メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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前半は真面目に、後半は……。


その10 過去と現在

 

   【???】

 

 光無き闇の中。

 

「(大丈夫そうだが、そっちはどうだ?)」

 

 微かな衣擦れの音と数人が歩き回る気配、そして押し殺した声が闇の中から聞こえてくる。

 

「(こっちは大丈夫そうだよ!)」

 

「(おバカ! 声が大きいでしょ!)」

 

「(えてぃだって大きいじゃないか)」

 

「(二人とも大きい。大丈夫とは思うけど、確認を終えるまでは、もう少し静かに)」

 

 何やら言い合いを始めそうだった二人を、別の一人が仲裁していた。

 

 一方で――。

 

「(ウォン)」

 

「(ワンコの方が静かに鳴いてるな)」

 

「(この子は賢いから)」

 

 声を響かせないように鳴くイヌと、それに関心している人物にはそう説明している。

 

「(ウォフン)」

 

「(あのさ、何かボクの肩をワンコが叩いてるんだけど、どういう意味? でも、モフモフしてて気持ちいい……)」

 

「(普段の行動を見抜かれてるんじゃないの? あ、私にも触らせて)」

 

「(俺も触りたいのを我慢してるんだぞ)」

 

「(シーザー、大人気)」

 

「(ウォン!)」

 

 イヌが誇らしげに、力強く――しかし静かに一声鳴いた。

 

 

 【バーイショ:廃棄された地下道】

 

 

 モンスターの中には闇の中でも活動するものや、ステルス状態――人間の目では捉えられない状態になるものがいる。

 

 以前はそれらのモンスターに対応する手段は皆無であり、それらと遭遇したもの達もそのほとんどが命を落としているため、情報が少なく対策が遅れたのだ。

 

 やがて人々が自分達の生活圏内で被害に遭い始め、討伐に向かったベテランを含むモンスターハンター達さえも苦戦を強いられたことで、ようやくそれらのモンスターについての情報が集まり始めた。

 

 大破壊後、人類の文明は大きく後退していたが、技術者が0になったというわけではなかった。

 

 ベテランハンター達の機転によって、被害を出しつつもからくもモンスターを退けた彼らが持ち帰ってきた情報と、技術者達の協力を得たことでようやく対抗策が打ち出され始めた。

 

 ナヴィ達が身に付けている、闇の中を見通せる暗視機能や赤外線サーチなどが付いたiゴーグルやハンタースカウターといった道具は、そんな経験と技術の粋があって生まれてきたものなのだ。

 

 そしてそれらは、今もなお新たに発生し続けるモンスター達の新たな情報が集まってくる度に、新たな機能が作られ日々進化している。

 

 閑話休題。

 

 

 地下通路までの距離が短かったことが幸いし、ナヴィの乗るガイアウォーカーとウィン、シーザーのおかげで何とか無事に着地出来た一行。

 

 追っ手を警戒した彼らはそれぞれの暗視機能を使って移動を始め――た所で、上から降り注いでくる瓦礫に襲われた。

 

 これで押し潰すつもりだったのか、それとも退路を塞ぐためなのか、はたまた別の目的があるのか。

 

 かろうじて九死に一生を得たことで、落ちてきた側を警戒する組と少し先を調べる組に分かれて探索を開始。

 

 アクアの話で、ここが昔使われていた地下道ということは分かっても、さすがの彼女も詳細な地図データは持っていなかったのである。

 

「いや、こんなことしている場合じゃないだろ?」

 

 合流して、ひとしきりシーザーの白くてモフモフした毛皮を三人で堪能した後、ハッとナヴィが気が付いた。

 

「ウォウン?」

 

 撫でるのは終わり? と言いたそうなシーザーの視線を受けて、頭を撫でることでその感触をもう少しだけ堪能するナヴィ。

 

 結局、手はそのままで疑問を口にする。

 

「質問がいくつかあるんだが。アクア? 多分、詳しくは余り言いたくないかもしれないが、これだけは確認させてくれ。さっきから普通にしゃべってるが、怪我は大丈夫なのか?」

 

 彼女達のことを家族と思っているからこそ、言いたくないことは聞かない。必要なことなら彼女達は話してくれる。

 

 そう信じているから。

 

「大丈夫。ただ、戦闘行為は今は正直きつい。傷自体はナノマシン……私達用の治療が行われているから、直に塞がる」

 

 あちこち穴が空いたりして、ボロボロで見た目が際どくなっているメイド服の上から傷口を押さえる。

 

「そうか。命に別状は……本当にないんだな?」

 

「うん。ナヴィにエティア、それにシーザーも。助けてくれて、ありがとう」

 

 ナヴィにしっかり頷いてみせると、アクアは微笑みながら三人に礼を述べた。

 

「俺はあんまり役に立ってなかったけどな」

 

「あら? スパナ投げも様になってたし、ウォーカー捌きも様になってたわよ?」

 

「ウォン!」

 

 そして、もう一人。

 

「ウィン」

 

 右拳を上げる海の少女に、空の少女がコツンと自らの拳を合わせる。

 

「ごめん」

 

「……もう、これっきりにしてよ。これ以上、居なくなるのはイヤだよ」

 

 いつも元気爆発なウィンが見せている、普段のそれとはかけ離れたしんみりした姿。

 

「うん。逝くときは一緒」

 

 二人の間には、余人が入り込めない雰囲気があった。

 

 長い時を共にしている絆がそうさせているのだろう。

 

「(そういえば、俺は二人のことを何にも知らないんだよな。父さんと母さんがいきなり二人を連れてきて、『喜べ! お前に可愛い妹が二人も出来たぞ!』って。アクアは今と余り変わってないけど、ウィンはもっと静かだったんだよな。何をするのも無気力そうで)」

 

 エティアと二人のやりとりを見ているナヴィの脳裏では、幼き日のやりとりが甦っていた。

 

 それともう一つ。

 

「(夢に出てきた女の子達、はっきりとは覚えてないけど二人と妙に似てるんだよな)」

 

 

 

 

 

「で、さっきのあれは何よ? ナヴィが何かいじったとか?」

 

 天井から崩落していることで後ろには戻れない。

 

 ヌッカのことを知らないエティアには、彼のことも含めて説明を行い、その飼い犬であるシーザーを先頭に通路を進み始めた一行。

 

 通路は、天井まではやや高いが横幅は狭く、人が二人も並べば塞がってしまう。

 

 よって、スムーズに入れ換えが行えるように一列で進んでいた。

 

 シーザーの後ろをレーザーライフルを構えたエティアが歩き、ガイアウォーカーに乗ったアクア、ブーメランスパナのナヴィと続く。

 

 殿(しんがり)は、アクアの金属鞭を持ったままのウィンが務めている。

 

「俺は何にもしてねぇって!」

 

 iゴーグル越しにこちらを見ているエティアに、ナヴィは即座に怒鳴り返す。

 

 警戒のため、声はやや押さえ目である。

 

「あれは多分『コレデファミリー』……だと思うけど、証拠は無い」

 

「コレデファミリー……って、裏では色々やってるっていうトレーダーグループの? でも彼らって商売優先だから、街中であんなことしたと知られたら信用に関わるんじゃなくて?」

 

 う~ん? ……と、記憶を辿りながら話すエティア。

 

「と、思う。もしくは、絶対に証拠を残さないという自信があるのかもしれない。事実、彼らを示す物は何もない」

 

「商売関係だけじゃなく、そういう技術にも長けている……ってことね」

 

「聞けば聞くほど厄介な連中だなあ」

 

 二人の話を聞きながら、ナヴィがぼやいていた。

 

「あれ? そういえばエティア達は大通りであいつらが店を出してたのは見てないのか?」

 

 コレデファミリーが襲ってきた理由に一つ思い当たるものがあったが、あえてそれは口にせず、別の話を振る。

 

「見てないわよ。ウィンが北東エリアに行きたいっていうから、そっちから行ったし」

 

 彼女達の居た北西エリアから直接北東に向かったのなら、確かに中央広場には立ち寄らないだろう。

 

「北東……って確か」

 

「この街の住人の住居区」

 

 バーイショの地理に疎いナヴィに、アクアが即フォローを入れる。

 

「なるほど。そこに何かあったのか?」

 

「うん。ちょっと待ってね」

 

 後方で何やらごそごそしだすウィンだが。

 

「ウォン!」

 

 先頭のシーザーが促すように一声鳴くと、すぐさまエティアのレーザーライフルから白光が迸る。

 

 現れたのはオレンジ色のアメーバの群で、ハンターオフィスによる登録名称は殺人アメーバ。

 

 放たれたレーザーは、殺人アメーバを直線上に撃ち貫く。

 

 続けて投げられたスパナが一体を切り裂くと、残った群には素早く駆け寄ってきたウィンが鞭を一閃! まとめて薙ぎ払った。

 

「ナヴィとウィンは後で武器と手を洗うように」

 

「げっ!?」「ああっ!?」

 

 

 

 どうせ汚れたからとナヴィが殺人アメーバを解体して、いくらかのぬめぬめ細胞を回収を行う傍らで。

 

「でも、コレデファミリーよりも厄介なのが出てきた」

 

「厄介なの? それは何よ、アクア」

 

 説明を再開したアクアだが、その表情には苦い物が浮かんでいた。

 

「……“ノア”」

 

 ポツリと呟いたのは、ウィン。

 

「「のあ?」」

 

「ボク達の兄弟姉妹、親にも等しい人たちをみんな奪った……憎い敵だよ」

 

 聞き返した二人に説明したウィンの、言葉にこめられていたのは普段見せたことのない……憎悪。

 

 おそらく、そのことが先の二人のやりとりに繋がるのだろう。

 

「生きているかもしれないけど、連絡が取れないからおそらくは……」

 

「ボクはノアを……あいつらを絶対に許さない」

 

「そのノアって何なんだ? 父さん達も昔、そんな名前を言ってた気がするんだが」

 

「父様も」

 

 二人の様子と両親が知っていたこと、そこにはその“ノア”が関わっているとナヴィ達にも分かった。

 

「それは……」

 

 説明を躊躇するアクア。どう言うべきか悩んでいるようにも見えた。

 

 ナヴィを逃がす前に説明をするとは言ったものの決断出来ず、チラリと視線を移す。

 

「……言おう、アクア」

 

 アクアからの視線を受けたウィンがそう言いながら頷いていた。

 

「ウィン。良いの?」

 

「良いよ。それに、いつまでもは隠し通せないよ。ずっと秘密っていうのも、あんまり好きじゃないし」

 

「でも……」

 

「嫌われたら、その時は……その時だよ」

 

「…………うん」

 

 辛そうに、やがてゆっくりと頷くアクア。

 

 少女が口を開き、説明を始め――。

 

「あ~、勘違いだけはしないでくれよ?」

 

 始めようとしたところで、少年が頬を掻きながらそう言ってそれを遮る。

 

「勘違い?」

 

「ナヴィ、どういう意味?」

 

 訝しげに首を傾げる二人。

 

「ノアってのが何なのかは確かに知りたい。でもな」

 

 そこで言葉を一旦切って、解体作業を終えたナヴィは立ち上がって二人を見た。

 

「二人は俺の妹で、家族だってのには変わりないってことだよ。嫌いになることなんか、絶対に無い」

 

「それは私も同じね。二人は私にとっても、家族同然の大事な親友でしてよ」

 

 ナヴィとエティアは並んでそう話すと顔を見合わせて頷き合い、二人に向かってサムズアップして見せた。

 

 そんな二人へと、ウィンは降参とばかりに両手を左右に広げる。

 

「駄目な人もいるけど、やっぱり人間っていいな……」

 

「ノア、あなたは純粋過ぎた。もっと別の手段を構築出来ていれば……」

 

 ウィンとアクアは憑き物が落ちたかのようにそう言葉をこぼした。

 

「話すね」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「――伝説の大破壊を引き起こした元凶……か。父さん達もそれを調べてるのかな」

 

 ぬめぬめ細胞を小袋に入れた上で、大きな道具袋に詰めたパーティは再び歩き始めた。

 

 歩きながら、アクアからは一通りノアについての説明を受けた。

 

 当時の悲惨な状況と、自分達が辿った道を。

 

「ノア……もしくはその関係とコレデファミリーがどの程度繋がっているのかは分からない以上、余りあそこと関わるのは危険過ぎる。ヌッカからはわたしに連絡がくるだろうから、支度を終えたら出た方が良い」

 

「そうね。出たらティーガーを取ってくるわ」

 

「ナヴィなら、「あらよっと」で持ってこれるんじゃないの?」

 

「俺にはそこまでの技術は無いって。いや、あれ技術なのか?」

 

 四人は今後の方針を相談しながら、戦車の修理業者達が持つクルマの運搬方法についての雑談にも花を咲かせる。

 

 絆をより深めるように。

 

「それと、できれば西に向かいたいんだ。ちょっと女の子から依頼を受けちゃって」

 

「変な依頼じゃないなら良いわよ。アクアも一緒だったのなら大丈夫と思うけど。ね、ウィン?」

 

「うん。ボクも大丈夫だよ!」

 

 相談無しで勝手に依頼を受けたことを申し訳無さそうに話すナヴィに、エティアもウィンも問題ないと了承した。

 

「後、ウィン達の兄弟姉妹も探さないとな。みんな、ノアと戦うアンドロイドなんだろ? じゃ、二人と一緒でそう簡単に死なないさ。それに、そいつらの方もずっと探しているかもしれないじゃないか。諦めずに頑張ろうぜ!」

 

「ナヴィ、ありがとう。旅は道連れ世は情け……って、こういう時に使う?」

 

「私に聞かれても知らないわよ?」

 

「ウォン」

 

 四人の会話を聴きながら、足取り軽く先頭を歩くシーザーも時折加わっていた。

 

「でもさ、上に戻ったら旅に出る前にまずメシでも食べに行こうぜ。腹へった」

 

「もう……見つからないようにって話をしたばかりじゃない。でも、確かにお腹は減ってきたわね」

 

 ナヴィに呆れたように言うエティアだが、そんな彼女もお昼時ということもあって空腹を感じていた。

 

「ふっふっふ。そう思って、みんなで食べようと買っておいたよ! さっき出し忘れたのは……これ! ジャーン!」

 

 ウィンが自信満々に道具袋から取り出したのは……横長の容器。

 

 そこに書かれているのは、カレーの文字。

 

「有名なカレーの屋台が来てるって宿で聞いたからね」

 

「おおっ!? まさか、ムーセムでも噂だったカレーマンのカレーか!?」

 

 カレーマンと名乗る、屋台を牽いた流れの料理人。

 

 小さな村から危険だと言われる街まで、どこにでも現れる彼のカレーは絶品だと言われていた。

 

「そう! かりーまんのカレー!」

 

「おおう!? ナイスだウィン!」

 

「イェーイ! こういう出費ならアクアも怒らないよね?」

 

「食べたかったし、俺が許す」

 

 ハイタッチを交わしながらハイテンションの二人に、首を傾げているのはエティア。

 

「ねえ。今ちょっと発音が変じゃなかったかしら?」

 

「なんだよ、エティア。ウィンの発音が変なのは今に始まったことじゃないだろ?」

 

「ボクはいつでも間違ってないよ!」

 

 二人のその発言を受けても、エティアはまだ考えているようだ。

 

「少なくとも、わたしは治療が終わるまでは食べられない」

 

「じゃ、私もそれに付き合うわ」

 

 肩を竦めながら話すアクアと、様子を見ることにしたらしいエティア。

 

「アクアはともかく。エティア、カレーは熱い内に食べるのが良いんだぞ?」

 

「そうだよ。しかも、とびきり新鮮な具材を使ったシーフードカレーに、おすすめの野菜サラダも買ってきたのに」

 

「二人に力強く言われるほどに、何故か危機感が募るんだけど……」

 

「うん。念のために食べる前に調査が必要そう」

 

 力説する二人とは対称的に、聞いている方はどんどん引いているようだ。

 

 そんな時、シーザーが不意に後ろを振り返り……足を止めた。

 

 パタッと耳を後ろに倒しながら、その視線は徐々に上へ上へと。

 

 隊列的に後ろを向いていたことで、ソレに気が付いたアクアとエティア。

 

 二人の表情が僅かにひきつっている。

 

 二人と一匹のその動きに、ナヴィとウィンも不審に思って振り返る。

 

 いったいどこから沸いてきたのか。

 

 通路を塞ぐ形で、妙にキラキラと輝いている一匹の巨大な緑色のアメーバが佇んでいた。

 

「でぃ……DNAブロブ?」

 

「でけぇ……」

 

 DNAブロブは殺人アメーバと同じく、アメーバ系のモンスターである。

 

 殺人アメーバと比べると、酸を吐いたりダメージを受けると分裂したりといった厄介な能力を持つ。

 

 近年、巨大な個体が確認されていることから、これもその一体なのであろう。

 

 繰り返しになるが、分裂能力を持つ。

 

 

 

 

 

【とある酒場の地下倉庫】

 

 地下通路と密かに繋がる扉がある倉庫に、店主である男が下りてきていた。

 

 

 

「地下に落とされたそうだけど、道を知っているシーザーも一緒だから、アクアちゃん達はここに出てくるはずよねん」

 

 二メートルを越す体格をクネクネと怪しく動かしながら、部屋のセキュリティを解除した男は扉の前で知り合いが現れるのを待っていた。

 

「お腹も空いているでしょうし、あたしの手料理をたくさん食べてもらいましょう!」

 

 やがて、扉の前が賑やかになり――大きく開かれた。

 

「おかえり、みんな! 疲れたでしょ……」

 

 出迎えた男――ヌッカの横を、飼い犬を含めた四人が物凄い勢いで駆け抜けていく。

 

「でしょう……って、どうしたのかしら? あの子達、あんなに慌てて」

 走り去っていた四人と一匹の背を見ていたヌッカ。

 

 とりあえず扉を閉めようとした彼は、そこから大量のキラキラと輝くDNAブロブの大軍が出てくるのを発見することになる。

 

「あらやだ」




 
 
 
かりーまんのカレー:新鮮な食材を売りにしたカレー販売店。新鮮で食べられるならば具材は問わないため、未知の食感を求める食通に知られる。
 
屋台には小さく、『カレーマンとは違います』と書かれている。
 
使用した食材によっては、食べるだけでもモンスターハンターであるかどうかの確認や、一定のレベルがあるかどうかも求められる。

「まるで生きて動いているかのような野菜サラダも合わせて、是非ともご賞味を!」

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