メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その12 死中に空中

 

 

 【はらはら平原】

 

「無理よ、この速度では振り切れないわ!」

 

 レーダーにそれが表示された時、思わず固まってしまったエティア。

 

 しかしその足は、ティーガーのアクセルを力一杯に踏みしめていた。

 

 すぐさま、エンジンのトルネードⅡが応えて唸り声を上げるも、彼我の距離は広まるどころか縮む一方だった。

 

 行き来する者が多い草原に新たなキャタピラの跡を刻みながら、ひたすら爆走するティーガー。

 

 その勢いは、バズーカを持って地面に潜んで待ち伏せしていた小型モンスター達が、獲物の接近に顔を出し慌てて潜り直すほど。

 

 ハンドルを切って進行方向を南に取るが、北北西から高高度を維持しながら接近する光点は、真っ直ぐこちらに向かってきていた。

 

「やるしかないか……」

 

 エティアの後ろ……ティーガーの後部座席で、ジッと状況の推移を見守っていたナヴィ。

 

 その小さな呟きに、聞こえたエティアが反応する。

 

「本気なの? ナヴィ」

 

「何かをやらないと、このままじゃみんな殺られるだけだろ。エティア、悪いけどこっちにも何か回してくれないか?」

 

 ティーガーの頭脳であるCユニットのラクターを操作して、後部シートに兵装管理システムを回す。

 

「でも、対抗出来る武器はほとんど無くてよ? 届くのはCIWSだけ、弾数は十発」

 

 バーイショの街で購入した時、多少かさんでも弾倉も拡張すれば良かったわ、と悔しそうに下唇を噛むエティア。

 

 (バーイショ)からそう遠くない位置にあるカリカリ砂漠。

 

 そこに住み着いたソレのせいで、高高度用の兵器が軒並み値上がりしていた。

 

 おかげで予算がギリギリになり、そちらに回す余裕が無かったのである。

 

「それも、倒せるかどうかは不明だしな。でも、何かしてないと不安なんだよ」

 

「そう……そうよね」

 

 ハゲワシヤーボ。

 

 現在かけられている賞金額は三万G。

 

 それが今、パーティーを狙っているらしきモノの正体である。

 

「ちなみに、何か作戦とか思い付かない?」

 

 チラリと自分に視線を向けてきた彼女に、彼は首を左右に振る。

 

「いや、さっぱりだな。こんな敵がいるなんて、ムーセムにいた頃は知らなかったしな。分かってるのは、追い付かれたら終わり。逃げても逃げても、延々とエンカウントされ続けるってことか」

 

 光点はそろそろ……。

 

『おー! でっかい鳥が来たよ!』

 

 ……視認出来る距離にまで近付いてきていた。

 

「……ということで、アクア。何かないか?」

 

 いつも通りのやりとり。

 

 しかし、今日はその返事にやや間があった。

 

『考え方はナヴィので間違いない。追い付かれたら、ほぼ手の打ちようが無い』

 

 ウィンと同様、逆側の甲板に腰かけているアクアも、その方向に視線を向けている。

 

 彼女の傍らにいるシーザーも、明らかにハゲワシヤーボを警戒していた。

 

「かといって、追い付かれないようにっていうのはほぼ無理よ。向こうの方が速いわ」

 

「だな……となると」

 

『向こうに有利な状況である限り、こちらに勝ち目は無い』

 

「いや、それは分かって――」

 

 分かっていることを言う彼女の意図が読み切れず、訝しむ彼が最後まで口にするより早く。

 

『だから、こちらが対応出来る状況にするしか無い』

 

「「は?」」

 

 彼女の口にした内容が分からず、操縦室に二人分の疑問符が浮かぶ。

 

『今のままでは勝負にもならないし、逃げ切ることも非常に難しい。今出来るベストは、囮を使って相手を誘導すること』

 

「それは却下だ」

 

 これだけは絶対ダメと、強い口調で言うナヴィ。

 

『うん、分かってる。そうなると、こちらが戦える状況を作り上げるしかない』

 

「つまり……相手が高高度ではなくなればいいってことよね?」

 

 得心したと、声に少し元気が戻ってくる。

 

 方法はともかく、それを口にするからには、アクアに何か考えがあるということだからだ。

 

『そう。あそこから引きずり下ろして、こちらの武器範囲に入れる』

 

「具体的には、どうやれば良いんだ?」

 

『相手の片翼……可能ならば、ほぼ同じポイントだけを集中的に狙う』

 

「また無茶な作戦だな、おい」

 

『手持ちの装備他を考えたら、これが一番良いはず。それに、はらはら平原にもバイオニックタイプの大型モンスターがいるから、闇雲に逃げるのも危険。挟み撃ちされてどうにも出来なくなるよりは、見える脅威を払う方が得策』

 

 既に相手は、目が良い彼女達だけではなく、普通の人間にも見える距離にまで近付いていた。

 

 戦車内の二人に説明しながら、アクアは手持ちの武器を入念にチェックする。

 

 ウィンも既に爆走中の戦車の甲板に立って、敵を見据えながら体をほぐしていた。

 

「……ん? あれ? アクア、ちょっといい?」

 

 そんなウィンがあることに気が付き、乱れる短めの髪を押さえながら、相棒に呼びかける。

 

「なに、ウィン?」

 

「あの鳥さ、あちこち傷付いてない?」

 

「わたしは、あなたほど目は良くないんだけど」

 

 ウィンに指摘を受けたアクアは、左耳に手を当ててハンタースカウターを操作し始める。

 

 自分用に改良した拡大補整をかけながら、目を細めてジッと観察する。

 

「……確かに」

 

「何かと戦った後?」

 

『おーい、何がどうしたんだ?』

 

 しばし考え……ややあって、彼女は推測を語る。

 

「もしかしたら、あのハゲワシヤーボは北の砂漠で、誰か……多分ハンターと戦ってる。それで負けて、逃げてきたんだと思う」

 

『装備が品切れということは……護身で買った人とは別に、狩るための人もいるということね』

 

『危ない砂漠に、自分から乗り込むようなハンターもいるんだな……』

 

 新米ハンターである彼はまだ知らない。

 

 この世界で生き残る術と運、そして実力を持ったハンター達のことを。

 

 一部のハンター達に、命知らずの賞金稼ぎの称号があることは、伊達では無いということを。

 

「やられて、逃げて、その先にいたボク達に八つ当たり。迷惑だけど、分かりやすくて良いや!」

 

 拳を手のひらに打ち付けながら、ウィンは笑みを浮かべる。

 

 もともと、ナヴィやエティア達のような悲壮感を、この状況で彼女は感じていなかった。

 

「少なくとも、こちらもやりやすくなった」

 

 そう言うと、立ち上がるアクア。

 

 ティーガーもその速度を落とし始めた。

 

 数キロにまで接近している怪鳥と戦うために。

 

 チャイナドレスとメイド服が風ではためく中、二人は頷き合う。

 

「GWーX01 SYSTEMーWING startup.

 

Under starting.

 

It connects with the system air.

 

Under connection.

 

Connection completion.

 

It checked that all the systems had started normally.

 

All weapons can also be used.

 

GWーX01 SYSTEMーWING startup completion」

 

 ウィンの身体を淡く光が包み込む。

 

 青空のような青と白で彩られた外装。

 

 胸部装甲には、丸く緑に輝くクリスタル。

 

 ウィンは白い翼を広げると、アクアを抱えて大空へと舞い上がった。

 

「ウオォーーン!」

 

 飛び立った二人に、応援するかのようにシーザーが雄叫びを上げる。

 

 空を行く二人は、数秒と経たず対峙する。

 

「ケェーーーッ!」

 

 向かってくる二人に、ハゲワシヤーボは一声無くと、その口からパラボラがせり出してくる。

 

 そこから不協和音が奏でられる。

 

「うわ……うるさ!?」

 

「頭痛い」

 

 その音波をまともにうけて、ウィンの飛行が乱れ、アクアは顔をしかめる。

 

 ハゲワシヤーボはその場で大きく羽ばたき、直立しながら滞空する。

 

 両足の爪……全てが機関銃になっているそれを二人に向ける。

 

 口からの音波を浴びせながら、機関銃は一斉に霰のように弾を吐き出す。

 

「くぅっ!」

 

 その火線軸から、ウィンは音波に顔をしかめながら、相手の右に回り込むように避ける。

 

 それに合わせて、向きを変えるハゲワシヤーボ。

 

 それはつまり……――

 

 地上から、ハゲワシヤーボへと逆に向かっていくティーガー。

 

 こちらに無防備な背中を見せている怪鳥へ。

 

 そして、積まれた兵器の狙いは、もう付いていた。

 

「ナヴィ、今!」

 

 ラクターは、狙いたい場所を、より正確に狙うための修正をかけていた。

 

「おう! CIWS、ファイア!」

 

 大空へと放たれる、人類の牙。

 

 そこにこめられた想いと同じく、ただ真っ直ぐに……――

 

 狙い過たず、怪鳥の右翼へと。

 

「ケェーーーッ!?」

 

 突然の爆発と痛みに、ハゲワシヤーボが悲鳴を上げる。

 

「良い狙い」

 

「効いてる! アクア」

 ハゲワシヤーボが再び姿勢を変えようとしていた。

 

 その頭の真上へと位置取るウィン。

 

 徐々に高度を下げながら近寄っていく。

 

「GW-X03 SYSTEM-AQUARIUS startup.

 

Under starting.

 

It connects with the system air.

 

Under connection.

 

Connection completion.

A system link with an arsenal is also completed.

 

It checked that all the systems had started normally.

 

All weapons can also be used.

 

GW-X03 SYSTEM-AQUARIUS startup completion」

 

 アクアが纏うのは青い外装。

 

 胸部のクリスタルなど似たような特徴を持ち、違うのはその顔もフェイスガードで覆っていることと、翼の代わりの大型のバックパックだった。

 

 装着の瞬間、ウィンはアクアから手を離し――完了と同時にその周囲にせり出しているバックパックに手を回している。

 

 この辺りの動きは慣れたものだった。

 

 さらにウィンが高度を下げると、怪鳥の広い背中がみるみる迫り……アクアが今の状態でのみ装備している、左手の連結剣を勢いよく振るう。

 

 その特徴的な刃はどんどんと伸びて、怪鳥の太い首に巻き付く。

 

 速度を調整しながら、ウィンは今度は逆にアクアに掴まる形で、刃を操作するアクアと共にハゲワシヤーボの背中に着地する。

 

 その比較的スリムな胴体は、横幅だけでも十階建てのビルほど。

 

 よく見れば、その体にはあちこちに爆発や、弾を受けた痕がある。

 

 しかしそれに何の感慨も抱かない彼女達は、攻撃の準備に入る。

 

 ウィン達が着陸して狙えなくなったせいだろう。

 

 腹から爆撃しながら、ティーガーを追い回しているハゲワシヤーボ。

 

 右に左にと暴れて不安定な足場と強風に煽られながら、二人は両の足に力をこめていた。

 

 攻撃はナヴィに任せエティアは運転に集中しているが、攻撃を避けきることは難しい。

 

 二人の声からすると、ティーガーの鎧である装甲タイルはかなり剥がれているらしかった。

 

 焦りはあるが、下の二人を信じてそれをじっと堪える。

 

 ウィンは左手だけで連結剣を持ち、右手はウィンの腰を支えて、彼女が攻撃に集中出来るように助けた。

 

「バスターライフル」

 

 どこからか転送されてくる長銃。

 

 それを両手で持ち、羽ばたく右翼に向ける。

 

 その顔をフェイスガードが覆い隠す。

 

 二人の眼が、黄色く光を放った。

 

 アクアが左手を手繰り寄せると、連結剣が瞬く間に赤く染まる。

 

 高熱を帯びた刃が、ハゲワシヤーボの首を強く締め上げた。

 

「ケェーーー!?」

 

 爆撃を止め、その翼が一瞬硬直し動きを止めた。

 

「バスターライフル、いっけぇー!」

 

 エネルギーカートリッジが排出され、その銃口からは極太のビームが発射される。

 

 多くの傷を受けるも、それはあくまでも遠距離からだけであった。

 

 しかし今、自分の背中からという至近距離から放たれた砲撃を受けた翼は、その中央に大きな穴が穿たれる。

 

「ギケェーーーッ!?」

 

 苦痛の声を上げるハゲワシヤーボに、地上からも新たなCIWSが飛来する。

 

 一発は穴からそのまま飛び出していってしまうが、二発目はその空いた穴の内側に命中する。

 

 その爆発に、さらに呻くハゲワシヤーボ。

 

 高度がみるみる落ちていく。

 

「降りるよ、アクア」

 

 ライフルを、またどこかに転送しながら言うウィンに、アクアは首を傾げる。

 

「追撃は?」

 

「弾切れ。もともと三発しかないし」

 

「あなたは、もっときちんと補充しておくべき。エネルギーカートリッジは市販されてるはず。高いけど。高いけど……」

 

 何かを堪えるように言いながら、アクアは連結剣の締め付けを解いて、元のサイズに戻す。

 

「まとめてチャージタイプだから、残り一発を無駄にしたくなくてさ」

 

 そのアクアを抱えて、再び大空に戻るウィン。

 

 必死に高度を上げようと暴れるハゲワシヤーボを迂回しながら、地上に向かう二人はあるものに気が付いた。

 

 北北東からこちらに向かってくる、対空砲を満載した“つむじ風”の名を持つ銀の戦車と。

 

 その前を往く、重装備の真っ赤な戦車を。

 

 

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