「八幡、いくよっ!――やぁっ!」
ボールがラケットに当たり、周囲に小気味よい音が響く。
「よっ」
飛んで来たボールを、なるべく優しく相手のコートに打ち込む。
本来なら、戸塚相手に手加減なんかしたらボコボコにされてしまうのだが、今回の相手は戸塚だけではないのだ。
「わ、わわっ」
ポーンと、コートから大きく外れた場所へとボールを飛ばしたのは、学校が楽しくないという悩みを持つ少女、宇田川 詩だ。
俺たちは戸塚の提案により、宇田川の悩みを解決するという名目で、【戸塚&宇田川VS俺&渋谷】のダブルスを行うこととなった。
きっと戸塚は、部活に楽しみを見出だして欲しいのだろう。実際、学生のほとんどは部活に真剣に取り組んでいたり、楽しくやっていたりと、学校に来る理由の一つとしていると俺も思う。だから、戸塚の考えは良いとは思うのだが――
「うわっ、戸塚さんめっちゃ可愛い!」
「比企谷先生がテニスしてんだけど!めっちゃウケるw」
「てかあれ渋谷と宇田川じゃね?なんでダブルスなんてやってんだ?」
「比企谷先生ハーレムじゃん......」
「「「よく分かんないけどがんばれー!」」」
――いくらなんでもギャラリーが多すぎやしませんかね?
どこから話が漏れたのか、気付いたらテニスコートの周りが生徒まみれになっていた。やっぱ戸塚が人気すぎるのか......。
これじゃあ普段あまり目立たないであろう宇田川は、注目され過ぎて逆に学校に来たくなくなってしまうかもしれない。なんなら俺も休みたいんですがだめですかそうですか。
「比企谷先生、よそ見しないで!」
「あ、わ、わりぃ」
ギャラリーに気をとられ過ぎていたのを渋谷に咎められた。ギャラリーの方からは笑い声が聞こえてくる。もう完全に見せ物じゃん......。
流石に笑い者にされたままだと癪だし、たまには格好つけることにしますかね。
腰を少し低く落とし、ラケットを構え直したところで、丁度目の前に来たボールに向けてラケットをできるだけ強く振り抜く。
「――よっ、と!」
すると、ボールは先ほどまでのゆっくりとした軌道とはうって変わって、直線状の軌道を描いて、コートのラインギリギリのところを撃ち抜いた。
「おぉ、先生の意外な一面だ......」
「ふっ、伊達に戸塚の練習に付き合ってない」
「それがなければもっと格好良いんですけどねー......」
渾身のキメ顔だったのだが、渋谷には呆れられてしまった。まぁ、ギャラリーからは歓声やら拍手やらが聞こえてくるから、八幡は大満足なんだけどね!
ちなみに戸塚は顔を膨れさせて悔しそうにしていた。かわいい。
「八幡、もう一回いくよ!」
「やるぞ、渋谷」
「はぁ、仕方ないですねっ!」
――響く打球音と、ギャラリーの歓声に包まれ、さながら小規模なウィンブルドンのような雰囲気のテニスコート。
これもまた青春なのだろう――と、かつて俺が過ごした青春と重ねてみる。やってることは違くとも、本質は同じだと思う。
ただ、俺が――俺たちが過ごした青春が、今も続いているのだとしたら――なんて、考えたって無駄だな。
今は目の前の戦いに集中しなければ。
そう心の中で呟きながら、俺は再び視線を前へと向けた。
「ふぅ......、結構疲れますね、これ」
「こりゃ、明日は筋肉痛だな......」
テニスコートの端で大の字になりながら、深く息を吐く。普段からなるべく長時間の運動を避けている俺と宇田川は、完全に意気消沈である。
「やっぱり運動系はキツそうか?」
「......そうですね。戸塚さんには申し訳ないですけど、私にはちょっと......」
やっぱ根っからのインドア少女がいきなり運動部はキツいよな。俺だってキツいし。ということは、私はインドア少女だった...ってコト!?
と、脳内でひとりごちていると、戸塚が申し訳なさそうに近付いてくる。
「ごめんね、ちょっと張り切りすぎちゃった......」
「いえいえ!私と比企谷先生の体力がないのが悪いのであって、戸塚さんは全然悪くないですよ!」
ちょっと?これ俺も悪いの?いや、悪いか。戸塚が悪いわけがないしな。戸塚は法であり秩序だ。戸塚は国家の最高権力。古事記にもそう書かれている。
「まぁそういうことだ。あんまり気にしないでくれ」
「......うん、ありがとう」
ちょっと格好つけてそう言ったは良いものの、宇田川の問題が解決するわけではない。
こんな時、あの人ならどうするのだろうか――と、恩師の姿を思い浮かべてしまうのは、俺の悪い癖だ。......教師として上手くやれているのか、少し不安になる。
まぁ、染み付いてしまったものはそのまま自分のデザインとして、向き合っていくしかない。
先ずは目先の問題である。
「で、運動部がダメなら、文化系で気になる部活とかはないのか?」
「今のところはあまり......」
「そうか、じゃあ色んなところを見て回ることになるが......」
一概に文化系の部活と言っても、流石にジャンルが多すぎる。それに、これといって宇田川に合いそうな部活が思い付かない。
じゃあ、どこから見学しに行くのが最短か――
などと考えていると、何か思い付いたとばかりに、渋谷が「あっ」と声を出した。
「提案なんですけど――」
そう言うと彼女は、人差し指を立て、口角をニヤリと上げ、こんなことを言い出した。
「――奉仕部、なんてどうです?」
どうも、お久し振りです。無事、受験という地獄から抜け出せたので、これからは頑張って書いていこうと思います。正直、結末の見通しが立ってないけど(小声)
まぁそれはさておき、次からはやっと八幡が先生らしくなってくれると思いますので、お待ちいただけると幸いです!
感想・評価も励みになっています!もっとください!(強欲)
長くなりましたが、次話でお会いしましょう!