逃げた先は異世界でした   作:いとしごら

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1.逃げた

自殺を試みた。

 

ただ生きるのが辛いと思ってしまった。

 

早く大人になりたいなどと言っていた少年時代に、ふと戻りたいと感じたその時には、きっと死を覚悟していたのだと思う。

 

自身の価値を見出すことができなかった。

 

いや、嘘だ。

 

逃げただけだった。

 

現実を受け入れることができなかったから死を選んだ。

 

幾人かは辿る問答だが、多くの人は立ち止まり、考えて、生きる道を選ぶ。

 

俺は選べなかった。それだけである。

 

自分が思っている以上無能であった、なにもできなかった。

 

そして、取り残された。

 

そして残った選択肢が、自殺だった。

 

1番楽な死に方はどれだろうか、どれが1番確実なのだろうか。

 

よく分からないまま、首に縄をかけ、椅子を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が白くなっていく。

 

ゴミの散乱していた机、生き物のいない水槽、機能していない冷蔵庫、無惨に衣服の散らばったタンス。

 

どれもが白く塗りつぶされていく。

 

そして昔を思い出していた。

 

駆け回った小学生時代。

 

初恋をした中学生時代。

 

数多の世界に触れた高校生時代。

 

勉強とバイトに追われた大学生時代。

 

なにもできなかった社会人時代。

 

そして今。

 

走馬灯。

 

少しずつ、苦しみが無くなるのを感じた。

 

そして

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ちょっといいですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見知らぬ女性が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

「すみません、今死んでもらっては困るのですが」

 

 

何を言っているのか、意味がわからなかった。

 

 

「あ、この縄が邪魔ですね、失礼します」

 

 

縄を切られた。

 

身体が自由落下を始める。

 

必然。

 

「痛!!」

 

「これで大丈夫そうですね」

 

朧気になっていた意識が急速に覚醒し始めた。

 

「お話してもいいですかね?」

 

「いや、あんた誰なのよ?」

 

「失礼しました、私こういうものです」

 

名刺。

 

『株式会社 黄泉』

 

「はぁ、いや、名前は?」

 

「私に名前などございません、ただのお遣いですから」

 

「あっそ、それで何故でここに?てか鍵しまってたよね?しかも俺って自殺してましたよね?それにそれに」

 

「あー、先にお話させてもらっていいですかね?」

 

「いや、だから」

 

「お話を聞いていただければ、その後自殺しようが構いませんので」

 

「はぁ、どうせ聞かなきゃまた邪魔されるんだろ?」

 

「はい」

 

どうにも面倒である。

 

しかし、力ずくで追い出そうにも、またどこからか入ってきそうである。

 

「まず先に、貴方は既に死んでいなければなりませんでした」

 

「は?いや、あんたが止めたんだろ?」

 

「そうではなくてですね、3年前の大学4年生、22歳の誕生日、そこで貴方の寿命は尽きていました」

 

何を言っている?

 

「ですが、貴方は生きてしまいました、これは重罪です」

 

「そんな事言われても俺は知らんぞ」

 

「貴方に罪はありません。こちらの話です」

 

「あっそ、なんでもいいけど結果なんなのさ。死ななければいけないなんて言うなら今まさに死ぬところだったろ?」

 

「それがそう単純な話では無いのですよ」

 

「そもそも、あんたは何者なのさ?株式会社 黄泉?名前は無い?俺は既に死んでいる?そこら辺説明してくれないか?」

 

現訳の分からない女が自殺を止めて素っ頓狂な事を言っている。

これが現状である。

 

「そうですね、そこから説明しましょう。少々長くなりますが。

我々、株式会社黄泉は生死を管理する存在です。

それは世界の均衡を保つため、いわばバランサーですね。

そして死を迎られた方の魂を黄泉へと送り、浄化し、新しい生命として送る。

それが我々の仕事です。

そして、我々は式神のようなものであるが故名前がありません」

 

まあ、なんとなく超常的なものってのは分かった。

 

てか株式いらんだろ。

 

「ですが、その仕事に不備が生じました。貴方が生きていることです」

 

「それこそ知らん。そっちの管理不行き届きだろ」

 

そんな事言われたところで俺は何もできない。

 

「その通りですが、貴方にも関係はあります。

このまま死ぬと、来世はありませんよ?」

 

「で?」

 

「え、ですから、来世は訪れませんよ?」

 

「だから?」

 

「で、ですから」

 

「別に来世に期待していない。ただ生きたくなくなった。

それだけだ。」

 

「幸せになりたくないですか?」

 

「……」

 

「このまま、辛いまま、終わってもいいんですか?」

 

何も言えない。

 

「貴方には幸せになる価値があります」

 

価値。

 

自分の価値。

 

「それでも、全て捨てますか?」

 

価値とは何か。

 

どれだけ役立つか、大切か、その値。

 

「俺に価値なんてないだろ」

 

「価値のない人なんていません」

 

「いるだろ、無能な人間、犯罪者、そのどれも無価値だ」

 

「いません」

 

なんなんだこいつ。

 

 

 

 

 

でも。

 

 

 

 

 

 

ずっと。

 

 

 

 

 

 

言われたかった言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「転生、してみませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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