九月。どこぞのカマキリも、まだ「おう なつだぜ」とか言う暑さなのだが、俺は今その暑さに耐えながらもテニスコートに居る。
普段だったら適当に理由をつけて冷房の効いた職員室に籠るのだが、今日ばかりは自らの意思で出てきた。
なぜって、それは――
「八幡、お疲れ」
戸塚は現在、テニススクールを開いており、こうして時折この総武高校に外部コーチとして足を運んできているのだ。まったく、高校教師は最高だぜ!
戸塚は高校時代から背が伸びたこと以外あまり変化がない。服装も、今でこそ動きやすいジャージのような装いではあるが、私服を着ると、男性とも女性ともとれるような、所謂ユニセックスというスタイルになっている。
結論:とつかわいい!
「比企谷せんせー」
目の前の戸塚に思いを馳せていると、背後から声をかけられる。
「はいはい、何かあったか――」
「いやー、ちょっとデレデレし過ぎじゃないですかねぇ」
「ほんとどこにでも居るよなお前......」
振り返ったところで視界に映ったのは、口元に手を当て、笑いを堪えている渋谷栞だった。いや、声が聞こえた段階で多少は覚悟してたんだけどね。......普通に手が出そうなくらいウザイ顔してらっしゃる。出さないけど。
殺意の波動を抑え込んでいると、戸塚が小首を傾げて俺と渋谷を交互に見る。
「えっと、八幡の生徒さん?」
「お初にお目にかかります、比企谷先生の一番弟子、渋谷栞と申します!以後お見知りおきを......」
「俺は弟子なんて取ってない。悪いな戸塚、見ての通り問題児なんだ」
戸塚の疑問にすぐさま渋谷が自己紹介をする。虚偽情報が混じってるけど。あとその貴族みたいな挨拶は何なの?君、貴族というより山賊とかそういう立ち位置だよね。
そんなことを考えていると、渋谷がムッとした表情を浮かべる。
「......先生、今ちょっと失礼なこと考えませんでした?」
「いや全然」
内心少し焦りながら、首と手を横に振り、速攻で否定する。ここで安易に肯定なんてしたら、後々なにをされるか分からない。俺はNOと言える日本人なんだ。
だが、そんな俺を意に介さず渋谷は続ける。
「いーえ、絶対考えてましたね!」
「だから考えてねぇって......」
「そういうことなら、奥さんにこの浮気現場を送っちゃいますもんね!」
「は?いや戸塚は――」
「言い逃れはできませんよ!綺麗な奥さんが居るのに、こんな可愛い人と浮気なんて良いご身分ですね!」
そういえばこいつ、戸塚とは初対面か。すっかり失念していた。戸塚を初めて見た人間は、必ず女性だと思い込むに決まっている。そこにさっきの俺のにやけ面を加えれば、あっという間に、浮気するクズ男の完成である。
取り敢えず誤解を解かなければ――と、弁明を始めようとしたところで、戸塚が前に出てきた。
「あの......、僕、男なんだ」
「......はい?いくら比企谷先生を庇いたいからってそれは無理がありますって」
「じゃあ、これ証拠」
そう言って戸塚は、鞄の中から免許証出して見せた。証拠って言うから一瞬ドキッとしたわ......。
「え、マジで?この見た目で?」
「渋谷、現実を受け止めろ。戸塚は、男だ」
綺麗な顔してるだろ。ウソみたいだろ。男なんだぜ。それで。まぁ、付いてたら付いてたでお得なんで、オッケーです。......これ妻帯者が言うセリフじゃねぇな。
まぁ、取り敢えず誤解は解けたことだし、渋谷が今日は何を企んでいるか聞き出してやろうじゃないの。
「で、今日は何の用だ?」
「あー、いや、それがですね――」
× × ×
珍しく渋谷が真面目な口調で語った用件は、「私に対する相談が多すぎる」というものだった。
確かに、渋谷は学校内でのカーストが高く、成績・素行共に優秀である。よって、人に頼られやすいのだろう。
だが、彼女も万能では無い。
当然だが、人間が同時にこなせるタスクには限界がある。どれだけ優秀な人間であろうと、同時に複数の悩みを解決するというのは難しい。これは、かつて『奉仕部』に所属していた経験則だ。一つでもキツイからな、あれ。
そこで、手を差し伸べるのが俺たち大人の役目なのだ。
かつての奉仕部の活動理念では無いが、解決まで導くのではなく、あくまで補助を担うだけだが。
ということで、「僕も手伝うよ」と言ってくれた戸塚と共に、今回の相談者に話を聞く運びとなった。戸塚マジ天使!
あらかじめ渋谷に指定されていた二年C組の教室へと入ると、そこには、いかにも今時のJKといった感じの女子生徒と、渋谷が談笑していた。
二人と向かい合うように座り、話を切り出す。
「で、君がその相談者ね」
「は、はいっ、二年C組の
「うーちゃんは私の幼馴染なんですよー」
渋谷から紹介の補足が入る。あんまり役に立ってないけどね。
さて、うーたんみたいなあだ名だなとかいう考えは頭の奥底に封印し、早速、本題に入る。
「相談ってのは何なんだ?」
「えっとですね...、最近、あんまり学校が楽しくないんです」
「ほう......」
青春真っ盛りの少女にしては珍しい悩みだろう。見た感じ、昔の俺のようなぼっちの気配は微塵も感じないし、いじめられっ子って感じでもない。
戸塚が慎重に問いかける。
「言いたくなかったら良いんだけど、理由を教えてくれるかな?」
「楽しみが少ないというか、やりたいことが無いんですよね......」
「なるほど」
まぁ、目的もなくただひたすら勉強をするために学校に足を運ぶというのも確かに苦痛だ。あれだ、カリギュラ効果みたいな感じ。楽しみもなく誰かに強制されてやらされることほど嫌なものはない。
よって、この悩みの解決方法は既に見えていると言ってもいい。それは渋谷も同じなのだろう、先ほどから宇田川の話にひたすら相槌を打っては、「うーん、やりたいことかー」とか呟いてるし。なんかバカっぽいな。
「じゃあ今回はお前が学校に来る目的を見出だせば良いんだな?」
「そうです。お願いできますか?」
ここで一つ、注意事項を伝えなければならない。後で文句言われても困るからな。クレーム対応は苦手なんだ。
「断っておくが、俺らはあくまで解決までの『ヒント』を与えるだけであって、『答え』は教えないからな?」
「はい、栞ちゃんからもそう聞いてます」
「私もその方針でやってたんですよ」
「なら話が早いな。じゃあまず意見を――」
「僕、いいかな?」
意見を募集しようとしたところで、目を輝かせた戸塚若干食い気味で声を上げた。積極的に手伝ってくれる戸塚くんマジ女神!
では、記念すべき意見第一号に耳を傾けるとしよう。
「――テニス部の体験、来てみない?」
とつかわいいを書こうと思ったら、思いの外ネタが思い付かなくて、気付いたらこんなに期間が空いてましたね。はい。
ということで戸塚です。あと一話続きます。更新頻度怪しいけど。
もう課題やらテストやらで死にかけてるんですが、失踪はしないと思いますので、また次話でお会いしましょう!
あ、Twitter始めたので、生存確認に使って下さい。
https://twitter.com/hikage_in?t=itWgZRHIVdcP-1NsEpjV3Q&s=09