・全年齢でギャグのつもりで書いていますが、扉間→キズナの愛情が性愛含むものになっているので閲覧注意
・本編(プラトニック)とは関係ないやつです
2021/10/4追記
他のもしも話を順次追加します
扉間キズナ雌雄を決す
初夜こそ「布団が一組しかない」状況に戸惑い、何故か扉間に戦いを挑み、負け、廊下で寝ようとしたキズナだったが、数日も経てば扉間と同衾することにすっかり慣れた。
二日目に「もう一人分の布団を出せばいいのでは?」と気付いたようだったが、扉間に「千手では夫婦はどんな時でも同衾する。そうしないのは致命的に仲違いしたときだけだ」と言われると「そっか……。郷に入っては郷に従えって言うもんね」と返し、以来大人しく扉間の胸に収まって毎夜眠っている。
なお「千手では夫婦はどんな時でも同衾する」というのは雑な嘘だったが、扉間に全幅の信頼を置いているキズナは疑うことすらしていない。
「寝るぞ。来い」
「はぁい」
扉間に声をかけられたキズナは熱心に目を通していた巻物をくるくると片付ける。就寝直前まで仕事ないし修行をしたがるキズナのことを、扉間は感心しつつも心配している。いつか過労で倒れかねんと思っている。だがキズナは基本的に扉間には従順であり、どれだけ集中して作業をしていても「寝るぞ」と言われれば大人しく寝室についてくるのだった。
この晩もキズナはいつも通り扉間について寝室に入り、既に敷かれていた布団に扉間と共に潜り込むと「おやすみ。また明日ね」と小さく言って目を閉じた。
いつもと違ったのはここからで、キズナが寝息を立て始める前に扉間はのっそりと身体を起こし、妻に覆いかぶさった。
異様な寝付きの良さを誇るキズナも流石に目を開き、「なんすか?」という顔で自分を押し倒す同性の夫を見返した。
室内に差し込むのは月明りのみだったが、夜目の利くキズナは扉間がいたく真剣な顔で自分を見下ろしていることに気付く。ふっと真顔になり扉間を見返し、ふたりはそのまま無言で見つめ合った。
扉間の出方を待つキズナの首筋に温かいものが触れ、それが扉間の唇だと気付いたキズナは────
「────ぎゃあああああああっ!!!??? ちょ、っま、ま、マダラにいさああああんっ!!!」
「やかましい! 保護者を呼ぶな!!」
一喝されたキズナはいったん素直に口を閉ざしたが、打ち上げられた魚のように扉間の下でびちびちと身を跳ねさせる。
「いやこれは兄さんを呼ばざるを得ないっていうか、兄さんがダメなら柱間さんを呼ばせて!」
「なお悪いわ馬鹿者! 肉親の前でまぐわうなどどんな罰だ!」
まぐわう、と聞いた途端にびしりと凍り付いたキズナは半笑いになって扉間を見上げた。
「…………あの、さ。扉間くん」
「なんだ」
「勘違いだったらほんと申し訳ないんだけどね、あのね、………………僕のことを抱こうとしていますか」
「そうだが」
「あ~~~~やっぱそっか~~~~~~~~!! えっ扉間くんて性欲あったんだね!?」
「オレをなんだと思っている、おまえ……」
「合理主義の権化」
「だとすればお前を抱こうとはしていない」
「そうだよね、子どももできないしお金になるわけでもなし……じゃあなんで?」
「おまえ、自分の立場がわかっているのか?」
「怖い扉間くん顔が」
「おまえが愛おしいと言っただろうが」
てっきり「夫婦だから」とか「おまえはオレの妻だ」とか言われるかと思っていたキズナは不意打ちの愛の言葉に口を噤んだ。元来危険なほど愛情深いうちは一族の血が、愛した者から向けられる愛情に反応して身体から力を抜けさせる。
大人しくなったキズナに、この機を逃さんと扉間は改めてのしかかる。もう流されちゃってもいいかなと思いかけたキズナの脳裏に、扉間とは違う意味で愛する実兄の顔が浮かんだ。
──キズナ、見敵必殺だ。
実際のところマダラがそんな台詞を弟に言ったことはなかったが、己よりも強く矜持高い兄を思い出したキズナはカッと目を見開いた。その虹彩は赤く染まっている。
突如万華鏡写輪眼を発動させた妻に流石に動揺した夫を押しのけ、うちは宗家の意地を見せたキズナは扉間と位置を入れ替えた。一転して押し倒す形になったキズナは扉間の肩を押さえ、低く「どうして」と呟く。
「どうして事前交渉もなく、当然のように僕が抱かれる側なの」
「──妻はおまえだが」
「妻が夫を抱いてもいいと思います。というか僕ら男同士じゃん! 余計に僕が上でもいいでしょう!?」
「上下は別にして、まぐわうことに異論はないんだな」
「な──なっ、い、けど、まぐわうって言うのやめて恥ずかしいから」
生娘のような恥じらいを見せ隙ができたキズナは一秒後、また扉間に見下ろされていた。そこから更に根性で抜け出したキズナが再び上を取ろうとし、泥沼のマウント取り争いに発展した。
基本的な体術の技量では優る扉間と、写輪眼による見切り及び精密なチャクラ操作で身体能力強化を己に施したキズナとの上下決定戦は決着が付かず千日手の様相を呈してきていた。無言で互いを組み伏せようとすることしばし、布団が爆散したことで冷静さを取り戻した夫婦は布団の残骸の隣で向かい合い、今後について真剣に話し合った。
「兄さん、柱間さん。僕たちが戦うところを見守っていてください──どちらが上か、はっきりさせたいんです」
そして出した結論がそれだった。
話し合いでわかり合えないのであれば拳を交える。たとえ血を流すことになっても、そうしてしか決められない物事もこの世にはある。
千手夫妻にとっては「どちらが上を取るか」がそれであり、今ここに互いの矜持をかけた勝負が始まろうとしていた。
なお「見守っていてくれ」と言われたおにいちゃんズは、まさかこの勝負にそんな意図があることは知らない。「どちらが上か」というのは純粋に「忍としての実力がどちらが優っているか」ということだと思っている。
立会人として勝負の場に立つ兄たちは、冷静で己を他者と比較しない弟たちが雌雄を決そうとしていることに驚きつつも純粋に己の弟を応援していた。
なおここで決されようとしているのは本当の意味での雌雄だった。
戦装束に着替えた千手扉間及びキズナは完全に戦場に立つ者の目をしており、ほぼ殺意に近い戦意が草木を揺らす。
人払いをした森には千手・うちは両兄弟以外に生き物の気配がない。森に住む動物たちは異様な気配を察して姿を消している。
「──どちらが勝っても恨みっこなし、だよ。扉間くん」
「ああ」
千手柱間による開始の合図が放たれる。瞬間、キズナの万華鏡写輪眼が煌めき扉間の水遁が空を支配した。
かつての千手柱間・うちはマダラの激闘を思わせる戦いは一刻に渡り続き、そして──
「あぁあああぁあぁ!! 負けたぁあああぁあああああっ!!!」
のたうち回るキズナを慌てて回収しに行ったマダラが弟の背を慰めるように擦る。
チャクラも尽き全身傷だらけでもはや動く気力もないはずのキズナは、それでも余りの悔しさからか頭を抱えながら暴れており、割と元気そうに見える。
一方の扉間はなんとか己の足で立ち、疲労を隠せないながらも静かに笑っていた。生まれて初めてガッツポーズを決めてさえいた。
どちらが勝っても恨みっこなし。勝った方が「上」となることに文句は言わない。
それが事前に交わされた制約であり、義理堅いキズナがそれを違えることはまずない。キズナの貞操は扉間の手中に堕ちた。
敵キャラにしか見えない笑みを浮かべる扉間と、マダラにしがみつき嘆くキズナ。
兄さん、兄さんは僕が扉間くんの下(性的な意味で)でも嫌いにならない?
オレがお前を嫌うはずがないだろう、それに下(実力的な意味で)なのは今だけだ、後で追い抜いてやればいい
ごめん兄さん、多分それは無理……
マダラは妙に気弱な弟を慰めている。一方柱間は、勝者の笑みにしては不穏な表情を浮かべる弟を訝しく思いつつも「拮抗した実力を持つキズナに勝てて嬉しいのだな、やっぱり扉間も男の子ぞ」と考え爽やかに見守っていた。知らぬが仏の見本市だった。
全治一週間を言い渡された扉間・キズナ夫妻は大人しく七日間休んだ。そして七日目の夜にキズナはここではとても言えないことを扉間にされ、ショックのあまり八日目の出勤を拒み、九日目に扉間と共に復帰した。
稀に見るほど上機嫌な扉間と常時挙動不審なキズナを見ておにいちゃんズは全てを察した。兄の片方は赤飯を炊き、片方は泣いた。察されたことを察したキズナも泣いた。
「寝るぞ。来い」
「はぁい」
扉間に対して警戒心が幼女以下になるキズナは、今夜も夫の呼びかけに応えて何も考えていない顔で寝室に入り、何も考えていない顔で扉間と同じ布団に潜り込み、何も考えていない顔で無防備に目を閉じ「おやすみ」と言った。扉間はそれになんでもない声で「おやすみ」と返し、完全に油断した瞬間を見計らって伴侶に覆いかぶさる。
愕然と「騙された」という顔をするのがツボすぎて笑い出しそうになるのを堪え、扉間はまた愛する妻(男)にここではとても言えないことをするのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
大変! 術が暴発して女の子になっちゃった!
キズナくん編
「扉間くん大変! そこにあった巻物広げたら術が発動して、僕女の子になっちゃった……!」
「……いつもと何が違うんだ?」
扉間くん編
「わー! 扉間くんが女の子に!?」
「変化で元の姿になれば問題はない」
「扉間くんそういうとこほんとどうかと思うよ」
マダラ兄さん編
「wwwwwwwマダラwwwwにいさんwwwwwww美人にwwwwwなったねwwwwww」
「……キズナ、お前が笑うのはいい。だが扉間ァ! 立てなくなるほど笑ってんじゃねぇよ!!」
「…………ッ、…………!!」
「本気でツボってる扉間くん久々に見たなぁ」
「大丈夫ぞマダラ、おなごになってもお前は強い! 気にするな!」
「慰めが雑なんだよコラァ! 扉間笑ってねぇでなんとかしろ!」
「これからはうちは兄弟改めうちは姉妹として頑張っていこうね、マダラ姉さん」
「キズナお前真顔で何を……笑いやめ扉間ァ!!」
柱間さん編
「柱間さんおっぱい大きいですね!!?」
「重いんぞ……女性は大変なのだな」
「そこまでデカいと戦いの邪魔になるだろう、切り落とせ」
「火影がそんな姿になったと知られれば政務に差し障る。まずは変化で男に戻れ。解呪方法は調べておくから兄者は仕事を続けろ」
「キズナ〜……なんだか俺にだけ当たりがキツくはないか」
「元気出してください、お綺麗ですよ」
「そうか? よーしこのまま里へ繰り出すとするか! 共をしてくれキズナ、久々のデートぞ!」
「扉間くん、行ってきていい?」
「駄目に決まっているだろうが」
「扉間のケチ!」
「そうだそうだ扉間くんのけち!」
「キズナ、今兄者とのデートをやめれば後でオレがお前をデートに連れて行ってやる」
「すみません柱間さん、黙って仕事しててください」
「弟夫婦が仲睦まじくて嬉しいぞ…………」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
大変! 術が暴発して子どもになっちゃった!
千手扉間が心身ともに幼子になった。急ぎ戻られたし。
所用で里の中心から離れていた千手キズナは、その知らせを受け取り即座に踵を返した。
幼子になったとはどういうことか。なんだその面白ハプニングは、二次創作か? 自分で望んだとは思えない。なら敵の罠にかかって? 襲撃に遭った? 無事なのだろうか。もし怪我をしていたら────
「扉間くん!!」
火影室に飛び込む。夫と義兄のチャクラを感じる、確実にここにいる。逸るあまり赤く染まった虹彩で直視した室内に彼はいた。柱間の膝に乗せられ、驚いた顔でこちらを見返している。
「と、扉間くん……。ほんとにちいさい……」
「おお、戻ったか!」
恵比寿顔で膝の上の弟を愛でていた柱間が朗らかにキズナを迎えた。ご機嫌な柱間に当惑しつつもおそるおそる柱間たちに近づく。
「柱間さん、何があったんですか?」
「見ての通りだ。新術の開発中に扉間らしくもなく失敗したらしくてな。子どもになってしまったんぞ」
「しまったんぞ、て、そんな……」
キズナにとっても懐かしい姿だ。あの温かい日々。まだ幼く、それでも自分より大きく逞しかった扉間に膝に乗せてもらった。釣りを教えてもらった。自白剤入りの握り飯を食わされた──これはもう時効。いつか戦を終わらせようと約束した、その頃の扉間だ。おそらく十歳にもならないだろう扉間は記憶の中よりも随分といとけなく感じた。
「あの、扉間くん……」
話しかけて気づく。扉間と目が合わない。写輪眼を警戒されている。
慌てて瞳を黒に戻し、キズナは扉間の前で腰を折った。
「扉間くん。大丈夫、僕はあなたには絶対に危害を加えないから。……中身も子どもになってしまっているんだね……?」
扉間なしに木ノ葉の運営は成り立たない。過労死待ったなしか僕と内心頭を抱えていると、幼い扉間が「──キズナ、か?」と言った。
「! うん、そうだよ。キズナだよ。僕のこと、どこまで覚えてる?」
「うちはマダラの妹だろう。六歳程度だったはずだが──いくつなんだ、今は」
「十八だよ」
「そうか。その年までよく生き延びた。……千手とうちはが手を組んで以降、お前がこの『里』の維持発展に尽力していると兄者から聞いた。礼を言う」
声音こそ子どもらしい高音だが、言っていることにまったく可愛げがない。
昔から異常なくらい賢い子だったもんな……とやや遠い目をするキズナと、平静を装ってはいるが落ち着かない様子の扉間をにこにこと見守っていた柱間は「扉間。お前里の様子を見に行きたがっていただろう。キズナと行ってくるといい」と言った。
同時にハァ? という顔をしたふたりが「今はそんなことをしている場合じゃないだろ」「扉間くんの分まで僕が働かないと」などと柱間を責める。
「なんだお前たち、相変わらず生真面目だの。似たもの夫婦か」
「ちょ、柱間さんそれは言わなくていい──」
「夫婦だと?」
兄の衝撃発言をしっかり聞いていた扉間(小)がキズナ(大)を見据える。
誤魔化すべきかと思考をフル回転させるキズナを横目に、柱間がのほほんと「ああ。お前とキズナは仲睦まじい夫婦ぞ」と言った。
「…………。そうか」
しばし何かを考えた扉間が、納得した顔で腕を組む。
「千手とうちはの融和策か。安直ではあるが効果的だな。……まさかうちはの者と番うことになるなんてな」
「……嫌だった?」
「いいや。族長の弟と妹だ、おかしいことはない」
やはりこの頃の扉間はキズナの性別を知らないらしい。嫌そうではないが嬉しそうでもない扉間になんとなく面白くない気持ちになる。
男と知ってなお、愛おしいと言ってくれたのは扉間くんなんだぞ──まぁその前に大好きだと言ったのはこちらだが。
唐突に脱衣して全裸を見せつけてやろうか。露出狂的思考になりかけたキズナだったが、扉間の心的外傷になる可能性を考慮してやめた。いくらしっかりしていてもこの扉間はまだ子どもなのだ。
「あの、これは確認しておきたいんですが。この扉間くんは『過去からやってきた』のではなく、『現在の扉間くんが若返った』という認識でいいんですよね?」
「ああ。術を解析したマダラもそう言っていたぞ」
「その兄さんは今どこに?」
「『付き合ってられん』と言って出て行ってしまってな……。義理とはいえ弟の危機だというに薄情なやつぞ」
特に危機感のない顔で膝の上の弟を撫で回しながら言う柱間に、扉間もキズナも半眼になる。
マダラはおそらく扉間(苦手)×子ども(苦手)=超苦手な存在にどうしていいかわからなくなっただけで、特別薄情というわけではないだろう。木ノ葉の実質No.2がこんなことになって慌ててもいない柱間の方がおかしいのだ。
「……元に戻るんですよね?」
「ああ。放っておけばそのうち戻るとマダラの太鼓判付きだ」
「…………不安だ……」
その太鼓判は本当に責任を持って押したのか。まさか適当に言っていないでしょうね兄さん。そうだったら怒るからね。
ここにいない兄に文句を言うキズナはふと、扉間がどこか不安げなことに気づいた。
(そうだ、扉間くんからすれば突然未来に飛ばされたも同じなんだ。いちばん不安なのは扉間くんだ……。なのに僕は里の運営がどうだとかばかり気にして……)
血で血を洗う争いを続けていた敵と同盟を結び、里を設立し、自分は敵だった娘と婚姻を結んだという。そこまで環境が激変していれば当然混乱する。自分の居場所がないように思う。
(きっと柱間さんが扉間くんを抱えて離さないのも、扉間くんを安心させるために違いない)
実際のところ柱間は、まだ可愛げのあった時代に戻った弟にはしゃいでいただけではあった。つゆ知らないキズナの中で柱間への好感度が上がった。
「やっぱり柱間さんには敵わないですね」
「うん? そうだな」
義妹(男)からの尊敬の眼差しに堂々と答える柱間。この程度の面の皮の厚さが無ければ里の長は務まらない。
キズナからの尊敬ポイントを稼いだ柱間によって、幼い扉間は結局キズナとともに木ノ葉の里観光ツアーに出発させられた。
「そもそもお前たちは普段から頑張りすぎぞ。たまには童心に戻って遊んでくるがいい」と言った柱間に「あなたほどの人が言うなら」となったキズナが従い、「里」がどんなものか興味津々ではあった扉間が文句を言いつつもそれに乗った。
「どこか行きたいところ、ある?」
「オレは何がどこにあるかすら知らない。おま……あなたに任せる」
「おまえでいいよ。扉間くん」
「──おまえは、その歳になってもオレを扉間くんと呼んでいるんだな」
「うん。だめ?」
「いや。この時代のオレが何も言っていないなら、いい」
ふいと顔を背けてしまった扉間の手をキズナは握った。ぎょっとする扉間に「里は安全だけど、一応ね」と微笑みかける。
扉間のチャクラが動揺を示してブレた。それを感じ取ったキズナがどうしたのと問うが、扉間は何でもないとしか言わなかった。
「こんにちは、キズナ様」
「キズナさま、お散歩ですか?」
里のど真ん中を堂々を闊歩するキズナと扉間に里の者が親し気に声をかける。うんお散歩ですよ、今日はいい天気ですねとウグイス嬢顔負けの愛想のよさで応対を続けるキズナを観察していた扉間は、人波が去ったのちぽつりと「随分と里の者に受け入れられているんだな、うちはは」と言った。
「いや……うん、そうだね?」
「なんだ歯切れが悪いな」
「僕は今は千手キズナを名乗ってるから。扉間くんの伴侶で火影様の義理の妹だから、ってのもあると思うよ」
「おまえ以外のうちははどうなんだ。千手と共に里を創設したんだろう」
「うちはの人、身内で固まりがちであんまり愛想はないからなあ……いい人たちなんだけどね? いちど愛した対象のことは一生涯愛し続ける一途な一族なんだよ」
一途が過ぎてちょっと発狂しがちなお茶目な一面があるけど。とは言わなかった。本来の扉間であれば「お茶目で済むか」と軽やかに突っ込んでくれるだろうが、この扉間は素で引くだろうからだ。ノリで発狂する一族の娘と結婚したのかオレは、とは思ってほしくなかった。
小さな扉間はだいぶ状況に慣れたらしく、興味深げに周囲を見回している。
扉間が里に出てまず目にしたのは岸壁に刻まれた実兄の巨大な顔岩で、冷静な扉間が完全にあっけに取られているのをキズナは笑った。キズナは柱間を尊敬してはいるがあの顔岩は正直どうかと思っている。マダラも同意見で、ふたりして火影選挙に落選したのち「当選していたら自分の顔岩が刻まれたわけで、ならなくてよかったのでは?」と互いを慰めたくらいだ。
兄の巨大な顔を見て、色々とどうでもよくなったらしい扉間はそれ以降肩の力を抜いた。店を指差してはアレはなんだ、今の人はどこの一族だとキズナに聞き、キズナはそれに丁寧に応じる。
父の代、父の父の代から争い続けていた一族たちと同じ里で暮らしている未来に扉間はどうやら静かに興奮しているらしく、いつしかキズナの手を自ら引いて歩いている。赤い目は好奇心と希望にきらきら輝いていて、キズナは目を細めた。
(あの頃の僕にはお兄さんに見えたけど、扉間くんだって小さな子どもだったんだよなあ)
小さな子どものまま、武器を持って戦場に出たのだ。あの頃、忍の子は子どもであることを許されなかった。強くなければ生き残れず、強くてもほんの些細なことで死んだ。殺された。名前も知らない敵を殺しながら。
握られた扉間の手は小さい。キズナはなんだか堪らなくなり、強く握り返した。
不思議そうに見上げてくる扉間になんでもないよ、と返す。その時、すれ違った初老の女性がキズナ達を見て目を丸くした。
「──まあ、驚いた。小さい頃の扉間様にそっくり」
彼女は千手の女性で、どうやら幼い頃の扉間を知っている。扉間はさりげなくキズナの背後に隠れた。
「ごめんなさい、この子人見知りで。そっとしておいてあげてくださいね?」
「すみません、キズナ様と扉間様のお子かと思ってしまって……」
だとしたら大きすぎるし、そもそもキズナは子を産めない。祝言前に「子どもは作りません」と全方位に向けて宣言はしたが、「またまた、そうは言っても作るんでしょう?」という雰囲気を定期的に感じている。今回もどうやらその類で、キズナは黙ってにっこりと笑った。マダラに「お前が意図的にする笑顔には圧があるな」と言わしめた渾身の笑顔に女性は愛想笑いを返し、そそくさと場を後にした。
はーやれやれと脱力したキズナを扉間がじっと見つめている。
「なあに扉間くん」
「単刀直入に聞くが、おまえとここのオレとの間に子はいるのか」
「本当に単刀直入に聞くね? いないよ。まず僕は子どもを産める身体じゃないし」
「────すまなかった」
「そんな真剣に謝らなくても」
深刻なトーンで落とされた謝罪にキズナの方が慌てる。忍の名家の女性が子を産めないこと、その意味を知っているからこその謝罪なのだろうがキズナはそもそも男性である。子を産めないことを引け目に感じたことはない。扉間に子を持たせられないことに申し訳ないような気持ちになったことはあるが、「子どもがほしかったらよそで作ってもいいよ」という旨を扉間に伝えた際にトラウマになるレベルで怒られ、それ以降は一切言わないようにしている。本当に怖かったのだ、その時の扉間が。泣くかと思った。というか泣いた。
「扉間くんは僕が子どもを産めないって知ってて僕と結婚してくれたんだ。千手には柱間さんがいるし、うちはにはマダラ兄さんがいる。僕と扉間くんはふたりで仲良くやってるから子どもはいなくていいんだよ。……そう思わない人もいるけど、周りが言うから子を作るっていうのも変な話でしょう?」
なんだか落ち込んでしまった扉間を慰めるように言う。
「僕は扉間くんと夫婦になれて幸せだよ」
「だが、政略婚ではあったんだろう」
「柱間さんにもマダラ兄さんにも反対されたけどね」
「……兄者たちが反対したのか?」
「うん」
一族のために身を犠牲にするようなことは許さん、それでは子らを戦場へ送り出した時代と本質的に何も変わらないと言ったのは柱間だった。
当時のキズナはまだ十五歳、かつ少年だったために出た労りの言葉だったのだろう。
「どちらの族長からも反対されて、それでも婚姻を結んだのか」
「そうだよ。兄さんたちと本気で殴り合いになったんだから」
「兄者と……殴り合いに……!?」
長じた千手柱間の規格外さを察しているらしい扉間が戦慄している。殴り合いどころではなく互いに大技を連発するスーパー千手うちは大戦と化し地形が変わったのだが、そこまで伝えなくてもいいだろうとキズナは黙っていた。
「……よく勝てたな」
「勝ち切れなかったけどね。最終的には懇願したんだ。扉間くんのことが大好きだから一緒にいさせてくださいって頼んだの」
「だいすき」
「そう、大好き」
知らない概念を言われたような顔をする扉間にキズナは堂々と言い切った。恥ずべきことなど何もない。
ふっつりと黙り込んだ扉間をどうしたのだろうと窺うと、色白の頬がほのかに赤く染まっていた。
「……照れてる? え!? 照れてる!? ちょっと扉間くん顔をよく見せて写輪眼で記録するから! こういう時のための写輪眼だから!」
「やっ、やめろ、照れてない、その目でオレを見るな!!」
本気で逃げようとする扉間を大人気なく実力差で押さえ込む。うら若い女性が白昼堂々幼い少年に襲いかかっている図だったが、キズナの日頃の行いがいいため周囲には見逃された。
「かっわ、扉間くんかわいい〜〜。国家予算くらいお小遣いあげたい……いる?」
「いらん。離せ。写輪眼をしまえ」
写輪眼は決して直視するなと叩き込まれている扉間が心底嫌そうに目を逸らす。
「大人の扉間くんは写輪眼大好きなんだけどなあ」
研究対象的な意味でだが。
「僕とふたりきりになると見せてって頼んでくるくらいなんだよ? マダラ兄さんにも内緒でこっそり見せてあげてるのに、僕の大切なところ」
無駄に淫靡な言い方に思わず頬を赤くする扉間にキズナは笑み崩れた。愛おしい。扶養に入ってほしい。保険料を支払いたい。有事の際には盾になって死にたい。その後は僕のことなど忘れて幸せになってほしい。
マダラとはまた違う形の極端な愛が暴走しかける。不穏な空気を察したのか扉間が身構えたので、キズナは大人としてキリッとした顔をした。手遅れ感はあったが真顔のキズナは生来の顔の良さから神秘的な雰囲気すら漂い、扉間の口を閉じさせる。
「……大人のオレは、おまえの写輪眼をそんなに見ているのか」
「見てるよ。見つめてるよ頻繁に」
「そうか。……信用しているんだな、おまえを」
「きっとね。そうじゃなかったら一緒にお風呂入ったり同じ布団で寝たりしてくれないだろうし」
扉間がそこまでは聞いてねぇんだよという顔をした。
「僕だって扉間くんのことは信頼してるよ。じゃなかったら万華鏡写輪眼まで観察させたりしない」
「万華鏡写輪眼?」
「写輪眼の進化系みたいなやつ」
雑な説明だったが扉間の興味を引くには充分だったようで、なんだそれは、見たい、研究したいという表情を隠せていない。
見たいと頼まれたら見せてあげようと思ったが、扉間はそうは言わずに「何故そこまでオレを信用しているんだ」と言った。
「旦那さんだし」
「だとしてもだ。数年前まで敵だっただろう」
「内通関係だったし。それにもう数年も経つ」
「……裏切られるかも、と思わないのか」
「思わない。僕から裏切ろうとも思ってない。僕は扉間くんを傷付けるくらいなら死ぬ」
ただの本心だったが扉間はドン引き一歩手前の顔をし、扉間に引かれたことにキズナは割とショックを受けた。
大人の扉間であれば溜息ひとつで受け入れただろう、うちは特有の激重愛はどうやらこの扉間には荷が重い。
うわっ…僕の愛重すぎ……? と気付きかけるキズナだったが、脳内のイマジナリーマダラが「いや普通だ」と言ったため普通判定を下した。そうだよね兄さん、愛するものを全てをなげうっても護りたいと思うのは普通だよね。何もおかしくない。ヨシ!
イマジナリー扉間が「おまえはそうやって自己完結するところがダメ」と言った気がしたが、リアル扉間(小)がなにやらもじもじしているためそちらに意識を移した。
「扉間くんトイレ行っとく?」
「違う。……おまえは、この時代のオレのどこがそんなに、好きなんだろうと思って……」
なんだその可愛い質問は。扶養に入れるぞ。
重さはさておき美女に好かれていること自体は満更でもなかったらしい扉間に「元に戻るまで僕が男だってことは黙っておこう」と誓うキズナだった。少年の夢を壊したくない。
「扉間くんのどこが好き、かぁ。難しい質問だなぁ。あ、顔と身体は大好きだよ」
他意なく言ったことではあったが、幼い扉間は目の前の美女から発された身も蓋もない言葉に固まってしまっている。
千手扉間は無駄なく鍛えられた身体をしているため、純粋に羨ましいのだ。キズナは男の娘としての宿命なのか満足に筋肉がつかなかったので。
あと顔は普通に好き。
しばらく黙ったあと、扉間が恐る恐る口を開いた。
「キズナは、その、…………体目当てにオレに嫁いだのか」
「あはははははははっはははは!!」
今年の勇気全部使い切りましたみたいな力の入りようで発された言葉に、悪いと思いつつも大笑してしまう。
「おい」
「いやごめ、ごめん、扉間くんを笑ったわけじゃ、あはははははは!」
うちは頭領の実妹であり火影の義妹、妹のサラブレッド的存在の有名人が泣くほど笑い転げている様は流石に周囲の注目を引く。
奇異の視線に扉間が耐え切れなくなる直前、キズナは笑い崩れながら扉間を小脇に抱えた。そのまま跳躍し屋根から屋根へ、より高い位置へ駆けていく。
大笑いしながら幼子を抱え高所を駆けるキズナは物の怪のようであり、もっと言うと天狗そっくりだった。
尚その様子は結構たくさんの里の者に目撃されていた。余談だがその目撃者にはうちはマダラも含まれ、彼はとても真面目に仕事をしていたところだったが、同じ光景を目にした周囲の人から「今の妖怪みたいな奴、あんたの妹じゃなかった?」という目で見られていた。
「っはー……笑った笑った」
「いい加減に下ろせ」
「うん」
あっさり捕まったうえ逃げられなかったことにプライドが傷付いたらしい扉間がむっとしている。彼を下ろすと、キズナは懐かしい風景に目を細めた。
「……ここ、扉間くんも覚えてるかな」
「覚えてる」
「そっか。ふふ」
大きな釣り堀。かつて扉間とキズナが交流した思い出の場所だ。テンションが上がってついここまで連行してしまった。
「妙に嬉しそうだな」
「実際嬉しいからね」
社畜ならぬ里畜と化している最近のキズナはここに憩いに来ることもできていなかった。最後に来たのは半年前、扉間と壮絶な喧嘩をし家出した時だ。
あの時は扉間くんがボロボロのまま迎えに来てくれて、更に殴り合ったあとに和解したんだよなぁ、僕は鎖骨を折られたし扉間くんの奥歯折ってやったなぁと思い出に浸るキズナだが、扉間はキズナを見ながらむっすりとしていた。勇気を出して身体目当てだったのかと訊いたのに笑いで返されたのが気に食わないのだ。
キズナはそんな扉間に気付き「うん、あなたの身体目当てで結婚したんだ」と言ってみたい誘惑に駆られたが、やめた。おそらくそれを言うと何者かに逮捕される。おねショタ警察とかそのあたりに。
「僕が扉間くんと結婚したのは、里の安定のためもあったけど扉間くんのことが大好きだったからだよ。シンプルにそれだけ。身体目当てじゃないよ、うちはの祖に誓ったっていい」
そんなことを誓われてもうちはの祖も困惑するだけだろうが、堂々と言ったのが効いたのか扉間は信じてくれたようではあった。
「だが身体と顔をまず挙げるのはどうかと思う」
「子どもの頃から正論マンだなあなたは……。照れ隠しだよ」
「身体だの顔だの言う方が恥ずかしくはないのか」
「あれっ扉間くんかわいくないな?」
「そうだが?」
「あっドヤ顔かわいい。お金をあげよう」
「いらんと言っているだろうが」
丸ごと手渡された財布をとりあえず受け取り、扉間は大きく息を吐いた。
「あらおっきな溜息」
「ここのオレは苦労しているんだろうな」
「否定はしないけども」
「……だが、ここのオレはおまえを気に入ってはいるんだろうと思う」
「え!? そう思う!?」
「ああ。──顔がいいからな、おまえは」
扉間らしからぬ台詞に目を見開くが、ああ、さっき顔が好きと言われた意趣返しかと気付き愛しさポイントが加算された。
「身体は? 身体はどう? 僕の身体は、ねえ」
そして幼い扉間に最悪な絡み方をするキズナだった。マダラでも止めるレベルだが残念ながらこの場には扉間とキズナしかいない。
「知らん、くっつくな、離れろ」
「うーん、鬱陶しい絡み方されたときの反応が今の扉間くんとおんなじだね」
口では嫌がりつつ本気で離れようとしないところも同じだ。
「さっきは誤魔化しちゃったけど、扉間くんの一番好きなところはね、優しいところなんだよ」
意外そうな顔をする幼い伴侶に微笑みかける。
「扉間くんは優しいね、て言うと微妙な顔するけどね。……あなたは優しかったよ、子どもの頃から、今までずっと」
その優しさにどれだけ救われたかわからない。
「扉間くんの膝に乗せてもらってた頃が、ある意味いちばん幸せだったかもしれないな……。今は不幸ってことじゃないけれど」
物憂げになったキズナの横顔を見上げた扉間はしばし黙り、「膝に乗るか。今。オレの」と言った。
「え!? いや流石に、十も年下の男の子の膝に乗るのはちょっと、絵面的にどうかと思うので遠慮します」
ギリギリで良識を思い出したキズナが丁重に断る。扉間はわざとらしく拗ねた顔をした。
「なんでそんな可愛い顔するの……? 不動産含めた全財産譲渡しようかな」
「おまえ、オレにチョロいと言われていないか」
「よく言われます」
何故か胸を張るキズナに扉間は「膝に乗せるのと交換で、写輪眼を見せてもらおうかと思ったんだが」と言った。
「見せるよ写輪眼くらい。ほら」
扉間の前で膝をつき瞳を赤く染める。反射的に目を逸らしかけた扉間はそれを堪え、写輪眼が基本の巴型から花を散らしたような模様に変化したのに釘付けになった。
「……これが万華鏡写輪眼か」
「そう。レアなんだよすごく」
通常の写輪眼とどう違うんだ、他に持っている者はいるのかと根掘り葉掘り聞いてくる扉間に答えていく。探究癖はこの頃から変わらないんだなと思うキズナの頬を扉間は小さな手で包み、赤い目を覗き込んだ。顔が近い。とても。
「……なんだかいけないことをしている気がする」
おねショタ警察が立ち上がった気配がする。
大丈夫かこれは、この状況を第三者に見られたら捕まるんじゃないか。火影の義妹が男児に手を出したことになるんじゃないか。
キズナの目が猛烈に泳ぐが扉間はその目から目を離さない。自分から見せてあげると言った手前もういいっスかねとも言い出せず、キズナはここに誰もやってこないことを祈った。
万一誰かに見られたらそれこそ写輪眼で昏倒させちゃお、と脳筋思考に落ち着いたところで、扉間がやっとキズナから離れた。
「興味深い。ここのオレが研究したがるのもわかるな」
「そうですか……」
「うちはの者全員に発現するわけではないんだろう、開眼条件はなんなんだ」
「それはちょっとシリアスな話になるから。秘密」
「大人のオレにも話していないのか?」
「話してるけど……」
本来の扉間はキズナから詳細を聞くより前に、開眼条件を察していたが。
(扉間くんは僕が開眼するところに居合わせたからなぁ)
不満げにしている扉間の唇を指先で抑え、キズナは苦笑した。
「……大人になるまで、待ってね?」
「────」
絶句した扉間に首を傾げつつも立ち上がろうとしたキズナを押し留め、扉間はその膝に乗り上げた。
座椅子に掛けるようにキズナに座り込んだ扉間の子ども体温に、固まっていたキズナが再起動する。
「待って扉間くん待って、捕まる、これなんらかの犯罪に該当するから」
「おまえ程の立場の者を捕まえられるやつなんているのか」
「いるよ、立場が上の人がやらかした時ちゃんと捕まえられるように法整備したもの! 自分で整えた法で捕まるのやだよ僕、しかも子どもに手を出した罪で」
「十年も経てば夫婦になるんだろう?」
「それは将来の話であって今はおねーさんと子どもでしょうが!」
力ずくで下ろそうと思えばいくらでもできたが、なんだか拗ねているらしい扉間が膝に乗っている状況に心が跳ねすぎてそれもできない。なんでこんなに可愛いんだ。この世のあらゆる残酷さから盾になって死にたすぎる。
「うー……可愛い……頭撫でていい?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます。……普段と立場が反対で、新鮮だな……」
「普段のオレはおまえを膝に乗せた挙句撫でているのか」
「おっと言わなくてもいいこと言っちゃったな」
開き直って扉間の柔らかな銀の髪を撫で回す。そのうち扉間も手を伸ばし、キズナの黒く長い髪に触れた。
「うちは一族は皆黒髪だな」
「身内で血を繋いできた一族だからね」
「……おまえもそうなる予定だったのか?」
「千手と休戦していなかったらそうだったかもしれないけど……。扉間くん以外の奥さんやってるところは想像つかない」
「そうか……」
ぽつぽつと雑談を続けるうち、扉間が「このまま戻らなかったらどうするつもりだ」と言った。
「うちはマダラはそのうち戻ると言ったが、戻らない可能性もあるだろう。オレと離縁して他の千手と番うか」
「絶対に嫌だしそれを誰かに強制されたら大暴れするよ僕」
ここで言う大暴れはそのままの意味だ。里の半壊も辞さない。
「僕が好きになった千手は扉間くんだけだから」
「柱間兄者だとしても駄目か」
「なんでここで柱間さん? 駄目だよ、柱間さんは扉間くんじゃないでしょ。誰になんて言われても『この子が僕の旦那さんです』で押し通すから」
「子どもに手出しした犯罪者として捕まってもか」
「知るかそんなもの。僕がルールだ」
「さっきまでと言っていることが違うぞ、おまえ……」
呆れ顔の扉間をぎゅうと抱き締め、キズナは「それに悪いことばっかりじゃないんだよ。僕がずっと年上になったことでいいこともある」と言った。
「なんだそれは」
「扉間くんよりきっと先に死ねる」
愛を喪ったうちはの危険性を自覚しているからこその言葉だったが、やはり今の扉間には重すぎたようで言葉を失ってしまっている。
「扉間くんが小さいままだと、正直里の運営が危うくなりはするんだけど……僕が馬車馬のように働くしかないかな。兄さんにも頑張ってもらって……。扉間くんは元気で健やかで、僕より長生きしてくれればもうそれでいいかなって」
「いいわけあるか」
「そう言うと思った」
あは、と笑ったキズナに扉間は難しい顔で何かを考え込み、それから口を開いた。
「なぁ、キズナ。元に戻れないとしても、オレはおまえと──」
変化の術の発動時と同じ音と共に扉間の身体が煙に包まれる。瞬時に警戒態勢に入ったキズナの膝に、突如鍛えられた成人男性の全体重がかかった。
「──扉間く、重ッ!? ちょ、せいっ!」
動揺したキズナは扉間(大)を全力で投擲した。芸術的な曲線を描いて飛んだ扉間が流石の身体能力を見せ、華麗に着地する。
「──びっっっくりした……。えと、おかえり。扉間くん」
「ただいま」
「その平然さなんなの?」
前触れなく本来の姿に戻った扉間が己の身体を検分している。「放っておけばそのうち戻る」と言ったマダラの目は正しかったらしい。ちょっと疑っちゃってごめんなさい兄さん。
「……身体に違和感とかない? どこか痛むとか」
「ない。どうやら術の発動前に戻ったようだな」
「そう、よかった……。新術開発は扉間くんのライフワークだし口出しするつもりはないけどさ。自分自身を実験台にするのはある程度自重してね? 今回は結構焦ったよ僕も」
「子どものオレを連れ回すわ撫で回すわで楽しそうにしていたようだが」
「元に戻っても記憶保持してるパターンかよ」
忘れている方に賭けて変なことを言ったりしなくてよかった。あなたより先に死にたいとかは結婚前にすら言っていたので変なことには該当しないし。
「じゃあ帰ろっか。なんか疲れたよ……。柱間さんにも扉間くん戻りましたって連絡入れないと」
「その前に乗っていくか」
「は? 何に?」
「オレの膝に」
「なんで!? 今!?」
「乗らないのか?」
「…………。…………、…………乗る」
考えるのも面倒になってきたキズナは粛々と扉間の上に座り込んだ。
「やっぱ子どもの頃とは全然違うね、色々」
「それはそうだろうな」
「……。ねえ、扉間くん」
「なんだ」
「子どもから急に大人になったから着物がパッツパツで面白いことになってるよ」
「どうして言わなければわからないことを口に出すんだおまえは」
かくして千手夫婦はしばらく仲良くしたのち飛雷神で直帰した。
後日談として、懲りていなかった扉間の新術に巻き込まれたキズナが幼女化するなどもあったがそれはまた別の話だった。