魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~   作:strike

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お久しぶりです。
やっと、物語の終わりが見えてきました。
そろそろ一段落でしょうかw

今回は2人の戦いがメインです。
この戦いの終わりにある結末とは?

それでは第37話スタートです!!


第37話 決着

聖王のゆりかごでクアットロと対峙していた翔馬は全てのガジェットを一掃して視線をクアットロに投げる。すると、クアットロは翔馬に怯えた様子で後退りしてまだ抵抗しようと考えていたのかコンソールに触れようとした。しかし、今の翔馬がそれを許す筈も無く一瞬でクアットロに近づくとその手を足で蹴り上げ次の瞬間にはゼフィロスをクアットロの喉元に突き付けていた。

 

「悪いが付き合えるのはここまでだ。…クアットロ。お前を逮捕する。」

 

翔馬はそう言うとクアットロの挙動に注意しながら投降を促す。しかし、こんな芸当ができるのも後ほんの僅かが限界だと翔馬は思わざるを得なかった。今までの数日間に及ぶ魔力放出に加え、無限の欲望(アンリミデッド・デザイア)でのなのはとの戦闘、さらにはフォワード陣のフォーローや無数のガジェットの破壊。そんなことを続けていれば無尽蔵とも思われる魔力を持った翔馬でも流石に魔力消費の多さに疲れの色が濃くみられるのは当たり前の事だった。今は敵の目の前という事もあり虚勢を張ってゼフィロスを突き付けているが、実際の所今すぐ重く感じるデバイスを放り出してその場に倒れ込みたいくらいの気怠さが今の翔馬を襲っていた。しかし、目の前のクアットロさえ逮捕できれば後の事ははやてが何とかしてくれるだろうと崩れ落ちそうな体に鞭打って目の前にいるクアットロを睨み付ける。そんな翔馬にさらに恐怖を覚えたのかクアットロから先程までの威勢が完全に消え去り、体は震え、ただ翔馬を見続けることしかできなかった。

 

「…そんな。私のシルバーカーテンごとすべてのガジェットをあの一瞬で?…貴方は本当に人間ですか。」

「大切なものを守るためなら、俺は人間でなくても構わない。…投降の意思がないのなら、そろそろ眠れ。」

 

翔馬はクアットロの言葉にそう答えると容赦なくゼフィロスでクアットロの首に峰打ちを入れて気絶させた。そして、クアットロの意識が途絶えた事を横目で確認して背を向けると、体の気怠さに耐え切れなくなったのかその場に座り込んで大きく息を整えながら自分のコンディションを確認する。

 

「流石にこれ以上は厳しそうだな…。」

 

翔馬は改めて自分の状態を確認すると先程自分が思っていた以上に消耗していることに気付く。残存魔力も残りわずかで、体力的、精神的にも既に限界に達しており、こんな状況になるまで良く耐えられたものだとものだと自分に感心しながら1人で苦笑いを浮かべ、最後の役目を務めるはやてへと連絡を入れた。

 

「こちらウィング1。…はやて、聞こえるか?」

「聞こえとるよ。そっちの状況は?」

 

翔馬の呼びかけにはやてはすぐに返事をすると画面に映し出されたのはユニゾンを果たした後なのか、はやての姿は銀髪にアイスブルーの瞳と普段の姿とは全く違ったものになっていた。それを見た翔馬ははやてが万全の状態で対処してくれると知り、安心して状況報告に移った。

 

「たった今、ナンバー4の戦闘機人を逮捕。これで聖王のゆりかごの制御系は潰せたはずだ。後は、ゆりかごの後部にある動力炉をそっちで叩いてくれればそれで艦隊が布陣を敷き終わる時間まで稼げるはず。…すまないが頼めるか?」

「了解や。今リィンと向かっとる。動力炉の破壊と同時に脱出するから、翔馬君は先に脱出を。」

 

そう言ったはやての目は真剣で翔馬もそれに倣って頷いた。しかし、はやては翔馬が頷いたのを見ると今度は表情を一転させ、あからさまに不機嫌な表情になると翔馬を睨み付け翔馬は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。

 

「…ただ、今回の事に関しては色々と聞きたいことが多すぎるから、帰ったら覚悟しといてな?」

 

はやての言葉には何故か途轍もない殺気が込められていた気がして翔馬は苦笑いで頷いた。そして、外の状況やこれからの事を一通り打ち合わせるとはやてとの通信を切って翔馬ははやての脱出の邪魔にならないようクアットロを抱えて外へ脱出しようと気怠い体を動かし始めた。そして、地面に伏せているクアットロに近づいた瞬間。

 

「いいん、ですか?…玉座の、王を、放って置いて。」

「…何?」

 

翔馬はクアットロに伸ばしていた手を引っ込めて即座にゼフィロスに手をかけるとクアットロの言葉に違和感を感じ思わず聞き返してしまっていた。そして、それと同時に嫌な予感が駆け巡り、一度僅かながらも休憩をした翔馬は頭を働かせ様々な情報を頭の中で整理する。そしてあることに気付いた瞬間、クアットロが辛うじて繋ぎ止めた意識の中で翔馬に最後の忠告を言い放った。

 

「この聖王のゆりかごは、…確かに先程まで、私の制御管轄内にありましたが、今は既に主を定め、…その御心のままに動いています。…このゆりかごの、本当の主を止めない限り、絶対にこの要塞は落ちませんよ?…まぁ、貴方に止められる筈もありませんが、…精々、足掻いて…くだ、さい。」

 

クアットロはそれだけを口にすると今度こそ完全に意識を手放したのか、がっくりと体から力が抜けその場に倒れ込んだ。それを聞いた翔馬は顔を伏せ、クアットロを担ぐと嫌な予感を感じながらその場から走り出し、玉座の間を目指す。自分の嫌な予感が当たらないようにと願いながら。…そして、とても長い道を走り続けたような短い距離を一気に疾走したかのような、奇妙な時間の感覚と共に翔馬は気が付けば玉座の間へと辿り着いていた。何故かこの扉を開けてはならないと感じながらも翔馬は決意を固めると肩に担いだクアットロをその場に横たわらせてシーリングロックを掛けると扉に手をかけて一気に開け放った。その瞬間に奥にいた小さな子供に声を掛けられる。

 

「やっと来てくれたんだ。…パパ(・・)。」

「…ヴィヴィ、オ?」

 

そこにいたのは紛れも無く翔馬の守りたいと願った筈のヴィヴィオだった。今浮かべている人懐っこい表情はいつもなのはと一緒に居るときに浮かべていたものだ。見間違えるはずもない。彼女と、そして、ヴィヴィオと一緒に過ごしてきた密度の濃い時間は六課の誰にも負けないはずだから。しかし、はやてからの連絡ではヴィヴィオは現在もアースラ内部にいるはず。では、一体目の前の女の子は誰なのか。翔馬は混乱する頭を落ち着かせながら、その子の様子を伺いつつ玉座の間の中央へと足を進めた。

 

「不思議そうな顔してるね。でもそれも当然かな…。本当(オリジナル)の私は向こうの船に乗ってるんだから。」

「……。なら、俺の目の前にいるヴィヴィオは一体誰なんだ?」

 

翔馬の言葉にヴィヴィオは少し驚いた表情を見せるが、一瞬で笑顔に変わった。それを見て、翔馬は確信した。目の前にいるのは確実にヴィヴィオでありながら、ヴィヴィオでない存在だと。ヴィヴィオは翔馬が何かに感付いたことに気付いたのかそうでないのかはわからないが、座っていた椅子から腰を上げると台座のような場所から降りて翔馬の正面に立つ。

 

「ヴィヴィオ、って呼んでくれるんだ?もしかしたら気付いてるかも知れないけど…色々とね、あったんだよ?本当(オリジナル)の私が手に入らないからって採取したあの子の遺伝子を組み替えられて必要な所はそのままに、いらない所は壊して創り替えて…。そんなことを繰り返されてる内に私は私になった。パパにわかる?こんな風に創られた私の気持ちが。…気付いた時にはここに閉じ込められて、何か怖いものがずっと私の中に流れ込んでくる。逃げたくても逃げられなくて、叫んでも誰も助けてくれなくて、たったのひと月でこんな姿にさせられた私の気持ちが、パパにわかる?」

「ひと月、だと?」

 

たった、ひと月で生まれてきた子供が5才の女の子に成長するなんてことは確実にありえない。そんな計算が成り立つのなら、この目の前の子は今している数秒間の話の間にも数日の時が流れていることになる。しかし、彼女の言葉はきっと本当の事なのだろう。スカリエッティが危惧していたのは聖王の器がこのタイミングで手元に無い事。だとすれば、今は借り物であったとしても聖王のゆりかごさえ動かせれば何も問題は無い。例え、それがほんの1年間だけの器だったとしても。その1年間の間に本物を手に入れられればそれだけで目的は達成されるのだから。ヴィヴィオの言葉に翔馬は息を詰まらせ、スカリエッティの行いに激しく怒りを感じた。そして、同時に恐怖も感じていた。なぜなら、こんな制限があったとしても、プロジェクトフェイトの完成形を作り上げてしまったのだから。

 

「どうして、もっと早く来てくれなかったの?」

 

翔馬が怒りと恐怖を感じている間にヴィヴィオは直ぐそこまで近づいて来ていた。そして、不安そうな表情で見上げるその瞳は今にも泣きだしそうなくらいに揺れており、そんなヴィヴィオの姿を見た翔馬は思わず手を伸ばしてヴィヴィオに触れようとしていた。

 

「ヴィヴィオ…。すまない。だがこれからは……」

「これから?…これからって何? 私の命は1年ちょっとしかないんだよ?それなのに今更パパたちの所に行ってどうしろって言うの?」

「っ!?」

 

しかし、ヴィヴィオの完全無垢な一言に翔馬はその手を宙で彷徨わせることになる。そして、翔馬の姿を改めて見つめ直した目の前のヴィヴィオは何かを悟ったかのように寂しげな表情で微笑んだかと思うと顔を俯かせて翔馬から一歩引いた。

 

「無理だよ。…私はただ、このゆりかごを起動させる為だけに生まれた鍵で貴方達とは違う。…私が生きる意味はこのゆりかごを起動させて本物の私を待つことだけ…。だからね?」

「ヴィヴィオ!? 止せ!! そんなことをしても…っく!!」

 

翔馬はいきなり魔力を自分の身に集め始めたヴィヴィオに制止の声を掛けるが、とっくにその声は意識の外に弾き出されてしまっているのか、ヴィヴィオは更にその魔力を取り込み始め、翔馬はその衝撃に耐えながらヴィヴィオを見つめ続ける。…しかし、虹色の光が弾け、翔馬達の居る空間を埋め尽くすと、翔馬はあまりの眩しさに目を固く閉じて身構える。そして、閉じていた目を開いた先にいたのは髪をサイドテールに纏め翔馬の肩位まで大きく成長したヴィヴィオの姿だった。

 

「ヴィヴィオ…。どうして、そんなことを…。」

「これが、私の生きる意味だから…。」

 

無機質にそう答えたヴィヴィオは既に翔馬に向けて無邪気な殺気を放ち続けており、奇妙な感覚にとらわれる。殺気と言うものは体を貫くような鋭いものの筈で体に纏わりつくようなこんな殺気を感じたのは初めてだった。しかし、それも仕方の無い事だろう。まだ外の事を何も知らない子供が人を殺すという概念を持っている筈も無いのだから。ただ、無意識にここから追い払うための敵意を翔馬に向かって放っているに過ぎない。もしかしたら、他に何か見落としている部分があるのかもしれないが翔馬は取り敢えずそれを自分に言い聞かせて、向こうが完全に敵となってしまう前に翔馬は説得を試みる。

 

「待て!!お前の生きる意味なら俺と一緒に探そう。逆に考えればまだ1年ある!!その間にお前が急成長しないように抑えられるような治療ができるかもしれない!!まだやれることはある筈だ!!」

「…それは無理じゃないかな?そんなことパパだって分かってる筈だよ。あの人が作り出したものをただの人がどうこうできるとは思えない。だから私はここで与えられた役割を果たすの。それが生きる意味だから。」

 

そう言ったヴィヴィオは酷く寂しそうな表情を浮かべて微笑んだ。それを見た翔馬は心が痛み何か方法が無いかと頭を巡らせる。しかし、医療に携わった事のない翔馬にそんな事が判る筈も無く、ただ時間が過ぎて行く。そして、ヴィヴィオはもう十分だと言わんばかりに拳を構えた。

 

「もういいでしょ?…お願いだからここから帰って。じゃないと私…。」

「ヴィヴィオ!!考えれば何か方法が…」

 

と、翔馬が説得を続けようとした瞬間、今度こそ鋭い殺気が背中を刺し、翔馬は舌打ちしながら地面を転げるようにその場から横に飛び、ヴィヴィオの攻撃を回避する。しかし、先程までいた場所から衝撃が翔馬の背中を襲い、思わず体勢を崩しそうになるが足を踏ん張って堪えると更にその場から距離を取って元いた場所に顔を向けた。

 

「やっぱり、避けられちゃうんだね。…できれば一撃で終わりにしたかったのに。」

「ヴィヴィオ!! 止めろ!! 俺達が戦う必要なんて…」

「もういいよ…。帰って!!」

 

ヴィヴィオは翔馬の説得を聞くのが苦痛に感じ始めたのかあからさまに表情を歪めると地面を蹴って翔馬に飛びかかり魔力を帯びた拳を思いっきり振り降ろした。しかし、翔馬は今のヴィヴィオと戦う気が起きずにそれを躱してチェーンバインドでヴィヴィオの動きを封じ込めた。

 

「話を聞け!!俺はお前と戦いたくなんてない。ただ一緒に居られればそれで…」

「はぁぁぁ!!…うるさい!!!」

 

ヴィヴィオは翔馬のバインドを力ずくで引きちぎると翔馬に向かって本気の一撃を放つ。翔馬はバインドが解かれたことに驚きながらも咄嗟にプロテクションを張って受け止めるが想像以上にヴィヴィオの攻撃が重く、そして自分の体力が限界にきている事が重なり、プロテクションを破られることは無かったが翔馬は勢いを殺すことができずに壁へと体を叩きつけられる。

 

「がはっ…。くっ!!」

 

翔馬は壁に叩きつけられた衝撃で息を詰まらせるがそこに容赦ない追撃を加えようとしていたヴィヴィオが視界に入り力の入らない体に鞭打ってその場をみっともなく転げるようにしてヴィヴィオの攻撃から逃れる。しかし、その直後にヴィヴィオの攻撃による衝撃を体に受けて更に吹き飛ばされ地面を数度転げる。

 

「くっ…。はぁ、はぁ。ヴィヴィ、オ。」

 

ボロボロになりながらも翔馬は一切ゼフィロスに手をかけることはなく、ただヴィヴィオの名を呼び続けた。そんな翔馬の姿にヴィヴィオは一瞬心が揺らぎそうになるが首を横に思いっきり振って想いを振り払うと、もう一度翔馬へと攻撃を仕掛けるために構え直して一歩を踏み出し、一瞬で距離を詰めて容赦なく翔馬へと一撃を入れる。しかし、翔馬は呼吸が元に戻ったのか今度こそ万全の状態でプロテクションを張るとヴィヴィオの一撃を完全に防いだ。だが、ヴィヴィオもそれだけでは終わらず両方の拳を使って続けざまに翔馬のプロテクションへと打ち込み始める。そして、プロテクションにひびが入り始めた頃、ヴィヴィオは顔を俯かせて呟く。

 

「もう帰ってよ…。私はこのゆりかごと一緒に…」

「帰るさ…。このゆりかごを止めて、お前と一緒にな。」

「っ!?」

 

ヴィヴィオの言葉が言い終わる前に翔馬は言葉をかぶせて優しく微笑んだ。そして、その言葉にヴィヴィオはハッとした表情で顔を上げるが、その瞬間、ヴィヴィオの拳はプロテクションを打ち抜きそしてその拳は自分に微笑みを向けている翔馬の体へと吸い込まれていった。そして、翔馬はその体に強い衝撃を感じ体が一瞬だけ浮くような感覚と共に口に鉄のような味が広がりそれを吐き出した。すると、地面が一瞬で赤く染まり思わず翔馬は苦笑いを浮かべる。辛うじてヴィヴィオの突き刺さった拳に腹部を支えられて立っているがヴィヴィオが後ろに足を引いたらさすがにもう立っていられないだろう。それを感じた翔馬はヴィヴィオの拳を優しく包んで自分の方へと引き寄せ、そしてヴィヴィオの体を抱きしめた。

 

「どう、して…?」

「自分の大切な娘を、傷付けられるはずないだろう?…一緒に帰ろう。ヴィヴィオのことは、俺が何とかしてやる。」

 

翔馬はそう言うとヴィヴィオの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。すると、ヴィヴィオは堪え切れなくなったのか涙を流し始め翔馬に縋りついた。

 

「…っ、ゴメン、ナサイ。…ゴメンナサイ。パパ…うっ…。」

「いいさ。わかってくれさえすれば。これから探そう俺達が生きる意味を。」

 

そう言って翔馬は一先ず聖王のゆりかごでの問題は全て解決したことを感じ、暫くの間ヴィヴィオを慰めるのだった。

 

 

 

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場所は変わり、無限の欲望、台座の間。ここではなのはとシエルが戦闘を行っておりその優劣は誰が見てもわかる程に明らかだった。

 

「ブラスタービット!!」

 

なのはが呼びかけると2機のブラスタービットはシエルに向かって一直線に飛んでいき、シエルはそれを迎撃しようと大太刀を振り降ろす。しかし、そのブラスタービットは大太刀に叩き落される直前でクロスするように左右へ別れると尾を引いていた魔力のロープがシエルに絡みつきその動きを完全に止めてみせた。

 

「レイジングハート。…クリスタルケージ!! っはぁ、はぁ、これで暫くは…。」

 

なのはは上がった息を整え、シエルへのバインドを強固なものにしながら距離を取るとレイジングハートを構え砲撃準備を整えながら何度目かの声を掛ける。

 

「シエルちゃん!!目を覚まして!!…こんな事、ホントは望んで無い筈だよ!!」

 

なのはは必死にシエルに向かって声を張り上げるが、シエルはその言葉に意味を感じられないのかただ黙ってなのはの事を睨み付けるだけだった。そんな様子になのははシエルがおかしくなってしまった原因を探す。しかし、翔馬のようにここの魔力に当てられてしまった訳ではなさそうだった。バリアジャケットもデバイスもシエルが元々使用していたものと何も変わりは無いように見えるし、翔馬のように魔力光が黒く染まっているという事も無い。ならば何が影響してシエルを変えてしまったのか。そう考えている内にシエルは一つ息を吐き出すとあっさりとなのはのバインドを解いて、目の前のケージに向かって掌を向ける。そして、その瞬間に大きな爆発が起きてケージは破られ、無傷のシエルがなのはの前に現れた。

 

「言った筈です。私はドクターの命令に従うまで、私の意思などとうの昔に消え去っています。私が望むのはこの要塞の完全起動。…それだけです。」

「シエルちゃん!!!」

 

なのはの呼びかけをシエルは無視して再度大太刀を両手で背負うように構えるとなのはも構えたレイジングハートに力を込める。そして、シエルが一歩踏み出したかと思うとシエルは大きく宙に飛び上がりなのはに向かって大太刀を叩きつける。

 

「くっ!!…アクセル!!」

 

なのははそれをプロテクションで受け止めると予め待機させておいたアクセルシュータをシエルに向かって放つ。それを、横目で目視したシエルは無言で一度下がるとなのはのアクセルシュータに大太刀を振るい一薙ぎですべて消し去る。しかし、なのはもここまでは計算済み。シエルが下がった瞬間にレイジングハートはカートリッジを2つ吐き出し、砲撃の準備を整えていた。

 

「ディバイン…バスター!!!」

 

なのはの砲撃発射合図と共に巨大な桜色の魔力がシエルへと押し寄せ、丁度迎撃を成功させた直後のシエルに会する術は持ち合わせていなかった。そのため、シエルを容易に、そして確実になのはの砲撃が飲み込んだ。そして、直後に大きな爆発が起きると、なのはは警戒を解くことなく上がった爆煙に目を凝らすが、疲れがたまったのか膝が震え、その片膝を付いてしまう。しかし、爆煙が晴れたその先にあったのは爆発によって大きく抉れた地面の中心にしっかりと無傷で立ちなのはを見つめるシエルの姿だった。対してなのはの様子は先程から致命傷は避けている物のバリアジャケットは所々が破れ、額や腕からは血を流し荒い呼吸で疲れが見て取れる。状況は明らかにシエルの方が有利だった。

 

「諦めたらどうですか? 今の貴方じゃ、私を倒せません。」

「…それでも!!」

 

なのははシエルの言葉に勢いよく噛み付くと折ってしまった膝を震わせながらレイジングハートを支えにして立ち上がって真剣な表情でシエルを見据える。

 

「皆が戦ってるの。必死に、ボロボロになりながら…大切なものを守るために。だから私もこんなところで諦めない!!シエルちゃんを取り戻して私達はこの要塞を止めて見せる!!」

「…何をそんなに必死になるのか、私には理解できませんね。諦めてありのままの現実を受け入れてしまった方が楽だと思いますが。」

 

シエルの言葉になのはは俯いてその表情は伺えなかった。力の抜けきった体を辛うじてレイジングハートに支えてもらっているような姿は戦闘の終了を感じさせ、シエルは背負った鞘に大太刀を納めて元いた台座へと向かおうとする。しかし、それも数歩でなのはの言葉に止められてしまう。

 

「確かにそうなのかもしれない。抗わなければ私達は傷付かないし、受け入れてしまえば世界の在り方は変わっても生きて行ける環境にはなるかもしれない。…でも、この事件に関わってしまって傷付いた人たちはどうなるの?痛い思いをして、苦しい思いをして、悲しい気持ちを抱えてしまった人達は?…私達はそんな自分の力ではどうしようもない理不尽から民間人を守るためにいる。そんな思いをする人を1人でも救えるように。…シエルちゃんだってそうでしょ?」

 

なのはは顔を上げると清々しい位の笑みをシエルに向けていた。それを振り返って見たシエルは態度かそれとも言葉かはたまた、そのどちらもなのかそれを確認する術は無かったがあからさまに不機嫌な雰囲気を身に纏ったことはわかった。ここでなのはがシエルと出会い、初めてシエルの感情が現れた瞬間だった。

 

「ただの偽善に私を巻き込まないで頂けますか?…私はそんなことを望んでなどいませんし、ただの思い込みで人の事を語らないでいただけませんか。分かったように人の事を語るそう言う人が一番気に食わないんです!!」

 

そう言ってシエルは大太刀をその場で抜き放つとその勢いのまま魔力を乗せて振り切る。すると、強烈な衝撃と共に魔力刃がなのはに襲い掛かる。しかし、なのはは先程とは打って変わり焦ることなくその場から飛び立って回避すると、いつの間にかなのはの背中に移動していたシエルが振り降ろした大太刀もレイジングハートで完全に受け止めて見せた。

 

「っ!?さっきまでと動きが…。なっ!?」

「チェーンバインド、レストリクトロック。」

 

なのはは、シエルの振り降ろした大太刀からそっと身を外すとありったけのバインドで雁字搦めになったシエルと台座を一直線に結んでレイジングハートを構えた。

 

「大丈夫。直ぐに思い出せるよ。…シエルちゃんが必死に守ろうとしていたもの。大切にしていたもの。だって、シエルちゃん自身が私に教えてくれたんだよ?この世を襲う大きな被害を食い止めるために私は存在するんだって。だから…。ブラストモード、リミット3リリース。」

「っく!!…このバインド、今までよりも固い!?」

 

シエルはなのはに集束していく魔力量に焦りを感じ始めその身を必死に動かそうとするが、なのはの時間を掛けて作ったバインドは今まで以上に強固で直ぐにこの場を離脱できそうになかった。そして、なのははシエルに一度だけ笑みを向けると表情を引き締め、震える手に一瞬だけ目をやってから力を込めて目標に狙いを定める。マガジンを2つをすべて使い切り魔力を集め始めると大気が大きく震えはじめた。

 

「私が、ううん。私達がシエルちゃんの想いを助けるから。これで、目を覚まして!!」

「何を考えて…。私に当たった時点で後ろの台座は…」

 

シエルがそう言った瞬間、なのはの周りを飛んでいた4機のブラスタービットが散開し目標を台座に定めた。そう。スターライトブレーカーのバリエーション。なのはの収束砲撃の中でも最大火力となる砲撃だ。そして、その姿を見たシエルは何故か憑き物が落ちたかのように抵抗を諦め、ただ大人しくなのはの収束が終わるのを待った。やがて、震えていた大気は静まり5つの桜色の魔法陣が宙に描かれ、周囲には桜色の粒子が飛び交い、その光景はまるで満開の桜並木の中にいるようで美しくも見えた。そんな光景の中でこの戦闘の幕を下ろす一撃が放たれる。

 

「スターライト…ブレイカー!!!!」

 

なのはの掛け声と共に5つの砲門から凄まじい威力の砲撃が放たれ、周囲が桜色に染まる。そして、その砲撃を身に受けたシエルは苦痛で表情を歪めながら呻き声を上げていた。苦痛に歪んだ表情はとても辛そうに見えたがシエルを救うためだと自分に言い聞かせてさらに力を込める。すると、シエルの胸の中から赤い何かが浮き上がりそれにひびが入り始めたかと思うと一瞬で砕け散り消え去ってしまった。なのははそれを視界の隅で捉えると意識をレイジングハートのタイマーに視線を移し-04.05となっている事を確認し最後の力を振り絞った。その瞬間台座から大きな爆発が起こりなのはは思わず手で顔を覆った。そして、長い時間を要して爆煙が晴れ、そこには力なく横たわっていたシエルの姿と完全に跡形も無く消え去った台座の跡が残るばかりだった。その光景を見て自分の役割を果たしたことにホッとすると体から力が抜けて思わず腰を下ろしてしまい、そんな自分に苦笑いを浮かべながら少しだけの間、体を休めることにして壁に体を預けて呟く。

 

「翔馬君。こっちは無事に終わったよ。…早く、会いたいな。」

 

そう言ったなのはは傷付いた体とは不釣り合いなほど頬を赤く染めて穴の開いた壁から青い空を見上げるのだった。

 

 

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