メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その13 インカミング――戦慄の時

 

 

「ふふーん……追ーいついたっと」

 

 飾り気の余り感じられない戦車の中で、鼻唄でも歌いそうなほどに明るい少女の声。

 

 そんな声とはうって変わって、その僅かに幼さが残る顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 長く使い込まれたグローブに包まれた手が、ポチポチッと端末を操作する。

 

 手元を見ることなく、それでいて無駄が一切ない熟練した者の手つき。

 

 その操作に対して、搭載されたCユニットもすぐさま応える。

 

 シグナル探知機が接続されたモニターに表示されている光点は、少女が先程確認した時から大きく動いてはいない。

 

 シグナル弾――モンスターに撃ち込むことにより、逃げられてもその場所を突き止めることが出来る、ハンター御用達のアイテムである。

 

 ある統計を見ても、逃げ足の早いものや移動距離の長いものなど、絶対に逃がさないという執念に燃えるハンター達の、その多くが使用しているというデータが載っているほど。

 

 今モニターを確認している少女も、そうしたハンターの一人である。

 

 光点はごく小さな範囲で動いてはいるため、まだ死んでもいない。

 

 完全に動きを止めたのであれば、モニターからも表示が消えるからだ。

 

「モンスター同士が戦うっていうなら、サイゴンでも襲っているか、軍艦ファミリーと撃ち合いでもしてるかなんでしょうけどね」

 

 こちらが引き起こした一時的な混乱状態を除けば、モンスター達が共闘することはあっても、同士討ちをすることは余り無い。

 

 その例外にしても、アリクイがアリを食べるといった、生物的な本能行動みたいなものであった。

 

「ということはトレーダー……いえ、十中八九ハンターね」

 

 その場に留まっているならば、そこには相応の理由がある。

 

 一般的なトレーダーであれば、あっという間に棺桶やエビフライになるかひたすら逃げ回るために、一ヶ所に留まるということは無い。

 

 対空装備を整えた武装トレーダーという可能性もあるが、あくまでもレアケースだろう。

 

「何にしても、生きているなら援護か加勢はするけどね。目の前で死なれるのも寝覚めが悪いし……ま、状況次第ってとこね」

 

 もうちょっと速度があれば、“獲物”を逃がさずに仕止められたのだ。

 

 今では姿を見られるだけでも逃げられる上に、生息範囲すらも大きく飛び出し、少女自身も活動範囲を遥かに越えての“狩り”。

 

 その彼女が駆る遠目にも目立つ戦車の前に、この地に生息するモンスター達が立ち塞がるが……

 

「邪魔よ、邪魔邪魔!」

 

 搭載された副砲の一つから放たれた、広範囲へのレーザーがそれらを一掃する。

 

 咄嗟に逃げようとしたモンスターもいたが、ヘビのように執拗に追いかける(ホーミング)レーザーが容赦なく撃ち抜いていった。

 

「良い? 今度こそ、ケリを着けるわよ」

 

『おう!』

 

 彼女の後に続く戦車からも、力強い少年の声が返ってくる。

 

 よし! と気合いを入れた少女は、そっとコンソールを撫でる。

 

「さ、炎の神様? 存分に応えてね」

 

 その声に応えたのか、二つ積まれた“炎の神”の名を冠するエンジンが唸りを上げる。

 

 速度が上がると共に、車内に伝わる振動も大きくなる。それによって、車内で唯一と言っていいアクセサリー……フックにかけられている、一つに束ねた二つのペンダントが揺れていた。

 

 

 

   【はらはら平原】 

「ケェーーッ! ギェギェッ!」

 

 大きく穴の開いた右翼をばたつかせ、空中で器用にのたうち回るハゲワシヤーボ。

 

 我が物顔で、道行く者達への脅威の一因となっていた高高度からの攻撃も、その翼ではもはや不可能であった。

 

 必死にもがいてはいるものの、着実に高度は下がっていっている。

 

“今は”時間制限付きの力を使って、ハゲワシの翼を撃ち抜き空から降下中のウィンとアクア。

 

 その二人の目に、ハゲワシヤーボが来たのと同じ北北東からこちらに向かってくる、赤と銀の二台の戦車が入ってきた。

 

「あれは……」

 

「赤いのは、かなり重装備だね」

 

 ハンタースカウターに手をやって、拡大機能を使おうとするアクアに先んじて、目が良いウィンがそう伝えた。

 

 遅れてスカウターが起動し、アクアに簡易データを伝える。

 

「重装備の赤い方はメルカバ、後ろの銀色はヴィルベルヴィントという対空戦車。機関砲タイプの特殊な主砲を持つ、まさに一台はあると助かる戦車」

 

「え、メールカバー?」

 

「メルカバ。どういう耳してるの」

 

 呆れた表情で言うアクアに、その少女を抱えている両手の内の片方を離し、耳を指すウィン。

 

「こういう耳」

 

「分かった。ヒートウィップで穴空けるから、ちょっと待って」

 

 言いながら、本当にスカートの内側に装備している鞭に手を伸ばすアクアを、ウィンは慌てて止める。

 

「ちょ、待って待って!? 冗談、冗談だから!? 強風に煽られて聞こえにくかっただけだから!」

 

「今のあなたの場合、本気で言った可能性が高い」

 

 手は止めたが、代わりに刺すようなジト目がウィンに向けられていた。

 

 ウィンは眼下の、装甲タイルがほとんど残っていないティーガーに視線を落とし、アクアのそれに気付いていない振りをする。

 

 ウィンの行動に当然気が付いているアクアは、しかしそれ以上は何も言わずに嘆息する。

 

「メルカバって、“赤い悪魔”のあれ?」

 

「あれとはまた別。真なる“レッドウルフ”の名を持つ戦車は、一台しか製造されていない。知られていないだけで、予備はどこかにあるかもしれないけれど、完全なワンオフマシンのはず。メルカバタイプはそれに近付こうと開発されたものだけど、それもかなり高性能なクルマ」

 

 究極の戦車とも言われるレッドウルフ。

 

 個々の性能ではそれを上回るものもあるが、それに使われた技術とトータルバランスによって、ハンター達の間では究極の名で呼ばれていた。

 

 しかし、その実物を見たものはいない。

 

 それなのに、どこかに必ず“在る”という確信めいた噂は後を絶たなかった。

 

 今では、その名を戴くレンタルタンクまで存在するため、見付けるのはより困難になっていく。

 

「あっちから来たということは」

 

 二台が来た方向を見つめるウィンに、アクアは小さく頷いた。

 

「ハゲワシヤーボと戦っていたのは、間違いなくあの二台」

 

「だよね。あっちがどういうつもりかは分からないけど、とりあえずナヴィとえてぃに合流しよう」

 

 その二人の真下にある戦車の中では、ナヴィとエティアがそれぞれシートやハンドルに身体をもたれさせて、息も絶え絶えといった様子でグッタリとしていた。

 

「エティア、無事か?」

 

「何とか……ね。ナヴィも大丈夫?」

 

「頭は打ったがな。回復カプセルは飲んだから、大丈夫だろ」

 

「死ぬかと思ったわ……」

 

「よく堪えたよな……まだ上に居るが」

 

 高高度から降り注ぐ爆弾の雨に、車体を守る鎧である装甲タイルは、ほぼ全てが剥がれ落ちていた。

 

 錯覚だが、車体も歪んでいる気すらしていた。

 

 モニターにはティーガーの被害状況が表示されているが、辛うじて使用できる黄色の中破や、使用不能を意味する赤の大破といった文字が羅列されている。

 

 主砲と副砲は大破、SーEやCユニットにエンジンは中破。

 

 移動に直結するCユニットやエンジンが大破しなかったのは、まさに幸運であった。

 

「とりあえず、ここから離れようぜ。空から降ってくる前に」

 

「そうね」

 

 ティーガーが、ハゲワシヤーボから遠ざかるようにノロノロと後退し始めた。

 

『二人ともー、大丈夫だった?』

 

 二人のiゴーグルに、空に向かっていた二人からの通信が入る。

 

 その疲れを感じさせない呑気な声に、二人は同時に苦笑する。

 

「何とか、二人とも生きてるよ」

 

「ティーガーは修理が必要だけどね……。二人もお疲れ様」

 

『二人が無事なら、それで充分。むしろ、逃げるだけだったら今ごろ鉄屑になってた。後、まだ終わってない』

 

 それぞれに無事を確認するが、アクアの言う通り、戦いはまだ終わっていなかった。

 

「ケェーーーーッ!!」

 

 怪鳥の怒りの咆哮は、車内にいる二人にも届く。

 

 徐々に地上に近付きながら、血走った目でそこにいる者達を睨み付けている。

 

 甲板に立つウィンはアクアから借りたバズーカを構え、アクアも二層式の狙撃銃を構えた。

 

 バランスを取るのに必死なハゲワシヤーボも、今は攻撃どころではなさそうではある。

 

「残りのCIWSでトドメをさせるかしら?」

 

「いや、墜ちるなら逃げられないか?」

 

「あのまま滑空して、追い付かれてよ。こちらも速度が出ないんだから」

 

「あぁ……そうか」

 

 二十発近い弾を残したまま、主砲が使用出来なくなったのは痛かった。

 

『それと、こっちに戦車が二台向かってきてる。おそらく、わたし達よりも先に戦っていたハンター達』

 

「ハンター? 助けてくれるなら、ありがたいな」

 

「そうね……」

 

 嬉しそうなナヴィとは逆に、エティアの表情は複雑だった。

 

 トレーダーの中にもコレデファミリーみたいな者達がいるように、ハンター達の中にもそういう者達がいる。

 

 もし、ここに向かっているというハンターがその類いであれば、助かったことにはならない。

 

 命が助かっても、より酷い状況にもなりかねないからである。

 

《(……――ザザッ)……あー、あー、聴こえますか?》

 

 ティーガーの通信機から聞こえてきたのは、二人とそう変わらなそうな女性の声だった。

 

「《はい、聞こえます》」

 

 エティアも通信機のスイッチを入れて、緊張気味に答える。

 

 ナヴィもiゴーグルを操作して、外の二人にも聞こえるようにした。

 

《えーと……アレを墜としに来たんですが、お邪魔や迷惑でなければ共同作戦という形はどうでしょう? もちろん単独でされるのであれば、こちらは引き上げますが》

 

 その言葉に、ナヴィとエティアは顔を見合わせる。

 

「(どうする?)」

 

 小声で訊ねてくるナヴィに、エティアは先の可能性もあって悩んだ。

 

 声だけなら自分達と似たような女の子に思えたが、それが=安心安全というわけではないからだ。

 

 それに現在はこちらに交戦権があら、iゴーグルのデータもそうなっている。

 

 このまま彼女達が倒しても、賞金や撃破データはこちらにだけ入る。

 

 戦闘状態を解除すれば別だが。

 

『(大丈夫)』

 

 iゴーグルから囁くようなアクアの声。

 

 それにウィンも続く。

 

『(絶対に、ボク達が護るから)』

 

『(このままだと、二人は確実に助からない。それなら、助かる可能性に今は賭ける)』

 

 ナヴィを見れば、二人に同意を示すかのように強く頷いてみせた。

 

 家族に等しい仲間達の声を受けて、エティアの決意も決まる。

 

《もしもーし?》

 

「《すみません、お願い出来ますか? ただ、こちらは損傷が激しく戦闘は難しいため、そちらだけになると思います。よって、共同作戦ではなくてこちらは戦闘を解除して――》」

 

《あー……オッケーオッケー。それは気にしないで下さい》

 

 エティアの提案を最後まで聞かずに、あちらからは明るい声が返ってくる。

 

《こちらはアレを倒したいだけなんで! それに共同作業にしておけば、そちらにも経験値やお金に、賞金も半分だけど入るじゃないですか。なんなら、戦利品や賞金もこちらはいりませんよー》

 

「《え……?》」

 

 こちらにとっては美味すぎる、あり得ない話だった。

 

《まあ、気にせずにそちらは離脱して下さい。そこにいると、危ないですよ?》

 

 こちらからの話は聞かないとばかりに、iゴーグルに送られてくる共同作業の承諾か否かの確認。

 

 美味すぎる話ではあったが、相手からの悪意は感じなかった。

 

 どちらかと言えば、親切の押し売り。

 

《受ける受けないはそちらさんに任せるけど、こちらにはそちらをどうこうする意思はない。ま、怪しいと思うのは確かだし、信じる信じないは自由だけどな》

 

 通信機から聞こえてきたのは男性……こちらも少年らしき声に思えた。

 

《ちょっと! 怪しいって何よ!?》

 

 それにすかさず、件の少女が反応した。

 

《阿呆かお前は! あんな風に言ったらどう考えても怪しいだろうが!》

 

《こちらに敵意は無いっていう、手っ取り早い手段じゃない!》

 

 

《金はともかく! 賞金首の戦利品をいらないと言うハンターがいたら、お前はどう思う?》

 

《ハンターか疑うわね》

 

《よく分かってんじゃねーか! 素直に「ここまで来た旅費と弾代で、奴の落とすお金を半分下さい」で良いだろ?》

 

《そっちの方がダメダメでしょっ! どんなハンターよ!?》

 

 通信機越しにギャアギャアとやり合う二人に、エティアとナヴィは呆気に取られていた。

 

「悪い奴等じゃ無さそうだな?」

 

「そうね」

 

 フッと笑んだエティアは承諾を送る。

 

 戦場に到着した赤い狼と銀のつむじ風の、その砲塔が上に向けられる。

 

《じゃ、後はこちらに任せて! そちらは早めに離れてね……やって》

 

《おう!》

 

 ヴィルベルヴィントに四つ装備された機関砲が一斉に唸り声を上げた。

 

 その内の一門は広範囲にばらまくように、残りの三門は集中的に。

 

 怪鳥の巨体に、まさに弾丸の雨が襲いかかる。

 

 ティーガーと入れ替わるように進むメルカバとは別に、回り込むように進む。

 

「ギッ!? ケェーッ!?」

 

 眼下の獲物に気を取られ過ぎていたハゲワシヤーボは、接近していた二台に気が付いていなかった。

 

 そして、その二台を見て必死に空に戻ろうとする。

 

 しかし、その大事な翼には徐々に灰色の物質が付着しては固まっていく。

 

 翼だけではない。身体にも付着しては、ハゲワシヤーボの自由を奪っていく。

 

「景品で貰ったセメントガンだけど、あんたにはよく効くでしょう。もう逃がさないし、ここで終わりにしてあげるわ」

 

 メルカバを操縦する少女は、ニヤリと笑んだ。

 

 後退しながら、ティーガーからもCIWSが発射され、怪鳥の脚を傷付けていく。

 

 機関砲で傷付いたその身体は、既に普通の武器でも届く高さだった。

 

 ウィンのバズーカは既に射程外だが、アクアからの狙撃は着実にダメージを積み重ねていく。

 

《じゃ、いきまーす。戦車の上の二人は、爆風に気を付けて下さいね》

 

 臆することなく突き進む真っ赤なメルカバをモニターで見つめながら、ナヴィが息を飲み込んだ。

 

《全・門、発射ーっ!》

 

 戦車にあるまじき、戦艦に取り付けられそうな巨大な大砲が七発。

 

 灰色の物質と、ヘビのようなレーザーが二発ずつ。

 

 そして、十発と五発の小型ミサイル群がニセット。

 

 これでもか! とばかりに、暴力的な弾の大嵐が怪鳥に襲いかかっていた。

 

《全門……発射!》

 

 激しい爆発に巻き起こる爆煙。

 

 ぐらつく巨体に、ヴィルベルヴィントに乗っている少年からもトドメとばかりに攻撃の宣言。

 

 機関砲四つに加え、機関銃と電撃を放つ――

 

「ケッケェ! ……ケェ」

 

 最後まで受けきり、どうだと言わんばかりに一声鳴いた怪鳥は……遂に墜ちた。

 

 

《よし! どんどん強くなるね、あたし》

 

 通信機から聞こえてくる少女の歓声。

 

《おい……それより先に言うことあるだろ?》

 

《あ、そうね。えー……お疲れ様でした!》

 

《今さら取り繕っても、ネコかぶってるのモロバレ……うわっ、おま、撃ちやがったな!》

 

《外野がウルサイですがお気になさらず。挨拶が遅くなりましたが、あたしはレ……イナ。あっちで騒いでいるのはゲンゲン》

 

《こいつぁヒデェ……センスの欠片もねぉわ!?》

 

《はいはーい、静かにしないと、次は主砲かSーEを撃ちますよー? ……失礼しました。そちらのお名前もお聞きしてもよろしいですか? ハゲワシヤーボの翼に大穴を開けるとは、どうやったのかお聞きしたい…………もしもーし?》

 

《話を代わります。二名ほど体調を崩しておりますので、少しお待ち下さい》

 

《あ、はーい。こちらは大丈夫ですので、ゆっくりケアをしてあげて下さい。戦いなれない敵とやると疲れますしねー》

 

《そうですね。では、少し失礼します》

 

「ねえ、アクア」

 

 そう言ってティーガーの通信機を切ったアクアに、同じく乗り込んでいたウィンが話しかける。

 

「なに? ウィン」

 

「素直に言わなくて良かったの?」

 

「言えるわけない」

 

 首を傾げるウィンに、アクアは首を横に振った。

 

 二人の視線の先――シートに腰かけたまま、赤い悪魔の全門発射時の衝撃にショック状態の二人の姿があった。

 

「再起動には、もう少し時間がかかりそう」

 

 二人の状態を見て、アクアはそう判断した。

 

 二人の目の前でヒラヒラと手を振りながら、ウィンが「そういえば」と口にする。

 

「シーザーは?」

 

「シーザーなら――」

 

 

      ※ ※ ※

 

 

『なあなあ』

 

「何よ?」

 

『あっちで、変わったポチタンクに乗ったワンコがモンスター狩ってる』

 

「どれ……確かに変わってるわね。タンクと言うよりホッパーみたい。あれはこっちで売ってるのかしら? ポチのお土産に」

 

 

 




 
 
 
(data)その2

シャシー:レッドウルフ(メルカバ・バトーカスタム)

エンジン1:炎神

エンジン2:炎神

Cユニット1:ポップコーン

Cユニット2:電撃的アミーゴ

主砲:キングバースト

副砲1:セメントガン

副砲2:スネークガンβ(砂塵)

SーE1:Xートルネード

SーE2:Fートルネード



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