段々と雪が降り積もり、本格的な冬の到来を身をもって感じるようになってきた今日この頃。
雪乃との結婚生活もかなり慣れてきて、落ち着いた生活が出来るようになってきた。
それでも相変わらず仕事は忙しく、毎日生徒たちに翻弄される日々を送っているのが現状だ。だがやりがいは感じていて、かつて平塚先生が言っていたように、手のかかる生徒ほど可愛いと感じるようになってきた。と言っても、俺はえこひいきはしないのだが。
「八幡、もうすぐ着くそうよ」
「あいよ」
一人物思いに耽っていると、雪乃から声がかかる。
今日はとある客が我が家を訪ねてくることになっている。その客は、俺と雪乃の数少ない共通の知り合いであり、奉仕部の依頼人...とは言えないかもしれないが、部活動の一環で、俺たちによって取り巻く環境を一変させられた女の子だ。
今思えばその方法が最善だったのかなんて確かめようがない。だが、多少は俺や雪乃たちも心につっかえているものがある。ただ、そんな俺たちに彼女はいつも感謝し、慕ってくれた。
彼女は俺たちに救われたと言い、俺たちは彼女の言葉に幾度となく救われた。そんな関係の女の子―――それが鶴見留美である。
何故そんな彼女がわざわざ我が家に訪れるのかと言うと、なんでも、彼女は我が家の近所に引っ越してくるそうだ。なので、挨拶も兼ねて久し振りに会いに来ないか、と雪乃が誘ったのがことの発端だ。ゆきのんは結構ルミルミのこと気に入ってましたしね。
ピンポーン
「あ、私が出るわ!」
来客の知らせを聞くと、早々に雪乃が玄関へと向かう。ちょっとルミルミのこと好きすぎない?まぁ、かくいう俺もルミルミに会うのを楽しみにしていたりするのだが。ルミルミはみんなのアイドルだからね、仕方ないね!
「......ふぅ」
少し強張った体が、無意識に一つ息を吐き出した。
やはり、久し振りに会うとなると少し緊張するものである。なんせ最後に会ったのは、留美が高校を卒業した時だからな。何故かどこの大学に行くのかは聞いても教えてくれなかったんだけどね......。なんでだろ。
緊張を少しでも誤魔化すために、そんなことを考えていると、リビングのドアが開け放たれた。
「......お邪魔しまーす。あ、八幡!久し振り!」
「よお、久し振りだな、留美」
開け放たれたドアから恐る恐る入ってきた留美だったが、俺を認識するなり、満面の笑みを浮かべて手を振ってきた。こいつホントに大学生か?永遠の12歳的なノリなの?
だが、そう感じるほどに明るく、元気なのが今の留美なのだ。
昔の冷静で、どこか冷たかった彼女からは考えられないだろうが、これが隠していた、隠さざるを得なかった本当の彼女なのだろう。
俺たちと関わりが、少しずつ彼女の心を溶かしていった......というのは、少々自意識過剰なのかもしれないが、それでも、彼女の変化に当時の俺たちの触発されているのは事実だ。実際、雪乃だってかなり丸くなったし、俺だって人との接し方が変わったりした。そんな彼女に慕われているというのは、嬉しいことだ。
「八幡、どうしたの?」
「あ、いや、ちょっと考え事してた」
黙り込んでいた俺を不思議に思ったのか、留美が俺に顔を近づけて問いかけてくる。
しかしこう見ると、当たり前だが千葉村のときより見た目はかなり大人びた雰囲気を纏っており、マジでアイドル目指せるんじゃないかってくらい美人に育っている。
可愛いな......
「可愛いな......」
「え、い、いきなり何。キモいよ」
「あ、いや、すまん、口が滑った」
つい思っていたことがそのまま漏れてしまった。この歳でお漏らしなんて恥ずかしいわ!
俺のお漏らし(言葉)のせいで、二人してあわあわしていると、後ろから冷たい視線が突き刺さる。比喩表現抜きで冷たいですねこれは......
視線の方向を辿ると、そこには我が家の雪の女王、もとい雪乃が満面の笑みで立っていた。
「......八幡?」
「は、はいっ!な、なんでせう」
雪乃から放たれた、氷の息吹のような冷たさを帯びた言葉に思わず声が上ずってしまう。そんな俺を気にも止めず、雪乃は続ける。
「私の目の前でよくも堂々と女の子に『可愛い』なんて言えたわね。まあ今回は相手が留美さんだから、厳しくは言わないけれど、今夜は覚悟しなさい。......寝かさないわよ」
「ありがたき幸せ...っておい、留美の前でそういう生々しい話をするな。恥ずかしいし教育上良くない」
俺の全力土下座が功を奏したのか、案外あっさり許してもらえたと思ったのだが、最後の方に爆弾が仕掛けられていたことにすんでのところで気がついた。急にこういうことを言うからこいつは侮れないのだ。恥ずかしいしちょっと色々元気になっちゃうだろ!
「あら、あなたに何か言う権利も拒否権も無いわよ。それに、留美さんはもう大学生なんだからこれぐらい大丈夫よ。......多分」
「そ、そうだよ八幡!わ、私だってその、ひ、一人で......」
「おいやめろ留美。そういうことを言うんじゃありません」
別方向から新しい爆弾が飛んできそうになったところを、なんとか未然に防げた。こいつらホントに爆弾発言好きだな。
「んんっ、まあそれは置いておくとして。鶴見さん、八幡に言いたいことがあるんでしょう?」
雪乃が一つ咳払いをし、話の流れを留美に持っていく。どうやら言いたいことがあるらしい。なにそれ未成年の主張?てかまずルミルミそんな歳じゃなかったわ。じゃあただの主張か?それただの文句ですね。
これから始まるであろう主張に一人身構えていると、意を決したのか、留美がこちらに体を向けて居住まいを正した。
「私、八幡に相談したいことがあるの」
「おう」
思っていたより重い話とか俺に対する不満などではなさそうな雰囲気なので、少し安心した。じゃあ何の相談だ......?
「じゃあ言うね。八幡には今まで黙ってたんだけどね、私、学校の先生になりたいの。だから、その、勉強とか、教えて欲しいなって......」
「......え、先生になりたいのか?」
「意外ね......」
やはり留美の相談は、想像していたものよりかなり意外なものだった。それも、留美がそんな素振りを今まで一切見せてこなかったからなのだが。
留美も成長したなぁ、と父親のような心境になっている俺に代わり、雪乃が言葉を繋ぐ。
「では、留美さんの教員採用試験合格のお手伝いをして欲しいということね?」
「うん、お願いします」
「ふふっ、そうね、その依頼受けさせていただきます」
こうして、どこかあの頃を思い出させるような会話によって、留美の人生二度目の依頼を受けることとなったのだった。
お久しぶりです。今回はルミルミが書きたかったので書いてみました。それだけです。
本当は一色編を先に書く予定だったんですが、思いの外難航していてですね......。暫くは繋ぎの意味も込めてルミルミ依頼編を書いてみようと思います。
ちなみにあえてルミルミや八幡たちの年齢は明記していません。明記すると、教師のルール的なのが分からない以上、ミスだったり矛盾だったりが生じるかもしれないので。作者は臆病Sぶっぱなんですねぇ。
私自身、受験生なので時間が上手いこと取れなかったりするので更新は不定期ですが、気長にお待ちいただけると幸いです。
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長くなりましたが、また次話でお会いしましょう!