魔法少女リリカルなのはStrikers~風のエースストライカー~ 作:strike
それでは第9話スタートです。
ここはスバル達の初出動した現場から離れた山岳地帯。その深い森の中で1人の魔導師が剣を振るい周囲から襲い掛かる敵を切り伏せていく。
「はぁぁぁ!!!…くっそ。…ホントにキリがないな。どんだけ湧いてくるんだ、こいつら。」
その魔導師とは、スバル達の戦闘中に新たな現場へ向かって飛び出して行った翔馬だった。周囲に睨みを利かせながら悪態をつくと、一度下がり体勢を整える。すると息を深く吸い込み吐き出して、自分を落ち着かせると何度目かになる状況確認を行う。
「すぅ…はぁぁ。…一応、半分以上は破壊したと思うんだが…。一向に数が減らない気がするのは俺だけか?」
そう言った翔馬の周囲には考えられない程のガジェットが転がっていた。その数、ざっと見て60~70機はあるだろうか。翔馬はこの短時間でなのはとフェイトが破壊したガジェットの数を上回ったのである。
「残りは……50機ってとこだな。…やっと折り返し地点、か。」
翔馬が呟くと未だ健在のガジェット達は目標を建屋に定めて襲い掛かり、翔馬の後ろにある建屋に取り付こうとした。それを見た翔馬は即座に剣を後ろに構える。
「…っ!!…お前達の相手は……俺だって言ってんだろがぁぁ!!」
翔馬は叫ぶと同時にその場で剣を3度振り、エアリアルサイスを3つガジェットに向かって飛ばす。それを感知したガジェットはAMFを展開し魔力を掻き消そうとするが、翔馬のそれはただの魔力ではない。自分の魔力を風に変換して攻撃するため、風の属性を持つエアリアルサイスは易々と合計5体のガジェットを破壊した。
「次…」
翔馬は腰を低くして次の目標に向かって駆け出し、2機のガジェットにゼフィロスが届く範囲まで接近すると剣を振り抜き、一太刀で2機のガジェットを破壊した。そして、ガジェット達が密集している場所に向かって体を向けると振り下ろした剣を気合の声と共に振り上げた。
「うぉぉぉ!!…ゲイルスティング!!!」
放たれた剣閃型砲撃はガジェット達を切り裂き爆発を起こす。それを確認すると同時に、横に思いっきり飛んで地面を転がり体勢を立て直すといつの間にか出来上がっていた魔法弾を背後から襲って来ていたガジェットに向かって3発打ち込む。
「エアリアルシューター!…さて、向こうはそろそろ終わったころかな…。」
翔馬は、建屋に近づこうとしていたガジェットを切り裂くと、ロングアーチに連絡を入れる。
「…こちらウィング1。ロングアーチ応答願う。」
「こちら、ロングアーチ1。翔馬さん大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。そっちは片付いたか?」
「はい。今なのはさん達2人にそちらに向かってもらっています。」
「了解。なのはとフェイトにつないでくれるか?」
翔馬は、スバル達が無事に任務を終えたことに胸を撫で下ろすとなのは達と話をするため連絡を入れる。…が、ガジェット達も大人しく待っていてくれる訳にはいかなかったようで翔馬に襲い掛かる。
「ちっ…。はぁ!!」
「翔馬君?…大丈夫!?」
「こっちは大丈夫だ。…悪いな。初出動だってのにこんな真似して。」
「何でこんな無茶したの!?…1人で100機を相手にするなんて、ましてや翔馬はAランクまで能力限定を受けてるんだよ!?」
「…それでも、…ふっ!!…あいつらの負担になるような事は排除しておきたかったんだよ」
翔馬は回線を通して会話を続けながら、襲ってくるガジェットを破壊していく。
「…言いたいことは一杯あるけど、今はそれどころじゃないから…取り敢えず続きは後にしよう。」
「…うん。今は残りのガジェットドローンの破壊が優先…だね。」
となのはとフェイトの声が聞こえた瞬間、上空からピンク色の砲撃魔法が降り注ぎガジェット達を破壊し、黄色の閃光が目の前を駆け抜けると近くにいたガジェットが爆散する。そして、その直後に2人の声が直接耳に聞こえた。
「翔馬君。怪我とか無い?」
「ああ、大丈夫。まだピンピンしてるよ。」
「翔馬、まだ行けそう?」
「そっちも問題無しだ。…ガジェットは半数以上削ったはず。3人で一気に終わらせるぞ。」
「「了解。」」
3人は声を合わせるとまず、翔馬が先頭に立ち真正面のガジェットをゼフィロスで突き刺して破壊した。すると、横から翔馬を狙うガジェットが現れる。しかし、それをなのはのディバインバスターで周りのガジェットを巻き込みながら破壊すると、翔馬と入れ替わりでフェイトがその速さを生かし、バルディッシュで1体ずつ確実にガジェットを切り裂いていく。3人の連携は乱れることなく次々とガジェットを破壊していった。それを数度繰り返すと、ガジェットは見るからに減っていき、…最後の3体。
「エアリアルサイス!!」
「ハーケンセイバー!!」
「アクセルシューター。…シュート!!」
三色の魔法がガジェットに突き刺さると同時に爆散し、周囲にいたガジェットを全て殲滅することに成功した。すると、3人は顔を見合わせ暫くの沈黙が訪れた。そして、
「「バカ!!」」
「っ!?」
「私達が任務を終了させてはやてちゃんに連絡を取ったら、翔馬君が1人で現場に向かったって聞いてすごく不安だったんだよ?もし翔馬君が1人で戦ってて何かあったらどうしようって…。」
「…なんで相談してくれなかったの!?スバル達には言えなくても私達なら問題ないはずでしょ?」
なのはは、相当不安だったのか今でもその瞳を揺らして。そして、フェイトは何で私達に頼ってくれなかったのかと怒りの籠った瞳で真剣に翔馬を見据えて言い放った。それを聞いた翔馬は悪いことをしたと反省の色を見せる。
「悪い。…俺の意識が足りなかった。でも…俺はあいつらの方を優先させてやりたかったんだ。2人が行動を変えるようなことがあったらきっとあいつらは感付くだろうから…せめて無事に作戦が終わるまではってな。それでも、もう少しやり方はあったと思う。すまなかった。」
翔馬は自分の想いとしっかりと伝え、その上で自分のミスを反省した。なのはとフェイトはその姿を無言で見つめ、お互いに顔を見合わせると頷いた。
「もう…こんなことしないでね?…絶対だよ?」
「ホントに心配したんだから…。もうしないって私達と約束して。」
「わかった。…もうこんなことはしないよ。約束する。…ホントに悪かった。」
それを見て、なのは達は少しだけ安心したのか笑みを浮かべた。
「…それじゃ、俺はレリックを回収してくるよ。」
「うん。わかった。よろしくね。」
「私はスバル達と連絡取ってみる。」
なのはとフェイトは翔馬を見送ると翔馬がレリック回収を行っている間に、なのはは管理局に連絡を付けレリックの輸送手配を整えた。一方フェイトはスバル達に連絡を取り現在の状況を聞いて作業が順調であることを聞いていた。翔馬はレリックの回収が終わると建屋から出て、作業をしているなのは達に向かって歩き出そうとした瞬間、視界の隅に何かが映り、時が止まったかのようにその場で固まる。
「…嘘……だろ?」
翔馬は顔を動かさずにそう呟くと全身に鳥肌が立ち始め、額には冷汗が滲み、顔は蒼白になる。そして、翔馬は振り向いてはいけないとわかっていながらも、自分の考えとは関係なしに勝手に顔がその方向へと向かってしまうのを止められなかった。なのはがいるのは真正面、フェイトは斜め右奥でそれぞれ回線を通して会話をしている。しかし、翔馬が向いた方向は左側に見える茂みの奥…。そして、やはり勘違いなどではなく確かにそこにーーそれーーはあった。翔馬は目で確認してしまうと手からレリックが滑り落ち、全身から力が抜ける。
「ど………お……が………と……に」
そして、翔馬は声にならない声を呟くと、危うげな足取りでその方向に向かって足を踏み出す。なのはとフェイトはレリックが地面にぶつかる音に釣られて翔馬を見ると普通じゃない様子に不安を抱えた。慌てて2人は駆け寄ると翔馬の背中に声を掛ける。
「どうかしたの?…翔馬君。何かあった?」
「……。」
恐る恐るなのはが翔馬に向かって問いかけるが、返事は返ってこなかった。フェイトは首を傾げて正面に回ると驚きの表情でなのはに声を掛ける。
「なのは!……翔馬が!!こっちに来て!」
「フェイトちゃん?…っ!?」
なのははフェイトに言われて翔馬の真正面まで来ると驚きの声を上げた。…翔馬の眼からは色が失せ、その顔は何かに怯える様に歪んでいた。2人は肩を掴んで正気に戻そうと声を掛け続ける。
「翔馬君!?…どうしたの?翔馬君!?…ねぇってば!!」
「翔馬?…何があったの!?…翔馬、翔馬!!」
「あ………おれ………した…ずだ。」
2人の声に対して全く反応はなく翔馬はただ1人意味の分からない声を出しているだけだった。すると、声を掛け続けていたなのはとフェイトは翔馬がある地点から視線を1㎜たりとも動かしていないことに気が付く。そして、2人は頷き合うと勢いよく振り返り、翔馬の視線の先を見据える。
「「…っ!!……何も…ない?」」
……が、そこには何もなかった。あるのは、深い茂みと森。決して翔馬が動揺を起こすようなものは存在しなかったのだ。そして、2人は疑問を抱えながらも翔馬の方を振り向こうとすると、後ろでドサッという音と共に翔馬がその場に倒れ込む。
「「翔馬(君)!!」」
2人は慌てて翔馬を抱きかかえると何度もその肩を揺らす。そして、急いではやてに報告をすると移動用のヘリを要請するのであった。
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「…ここは…病室か?」
「正解です。目、覚めましたか?翔馬君。」
「…ああ、ばっちりだよ。…シャマル。」
あの後、気を失った翔馬はスバルが乗っていた6課のヘリに乗せられると、直ぐにシャマルの城…基、病室に運び込まれたのであった。翔馬はベッドから体を起こしてシャマルと向き合う。
「大丈夫ですか?まだ寝てた方がいいんじゃ…」
「いや、ホントに大丈夫だ。…初出動だったってのに不甲斐ないな。」
シャマルはそんなことないと首を横に振り、少しだけ申し訳なさそうな表情で翔馬を見る。
「…ちょっと聞き辛いことを聞くかもしれないんですけど……あなたはいったい何を見たんですか?」
「……わからない。…レリックを回収したところまでは覚えているが…それ以降の記憶が全く思い出せない。」
「っ!?……そうですか。すみません。不躾だとはわかっていたのですが」
「いや、それがわらなきゃ対策のしようがないし…戦闘中にあんなことが起きたんじゃ話にならないもんな。」
翔馬は思い出せないことを素直に伝えるとシャマルはさらに申し訳なさそうにするが、翔馬は苦笑いを浮かべた。そして、翔馬は一番気にかけていたことをシャマルに尋ねた。
「レリックはどうなった?」
「あの後、なのはちゃんが回収して本部まで持って行きましたよ」
「…そうか、それならよかった。」
翔馬は安心したように笑みを浮かべる。
「因みに俺、どれくらい気を失ってたんだ?」
「大体、20時間位ですね。」
「…そうか、迷惑かけたな、シャマル。」
「…いえ。そんな…これが私の本業ですから。あ、診断結果は問題ありませんでした。ですが、今日は念のためゆっくり休んで仕事は明日からでお願いします。」
シャマルは思い出したかのように翔馬の状態を伝えると、翔馬は頷いて立ち上がり制服に着替えはじめた。
「わかった。シャマルありがとな。それじゃ俺は行くよ。話さなきゃいけない人がたくさんいるし。」
「…仕事はダメだって言ったじゃないですか。」
「仕事じゃなくて、お話だ。」
翔馬は笑って見せると、その場を後にした。そして、翔馬が真っ先に向かった先は部隊長オフィスだった。ドアの前に着くとチャイムを鳴らす。
「はい。どうぞ」
「失礼します。」
「…翔馬君!?大丈夫なんか?」
突然の翔馬の訪問にはやては驚くが、体を心配して翔馬に問いかける。しかし翔馬は問題ないと体を少し動かして見せた。
「ああ、もう大丈夫だ。それと…昨日の事、謝っておこうと思ってな。心配かけるようなことをしてしまってすまなかった。」
翔馬は真剣な表情を浮かべると頭を下げた。それを見て、はやても優しげな笑みを浮かべた。
「もう、ええよ。それに翔馬君があの場で言ったことは悔しいけど私にも理解できたし、承認を出したのも私や。だから、翔馬君は気にせんといて。」
「はやて。…すまない。」
「ええって、でもな、絶対に自分の危険を顧みない行動はアカン。それは、翔馬君もわかっとるやろ?」
「……ああ。わかってる。」
はやては優しく諭すと翔馬は頷きはやてを見つめる。それを見て安心したのかもう一度笑って
「そんなら、この話はこれで終了や。お茶でも出そか?」
はやては一度手を打ち鳴らすと湯呑を持って翔馬に尋ねる。
「いや。…これから行かなきゃいけない所もあるから…」
「って言っても今は皆、訓練中ちゃうかな?」
そう言いながらはやては既に2人分用意して翔馬に差し出す。
「まぁ、話はそれだけやないんやし。ええやろ?」
「…そうだな。…って言っても、覚えていないんだ。あそこで俺が何を見たのか…。」
翔馬は湯呑を受け取ると一口啜り、話し始めた。それに対してはやては目を細めると翔馬に問いかける。
「…でも、見当は付いとるんやないか?……翔馬君が現場で激しい動揺を起こして気を失うなんて聞いたことが無い。……でも、私はそうなる可能性のある事件を1つだけ知っとる…。」
「………。はやては勘が鋭くて困るな。…大抵こういうことに遭遇すると見落としがちになるはずなんだけど。」
翔馬は、苦笑いを浮かべてはやてを見る。しかし、その顔には少しだけ苦しげな表情が浮かんでいた。
「……まだ…やったんやね。…もしかして……。いや。今日はここまでにしよか。」
「悪いな。…まだ、本調子じゃないみたいだ。」
翔馬の表情を見て察すると言葉をひっこめ、翔馬はそれに対して苦笑いを浮かべた。
「こっちこそ、ゴメンな。…今日はゆっくり休んで…なんなら明日も休んでええよ?」
「さすがに1日も休みもらってたんだから、明日はちゃんと出るよ。…それまでにはいつも通りになってるから。…ごちそうさま。おいしかったよ。」
「お粗末様でした。…また気が向いたら来てや。いつでも歓迎やで。」
翔馬は残ったお茶を一気に飲み干し、立ち上がってはやてに礼を言う。それを見てはやては笑顔になると翔馬を見送った。翔馬は訓練場に顔を出す予定だったが、精神的な疲れから部屋に戻ることに決め、部屋に戻ると制服を脱いでベッドに倒れこむ。
「……やっぱ、はやてにはばれてるか…。だったら、フェイトにも感付かれてるよな。…はぁ。どうしたものかな。」
溜息と共に腕で目を隠す。
「…シエル……どうしてお前が…。」
そう呟いて、翔馬はまた眠りに落ちて行くのであった。