2年F組 八幡先生   作:陽陰 隠

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そうして、道は作られる。

いつからだっただろうか。

この何もなく冷たかった教室に、温かい紅茶の香りと、暖かい会話が増えたのは。

 

いつからだっただろうか。

この教室が俺たちにとって、特別なものになったのは。

 

いつから――だっただろうか。

随分と前からだったような気もするし、つい最近だったような気もする。

 

本当は、どちらでも良いのかもしれない。知ったところで、何かが変わるわけでもない。

だが、ふと思い返すときがある。

――いつから、続いているのだろうか、と。

 

その度、この教室に一人静かに座っていた少女の姿と、その反対側で文庫本に目を落とす腐り目の少年が頭に浮かぶ。

 

やがて、その少女は――いたずらな笑みを浮かべた別の少女に変わるのだ。

そして、それを見ている少年も、いつの間にか大人に変わっている。

 

勿論、彼女たちは本質的には違うのだろう。見た目や、性格も含め、その全てが違う。少年の方は、一概にそうとも言えないかもしれないが。

 

――それでも、彼女たちは違う。

 

それは当然だ。当然――なのだが。

ただ、唯一どちらにも共通していることがあるとするならば――

 

 

その一人の少女から、始まったということだろう。

 

× × ×

 

ダブルス対決から2日ほど経過し、筋肉痛が少し和らいできた今日この頃。

 

運動部は無理だが、部活には入りたい。でも、めぼしい文化系の部活はない。という宇田川の話を聞き、渋谷が奉仕部を作ると言い出してから2日経ったわけだが、未だに奉仕部に関しての話題はどこからも出ていない。

宇田川も、実際に奉仕部が出来てから考えたいとのことだったので、特にこれといった進展もない。

 

一応、創部が決まったら俺に一声かけるように言っているはずなんだが......。

頭の隅でそんなことを考えながらも、目の前のノートパソコンにひたすら文字を打ち込む。悲しいけどこれ仕事なのよね。

 

そんなこんなで、液晶と向かい合い始めてから1時間が経とうとした頃、ふいに職員室の扉が開かれた。

 

「比企谷せんせー、いますかー?」

「おう、渋谷か」

 

噂をすればなんとやら、やって来たのは渋谷だった。

渋谷は、心なしかいつもより機嫌の良さそうな表情で、俺の座っているところまで歩いてくる。

そして、渋谷は俺の目の前に立つと、何やら鞄をゴソゴソと漁り始めた。

 

数秒後、お目当ての物を探し当てたのか、鞄から何かを勢い良く取り出した。

 

「てことで、お願いしまーす!」

 

と、渋谷は元気な声を出しながら取り出したのは、一枚の紙だった。

俺は不承不承ながらも、渋谷から紙を受け取って、書かれている内容をチェックする意味も込めて、読み上げてみる。

 

「『奉仕部、お悩み相談受付中』......?」

「はい!やっぱ宣伝するならポスターかなーって!」

 

横から捕捉を入れるように、渋谷はそんなことを言った。

まぁ、宣伝というのなら、申し分ないクオリティだろう。とても良くまとまっている。

本人も相当自信があるのだろう、いつもよりドヤ顔のドヤドヤ度が高い。

 

本当だったら素直に褒めるのが筋なのだろうが――残念ながら、そうはいかない。

なぜなら――

 

「まだ創部決まってないけどな」

「へ......?」

 

そう、先程も脳内モノローグで語った通り、創部決定の報告を受けてないのである。

存在していないものの宣伝なんて、国際信州学院大学だけで十分だ。あれマジで騙されたからな。

 

それはさておき、部活を作るといっても、そう簡単にはいかないのが現実だ。部活なんておいそれと作れるようなものではない。

 

本来、この総武高校で部活を作るためには、いくつか条件と段階がある。

 

1.顧問がいること

2.部員が2名以上であること

3.活動内容が明確であること

4.学長の許可を得ること

 

この4つの条件を段階的に全て満たして、やっと創部に至るのである。

ということは、裏を返せば、1つでも欠けていると、創部は認められないのだ。

そして今のところ、渋谷は1以外の全てを満たしていない。よって、まだ奉仕部は創部を認められていない。認められないのだ。

 

ということを、2日前に懇切丁寧に説明したつもりだったが――

 

「えぇ!?だって完全に先生が何とかするような流れだったじゃないですか!」

「んなわけないだろ......」

 

何故、いつもこいつは話を聞かないんだか。しかも俺にやらせるつもりだったのかよ。私、そんな子に育てた覚えはないわよ!

「ともかく、先ずは部員の確保だ。宇田川はまだ入らないんだろ?」

「はい、うーちゃんはまだ悩んでるみたいなんで......」

 

最悪、宇田川を説得して初期メンバーに加える手もあるが、まだ他の入部希望者を探してすらいないのに、無理矢理入ってもらうというのも何だか忍びない。

では入部希望者が集まるかと言われれば――ほぼ確実に集まらないだろう。

 

なんてったって『奉仕部』だ。活動内容も不明瞭な上に、まず名前がワケわからん。なんだよ奉仕って。メイドにでもなるの?と、なるのがオチだ。

 

はてどうしたものかと悩むこと数十秒。

渋谷が、「そう言えば」と何か思い出したように顔を上げた。

 

「旧奉仕部ってどうやって作ったんですか?」

「どういうことだ?」

「だって、先生が入るまでは部員が一人だけだったんですよね?」

「あー、そういえばそうだな......」

 

言われてみれば、条件を満たしていない。ちゃんと入部届けがあったことも踏まえると、実は部活ではなかったという訳でもなさそうだ。

では、どうやって創部に至ったかだが......。

 

「どうやって作ったんだ......」

 

分からん。いつ作られたのかすらも知らないし、勿論どうやって作ったかなんて、分かるはずがない。

すると渋谷が、ニヤリと口角を上げ、元気よく言いはなった。

 

「――じゃあもう当事者に聞いちゃいましょうよ!」

「......は?」

 

渋谷が言う当事者は、奉仕部を作った人間。つまりは平塚先生なわけだが――

 

「平塚?さんでしたっけ。確か定期的に連絡とってるんでしたよね?」

「ま、まぁそうだが......」

 

さては最初からこれが目的だったなこいつ......。前から会ってみたいとは言っていたが。

 

「なら早く聞きましょーよ!ほら、はーやーく!」

「分かった分かった、聞くから。電話かけるから。だから抱きつくのは止めなさい。先生、クビにされちゃうから!」

 

渋谷を引き剥がし、促されるがままスマホの電話帳から平塚の文字を探し出して、電話をかける。

 

二回目のコール音が鳴ったところで、コール音が途切れ、変わりにガヤガヤとしたたくさんの人の声が混ざった雑音のような音が流れ出した。

 

『――珍しいじゃないか、比企谷から電話なんて』

「どうも、平塚先生。今お時間大丈夫ですか?」

「ああ、問題ないぞ。丁度、暇していたところだ」

 

どうやらベストタイミングだったらしい。

だが、生憎こちらは暇とは言えないので、挨拶もそこそこに早速本題に入ろう――としたのだが。

 

「じゃあ、早速なんですけど――」

「どうも初めまして!比企谷せんせーの生徒やってます!渋谷栞です!」

「おい耳元で大声だすな!ちょっとは静かにしてなさい!」

 

俺の言葉を遮るように、俺の耳元のスマホに向かって、渋谷がよく響く声で自己紹介をし始めた。鼓膜ないなった......。

 

「えー、私も平塚さんとお話したーい」

「今日は時間ないんだから我慢しなさい」

「なんか先生、ママみたいですね」

「勝手に母性を感じるな」

「先生がママになるんですよっ!」

「おいマジでやめろ。いまセクハラとかに厳しいんだから」

 

危ない危ない、生徒にママにされるところだった。......字面ヤバいな。

そんな俺たちのやりとりを聞いてか、電話越しに豪快な笑い声が響く。

 

『はっはっは!元気があって良いじゃないか!』

「元気がありすぎるのが問題なんですよ......」

『若者は本来そういうものさ。君たちの学生時代が大人しすぎたんだ』

「まぁ、それは否めないですが......」

 

と、こんな雑談に花を咲かせている場合ではない。早く奉仕部創部についてを聞いて、残った仕事を終わらせなければ。

 

「それで、本題なんですけど」

『概ねキミの生徒がらみのことなんだろう?まぁ、何でも聞きたまえ』

 

色々経緯を話そうと思っていたが、大体バレていた。まぁ今じゃ若手じゃなくベテラン教師ですもんね(笑)

とか言うと何されるか分かったもんじゃないので、大人しく本題だけを話す。

 

「奉仕部なんですけど、どうやって創部したんですか?創部の条件満たしてませんでしたよね?」

『なんだ、そんなことか。あれは私が上手く学長を言いくるめたんだ。生徒の更正だとかなんとか言ってな』

 

平塚先生は、さも当然かのようにそう言ってのけた。

これ結局は俺が何とかするってことかよ。渋谷は「ほら、言ったでしょ?」みたいな顔してるし......。

 

仕事がまた一つ増えたことに絶望しながらも、平塚先生に手短に感謝を伝え、電話を切ろうとしたのだが――

 

『比企谷。最後に一つだけ』

「なんです?」

『――良い生徒を持ったな』

「......ありがとうございます」

 

それだけ言うと、平塚先生の方から電話を切った。

最後にこういう格好のつけ方をするから、本当にこの人はズルい。そこだけは昔から譲らないアイデンティティなのかもしれないが。

 

ともかく、奉仕部設立の道筋が見えてきた。結果的に俺が頑張ることになるのだが、これも生徒のためだ。教師の務めとも言う。

 

――それに、新しい奉仕部というものに、少し期待していたりもする。

過度な期待は良くないが、この部活が生徒たちにとって、何か特別なものになることを願っている。

 

例えそれが間違っていても、いつかその間違いすらも笑えるような――

 

――かつての、俺たちのように。




シリアスなのかなんなのか、よくわかんない状態になりつつあるどうも私です。
それでも50000UAに到達したり、評価バーが赤かったり、ありがたい限りです!マジで感謝。感想ももっとくれても良いのよ(小声)
あと地味にpixivの方にも投稿してたりもしてるんですよね。(今のところ)pixivにしか上げてない短編とかあるので、是非。
https://www.pixiv.net/users/72643942

ということで、毎度の如く次回投稿は未定という超絶不定期ですが、次話でお会いしましょう!
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