「そろそろ...か。」
「確か一週間はたったかな。じゃあそうだね。」
ぼそりと呟いた独り言にキャラが反応する。
そう、キャラがサンズと一緒にゾルディック家を訪ねてから一日を残して三週間が経過しようとしていた。
毎食出される毒入り料理にキレそうになったが、美味しいのもまた事実。おかげで毒の耐性も上がったようで、怒るべきか感謝すべきか分からなくなっていた。
そろそろ、というのはゴンたちがキルアを迎えにくるタイミングのことだ。
シルバはキルアをもとから送り出すつもりのようだった。何が目的かは知らないが少なくとも成長させるためだとしたらこれ以上ないほどの環境が整うだろう。
まず才能。キルアがまともに関係を持ったのはおそらくゴンが初。そのゴンはキルアと同様、もしくはそれ以上の才能を持っている。またクラピカやレオリオもそう。
初めて会った人達が全員才能アリとなると自分は平凡であると考える。実際にはそんなことないと言われるだろうが、要は自分には才能が無いと思うのだ。
その結果、努力という形で追いつくまたは追い抜こうとする。ゴンたちもまた追い抜こうとしてさらに努力する。
ライバルがいるといないとでは成長率が段違いなのだ。
「これも師匠が言ってた『ゲンサク』とやらなのかなぁ...」
「そんなもん分かるわけねぇだろ」
「そうだよねー」
少なくとも今ここで話すべきことじゃない。そう考えて話を打ち切る。なんとなく察したのかそれ以上のサンズからの追及はなかった。
この日まで別にぐーたらして過ごしていたわけではない。最初の手合わせに使った物しか使っていないが、体がなまらないように定期的に戦闘をおこなっていた。
いつもは囲まれる前に片付けるため無かったが、囲まれてからの立ち回りを執事たちの連携によって対策としていたのだ。
しかしそれももうすぐ終わり。何故かは分からないが家から出る前にホロウから「三週間くらい滞在することになると思うよ」と言われたからだ。
信頼が厚すぎない?など言われそうだがそれも全て今までの行動の積み重ね。ホロウの『~な気がする』や『...だと思う』はほぼ確実に起こることとしてキャラ達の中では判断されていた。
それでも時間まで暇なのは確かで──
「...暇だなぁー」
「.......」
「あーひまだー」
「...............」
「ひーまーだーなーぁー!」
「うるせぇな!そんな暇なら得意のナイフでジャグリングでもしてろよ。」
「お、いいねそれ。採用」
「何で上から目線なんだ?」
サンズの呟きを無視し、懐から取り出した3本のナイフを1本目が宙を舞っている間に2本目を投げ、右手のナイフは左手に移しかえる。これを繰り返すだけだが玉ではなくナイフであることが難易度を跳ね上げる。
サンズも半分冗談のつもりで言ったことだが想像以上に上手く出来ているため、ポカンと口を開けたまま目を見開いている。
「あー、もしかしてやったことあるとかか?」
「いや、初めてだねッと、あぶな」
うっかりナイフの刃の側を握ってしまうところをもう片側に指を当て、回転させることで柄の部分を掴めるようにする。
その流れは一朝一夕で出来るものではなく、「やっぱりやったことあるだろ...」と思いつつも興味を失ったように暇潰し用の本へと目を移す。
数分ほどたっただろうか。
扉の前からなにかを感じ、とっさに宙にあった二つのナイフを左手で持ち、右手にあったナイフを牽制を目的として投げつける。
執事だということはない。執事たちは必ず通路を歩くときは足音を消している、が扉の前にくる時はうるさくならない程度に音を出す。わざわざ不完全な“絶”状態である必要はない。
それがなかったのは別の存在だからだろうと推測する。例えゾルディックの人間だとしても(関係が悪化する以外は)問題ないように投げたし、刺客だとしたらそのまま死ぬだろう。
唯一、どうやってここまで来たのかが疑問ではあるがそれも殺してからじっくり考えればいい。そこまで考え──ドアの隙間から覗く銀色の髪に戦慄した。
銀髪の人間はゾルディック家には2人しか居ない。ゾルディック家当主であるシルバ・ゾルディック。もしくはつい最近まで拷問部屋につながれていたゴンの友人、キルア・ゾルディックかだ。
当主が訪ねてくることはほとんどない。なぜなら依頼される・するの関係でこちらの立場が下なのは明白だ。ならば当然、訪ねるのはこっち。
つまり、残っているのは護衛対象のキルアということで...
ナイフで方向をずらすには角度が足りない。
銃で打ち落とすには精度が足りない。
サンズに頼むには時間が足りない。
ならば──飛び込む。
脚を折り曲げると同時に“硬”、筋肉をバネのようにして直線を進むナイフに向かって前にとぶ。そして見事キャッチ。しかしキャラは忘れていた。
(あ、着地考えてなかった──)
ナイフの進行方向にはキルア。ならばそのナイフを取りに行けばすぐ近くまで行くのは自明の理。全力でとび、制御が効かない空中となるとなおさらだ。
キルアは高速で迫る物体に体が固まり、キャラはどうにも出来ない。
ガンと鈍い音を立てて額から衝突。それでも勢いを殺しきれず、キルアを巻き込みながら転がっていく。サンズは面白そうな予感がしたので開いた扉から顔を出した。野次馬根性丸出しである。
「いたたた...キルア、怪我はない?」
「ッ───!?」
思わず赤面するキルア。仕方がない。キルアも年頃の少年であるし、状況が状況なのだから。
それはキルアが下でキャラが上に跨がり、頭を打ちつけないように片手を後ろに回しながら、もう片方の手は壁につく(俗に言う壁ドン)という状況であった。
...オイ今ボクが下のが良かった、とか思ったヤツ、顔覚えたからな。夜道では背後に気を付けろ?ATK+99をなめるなよ?
とまぁ冗談はさておき、放心状態のキルアを立ち上がらせつつ考える。
たぶんアレだね。ようやく外出許可が降りたから早くゴンのところに行きたくてノックを忘れ、入ってきたところをボクと衝突したと....。
取りあえず状況を理解したボクはキルアの脇腹に腕を通し、腹を肩にのせることで俵担ぎにする。
「よし、じゃあ行こう。どこにゴンがいるかは知らないけど」
「は?ちょっと待て、知らないのかよ!」
ようやく現実に帰ってこれたキルアは「降ろせ!」と抗議しながら暴れる。肩の上から落として怪我されても困るのでおとなしく降ろしてあげた。
キルアが何かぶつぶつ言いつつも歩き出したのでそのままついていけば、到着したのは執事室。...まぁ執事室といっても室というより館という感じで、最初に来た人は勘違いするんじゃないかと思うほど大きかった。
中にいたのは顔に怪我を負ったゴンとは逆にかすり傷すらないクラピカとレオリオだった。ゴンが怪我してる理由はなんとなくわかったから良いや。
「“試しの門”何番まで開けた?」
「聞いて驚け!俺は二番まで開けたぜ!」
「わーすごい驚いたー。」
「棒読みかよ...」
「いやボク五番まで開けられてるし、自分より体格いい人の方が力ないってねぇー?」
「ぐうの音も出ねぇ...」
やーい、と軽くレオリオを煽るキャラも、内心では冷や汗を流していた。だって四トンの門ですら開けられなかった筋力をたった三週間で八トンまで行けるようにしたのだから。
これでもしレオリオが強化系ならただの殴りあいですら強敵となるだろう。実際は搦め手を使うから経験の差でキャラが勝つし、レオリオは医者志望なことも相まって人を殴るとは考えられないが。
「リアラ様」
話がまとまり、取りあえず領地から出てから別行動を取ることになった時にゴトーから話しかけられる。
「どうかキルア様をよろしくお願いいたします。」
頭を下げる瞬間に見えた表情はどこか心配しているように見え、少なくとも先ほどゴンに『依頼主に特別な感情は抱いていない』と言っていたゴトーとは思えなかった。
こういう時にする返しとして『最善を尽くす』などが無難な答えだろう。まぁ残念ながらキャラには良い意味でも悪い意味でも常識は通じない。
故にこそ、
「誰に言ってんの?死んだとしても守りきるよ。」
そうキャラは自信気に言いきった。
ようやくゾルディック編おわった...次から視点が別れます。キャラ編とサンズ編、書けた方から更新してくつもりではある。まだエタる訳にはいかんよ...!