはは驚きの表情を浮かべるが、それと同時に危険を感じたなのははその感覚に身を任せ、咄嗟にレイジングハートを自分の体の前掲げて防御の姿勢を取る。その瞬間、手が痺れるような強い打撃を受けて体が宙に浮くような感覚と共に吹き飛ばされた。そんな状態でもなのはは翔馬の姿を探して様子を伺う。すると、彼はこのチャンスを逃さないとばかりにゼフィロスを更に振るい、エアリアルサイスをなのはに向かって飛ばした。その姿を視界に捉えることがでたなのはは迎撃用にアクセルシュータを作り出してそれを一斉発射させる。うまく行けば翔馬の攻撃を防ぐだけではなく翔馬の足止めにも使えると考え、まずは翔馬の攻撃を迎撃成功させたことを確認すると上空に舞い上がる様にして翔馬の位置を確認しながら体制を立て直した。そして、翔馬の姿が確認できたことでなのはの足止めもうまく行ったのだと思い砲撃の態勢を取ろうとした瞬間、翔馬の体が緑色に輝きその姿を見失った。

 

「消えた!?」

 

なのはは視界にいたはずの翔馬の姿が消えたことに驚くがその数瞬後には翔馬の本当の速さを思い出す。今までの移動はあくまで翔馬自身の身体能力によるものだ。確かに魔力のブーストはかかっているが、それでも翔馬が本気で魔法として使った時とは全く持って比にならない。その速さはフェイトのブリッツアクションにも付いて行けるほどで、なのはがその魔法を認知した時には既に遅い。

 

「エアリアル…スマッシャー!!!」

「レイジングハート!!!」

 

そして案の定、なのはが次に翔馬を視界にとらえた時には既に翔馬の砲撃が放たれた後だった。なのはは迎撃も回避ももう間に合わないと判断し、その場でレイジングハートに指示を飛ばし、真正面に分厚いパワードプロテクションを張ることで一か八かの防御を行う。そして、なのはが完璧にプロテクションを張った数瞬後に強い衝撃と共に剣閃型砲撃がなのはを襲った。そしてその砲撃はなのはを包み込んで海に打ち付けられると大きな水柱を立て、数秒後にはそれが雨のように降り注ぎ翔馬の体を濡らしていった。その時の翔馬の表情は伺うことはできなかったが、1ヶ所に顔を向けそこから視線が動くことは無かった。

 

「これでも耐えるのか…。」

「私も…、負けられないからね。」

 

翔馬が目にしたのは少し触れれば壊れそうなプロテクションを張ったなのはの姿だった。先程の場所とは程遠い海面近くまで押しやったものの、あの砲撃をなのはは自分のプロテクションのみで守り切り、その場に無傷で立っていた。しかし魔力の消費量は多かったのか、なのはは肩で息をして気だるげに翔馬を見つめてレイジングハートを構え直す。翔馬はなのはの行動を見て驚きの表情を浮かべながら思わず声を掛ける。

 

「まだ続けるつもりか?」

「当たり前だよ…。一撃入れるまで、…勝負は続くんだから。」

 

息を切らしながら、残り魔力も少なくあからさまに不利な状況でも笑って見せるなのはの姿に翔馬は少し俯いて笑みを零すと、この戦いで抜くことのなかった右腰の剣を引き抜き両手に剣を持って構えた。

 

「それならこれで最後にしよう。…悪いが遠慮はしない。」

「こっちこそ。…私も本気で行くよ。」

 

そう言って、翔馬は右手の剣を逆手に持ち、左手を右腰に持って行くような形で体を捻ると深く腰を下げて先程よりも大きな魔法陣を描いてなのはを見据える。対してなのはも、レイジングハートを翔馬に向けて同じように今までより大きな魔法陣を展開させ腰を低くして構えた。そして、お互いに大気が震えるほどの魔力を集中させ始め、お互いの魔力光が遠目からでもわかる位に輝きを増す。

 

「ゲイル…」

「ディバイン…」

 

そして、2人の声に呼応するかのようにカートリッジが撃ち込まれ、さらに魔力が増大し、お互いに狙いを定めて砲撃をいつでも放てる状態までに持って行く。そして、2人はありったけの想いを込め、お互いに魔力が安定して砲撃の発射準備が完了した瞬間、先程まで震えていた大気が一瞬で収まり返り、辺りから音が消え去った。そして…

 

「ディザスター!!!!」

「バスター!!!!」

 

2人の雄叫びにと共に静まっていた大気が暴れ狂い、砲撃がぶつかり合う。その衝撃でお互いに吹き飛ばされそうになるが足を踏ん張って堪えながら相手の砲撃を押し返そうとさらに力を込める。2人は歯を食いしばりながら堪えに堪え、自分の砲撃(想い)を通すために力を振り絞る。今の所は均衡状態でお互いの砲撃はそれぞれ別の砲撃を飲み込もうと一進一退を繰り返す。しかし、そんな均衡状態も終わりは唐突にやってきた。ほんの数秒の鍔迫り合いから徐々に翔馬の砲撃がなのはの砲撃を飲み込み始めたのだ。それを確認してからは速いものだった。翔馬の砲撃は一度なのはの砲撃を飲み込むと勢いはさらに加速し、勢いを無くしたディバインバスターは翔馬の砲撃に完全に飲み込まれ、そして、その砲撃はなのはをも容赦なく包み込んだ。そして、砲撃が海面に叩きつけられると大きな音と共に2度目の水柱が立つ。しかしその大きさは先程の比ではなく、なのはの砲撃で威力が減衰されているにも拘らず、それ程の大きさという事は威力がどれほどのものかは想像に容易いだろう。先程とは打って変わり殴りつける様な大粒の水飛沫が翔馬に降り注ぐが、それを気にする様子も無く今度こそ海に沈んだなのはの姿を探す。しかし、そんな苦労はいらなかったようで海面ギリギリでパリアジャケットを焦がした姿のなのはが力なくそこに立っていた。

 

「負けちゃったね。…砲撃魔法は私の専売特許なんだけどなぁ。」

「……。」

 

そう言って、負けたにも拘らず苦笑いを浮かべて翔馬を見つめるなのはを複雑な表情で翔馬は見つめ返し、何か言いたげそうに口を動かすが少し迷った挙句に開いた口を閉じてなのはに背中を向けた。その行動を見たなのはは寂しそうに呟きを漏らす。

 

「やっぱり、…行っちゃうの?」

「…ああ。」

 

翔馬がなのはの問いに背中を向けたまま頷いたのを見てしまうと本当にもうすぐ別れの時が来てしまうのだと実感せざるを得なかった。そして、その時を想うと胸が痛いほどに締め付けられ、戦闘中は無意識に出来ていた筈の呼吸が今では意識していてもままならない。息苦しさを感じながらさらに視界が歪み始め、もう泣き叫ばずにはいられない。そんな、悲しくて、寂しくて、苦い思いを抱えながらなのはは血が滲むほど唇を噛みしめ、翔馬が見ていない内に零れそうになった涙を振り払うと溢れそうになった想いに蓋を閉じた。

 

「…そっか。それならもう私からは何も言わないよ。後は、翔馬君の選んだ道を進んで。」

 

しっかりと声を震わせることなく言い切ったなのはは思わず自分の事を褒めてやりたくなった。きっとここで泣いてしまっては彼の行く道の邪魔をしてしまうから。彼が決めた道を行くと言うのなら、後悔よりも希望を抱いて進んで欲しい。なのははそんな想いで翔馬に声を掛けた。そして、その言葉を聞いた翔馬は思わず肩越しに顔を向ける。表情は相変わらず見えないが、きっと驚いた表情を浮かべているんだろうと思う。なぜなら、非難されても当然の事をしているのにも拘らず、まさか背中を押してくれるとは思わなかっただろうから。そして何より、なのはがいつか見たとびっきりの笑顔を浮かべて翔馬の事を見つめていたからだ。その笑みを受けた翔馬は何も言わずに顔を背けると、飛び立つ前になのはの耳に届くか届かないかの声で呟いた。

 

「なのは。…ありがとう。」

 

そう言って翔馬は今度こそ、2度と振り向くことなくその場から飛び立ち闇の中へと消え去った。なのはは翔馬の言葉に呆然としながらその後姿を見送り完全に見えなくなったところで俯いた。

 

「最後にそれは、…酷いよ。」

 

その言葉を皮切りに笑みを浮かべていたなのはの唇が震え、そしてその震えは次第に体全体に伝播して行った。その震えを抑えるためになのはは自分の体をきつく抱きしめる。しかし、それでも体の震えが止まることは無く、そして次第に視界が歪み始めた。…閉じたはずの蓋がまた、開き始めたのだった。なのはは必死にその想いを閉じ込めようとするが涙は止まることなく、体の震えももう止まらない。寒気を感じる。物理的にはバリアジャケットに身を包んでいるのでそんな事態には陥る事はない。しかし、彼女が感じた寒気は心の中にあった。助けて欲しい時には自分の危険も顧みずに守るために戦い、何時でも真っ直ぐな強い意志を持ち、時には優しい一面も見せてくれる彼にいつの間にか惹かれ、傍に居るのが当たり前のように思っていた。それが今では心にぽっかりと空いた穴に風が容赦なく吹き付けられるような感覚を覚える。そしてそれを感じた瞬間、もうここには翔馬が居ないという事、つまり自分の想いに蓋をする必要が無い事に気付いた。その瞬間には、もうなのはは自分の溢れる感情を止めることはできなかった。溢れる涙は量を増し、体は大きく震えその場に崩れ落ちるようにしゃがみ込む。そして今まで堪えていた嗚咽もいつの間にか泣き叫ぶように変わってしまっていた。1人月明かりに照らされながら涙を流す彼女の姿は皮肉にも美しいと感じてしまうほどに綺麗であった。

 

 

 

 

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その頃、翔馬はシエルとの約束の地へと向かっていた。約束通りならば本日の24時に迎えがその場所に来るはず。今考えるべきはこれからの事。ジェイル・スカリエッティの基地に潜り込み、あらゆる兵器に関する情報を得ること。そして時が来ればシエルと協力し、兵器を破壊すること。これらを達成することが出来れば翔馬は晴れて向こうでの役割を終え、なのはたちの元へと帰ることができる。そのためにも考えるべきことは山ほどあり、先程の事を気にしている余裕は無い。……筈なのだが、そんなことを思っていてもなのはの事、そして先程の戦闘の事がどうしても頭から離れなかった。さらに、それらを振り払おうとする度に翔馬は自分の目頭が熱くなっていくことに気付き軽く頭を振った。翔馬がここまでに先程の事を気にしてしまうのには理由があった。それは先程の戦い、実は翔馬が負けていてもおかしくは無かった。普通に考えてみれば当然の事だ。遠距離型の魔導士と近距離型の魔導士が得意レンジで戦闘を行えばある程度結果は見えている。翔馬はありったけの魔力を込めて放ったが、それでも彼女に勝てるかどうかなど分からなかったのだ。しかし、お互いの砲撃がぶつかり合った瞬間に翔馬は理解してしまった。元々、なのははこの戦闘で勝とうと思っていないことに。彼女が戦闘を行った理由は勝って翔馬を無理矢理、機動6課に押し留めることでは無かった。彼女の砲撃はまるで翔馬の砲撃を優しく包み込むかのように受け止めるためのもの。翔馬の想いを受け止めるための攻撃だったのだ。それを理解した時、翔馬はなのはに問い詰めようと思ったが彼女の想いも一緒に理解してしまったためそんなことはできなかった。彼女の想いは翔馬が無事で帰って来ること。ただそれだけだった。傍にいて欲しいとか、行かないでとかなのはの言いたかった言葉はそれこそたくさんある筈だった。それでもなのはは最後まで笑顔で翔馬の背中を押してくれた。

 

「何で、そんな不器用なんだ。あいつは…。」

 

翔馬は1人暗い夜の中を駆け抜けながら呟くと、彼女の想いと強さ、そして自分に向けてくれた最大の優しさに涙を零さずにはいられなかった。海に落ちる数滴の涙はやがて大きな波紋を作って深い闇に溶けて行くのだった。

 

 

 

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