魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~   作:strike

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…過去最長の話となってしまいました。
今までの謎がある程度解明する話にしようと思ったら、
こんな事になってしまい…。

読むのがシンドイと、思われるかもしれませんが
どうか読んでいただけると有難く思います。

感想やご意見はいつでもお待ちしております。

それでは第36話スタートです。


第36話 決戦(後編)

無事に無限の欲望(アンリミデッド・デザイア)の内部に突入できたなのはは現在、台座の間へと到着し数日振りに翔馬の姿を見つける。しかし、その姿は以前とは大きく異なり普段の翔馬を間近で見ていたなのはにとっては異様な姿だった。そして、なのはは翔馬と会った直後に事情を聞こうとするが思わぬ横槍が入り、意図せず戦闘の火蓋が切って落とされてしまった。そして、なのはと翔馬は戦いの中にいた。

 

「はぁぁぁ!!」

「アクセル…シューット!!」

 

翔馬は大剣を振りかぶると地面を蹴って加速し、なのはへの接近を試みるがなのはは翔馬に接近されては不利と考え、先程からずっと宙を動き回りながら翔馬が近づけないように魔法弾を放ち、翔馬から一定の距離を保ち続けていた。そのため、なのはに近づくことのできない翔馬は舌打ちをしながら回避行動を取ると一旦地面に降り立ってなのはを睨み付けるようにして見上げた。

 

「翔馬君!! いったい何があったの!? どうして私と戦わなくちゃいけないの!? 答えてよ…。教えてくれないと何もわからないよ!!」

 

なのはは表情を歪めて翔馬に訴えかけるが当の本人は気にした様子も無く睨み付けていた目を細めるとなのはの言葉に笑って見せた。

 

「…お前にそれを答える意味は何もない。…だが、どうしても聞き出したいと言うのなら…俺を倒して無理矢理口を割らせるんだな。」

「翔馬君!!」

 

なのはは悲しそうな表情を浮かべながら何度も翔馬の名前を呼ぶ。いつもなのはの事を名前で呼んでいた翔馬から久しぶりに会ってからというもの一度たりとも名前を呼んでもらえない事がこんなに苦しい事だとは思ってもいなかった。いつもは言葉足らずの2人でもなんとなく心が通じ合っているかのような感覚が今では全く感じられず、心がこんなにも寒く感じられるとは思っていなかった。そして、なのはは今更ながらやっと自分の本心に気付く。いや、今までも自分の気持ちには気付いてはいた。しかし、気付いていただけでそれがどれほど大きなものだったのかまでは自分でもわからなかったのだ。だからこそ、言葉にして確かめる事に臆病になってしまい、曖昧な関係を続けてしまっていた。でも今は、なのはにとって翔馬がどれほど大切な存在であるかを明確に理解できていた。それに気付いてしまったなのはは、翔馬をこの手で取り戻したいと今まで以上に強く思う。そして、なのはは地面で構えの姿勢を取っている翔馬を不安そうな目で見つめてから、1度目を閉じて僅かながらも濃い時間を過ごした翔馬との時間を思い浮かべる。そして、それを取り戻すためになのはは決意を瞳に灯した。その様子をずっと伺っていた翔馬はなのはの雰囲気が一瞬で変わったことに気付き口角を釣り上げて笑みを浮かべる。

 

「そうこなくっちゃな…。それじゃ、ウォーミングアップは終了でいいか?」

「…いいよ。絶対に翔馬君を取り戻して見せるから!!」

 

翔馬はなのはの言葉に軽く笑みを浮かべて返すと腰を落としながら片方の大剣を肩に担ぐようにして魔力を引き出す。対してなのはもレイジングハートを翔馬に向けると魔法陣を描いて翔馬に照準を定めた。そして、2人の魔力が最骨頂に達すると一気に解き放つ。

 

「アンリミデッド・スティング!!」

「ディバインバスター!!」

 

2人の魔力がぶつかり合い鍔迫り合いとなる。そして、なのはは負けじと力を込めながらあることに気付いた。それは、翔馬の魔力光が黒く染まっていることだった。普通、各人の魔力光が変わることは滅多になく収束魔法等、他人の魔力を使用しても収束者の魔力光に染め上げられる。それが今の翔馬の魔力光は以前使っていたものとは全く異なる力を感じたのだ。そして、なのはは何か引っかかるものを感じ翔馬の姿を今一度よく観察し始める。服装はパッと見で大きく変わっていることはわかる。しかし、その服装はバリアジャケットとほぼ同等のものであり特に何か違和感を感じることは無い。そして、翔馬の扱っているデバイスに目を移したところで均衡していた砲撃がお互いの威力を相殺しきれずにその場で大きな爆発を起こした。しかし、翔馬は爆発の衝撃を避ける様に地面すれすれを駆けるとなのはの背後まで即座に移動し、なのはの考えている事など気にせず、容赦なくその大剣を叩きつける。

 

「…はっ!!」

「くっ!!」

 

攻撃を見切っていたなのはは、あえて翔馬の攻撃をプロテクションで弾くと直ぐに距離を取ってレイジングハートを翔馬に向けて砲撃を放つ。すると、翔馬は更に追撃しようとしていたのか、加速の姿勢から回避行動を取ると一旦距離を開けてなのはの様子を伺うように大剣を構え直した。それを見てなのはは確信する。あの魔力は翔馬自身から発せられているものではなくあのデバイスから発せられているのだと。そして、その魔力源は…

 

「あの台座…。あれが今の翔馬君の魔力源ってことかな?」

「当たらずと雖も遠からずってところだな。…それにしても、この短時間で良く見抜いたな?」

「流石に翔馬君の魔力光は見慣れてたし、おかしいと思ってたんだ。…私の全力砲撃に翔馬君が対抗できるってことが。」

 

翔馬はなのはの言葉に笑みを浮かべると一瞬で冷徹な顔付きになり、なのはに対して尋常じゃない殺気放った。なのはは翔馬が本当の意味で本気になった事を体で感じると思わず体を竦ませる。しかし、そんな隙を見せてしまえば速さが売りの翔馬が黙っている筈も無く、なのはが行動する前には既に接近し剣を振り降ろしていた。それに対してレイジングハートの自動防衛プログラムが働き、間一髪で直撃を避けられたものの一瞬でプロテクションにひびが入る。

 

「嘘っ!?」

「切り刻め…エウロス!!」

 

翔馬の声に呼応して大剣が黒い魔力に染まるとなのはの張ったプロテクションはいとも簡単に破られ、翔馬はその隙を逃さず回し蹴りを放ちなのはに直撃させる。翔馬の攻撃を真面に喰らったなのはは大きく吹き飛ばされ、壁に衝突するとその衝撃で息を詰まらせ、苦しげな表情で翔馬を見つめる。

 

「ぐっ…。ケホッ、ケホッ。…翔馬、君。」

「これで終わりだ。…アンリミデッド・ディザスター」

 

翔馬はなのはの呼びかけに応じることも無く、2対の大剣を後ろに引いて構えると静かに魔法を唱え、その声からは想像もできない程の速さでなのはへと2対の大剣を振り降ろした。そして、今までに無いほどの爆発音が無限の欲望を震わせ、大きな爆煙に翔馬自身も巻き込まれ周囲が見えなくなる。しかし、勝利を確信した翔馬はこんな状況でも慌てることなく煙が引くのを静かに待ち続けた。そして、煙が晴れて視界がクリアになった途端ここで初めて翔馬は驚愕の表情を浮かべる。

 

「…いない、だと?」

「ブラスターシステム、リミット2リリース…。」

「なっ!?」

 

大きく穴の開いた壁には既になのはの姿はなく代わりに後ろから強大な魔力と共に探していた人物の声が聞こえ即座に後ろを振り向く。その体は至る所が傷付き血を流していたが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに既になのははマガジン一つ分のカートリッジロードが終わっていた。その魔力は翔馬が今まで感じたことのない強大なもので、煙が晴れるまで行動していなかった翔馬がなのはの全力砲撃に打ち勝つ術は今の翔馬には考えられなかった。それでも翔馬は最大限の抵抗をするために大剣に溜められている魔力をすべて解放すると剣を引いた。その瞬間、魔力は更に大きく膨れ上がり巨大な魔法陣がなのはの目の前に現れる。すると、なのはは砲撃発射の際に起こる衝撃に耐えるため、レイジングハートへと力を込め、対して翔馬は砲撃準備が整い切る事無く砲撃を放つことになる。

 

「エクセリオン…バスター!!!」

「…くっ。アンリミデッド・スマッシャー!!!」

 

翔馬は無いよりはマシと完全ではなかったが直撃を避けるために砲撃を放つ。しかし、一瞬均衡したようにも見えたが直ぐに翔馬の砲撃は押し返され始め、それは徐々に翔馬へと近づいて行った。それを確認してからは時間の流れはとてつもなく遅く感じられ徐々に迫って来る砲撃に成す術の無い翔馬は何故か口元に笑みを浮かべ、なのはを見つめていた。それに気付いたなのははハッとした表情で翔馬を見つめ返すが、既になのはの砲撃は翔馬の砲撃を飲み込んだ後だった。なのはの砲撃は翔馬の砲撃だけに留まらず容赦なく翔馬自身ををも飲み込んだ。さらに、その砲撃の威力は強大だったのか翔馬の後ろの壁を貫くと無限の欲望から一筋の桜色の光が漏れだし、外部からでもわかるような大きな爆発が起きた。周囲で戦闘を行っていた魔導師達からも注目を浴びる程の爆発だったが、それも一瞬の事で爆発の音が消えるのと同時に桜色の光も一緒に消え去ってしまった。

 

「はぁ、はぁ、…翔馬、君。」

 

なのはは息を整えながら自分の空けた穴を見つめると翔馬の姿を探すが、そこには翔馬の影すら見当たらなかった。そのことになのははやっぱりと思いながら一息ついた。砲撃を放って感じた既視感それは翔馬と別れた夜の砲撃の撃ち合いだった。あの時、なのははただ翔馬の砲撃を受け止めるために自分の砲撃を放った。それと同じことが今この場で起きたていたのだ。だから翔馬はきっと、自分の役割を果たすためにこの場から去って行ったのだろう。追いかけても毎回の様に逃げられてしまう愛しい人に苦笑いを浮かべて、綺麗な青空を見上げた。この戦いが終わった時こそはもう二度と逃がさないと決意を灯して。しかし、その決意をした瞬間、急に背筋に悪寒が走りその場から直ぐに回避する。そして、先程いた場所に目を向けるとそこには大太刀を振り降ろした姿でなのはを睨み付けるシエルの姿があった。

 

「シエル、ちゃん…。」

「すみませんが、これ以上邪魔はさせません。」

 

なのはは、先程まで台座に囚われていたはずのシエルがなぜここに居るのかと疑問に思い台座に目を向けると先程の攻撃で枷が外れたのかシエルを固定していた金具が綺麗に消え去っており、何か違和感を感じるが直ぐにシエルから殺気が放たれたので視線を戻す。そして、翔馬同様こちらの味方をしてくれると信じていたシエルが何故襲い掛かってくるのかがわからずなのはは声を張り上げていた。

 

「シエルちゃん!! どうして!? 翔馬君とこの施設を破壊するんじゃなかったの!?」

 

なのはの言葉にシエルは目を閉じて殺気を消した。そのことになのはは安心してレイジングハートを降ろそうとするが、何故か危険を感じて後ろに飛ぶと同時にプロテクションを目の前に張る。すると、その直後に先程までいた場所でシエルが突きの姿勢を取っており、あのままの状態で居たらと考えると背筋が凍るような思いだった。そして、シエルは自分の攻撃が避けられてと知るとそのばから、なのはに向かって飛び再度剣を叩きつける。そして鍔迫り合いになった時初めてシエルがなのはの言葉に回答を返す。しかし、その内容は呆気ないものだった。

 

「何の話でしょうか?私の命は元々ドクターのもの。ドクターの願いを叶えるのが私の役目です。」

「シエルちゃん!!」

 

なのははシエルへと呼びかけるがその回答は更なる大太刀による一閃だった。なのははその一閃をプロテクションで受け止めると重い一撃に表情を歪めながらも耐える。シエルはなのはのプロテクションに何度も大太刀を打ち付けるが、壁を抜くことができないと感じたシエルは一度距離を取ると、魔法陣を描いて砲撃に移った。

 

「水鏡…衝閃穿!!」

「っ!?…くっ。」

 

なのははシエルが下がってから一瞬で撃ち放とうとしている攻撃に目を見開くが、それと同時にプロテクションを解除して左に飛ぶ。しかし、シエルの高速で放たれる砲撃を完全に躱すことができず右腕を掠め地面を転がったなのはの右腕からは血が流れていた。しかし、なのはは自分の右腕よりも気がかりなことがあり、砲撃を放った直後の彼女を見つめる。砲撃は基本、大きな魔力を要するためチャージが必要になる。そのため、相手との距離を取って攻撃が届くまでの時間を作るか、相手をその場から動けなくする等のチャージをするための時間が必要だ。しかし、先程の彼女にそのような動作は無く攻撃の流れを崩さずほぼノータイムで砲撃を放った。なのはの用いるショートバスターもチャージの時間が極端に短くなるが、それでも僅か数秒のチャージは必要となる。今の攻撃原理が全く理解できなかったなのはは目の前の少女に危険な香りを感じ焦りを始めていた。

 

 

 

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その頃、ミッド中央で戦闘機人との戦闘を行っていたフォワード陣は絶体絶命のピンチに陥っていた。ティアナは既に戦闘機人3人に周囲を囲まれ残り魔力もあと僅か、エリオとキャロはクアットロに操られたルーテシアの魔力解放により無数の召喚虫に囲まれ、スバルに至っては立つことすら厳しい状況にあった。それぞれがもう、ここまでかと諦めかけていた時、不意に自分達のデバイスが秘匿回線をキャッチしていることに気付き、その相手に縋るかのように回線を開いた。すると、そこから聞こえてきた声はどこか聞き覚えのある男の声だった。

 

「…何とか間に合ったみたいだな。お前達、こんな程度の危機的状況で諦めるつもりか?」

「「「「それは…。」」」」

 

いきなりの問い掛けに普段なら相手の正体を確認するところだが、今、目の前の状況で精一杯の彼女達にそんな余裕は無く、それに加え耳に聞こえる声は何故か懐かしさを感じ警戒心が全く湧かなかったのだ。彼女達は、男の言葉に返事を返すことができず項垂れてしまう。それもその筈、彼女達は戦闘機人との戦闘は何度か経験してきているものの個人戦など初めての事で、さらには自分の命を助けてくれる人もいない。こんな辛くて厳しい状況で諦めませんなど強がりも言えなかった。

 

「ティアナ。お前は自分を凡人だと、そう言っていたな?」

 

いきなりの自分への言葉にティアナは少し体を竦ませるが、目の前の敵に注意しながらもその言葉に耳を傾ける。

 

「だけどティアナは、今までずっと人一倍努力しレアスキル持ちのフルバックや、スピードの速いウィングガード、爆発力のあるフロントアタッカーをずっと傍で支え、指揮してきた。今のお前には指揮官としての観察眼とどんな困難すら打破できる頭脳が備わっている。臆病になるな、自分の卑下するな。お前ならやれる。必ずだ。」

 

その言葉を聞いたティアナはハッとした表情で暗くなっていた目に輝きを取り戻す。その言葉はどこかで聞いたような言葉。訓練校からの付き合いでずっとコンビとしてやってきた腐れ縁、基、親友の言葉。彼女は何時だって自分の事を認めて褒めてくれいた。自分が無理だと思った事でも彼女からしてみれば、可能だとそう言って手を差し伸べてくれた。その言葉にどれほど救われたか。そんなことを無意識のうちに考えていたティアナはこんな状況で何を考えているのだろうと口元に笑みを浮かべ、そして、今考えたことは決して彼女自身には伝えず自分の中にしまっておこうとそんなくだらない決意をしながら戦闘機人達の動向に神経を向けた。その表情は先程とは打って変わり頼もしい機動六課フォワード部隊のセンターガードとしての表情だった。

 

「そして、エリオ、キャロ。」

「「…はい。」」

 

いつものような返事とは程遠い暗い返事に彼は苦笑いを浮かべて続ける。

 

「お前達は、目の前の少女に伝えたい事があるんだろう? …どうしてそれを貫かない?」

「ルーちゃんは今苦しんでて…私、どうしたらいいか。」

「それにこんな多くの召喚虫囲まれてたら、太刀打ちできません…。」

 

キャロとエリオは年相応の弱々しい、頼りない返事を返すと顔を俯かせた。それを感じた男は声を張り上げて無理矢理に2人の顔を上げさせる。

 

「俯くな!!しっかり前を見ろ!!そこには誰がいる!!」

「「…っ!?」」

 

キャロとエリオは男の声に体を震わせて、言われるがままに目を前に向ける。するとそこには血の涙を流した召喚虫達、そして、それらを無理矢理に操らさせられているルーテシアの姿があった。

 

「お前達は、温かい光を受けてここまで立派に、…とはまだ言い難いがそれでも真っ直ぐに成長してきたんだ。そこにいる少女を救えるのはそんな光を知っているお前達だけだ。…お前達はとても優しい心を持っている。でもそれだけじゃ、何も変わらない。変えられないんだ。…その優しさを少し違う方向に捉えてみろ、本当の優しさ、彼女に与えるべき優しさは何もせずに黙って彼女の行動を見過ごすことか?」

 

その言葉にキャロとエリオは互いに顔を見合わせると表情を引き締めて立ち上がり、武器を構えた。

 

「違う…。そんなのは優しさじゃない!!」

「僕達がしなきゃいけないのはルーを止めて正しい光の下に連れ戻す事!!」

「話をしてやっと名前を教えてくれそうになった。」

「話をしたら状況に流されるしかないとてもかわいそうな子だってわかった。」

「「ルー(ちゃん)は私(僕)達のもう1つの姿…。だから、今度は私(僕)達が温かい光になって見せます!!」」

 

絶望に染まった眼が一瞬で決意の眼に変わったのを確信した男は柔らかい笑みを浮かべると頷き、最後に今現在、倒れて動けなくなっているスバルに声を掛ける。

 

「…全部聞いていただろ?何も言わなくても自分がしなきゃいけない事、気付いたか?」

「…はい。私はマッハキャリバーや機動六課の皆に言ったんです。災害とか争い事とかそんなどうしようもない状況が起きた時、苦しくて悲しくて、助けてって泣いてる人を助けてあげたい。安全な場所まで一直線に。この手の力はそのためにあって、私は今、ギン姉ぇを助けるために…こんな所で、倒れてられないんだ……うおぉぉぉぉ!!!」

 

ギンガは彼から何を言われるまでも無くその場で雄叫びを上げながら必死に立ち上がりふらつく体を引き上げる。しかしその瞬間、立ち上がった直後のスバルに対してギンガが攻撃を仕掛ける。その掬い上げる様な一撃はスバルの顎に直撃し、衝撃を受け脳を揺らされたスバルは一瞬で意識を飛ばされてしまう。宙に浮いたスバルに止めの一撃を放とうと加速して飛び上がったギンガは容赦なくその拳を打ち下ろした。

 

「なっ!?」

「悪いがここでこいつを退場させる訳にはいかないんだ…。」

 

しかし、ギンガの放った拳は黒いアウトコートを纏った男に防がれてしまい一旦距離を取る。すると男は追撃しようとはせずにスバルを受け止めると地面に降ろして背中に一発平手をくれてやり、それだけでその場から飛び去って行ってしまった。そして、注意がそちらに向いていた僅かな時間の間に目の前から大きな魔力反応が感じられて慌てて振り向く。するとそこにはマッハキャリバーに魔力の羽を携えたスバルの姿があった。

 

「行くよ、マッハキャリバー。フルドライブ!!…ギア、エクセリオン!!!」

 

その姿にギンガは自分も構えると最後の一撃のために魔力を込める。そして、示し合わせたわけではないが同時に動き出すとお互いに加速し2人の距離がほぼゼロに近づいたところで、決着の一撃が放たれ爆煙が上がった。

 

「スバルに手を出したからな…。少しだけお前達にも援護をくれてやる。」

 

彼はそう言うと完全に秘匿回線を切り、ティアナ達は何が起こるのかと不安がっていると突如ティアナの居るビルに掛けられていた結界が破られ外が綺麗に見えるようになった。そして、エリオとキャロの方ではルーテシア、ガリュー、白天王を除いて全ての召喚虫が緑色のチェーンバインドで動けなくなっていた。そして、機動六課フォワード部隊は隙が出来た相手に対して最後の一撃を放ち決着。完全勝利には程遠く、体もボロボロだが何とか全員が生きて帰る事が出来たのだった。しかし、4人はぞれぞれ疑問を抱くこととなる。果たして自分たちを助けてくれたあの男は誰だったのか。…勘の良いティアナは何となくだがその正体に気付き、ロングアーチスタッフへと一報入れるのだった。

 

「意外と早く決着がついたな。流石はなのはの教え子たちだな…。お前達は十分良くやった。ここからは俺が引き継ぐ!!」

 

そう呟き空を高速で駆けるのは先程まで無限の欲望内部でなのはとの戦闘を行った筈の翔馬だった。しかし、その姿は先程とは異なり、いつもの姿。つまりゼフィロスを腰に下げた姿でその表情もいつもと変わりなかった。果たしてどういう事なのかは今は分からずとも確実に、後々にはわかる事だろう。ただ、今分かっている事は翔馬の向かう先が無限の欲望とは少し離れた小山だという事だけだった。そして、翔馬がその小山の麓に辿り着くと迷うことなく小さな洞窟に入ってバリアジャケットを解除する。そして、目線を暗い洞窟に向けるとモニターが浮かび上がりそこに映されていたのはクアットロの姿だった。

 

「あら?…生きていらしたんですか?てっきり私、あの攻撃で死んでしまったものかと…」

「あの程度で俺が死ぬはずがないだろう。…とは言っても流石に負傷した。あのまま戦闘を続行していれば逆にあいつらの思う壺になると思ってな。俺は先にこちらで回復して、ここの護衛を行う。どうせあの兵器、壊れた所で構わないのだろう?」

 

勘の鋭い翔馬の言葉にクアットロは睨みを利かせるが、諦めたのか溜息をつくと面倒臭そうに視線を外した。

 

「だったらさっさとここまで来てもらえます?…何故かミッド中央の戦闘機人達がやられてしまいましてね。ルーお嬢様も掴まって駒が足りないんです。今後の予定について説明しますから。」

「了解した…。」

 

翔馬はそう答えるとモニターをスルーして内部に入っていく。その表情は険しく、今から起こそうとしている行動に対しての緊張感がありありと見て取れた。しかし、真面に翔馬の様子など見ていなかったクアットロはそれに気付いていないのだろう。なぜなら、もし気付いていたのなら自分の『敵』を自らの城へと招き入れる筈も無いのだから。この点に関しては翔馬の運が良かったとしか言いようがない。そして、翔馬は言われた通りにクアットロの待つ最深部へと足を運んでいた。

 

「言われた通り、来たぞ。」

「ああ、そしたら少し待っててください。今ガジェットの配置を制御し終えたらあなたの傷、癒してあげますから。」

 

そう言いながら、クアットロは翔馬を一瞥してモニターに再度目を向けると慌しそうに手を動かし続ける。しかし、それも一瞬で止まってしまい、硬い表情で顔だけ振り向くと翔馬の姿を見つめる。

 

「…って、…どうしてあなたがその姿で居られるんです?」

 

そう、翔馬の姿を何の意識もしていなかったため今まで見過ごしてしまっていたが今の翔馬の姿はクアットロたち戦闘機人といた時の専用デバイス『エウロス』を担いだ姿ではなく、管理局の制服を身に纏っていたのだ。それに気付いたクアットロは自分の仕出かしたミスに驚愕しながら、改めて翔馬に体を完全に向けた。

 

「決まっているだろ?…お前を反逆罪、及び公務執行妨害その他の罪状で逮捕するためだ。」

「何時から…。あのデバイスを手にしたとき、完全にその精神は無限の欲望の魔力に当てられて消え去っている筈!!…あの時からあなたは完全に私達の手中に…」

「ああ。あれを手にしたときは流石に焦った。一瞬で意識が飛びそうになる位強力だったからな。おまけにその魔力は常時流れ続けてくるもんだから、何もせずにいたら流石の俺でも今頃はお前達の奴隷犬ってところだったかもな…。」

 

翔馬は本当にあれを持っていた時に恐怖を感じたのか、表情をきつく歪めて視線を下に向けた。しかし、それもほんの少しの間の事で翔馬は直ぐに顔を上げるとクアットロに向き直ってゼフィロスを掲げる。

 

「でも、こいつのおかげで助かった。俺の中に流れ込んできた魔力を察知して俺自身の魔力を外に向けて放出し続けてくれてな。ギリギリ意識を取り戻した俺は魔力がこちらに流れ込んでこないようコントロールしながらお前達の傍にいたって訳だ。」

「なっ!?」

 

クアットロは今までそんな出鱈目みたいな所業をできる筈がないと思い込んでいた。なぜなら、エウロスから流れ込む魔力量は強大と言うほどでもないが、もし仮に自分の魔力を一点に放出し続け均衡を取ったとしても、放出し続けるため何時まで経っても魔力を回復させる事はできない。つまり今自分の持ち合わせている魔力で常に均衡を取っていなければならないため、確実に限界は来るはず。そんな無限とも思われる魔力を所持している筈が…と、クアットロはそこまで考えてあることに気付く。

 

「藤田翔馬一等空尉、魔導師ランク陸・空戦Sランク、保有魔力総量…SSS。」

「保有しているだけだから、瞬間出力はなのはやフェイトには負けるが確かに息切れは殆ど起こしたことが無いな。まぁ、今回ほど自分の魔力総量に助けられたのは初めてかもしれないがな…。つまるところ、俺は最初からお前たちの仲間になんかなっていなかったってことだ。…まぁ、シエルについては予想外だったがあいつなら何とかしてくれるだろう。」

 

そういって、翔馬は別れ際に視線を躱したなのはを思い浮かべ、笑みを零した。そんな翔馬を見たクアットロは表情を怒りに染めて睨み付けると、コンソールを素早く叩いて何か操作をする。すると、その直後にガジェットの群れが部屋の中を埋め尽くすほどに現れ、そのガジェットの群れに翔馬は思わず過去の光景を思い出してしていた。どうしようもない数の敵に立ち向かい傷付き倒れてしまった大切な人。あの時に何もできなかった自分の悔しさ、情けなさ。そして、志半ばにして倒れてしまった彼女の悔しさを晴らすために翔馬は表情を引き締めるとクアットロを睨み返す。

 

「この数なら流石の貴方でも太刀打ちできないでしょう!!ここで終わりです。貴方は!!」

「終われない…。俺にはまだやらなきゃならない事が山ほどあるからな!! ゼフィロス!!…セットアップ!!」

 

翔馬の声に反応して輝きだしたゼフィロスはその光で翔馬を包み込んだ。そして、その光が弾け飛びその中から現れたのは黒いアウトコートを身に纏い2刀の剣を腰にぶら下げた管理局の魔導師、『風のエースストライカー』藤田翔馬一等空尉の姿だった。

 

 

 

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無限の欲望、完全起動まで残り30分。対してなのは達の動力破壊行動まで残り20分を切っていた。

そして…聖王のゆりかご起動までは既にカウントダウンが始まっており、それにロングアーチスタッフが気付いた時にはもう対処のしようが無かった。

 

「…えっ?どうしてこんなところに!? 魔力反応新たに出現!! 大きい…大きすぎる!!」

 

アースラで管制を務めるシャーリーはいきなり現れた魔力反応に戸惑いつつも機動六課メンバーに新たな魔力反応が現れたことを通達するが、今起きている事象が掴めず言葉に詰まってしまう。そんな戸惑いの雰囲気を感じたはやては情報を無理に聞き出そうとするよりも一旦落ち着かせる方が仕事が早いと感じ、少し笑って見せてシャーリーを落ち着かせようとする。

 

「シャーリー。一旦深呼吸、な?焦る気持ちはわかるけど、どうこうしたって起きてしまったものはどうにもできへん。今するのは起きてしまった事件を一刻も速く解決することや。」

「あ…。は、はい!!」

 

シャーリーははやての言葉に少し落ち着く事が出来たのか、てきぱきと他の管制担当者と状況の整理を行う。すると1分にも満たない間に情報の整理が終わりはやてへと連絡が来た。その内容は無限の欲望の少し離れた小山から大きな魔力反応があり聖王のゆりかごの可能性が高いとの事。そして、そのことが伝えられた直後に大きな地響きが聞こえその振動で大気が震える。あまりに異常な出来事に魔導師達はその方角へ顔を向けると、そこには無限の欲望の数倍はあるかと思われる要塞が浮上を始めていた。

 

「どうして…。ヴィヴィオはアースラでアイナさんが面倒を見てるはず。シャーリー!!」

「ヴィヴィオはアースラ内部にいます。今、確認を取らせました。」

「どういう事や…? 何が起っとるんや」

 

はやては聖王のゆりかごの起動条件であるヴィヴィオが攫われていない事をシャーリーに確認させようとするが、それは既に確認済みだったようではやてはさらに困惑する。聖王のゆりかごの起動にヴィヴィオが関与しないのであれば最初から機動六課の襲撃などと言う無謀な策は講じ無いはずだ。それがなぜ今動きだしているのか…。

 

「いや、今はそんなことを考えてる暇はあらへん。…だからと言って、スターズ隊長達は無限の欲望内部で破壊任務。ライトニング隊長達はそれぞれ特定の人物と交戦中。…しゃーない。防衛ライン現状維持。誰か指揮交代して!!私が行く!!」

「八神部隊長…」

「でも…」

 

はやての言葉にグリフィスとシャーリーは戸惑いの声を上げるがはやてはあれを上らせる訳にはいかないと聖王のゆりかごへと向かう準備を始めていた。そんな時、ティアナからロングアーチ各員に連絡が入る。

 

「割り込み失礼します。早急に連絡をしておいた方が良い案件だと思われましたので、報告します。私達とミッド中央で戦闘していた戦闘機人は全員保護しました。」

「ゴメン。ティアナその連絡はもう聞いてるから…」

 

ティアナの言葉にはやては急いでるからと回線を切って行動を始めようとする。一刻を争うこの時に聞いた報告をもう一度聞き直す時間などなかったためだ。しかし、ティアナは切られそうになる回線に慌てた様子を浮かべた。

 

「いえ!!報告内容はそちらでは無く…、その戦闘の最中に私達を助けてくれた男性がいたんです!!」

「戦闘の最中に助けてくれた男性?…管理局のバックヤード部隊のことか?それがどう、」

「誰も顔は見ていないとの事だったので確証はありませんが…翔馬さんだった可能性が高いと言うのが私達の見解です。」

「っ!?…いや、でも翔馬君は今…。」

 

ティアナの言葉にはやては一瞬驚くが、そんなの事はあり得ないとその考えを抹消する。なぜなら翔馬は理由はわからずとも今、敵と共に無限の欲望内部にいるはず。そして、フォワード部隊の戦闘が終わる前だったが、なのはの魔力光が最上層に見えた。時間からすればまだそれほど経っていないため、考えられるのは現在もなのはと翔馬は戦闘の最中だという事。だから、はやてはその意見をティアナには申し訳ないが流して自分が移動を開始しようとするのだが、なのはからの回線が開き、慌ててその場に留まる。

 

『ゴメン、はやてちゃん連絡が遅くなっちゃった。さっきまで翔馬君と戦闘していたんだけど、翔馬君は戦闘の最中に無限の欲望内部から離脱。どこかに行ったみたいだから追跡をお願い。あと、これは私の勘なんだけど、翔馬君は敵じゃなかったのかもしれない。さっき砲撃を撃ちあった時、翔馬君わざと私の砲撃を受けたように見えたの。もしかしたら、また無茶を1人で背負おうとしてるのかも。お願いできるかな?』

「了解や。多分、なのはちゃんの勘は当たりそうやな…。さっきティアナ達フォワード部隊が翔馬君らしき男の人に援護を受けたらしいんや。私はそれが勘違いだと思ったんやけど…なのはちゃんの話を聞くと、それも否定できなさそうな感じや。翔馬君の追跡はこちらでやっておく。なのはちゃんは引き続き無限の欲望を止めることに専念してくれるか?」

『了解!!』

 

なのはの言葉でティアナ達の証言の裏が取れてしまい、はやては翔馬がこちらに戻って来てくれたことに安心するかのような気持ちが生まれるが、それと同時に連絡がこない事に不信感も抱く。一応、ティアナ達の件は翔馬の可能性が高いため一言謝って、翔馬の真意を知るためにも今は翔馬の探索が最優先とロングアーチに連絡を入れようとした。その瞬間、新たな回線が開かれる。

 

「…。…連絡が遅くなってすまない。こちらウィング1。ロングアーチ、聞こえるか?」

「翔馬君!? いったい今までどうして!!」

 

今から探そうとしていた翔馬からいきなりの連絡にはやては驚きながらも現状の説明を求める。しかし、翔馬はそれどころではないのか大きく動きながらはやてに声を掛けた。

 

「悪いがその話は全てが終わってからで頼む。今は少しこっちも余裕がないんだ。取り敢えず要所だけ報告する。今、聖王のゆりかご内部で戦闘機人と戦闘中。そして、俺は管理局の魔導師でスカリエッティ一味の味方じゃない。そこは信じてくれと言うしかないんだが…。それでこっちが本題で聖王のゆりかご艦内全体がAMF空間なのか魔力消費が激しい。ただのガジェットと言えど貫くのにある程度の魔力が必要になる。だから、…俺のリミッターを解除して欲しい。」

 

翔馬のその言葉にはやては何も言わなかった。仮に今まで敵陣にいたもののリミッターを解除してしまい、それで裏切られてしまっては最悪だ。今回行うのはリミッターの完全解除。これは隊長達に掛けられている鍵自体を壊してしまうというものだ。そのため、再度リミッターを掛けるにはそれなりの手続きがいる。だからこそ裏切られてしまっては甚大な被害を被ることになる。だが、はやては少しだけ悩むと口を開いた。

 

「…。その言葉、信じてええんやな?」

 

はやてはそう翔馬に問いかけた。その言葉は翔馬を信用することが前提の問い掛け。だが、その表情は真剣で翔馬を値踏みするかのような疑う目。はやては何時まで経っても翔馬から問い掛けの答えが返ってこない事に先程の厳しい表情から一転して笑みを浮かべると騎士カリムへ連絡を取った。

 

「騎士カリム。翔馬君のリミッター解除行けるか?流石に敵の本拠地で1人リミッター付じゃ、厳しい。と言うより、命の危険すらありうる。」

「しかし、…信じられるのですか?」

 

カリムは不安げな表情をはやてに見せるが、はやては苦笑いを浮かべるとカリムに耳打ちするように言葉を発する。その言葉はやはり、その人となりを知らなければ出なかった言葉だろう。そう言う意味で、はやては隊員達の事をよく見ていると言える。それに、はやてはこうも思っていた。十中八九ありえない話だが、翔馬が裏切ったとしてもそのリミッター解除をした責任は自分が被れば良いと。そうすればカリムに被害が及ぶことも無く聖王教会に責任追及されることも無い。そんなことを考えながら不安がるカリムに頷いて見せた。

 

「分かりました。はやて。あなたの言葉を信じます!!…藤田翔馬一等空尉、能力限定を完全解除。リミット・リリース!!」

 

そして、リミット解除のスイッチを押した途端、翔馬の体から溢れるほどの魔力が膨れ上がる。そして、翔馬は光が収まると同時にその場にいたガジェット達を一瞬で消し去りその場に着地する。

 

「ありがとな。はやて、騎士カリム。」

「私もそっちにすぐ向かう。…それまでちゃんと耐えてな!!」

「ああ、わかっている。」

 

翔馬は一言はやて達に感謝の言葉を述べると、はやては当たり前のようにその場から飛び立つ。そして、はやてからかけられたいつもと変わらない言葉に笑みを浮かべると頷いて見せた。そして、はやては途中でアルトに出会うと、ヘリに同乗していたリィンが飛び出してきてリィンとの合流を果たし即座にユニゾンするとはやては速度を上げて聖王のゆりかごへと向かうのだった。

 

 

 

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