魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~ 作:strike
そして、次回が最終回となります。
無限の欲望に相対する機動六課の最後はどうなるのか?
ご感想、ご意見はいつでもお待ちしています。
それでは、第39話スタートです!
翔馬とはやては最後の戦闘が行われている
「まだ戦況は変わってないみたいやね……。」
はやての呟き通り、翔馬が無限の欲望から出て行った時とほぼ変わりは無く、あえて変わったところを挙げるのならクアットロを逮捕したことによるガジェットの動きの鈍化と魔導師の被弾が極端に少なくなった事くらいだろう。戦況はこちらに傾きつつあるが大量のガジェットと無限の欲望に装備されている砲台達が戦況を留まらせていた。つまり外からではこの戦況を変える手立ては今の所、無い。今はただ、なのは達から作戦成功の報告を待つのみだった。
「無限の欲望、完全起動まで後、22分。……やれるのか?」
「やれるよ。エースオブエースのなのはちゃんに鉄槌の騎士ヴィータが本気であれを止めようとしてる。それなのに、止められないはずがないやろ?」
はやては翔馬の言葉に当然とばかりに言い返すと2人は戦闘空域に迷うことなく突入してこの戦域を指揮している魔導師の元へと向かう。しかし、暫くしてからはやては何かを思い出したように気まずそうな顔で翔馬へと視線を向けた。
「何にも言わへんかったけど……翔馬君は戦域から外れた所で待機してても良かったんやで?」
翔馬ははやての言葉に振り向き、それと同時に口元に笑みを浮かべると腰にぶら下げたゼフィロスに手をかけた。
「期待するとか言っておいて、それは無いだろ? それに…はっ!!」
翔馬は手に掛けたゼフィロスを躊躇うことなく抜き放つと同時にはやての後ろに迫って来ていたガジェットを一閃で片付け、ゼフィロスを肩に担いではやてへと顔を向けた。
「これくらいなら、魔力が無くてもやれるしな。」
「……そうやった。何ができるかわからへん言いながら思いっきり役に立っとるし。まぁ、それなら心配は要らへんな。」
はやては爆散したガジェットを驚いた表情で見ると、その表情を直ぐに苦笑いへと変えて頬を掻きながら翔馬の同行を認めた。そして、はやては周囲に目を向けると指揮官を探す。
「あそこやな。私は指揮に戻るから、翔馬君は私のフォローお願いできるか?」
「了解した。」
翔馬達は頷き合うとその指揮官の元に向かうため進路を変えて動き出そうとした。しかし、それは無限の欲望からの2つの爆発音によって止められる。
「っ!? ……今のは!!」
「魔導師突撃部隊とヴィータ!! でもまだなのはちゃんの所は……」
翔馬とはやては爆発音のした無限の欲望へと視線を向けるとそこには大きな煙が2つ上がっていた。しかし、最上階からは未だに煙が上がらず、2人はなのはの心配をしてその方向を見つめる。が、それはものの数秒で気苦労へと変わった。
「もう一つ爆発確認。 今度は最上階!!」
「これで、無限の欲望は停止する筈や!!」
翔馬とはやては無限の欲望から上がった煙を3つ確認すると、暫くしてから次々に報告が入って来て3つの動力炉が無事に破壊できたのだとホッとした表情で胸を撫で下ろす。そして、周囲でもそれを確認した魔導師達が事件の解決に喜びの声を上げながら、士気はさらに高まり残りのガジェットの掃討に尽力を尽くしていた。
「ふぅ……。これで一件落着やな」
「みたいだな……。これで俺も心置きなくアースラへ戻れる。これも、あいつに渡してやらないとな……。」
はやては指揮を代るまでも無く事件が解決へ向かったことに安堵の表情を浮かべると翔馬もその言葉に軽く頷いた。そして、掌に載せた赤い石を見つめながら微笑み、自分たちの事を待ちわびているだろう少女を想っていると、遠くからこちらに呼びかける声が聞こえてきた。
「翔馬! テメェまた変な無茶しやがって!!」
そう声を張り上げながら近づいてきたのはヴィータ。そしてその後ろを気絶しているシエルを背に乗せたなのはが続き、背後を見ればフェイトもこちらにやって来たようだった。そして翔馬はなのはに視線を戻すとなのはの表情はここからではよく見えず、ただ、きっと今回の無茶を怒っているんだろうという事はなのはの纏う気配から感じられた。そしてその勘は的中していたようで、なのはの口から聞こえた声はいつもとは違って低い声だった。
「ヴィータちゃん。 ……ゴメン。 シエルちゃんをお願いできる?」
「……なのは? どうし」
ヴィータはいきなり押し付けられたシエルを受け止めると、いきなりの行動に驚いてなのはに声を掛けようとするが、それは最後まで言切れずなのはは、誰よりも早くはやての隣に立つ翔馬の真正面に移動する。翔馬は何を言われてもされても受け止めようと黙って目の前に立つなのはを見つめ、その時を待った。そして、その様子をはやて達3人も緊張した表情で見つめる。そして暫く、と言っても数秒だが、時間が経つとなのはの手が動き翔馬は衝撃に備える。が、何時まで経っても思っていた衝撃がやって来ず、遅れてやってきたのは翔馬の体にもたれ掛るなのはの体だった。
「っ!!……心配したんだよ? シエルちゃんと一緒にあれを破壊するって言ってたのに、いつの間にか敵になってて……もう、戻ってこれないんじゃないかって、私っ……!!」
「なの、は? ……済まなかった。」
翔馬はそう言うとなのはの背中に手を回してその体を優しく包み込んだ。翔馬はふと周囲に人がいることを思い出して目だけを動かしてそれぞれを確認するが、はやてとフェイトは微笑みを向けて、ヴィータは顔を少しだけ赤くしてそっぽを向いていた。この状況で口を出してこない所はホントになのはは皆から想われているのだと実感しながら、なのはが落ち着くまでそうしていた。
「ごめんね、こんな所で……。 でも、本当に怖かったんだから……。 帰ったら色々と聞かせてもらうからね?」
「分かった。覚悟しておくよ。」
翔馬はいつもの調子に戻ったなのはに安堵しながら苦笑いを浮かべると頷いて周囲にいた全員に顔を向ける。
「今回の件は俺の独断で動き回ったりして済まなかった。……なのはにも説明するつもりだが、全員にも一応聞いて欲しい事がある。この事件がちゃんとすべて終わったら、時間を俺にくれ。」
「「了解。」」
「ああ。」
翔馬の言葉に全員が頷くと翔馬は深く息を吐いて緊張を解いた。それを見てなのは達は面白がって笑みを浮かべると翔馬は気恥ずかしくなったのか軽く頬を掻いた。そんな時、思わぬ人物からの横槍で全員の視線がそちらに向けられる。
「まだ事件の全てが終わったという訳でもないのに談笑とは……翔馬さんもずいぶん変わられたものですね?」
「「「「「シエル(ちゃん)!?」」」」」
シエルは自分に全員の視線が集まったのを確認すると少しだけ辛そうな表情を苦笑いに変えた。そして、翔馬達はシエルが目を覚ましたことに驚きと安堵の表情を浮かべていた。
「シエルちゃん。 体は大丈夫?」
「ええ、なのはさんの砲撃が私の中にあったレリックを的確に破壊してくれましたから。まだ、体を動かすのは少し辛いですが……1人で飛ぶくらいは問題ありません。」
シエルはなのはの言葉に答えるとヴィータを軽く押して体を離れさせると1人でしっかりとその場に浮いていた。そこで翔馬はシエルが先程言っていた言葉に引っ掛かりを覚えたのか、表情を引き締めてシエルを見つめ、シエルはその視線を受け取ると笑みを浮かべていた。
「シエル。さっき言っていた事件が終わっていないって……どういうことだ? まさか失敗したのか!?」
「……翔馬君? 作戦が失敗してるのに私達がここに勢揃いなんてありえないでしょ?」
「少し考えればわかる事だ。 ちゃんと全ての動力炉が破壊されたことは確認している。 無限の欲望も機能を停止させている筈だ。」
はやてとヴィータの言葉に翔馬は安堵の溜息を付くがその瞬間に自分が今見ている光景に違和感を覚える。
「っ!? 何かが、おかしい。」
「気付きましたか? 翔馬さん。 私の言葉の意味が。」
「「「っ!?」」」
翔馬とシエルの言葉に全員がこの景色におかしい箇所があることに気付いた。無限の欲望は確実になのは達が堕とした。それなのに、全員の視界から無限の欲望が消えていない。それどころか未だに煙を上げながら先程と全く変わらない位置で「浮遊」し続けているのだ。
「どうして!? 動力炉をすべて破壊できれば機能が停止する筈!!」
「何が起こってるの……?」
なのはとフェイトそしてその他のメンバーも無限の欲望に目を向けてその動向を見逃さないようにしていた。すると、どれくらいの時間が経ったかはわからないが僅かに砲門が動いたのをシエルが確認した。
「……やはり、まだ完全にあれを堕とせた訳では無かったようですね。」
「みたいだな。……まだ、何ヶ所か動きが見える。」
シエルと翔馬は険しい表情を浮かべて無限の欲望を見据えていたが、一つ疑問があった。それは動力炉が無い状態でなぜあれが動けるのかという事。それがわからなければ、対処のしようも無い。しかし、ただこのまま見ているだけではそれこそ何も変わらない。そう感じたはやては全員に再度通達を行う。
「魔導師各員に通達します!! 無限の欲望内部にあった動力炉の破壊に成功。 しかし、一向にあの要塞が落ちる気配がみられません。 状況確認のため、各部隊は編隊を組んで内外部の調査をお願いします!!」
はやては直ぐに各魔導師部隊に通達を行うと各場所から無限の欲望へと魔導師達が向かって行った。その様子を見てはやては翔馬に顔を向ける。
「翔馬君。 ゴメンやけど、翔馬君は一旦地上に降りてティアナ達と合流して待機しとってくれるか? ここからは私達でやる。」
「……今の俺じゃ、何の役にも立てないしな。 了解した。」
翔馬ははやての言葉に頷くと、隣で飛んでいたシエルが何かを言いたげに口を開いては閉じて悩むような仕草をしていた。しかし、何かを決めたような表情で全員を見渡すと自分の想いを告げた。
「なら、翔馬さんの代わりは私が務めさせて頂きます。 ……もともと犯罪者達の元にいた身ですので、勝手な事は言えませんが、内部事情なら私ほど適任は居ないと思います。 それに、私の目的はあれを堕とす事です。この事件が始まってからはレリックに囚われ、何もできませんでした。だから、この場で私が役に立てるのなら、私も何かしたいんです!!……連れて行ってもらえないでしょうか?」
シエルの不安に揺れた瞳に対して真剣な表情を浮かべていた5人は一瞬で笑顔になると躊躇う事無く頷いた。そして、はやては何か悪巧みでも考え付いたのか、口角と吊り上げるとその視線をシエルへと向けた。
「いや~、私達も困ってたんよね。内部の事って動力炉の位置がわかる程度で他の場所なんて知らへんし……、内部構造に詳しい人がいれば助かるわ。 敵だったとしても、功績があればそれは確実に評価される。機動六課への情報提供、事件中、翔馬君との内部工作、調査への協力、これだけあれば管理局への復帰も簡単やね。」
はやてが悪戯っぽく微笑むと全員が恐ろしい者を見るような目ではやてを見つめていた。しかし、そんな中、1人だけ呆けたような表情ではやてを見つめている人物がいた。
「私が管理局に……?」
シエルの呟きにはやては少し苦笑いを浮かべながら頬を掻くと視線を逸らした。
「まぁ、もちろん何もなしに復帰とはいかへんやろけど……でも、きっともう一度管理局で働けるようにしたるよ。」
「私達も協力するしね。 でしょ? なのは。」
「もちろんだよ。 きっと一緒にお仕事しようね? シエルちゃん。」
はやて達の言葉にシエルは少しだけ瞳を潤わせると浮かんだ涙を振り切って力強く頷いた。
「はい!! ……私がまた管理局に。」
シエルはもう二度と戻れないと思っていた管理局に戻れる可能性が出来て今までの疲れなど吹き飛んだかのように目を輝かせ、気合が入ったのか表情を引き締めた。
「それではすぐにでも中を案内します。私に……」
シエルがそう言って視線を無限の欲望へと移した瞬間、その言葉が止まり表情は一転言葉を失っていた。その様子に首を傾げる5人はシエルの視線の先に目を向けた。そして、それと同時に先に調査に出ていた管理局魔導師からの通信が入る。
『八神二佐。無限の欲望に異変を検知!! 魔導師部隊は一時内部から撤退して、距離を離して動向を確認中。魔力が……無限の欲望へと集まって行きます!!』
「なっ!?」
全員の視線の先にあったのは無限の欲望から飛び出していたアンテナ4機の中心に真っ黒に染まった魔力が集まり始めていた光景だった。しかもその魔力量はブレイカー級どころではなかった。この大地をすべて焼き払えるほどの無慈悲で強大な大魔力。
「どうなってるんだ? 動力炉が無いのにどうやってあの魔力を収集して……」
「「「「っ!?」」」」
翔馬の言葉に時間が止まったかのように全員が体を強張らせる。そして、翔馬の言葉に一番ショックを受けていたのは他でもないシエルだった。
「まさか……私の、能力があの中に残って……、もしそうなら、制御系統さえ生きてれば魔力の貯蔵はできなくても一度に限って一点集束の砲撃を放つことは……可能。 私が囚われてしまった所為で……」
「シエルちゃん!! 今はそんな事よりあれを止めないと!! 方法は!?」
シエルは考えなしに囚われの身となってしまった自分を責め、そのことに体を震わせた。しかし、なのはがシエルへと声を掛けると、シエルは体を大きく震わせてから全員に顔を向けた。するとそこにはシエルを責めるような人間は1人としておらず、シエルが協力してくれるのを信じて待つものばかりだった。その現実にシエルは自分の感情を振り切って表情を引き締める。
「……そうでしたね。私が止まっていても、何も変わらない……!!」
シエルは1人そう呟くと顔をしっかりと上げて全員を見渡した。
「方法はただ1つです。あのアンテナを全て破壊してください。 元々、あのアンテナが魔力の収集を行うために必要な物だった筈です。 あれを破壊すれば魔力の収集は止まり砲撃もこれ以上大きなものにはなりません。」
シエルの言葉に頷いた5人は少し額に汗を滲ませながら魔力収束を行っている無限の欲望を睨み付ける。
「だとしたら問題は……」
「あの砲撃をどうやって止めるかってことか。」
はやてとヴィータが焦りながらも笑みを浮かべてそう言うと、なのはとフェイトもそれに頷いた。終始黙っていた翔馬は打開策が無いかと考えていたが、今の自分には結局何もできない事がわかりきっていた。魔力も体力も既になくなっているこの体でこれ以上どうすることもできない。それどころか、これ以上体に負担を掛ければ確実に次は無いだろう。同じことを全員が考えていたのか全員直ぐに動かなくてはなら無い筈なのにその場から動く事が出来ずにいた。そんな中で、シエルは覚悟を決めたかのように全員の前に立つ。
「翔馬さんを除いた皆さんは、アンテナを破壊してください。」
「でも……、そうすると固定術式が無くなるからあの砲撃が暴れて爆発するか、もしくは放たれるかもしれないよね?」
「方角からして狙ってるのは地上本部。 撃たせる訳にはいかない。」
シエルの言葉になのはとフェイトが答えるが、シエルは静かに首を横に振った。
「地上本部は撃たせません。 皆さんはあれを暴走しない程度にアンテナのみ破壊して下さい。私がここで迎撃します!!」
「「「「「なっ!?」」」」」
「何言ってんだシエル!! あんな砲撃を1人で……しかも、今のお前は!!」
シエルの発言に全員が驚いた表情でシエルを見つめ、翔馬に至ってはさせたくないのか声を上げて止めようとする。しかし、全員に振り向いたシエルは憑き物が落ちたかのような良い笑顔を浮かべていた。
「その言葉。 翔馬さんには言われたくないですね。 それに、私ならISもありますし最悪は私のデバイスを通して方向を変えればいい。 大丈夫ですよ。 私は無理矢理生かされていた身ですし、こうなる覚悟はもちろんしていました。だから皆さんは一刻も速く!!」
「ダメだよ!! そんなの!! 今さっき一緒にお仕事しようって、管理局に戻ろうって言ってたばかりじゃない!!」
「そうだよまだ方法は何か……」
シエルの言葉に全員が反対するがシエルはそれを途中で遮って先へ進むように促す。
「ありませんよ。こうしている間に私が生き延びられる確率が減って行きます。ですから、私のことを思うのなら1秒でも早く行って下さい。 私の願いはちゃんと叶えてくれる人がいますから。」
シエルはそう言って最後に翔馬へと微笑むと全員に向かって魔力を放出しその場から大きく引き離した。そして、もう言葉は要らないとばかりに大きな魔法陣がシエルの目の前に描かれる。はやて達はもう一度説得を試みようとするが、無限の欲望へと集まる魔力が確実に1人では押さえきれない状態にまで膨れ上がったのを感じ、これ以上被害を拡大させないため後ろ髪を引かれる想いで全員が無限の欲望へと飛び立つ。
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翔馬は全員と別れて1人近くのビルへと降り立っていた。余程魔力の消耗が激しかったのかその場に座り込むと全身から嫌な汗が伝う。そんな状況でも考えるのは自分の真上で起こっている最終決戦の行方だった。
「本当にこれで良かったのか? これしか、方法は無かったのか?」
翔馬は全員が配置に付いた上空を見上げながらそう呟いていた。これ以上は翔馬の出る幕は無い。出て行ったとしてもそれは誰が犠牲になるか、それが変わるだけだ。だから、今は堪えてシエルが無事に帰って来ることを祈るだけ。そう言い聞かせるが翔馬はどうしても、あの光景が頭にこびりついて離れなかった。自分に力があれば救えた命。それをいまもう一度繰り返そうとしている。目を逸らして考えないようにしようと思うが一向に目を逸らす事が出来無かった。無力で惨めな自分に翔馬は目から溢れる物が止まらなかった。ここからでも、同じような想いの4人が視界に映る。ここからでは少し遠いがきっと彼女達も涙をこらえているのだろう。そして、僅か数秒で新たに魔方陣が無限の欲望を取り囲むように現れる。
「これで、よかっ……?」
翔馬はやっと現実を受け止めて視線を動かした時に視界の端に何かが見えた。この時の偶然が無ければ物語はこれにて終了だっただろう。なのはたちの手により無限の欲望は堕とされ、シエルが砲撃を受け止めて地上本部を救う。しかし、この偶然がそれを許さなかった。翔馬にしかできない事が、まだやれることが出来てしまったのだ。それを目にした途端、翔馬は動き始める。未来を変えるために。
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『全員準備はええか?』
『『『『大丈夫(です)!!』』』』
はやての掛け声に全員が頷くと、全員のカートリッジが一斉に吐き出され魔法陣が眩いほどに煌めく。そして、無限の欲望を囲んでいた4人は表情を歪め、それをモニター越しに見ていたシエルは苦笑いを浮かべて語り掛けた。
『皆さん、そんな顔をしないで下さい。 そんな顔を浮かべられたら私、本当に死んでしまうみたいじゃないですか。皆さんで私の事をもう一度、管理局員にしてくれるのでしょう? その未来のためにも、私を信じて下さい。 ……最後位は輝かしい皆さんの、管理局魔導師の立派な姿を目に焼き付けておきたいんです。 だから、胸を張って下さい!! 皆さんと出会えたことを誇りに思えるように!!』
『シエル、ちゃん……』
『くっそ!!』
『『……。』』
なのはとヴィータの表情は戦闘の時のように真剣だがその瞳からは涙が溢れ、はやてとフェイトも涙こそ出ていないものの必死に唇を噛みしめて堪えていた。そして、4人の準備が整うと、はやてが号令をかける。
『行くで、シエルちゃん。 ……絶対に堪えてや!!』
『はい。 きっと。』
はやての言葉にシエルはそっと呟くと握った大太刀に力を込め、その時を待つ。そして、最後にはやてから無限の欲望を囲む他の3人に念話を繋ぐ。僅かな希望を抱いて。
『3人共、少し……いや、大分無茶やけど聞いてくれるか?』
『『『はやて(ちゃん)?』』』
はやてからの念話に3人はどうしたのかと耳を澄ませるとはやてが口にしたのはシエルを救うためにはやて達ができる唯一の方法だった。
『多分あれを撃たせたら確実にシエルちゃんは耐え切れへん。だから……私達でこのアンテナを撃ち落とした後、砲撃射線上から少しずれた場所でもう一度、全力の一撃を打ち込む!! 皆、行けるか!!』
『なるほど。』
『要はこいつを速攻でブッ飛ばして砲撃に一撃入れればいいんだろ?』
『うん。了解!! どこまでできるかわからないけど……私達の全力、見せてあげよう!!』
はやての言葉になのは達は涙を振り払って笑顔を浮かべ、元々魔力を込めていたデバイスからさらにカートリッジが吐き出される。そして、
「響け、終焉の笛!!」
「全力全開!!」
「疾風迅雷!!」
「フォーム・フィーア!!」
全員がデバイスを掲げると魔法陣がさらに輝きを増してなのはとはやての目の前には大きな魔力スフィアが形成され、フェイトとヴィータのデバイスは形状が変わりそれを構えた。そして、全員が一斉にデバイスを振り降ろす。
「ラグナロク!!」
「スターライト・ブレイカー!!」
「ジェット・ザンバー!!」
「ツェアシューテルングス・ハンマー!!」
4つのブレイカー級魔法が無限の欲望に着弾した瞬間、周囲に大きな衝撃が走り爆発が無限の欲望を完全に飲み込んだ。その衝撃は遠く離れていたシエルの元にも届き、その表情は驚きで固まっていた。
「これって、私の出る幕が無いんじゃ……っ!? ウィル、どうやら出番は残されてたみたいです!! 行きますよ!!」
シエルはあまりの破壊力に苦笑いを浮かべていたが爆煙の中に何か光るものを見つけるとすぐさま構え直して迎撃態勢を整えた。そして、ブレイカーを放ったはやてとなのはは肩で息をしながら、次の行動に移っていた。しかし、体に負担がかかり鈍くなった体の動きではどうあっても指定の場所へと辿り着けなかった。
「着弾の瞬間、魔力が削られた……!!」
「考えてなかったわけじゃないけど、これじゃ!!」
ブレイカーを放ったはやてとなのはは着弾の手ごたえが思っていたよりも軽かったため、さらに力を込めて持てる魔力をすべて出し切ってしまっていた。そのため、魔力残量と共に体力も消耗してしまい、砲撃を撃つ前に立てた作戦を遂行できない状態となってしまった。アンテナの破壊は確実に出来たが、シエルへの負担がそれだけ大きくなってしまう。2人は不安を感じながら爆煙の中で目を凝らすが、爆煙が一瞬で掻き消され、砲撃線上にもう2人の魔導師の姿が見えた。
「ヴィータ!!」
「フェイトちゃん!!」
はやてとなのはが表情を一転させて笑顔を浮かべるとその先にいたのは巨大なデバイスを構えたフェイトとヴィータだった。
「まだまだぁぁぁ!!!」
「はぁぁぁ!!!」
2人が構えたと同時に無限の欲望から砲撃が発射され、2人がそれを迎撃しようとデバイスを振り降ろし衝突する。しかし、全力で一撃を放った後の2人に耐えきれる威力である筈も無く、数秒間は粘って威力を減衰させたものの直ぐに吹き飛ばされてしまう。が、2人は満足そうに軽く笑みを浮かべると視線を背後に向ける。
「シエル!! 絶対に止めて見せろ!!」
「お願い!!」
ヴィータとフェイトはそれでも幾らかは削れたと信じて後ろに構えるシエルへと後を託した。そして、4人の想いを受け取ったシエルは、先程とは違い死んでも止める意気込みでは無く、生きて帰るために愛剣であるウィルを握った。
「ここまでされて、負けるわけにはいきません!!! カートリッジ・フルロード!!」
シエルが片手で鞘に納めた大太刀の柄に手を添えると体を開き脱力した状態で砲撃を待ち構える。そして、砲撃がシエルの目の前まで迫った瞬間、目にも止まらぬスピードで大太刀振り抜いた。
「
大太刀が砲撃とぶつかり合った瞬間、大きな衝撃がシエルの体を突き抜け思わず吹き飛ばされそうになってしまう。2人が少し削ってこの威力。もしも、削りが無く直撃していたらと思うとシエルはぞっとした。しかし、今の状況も楽観視できたものではない。今こうしている間にもシエルのは徐々に押し返されて砲撃に飲み込まれそうになっていた。
「くっ!! このままでは……!! 」
シエルはこのままでは競り負けると判断したのか、腰にぶら下げていたホルダーから装填用のカートリッジを取り出すとウィルへと装着しようとした。しかし、その時なのはから大声が張り上げられる。
「シエルちゃん!! 危ない!!」
「えっ!?」
シエルがなのはの言葉を理解したのは自分の体に強い衝撃を受け自分の胸の少し下から刃物が突き出ていることを確認した時だった。その瞬間に体から力が抜けそうになり砲撃が押しせまるが、現状を認識したシエルは歯を食いしばって剣を振り切ると砲撃をほんの少し押し返してその場から大きく後退。そして、宙で一回転すると刃物を突き刺した張本人であるガジェットを振り払うとその返す太刀で一閃し爆散させた。しかし、目の前を見ればさらに押し寄せる砲撃が視界を覆う。
「まだ……、終われ、ません!! まだ、私は……」
シエルはもう一度、魔法陣を描くがもう既に時は遅くシエルが剣を振り直す時間は無かった。なのは達は自分の仕事を終えた直後からシエルの元へと向かっているが距離が遠く、確実に間に合わない。シエルに砲撃が直撃すると全員がそう思った時、思わぬ人物がシエルの前に現れた。
「シエル!! その砲撃は俺が受け止める!! そこから退け!!!」
「翔馬さん!? っ!!」
聞きなれた翔馬の声に違和感を感じながらもシエルは昔の調子でその場で後方宙返りして翔馬の後方からの突進を避ける。しかし、次の瞬間シエルは後悔することになる。あのまま自分が命を懸けて砲撃を受け止めるべきだったと。
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時は少し遡り、翔馬が何かを見つけそれに向かって行き、見つけたのは数時間前に翔馬が捨て去ったはずのエウロスだった。クアットロから渡されたそれは無限の欲望の魔力を供給し魔導師へと与える代わりにその魔導師の精神を喰らうという物騒なデバイスで、翔馬はそれに数日間、耐え抜き魔力をほぼ消費してしまったのだが、今このタイミングで現れたことが本当に運命の悪戯だと思えて仕方が無かった。今の翔馬の魔力は空も同然だが、その状態でも魔法が使えるアイテムだからだ。それに加えて、うまくやれば無限の欲望から発せられるあの砲撃をエウロスを通じて自身の魔力へ変換させることも可能だろう。翔馬はそれに手を伸ばすが、躊躇する。それもその筈、翔馬は一度これを手にして精神を飲み込まれそうになったのだから。今の状態でこれを手にすれば確実に自分の精神など一瞬で消え去ることは目に見えている。例えそれを手にしたところで、自分の仲間を背後から斬りつけるような結果になっては意味がない。そう思って翔馬はそれに手を伸ばすのを諦めようとした。しかし、翔馬が上空を見上げた瞬間、今さっき躊躇っていた思いはどこかへ消し飛んで、気が付けばそれを手に取ってシエルの元へと向かっていた。シエルが赤い血を流して膝を付いている姿を目にしてしまったから。
「ぐっ!! もう少しだけ耐えてくれ!!」
翔馬は自身に沸き起こる黒い衝動に汗を滲ませながら堪え、シエルの元へと急いだ。
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「切り刻め……エウロス!!」
シエルは翔馬の後方へ着地した後、砲撃はシエルの目の前で止まりそして、シエルと砲撃の間には翔馬の姿があった。
「どうして……翔馬さんが、ここに? そもそも、魔力だってなかったはずじゃ!?」
「……。」
シエルの言葉に翔馬は無言を貫き、何を言っても返事が無くシエルは翔馬の様子がおかしいことに気付いた。そして、この時になってやっと翔馬の使っているデバイスがいつもと違うことに気付き戦慄する。
「まさか、そのデバイスは!? 翔馬さんそれはダメです!! 今すぐそのデバイスから手を離してください!! じゃないと……今度こそ本当に壊れてしまいます!! 翔馬さん!!」
「悪いがそれはできねぇな。……今の俺は最高に気分がいいんだ。 邪魔をするな。」
そう言って振り向いた翔馬の表情はいつものそれと全く変わってしまい、口角を釣り上げて笑みを浮かべる翔馬は翔馬本人とは思えないほどのあくどい笑みを浮かべていた。そして振り向いた顔の奥を見ればエウロスで砲撃を相殺しているのではなく、翔馬がやっていた事はエウロスを通じて無限の欲望の魔力を自身に取り込むことだった。あまりに無茶な行動にシエルは自身の怪我も忘れて剣を手に翔馬に向かって構える。
「止めて下さい……。確かにあなたような大きな、それも空っぽの器があればこの砲撃位ならその中に納めることができるかもしれません……、でもあなた自身はどうなるのですか!? 今度こそ完全に支配されて……」
「うるせぇよ、テメェに指図される……っ!? ぐっ」
「翔馬さん!!」
シエルの言葉に翔馬はイラついたような表情で返すが途中で何か異変が起きたのか言葉を切って片手を頭に添えた。その様子を見てシエルはもう一度翔馬の名を呼ぶ。すると、翔馬の表情がいつものものへと変わり、苦痛に表情を歪め苦しそうなうめき声を上げた。
「ぐぁぁぁぁ!!……はぁぁ、はぁぁ。うっ……。シエ、ル……。わ、るい。 こいつを、使うつもりは……無かったんだが……」
「そんな事は良いんです!! だからそれを離してください!! なのはさん達が来るまでの間なら今の私でも耐えられます!!」
シエルは必死に翔馬へと声を掛け、その様子に異変を感じたのかなのは達からも通信が入る。
『シエルちゃん!? 何かあったんか?』
「それが、翔馬さんが!! 無限の欲望で使っていたデバイスを使用して砲撃を取り込もうとっ!!」
『どうしてそんなことを!?』
シエルの元へと向かっていた4人は翔馬の行動に驚きが隠せないのか焦った表情でさらに速度を上げたのがモニター越しででもわかる。しかし、翔馬も複数の人間を相手にする余裕は無いのかシエルに向かって一番伝えるべきことだけを伝えることに専念する。
「時間も、あまり……残されていないようだから、必要な事だけ、伝える。俺の魔力が満たされたら……その瞬間を狙って、お前のISを発動させるんだ。そして、俺の魔力をすべて取り除いて大気に開放してくれ……その力は自分のモノにするだけじゃないんだろ? ……無茶な注文が多いかもしれないが、これが俺の考えた、全員が助かる方法だ。 ……今回は自己犠牲の精神で動いてる訳じゃない。全員が、笑って明日を迎えるための手段だ!!」
翔馬の言葉にシエルは息を飲んでその姿を見つめる。確かにシエルのISは自身に相手の魔力を取り込むだけではない。しかし、それは任意の相手に対して譲渡することはできても器の無い大気に開放するなど一度たりともやったことが無いのだ。翔馬はシエルの能力を信じてここまで身を張って行動している。それなのに今の自分はどうだろうか、できるかもわからない事に頼られ、怯えている。もしも出来なかったときは翔馬は本当の意味でなのはたちの敵となるだろう。そんなことを考えていると翔馬は最後にこちらに振り向いて一言だけシエルに言葉を贈った。
「俺は皆を守りたい。それにはもちろんシエルも入ってる。 俺の願い…一緒に叶えてくれないか?」
「っ!?」
翔馬の言葉にシエルは一度その肩を振るわせると翔馬の背中を見つめた。もうその表情は伺えず、いつもの翔馬のなのかそれとも心を支配された翔馬なのかそれはわからなかったが、シエルのするべきことは既に決まっていた。
「貴方の願いは私の願いです!! 1人として欠けることなく、救って見せます!!」
そう言って、シエルは自分の愛機であるウィルを翔馬に向ける。しかし、翔馬の意識は既に消えてしまったのだろうか。無言のまま無防備な背中を見せる翔馬にシエルは必ずこの人を救って見せると誓いその時を待った。
それから僅か数十秒の内に、シエルの考えていた状況とは全く異なった状態でその時が来た。翔馬の魔力がまだ完全に満たされていない状態で翔馬はエウロスを右手に持ち替えると左手にはゼフィロスを握っており、その変化に気付いたシエルは慌てて翔馬の行動を制限しようと動き出すが、シエルが動き出した時には遅く、周囲に発生した風を感じてシエルは焦り出した。
「これは……しまっ!?」
シエルが翔馬の意図に気付いた時には既にその身は宙に浮いてその場から大きく吹き飛ばされていた。そして、翔馬の周囲に先程よりも強い疾風が巻き起こり近づく事さえ出来なくなってしまってい、シエルは翔馬との約束を思い出して唇を噛みしめた。そしてそれは、なのはたちも同様で否応なしに翔馬と無限の欲望の砲撃から完全に離されてしまい、ただ、翔馬の行動を見ている事しかできなかった。そして、なのははそんな翔馬を見て風に耐えながら呼びかけ続ける。
「翔馬君!! 目を覚まして!!! 翔馬君!!」
「ダメ!! なのはこれ以上近づいたら、なのはまで巻き込まれる!!」
「でも!! 翔馬君が!!」
なのはは翔馬へ呼びかけ続けている内に疾風が巻き起こる場所まで近づいてしまったのかフェイトに咎められる。しかし、それでもなのはは叫ばずにいられなかった。やっと帰って来た翔馬がまた、どこかへ行ってしまう気がして。しかし、そんななのは達の気も知らずに翔馬がとった行動は驚愕のものだった。
「翔馬さん!? 何を考えて……!!」
「何考えてんだ!! あの野郎!!!」
翔馬の行動にシエルとヴィータが驚きの表情で固まる。その行動とはその場から一歩たりとも動くことなくエウロスで魔力を吸収しながらゼフィロスで砲撃魔法の魔法陣を描くというものだった。その光景を見たはのは、フェイト、はやてに至ってはもう言葉すら出てこなかった。そして、現状を理解する前に無慈悲にも最後の結末が訪れてしまう。
「……アンリミデッド」
「翔馬君……、ダメだよ。翔馬君!! やめてぇぇぇ!!!!」
「エアリアルブレイカー!!!」
なのはの悲痛な叫び声は翔馬に届かず、翔馬はゼロ距離で砲撃に向かって全力を打ち込んでいた。その結果は言うまでも無く、近くにいたなのは達はその場に留まっている事が出来ずにその場を離脱。シエルは翔馬の放った砲撃の勢いに吹き飛ばされたものの空中で体制を立て直した。しかし、翔馬は自身の砲撃と無限の欲望から放たれた砲撃の衝撃によって地面に向かって高速で打ち出され、なのは達が目を向けた時には既にビルの中で力なく倒れている姿となっていた。しかし、翔馬の放った砲撃は何故か無限の欲望を貫いており今度こそ確実にその機能を停止させ、数時間に渡る戦闘は海に上がった大きな水飛沫と共に閉幕となった。