メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その14 嵐との一幕

 

 

   【はらはら平原】

 

 

「……よっ、と」

 

 付近の見回りから戻ってそうそう、ハッチを開くと血のように赤い戦車から飛び降りてくる、明るい金髪の少女。

 

 着地の反動で肩口までの髪が前に垂れるが、それを片手で後ろに流す。

 

 スカート状の黒いボディスーツに身を包み、左脚には赤い布が巻かれていた。

 

 両サイドや後ろ腰には用途別の銃器。多くの経験で培われたであろう、無駄や隙も無い身のこなし。

 

 まだ幼さが残る顔立ちではあるが、彼女がベテランのハンターだということが分かる。

 

 突貫作業で修理が行われているティーガーに歩み寄ると、開いているハッチに向かって叫んだ。

 

「エティアさん! 修理の方はどうですかー!?」

 

「レイナさん、おかえりなさい。おかげさまで、エンジン周りとCユニットの修理は終わりそうですわ」

 

 そう言ながら、ハッチの中からエティアが顔を見せる。

 

「主砲と副砲の方は大破していたので、ナヴィもちょっと苦戦してるみたいですが……」

 

 ハッチからすぐ近く、副砲の十一ミリバルカンの修理を行っている少年に視線を落とす。

 

 大破だったそれは、中破から小破と言える程度にまで修復されていた。

 

 生活費を稼ぐためのバイトで身に付けた技術であるため、本職とする者達から見ればまだまだ拙い腕ではあるが。

 

 しかし修理の要点は押さえているので、時間はかかるものの直す目処はついていた。

 

「そ。じゃ、夕方も近いしキリの良いところで移動しましょうか。こんな所にいたんじゃ、また他のモンスターが来そうですしねー」

 

 ハキハキと話すレイナに、エティアは申し訳なさそうである。

 

「あの、レイナさん。私たちの方が年下で後輩なのですから、普段されている言葉使いで……」

 

「え? わたくしはこれが普通ですよ?」

 

「うわ、猫かぶり、キ……モォーーーッ!?」

 

 足下……戦車の下に潜り込み修理を手伝ってくれていた少年の声が、突如絶叫に変わった。

 

 いきなりのそれにエティアは驚き竦み上がり、ナヴィも思わずスパナを取り落とす。

 

 近くで見張りをしていたウィンとアクア、それにシーザーが不思議そうに視線を向けた。

 

「あらあら。失礼なことを言う人は悲鳴がお下品ですねー」

 

 戦車の下から伸びていた二本の足。

 

 その片方の脛の上から自分のハイヒールを履いた足を退ける、笑顔の少女。

 

「ま、こんな人は放っておいて移動を……ってどうかしましたかー?」

 

 笑顔のレイナに、意識を取り戻したエティアはブンブンと慌てて首を左右に振る。

 

「な、なんでもありませんわ」

 

「そういうことで、ナヴィさんも、良いですか?」

 

「だ……大丈夫です!」

 

 目の前にいるこの少女はハゲワシヤーボよりも遥かに危険。

 

 本能がそう囁いていた。

 

 コクコクと頷く二人。

 

 それを見て、レイナも満足そうに頷いた。

 

「良い返事ですねー。そこのバカにも見習わせたいくらい」

 

「くぉら、レ……イナ! いきなり何しやがる!?」

 

 

 戦車の足下から這い出してきた金髪の少年が、立ち上がると同時にレイナに食ってかかる。

 

 その髪色もさることながら、緑の瞳も相まって二人は良く似ていた。

 

「あらあら。自分の胸に手を当てて、よく考えてみればよろしいのでは? それにその程度、あなたならほとんどダメージは受けなくてよ」

 

「気持ち悪い上に変なしゃべり方をやめろ! 後な、ほとんどであって、受けるもんは受けるんだよ!」

 

 レイナにゲンゲンと呼ばれた少年が、キッパリと言い切った。

 

「気持ち悪いとは何よ、気持ち悪いとは!」

 

 少年の言葉は看過できなかったのか、レイナが口調を変え憤然と言い返す。

 

「あれはだな、例えばエティアさんみたいな子が言うのは良いが、普段のお前を知ってると鳥肌が立つん……だよっと!」

 

 最後は抜き撃ちによる足下への極太ビームを、ゲンゲンは華麗なステップで左へと避けた。

 

「ちっ!!」

 

 鋭く舌打ちして、レイナはオメガブラスターをそちらに向ける。

 

「そう、いつもいつもやられる訳じゃ――」

 

 移動しながら、ゲンゲンは地面に置いてあった赤いロングコートを拾い上げ、黒いボディアーマーの上から羽織る。

 

 飛んでくるそれを避けながら、草原を転がり、修理を手伝うために置いてあった武器に手を伸ばす――。

 

「ねぇよ! ……って、あれ?」

 

 伸ばした手には何の感触も無い。

 

 視線を遣れば、そこにあった武器が忽然と消えていた。

 

「俺の武器が無ぇーっ!?」

 

 少年の声は、続く電撃にかき消された。

 

「なんだろ? さっきからあっちは賑やかだね」

 

「仲の良い二人のじゃれ合い。特に問題なさそう」

 

「ウォン」

 

 ナヴィ達の方を気にしながら、二人と一匹は辺りの見張りを続ける。

 

「それにしても、格好良いよねー。コレ」

 

 ウィンが、先ほど拾ったソレを羨ましそうに見ていた。

 

「斬車刀。達人が振るうことで、文字通り戦車も斬り裂くという。伝説の降魔刀と並び、稀少な一振り」

 

「ねぇ……アクア?」

 

「無理、買えない」

 

 このタイミングでの呼び掛けの意味を正確に読み取り、アクアはゆっくりと首を横に振る。

 

「――アッタマに来た!」

 

 オメガブラスターと雷を帯びる羽を両腰にあるそれぞれのホルスターに戻すと、レイナはクルリと踵を返した。

 

「……お、おい? 何する気だ?」

 

 自分達の戦車を停めてある方に歩いていく少女に不吉なモノを感じ、ほとんどダメージを受けていないゲンゲンが慌てて問う。

 

「お兄ちゃんの戦車、修理しちゃうぞ☆」

 

「止めろーーっ!? 可愛く言っても駄目だ!! お前の修理はヤバい! 俺の戦車が壊れる!」

 

「お兄……ちゃん?」

 

 今の言葉と、レイナが起こした嵐のようなアレコレが、エティアの脳裏に何度も繰り返される。

 

「大変そうだなぁ……ゲンゲンさん」

 

 慌てた様子で駆け出した先輩ハンターを見つめて、ナヴィは心の底から同情を寄せる。

 

 そして。

 

『自分はああならないように気を付けよう』と。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「――そっか。エティアちゃん達は、ナヴィ君のお父さん探しも兼ねてるんだ」

 

 エティアとレイナは並んで腰掛け、互いに情報を交換していた。

 

 夜。はらはら平原に点在する水場に辿り着いた六人と一匹は、そこでキャンプキットを広げていた。

 

 ナヴィとウィンはテントを設営し、ゲンゲンは携帯していた調理器具を使って料理を作っていた。

 

 その手際の良さにアクアは時おり質問しながらメモを取り、シーザーは漂う匂いに口から大量の涎を垂らしている。

 

「かなり手慣れてる」

 

 手元を覗き込むメイド服の少女に、ゲンゲンは苦笑する。

 

「そりゃなー。旅の間のメシは、ずっと俺と仲間のメカニックがしてたから。慣れだよ、慣れ」

 

「なるほど。……塩、少々と」

 

「聞いてくれよ。俺達も五人と一匹で旅をしてたんだけどさ、後の二人は料理のりょの字も知らない女ソルジャー。食べられれば良いとか気にしないとかで、やたらと野趣溢れる物ばかり作りやがるんだ」

 

「こちらにも思い当たる人物がいる。……隠し包丁を入れる」

 

「文句は多いくせに、自分はガスマスクが必要な料理を作るどっかのハンターさんもいるしな。……っと、後は煮込むだ、けーっ!?」

 

「ありがとう、参考になりました。……今度これ試そう」

 

 十メートル以上離れた場所から飛んできた装甲タイルを布団に、眠った少年を残してアクアはメモを見ながらその場を立ち去った。

 

 シーザーは鍋に熱い視線を注ぎながら、ひたすら待ち続ける。

 

「まったくもう。いつも根も葉もないことばっかり」

 

 手をはたきながら座り直すレイナに、倒れたまま動かない少年を見ていたエティアが、そっと訊ねた。

 

「あ、あのお兄さん? は、大丈夫なの?」

 

 堅苦しいのはお互い無しで! と、レイナに宣言されたエティア。

 

 しかしそうは言われたものの、年は近くても高すぎる壁の上にいる彼女に、エティアはかなり恐縮していた。

 

「はいはい、もっと柔らかく柔らかく! ちなみに、アレなら大丈夫よ。そこらの戦車の主砲を受けても兵器なんだし、装甲タイルの一枚くらい平気だって。……サウルスパックだから枚数もあるし」

 

「はい?」

 

「あ、気にしないで」

 

 妹? の彼女がそう言うのなら、とエティアも心配することを止めた。

 

 料理には被害が出ていないことから、二人ともが気を付けているらしい。

 

 それもまた、唯の慣れであったが。

 

「でも、東ねー……あたし達もそっちから来たんだけど、スノって名前の夫婦は聞いたことないかな」

 

「そうですの……」

 

 顎に人差し指を当てながら考えるレイナ。

 

 やがて、首を振りながら彼女は「ごめんねー」と、申し訳なさそうに言う。

 

 もしかして彼女ならと思ったエティアであったが、そこまでの偶然はさすがに無いだろうとも考えていたため、残念には思ってもショックは受けなかった。

 

 頑張っているナヴィのためにも、小さな噂程度でも聞ければと思って訊ねたのである。

 

「なんだったら、エティアちゃん達もあたし達と一緒に行く? 今、ハンターパーティを組んでるんだけど、良ければ歓迎するよー」

 

「ごめんなさい。お誘いはとても嬉しいのですが」

 

 レイナからのお誘いの言葉に、正直惹かれるものはあったが、今度はエティアが申し訳なさそうに頭を横に振った。

 

「駄目かー、残念。ちなみに、理由は訊いても?」

 

 駄目なら言わなくて良いからねと話す彼女に大丈夫と答え、エティアは簡単に事情を話した。

 

「私たち依頼を受けているので、西の街に行かないといけないのです」

 

「あー、それならしょうがないか。引き受けた以上、依頼はこなさないとね」

 

 聞くと、彼女はあっさりと引き下がった。

 

 彼女も、ハンターとしての常識はきちんと持ち合わせていたらしい。

 

「はい!」

 

「あ、それ、モンスター退治だったりしない? 大型で、ガンガン大砲撃ってくるような戦車タイプの!」

 

 身を乗り出し、何かを期待するようなイキイキとした目を向けてくるレイナを、エティアは何とか押し止めた。

 

「これも人探しで、場所も西としか分かってないんです」

 

「それも人探しかー。場所が分かってるなら手伝っても良かったんだけどね……期間が未定は」

 

「いえ、お気持ちだけで充分でしてよ……充分ですから」

 

 ガクッと項垂れるレイナに、感謝を述べる。

 

 その際、素の口調が出かけたが言い直す。

 

「エティアちゃんも普通に喋ったらいいのに。……今ね、人探しというか街に強いのがいないのよ」

 

「街に強い……仲間の方ですか?」

 

「そ。メカニックなんだけどね、訳ありだけど情報収集に強いんだよね。そいつとケ……ゲンゲンと犬のポチが担当」

 

「レイナさんは苦手なんですか?」

 

「出来るけど、オッサンとかと話すのあんまり好きじゃないし。あたしとソルジャー二人は戦闘専門」

 

「はあ」

 

 見るからに面倒そうな表情を浮かべたことに気付いたエティアだが、そのことにはあえて触れずに相槌だけを打つ。

 

「エティアちゃんとこは全員でするみたいだけどさ、あたしのところは役割分担させ……してるから。宿でのんび……仲間を信じてドシッと構えるのも、必要なことなの」

 

 明らかに言い直したことにも触れない。

 

 そして、エティアの頭に浮かんだ“こき使う”という文字と、そのイメージ画像は絶対に口に出すわけにいかなかった。

 

「……今、何か思った?」

 

「い、いいえ? 何にも思ってなくてよ」

 

 笑顔で聞かれ、ちょっとどもったが否定を返す。

 

「そ。じゃ、良いわ。エティアちゃんとは、良いお友達になれそう、ね?」

 

「え、ええ。私も、レイナさんからは、もっと色々お話を聞きたくてよ」

 

 何故か言葉を区切りながら、最後に確認するかのように言うレイナ。

 

 それに、エティアは必死に平静を装う。

 

「んじゃ、夜にじっっっくりと話すとして、あたしからも質問があるんだけど。良いかな?」

 

「え、じっっく……何でしょう?」

 

 一転して、いきなりピリッとした雰囲気になったレイナの様子に、エティアも姿勢を正した。

 

「こっち方面でね、テッドブロイラーか、グラップラーって名前。聞いたことない?」

 

「テッド…………、すみません。後でみんなにも確認してみますが、私は聞いたことないです」

 

「そう……。こっちじゃないのかな」

 

 深く溜め息を吐くその様子に、余程の事情があると察した。

 

「訊いてもよろしくて?」

 

「あー、うん。訳ありで詳しくは言えないんだけど。確かに死んだはずのその男が、生きてるって話を聞いたの。もし本当なら、きっっっちりと引導を渡したくてね」

 

 ウフフ、と笑う姿には鬼気迫るものがある。

 

「こちら側って話は事実でして?」

 

「さっぱり。それも、単なる風の噂だけ。どっかで決闘してるとか、変な組織を作って、そこのボスになってるとか。火の無い所に煙はって言うでしょ? そいつ自身が炎だけど」

 

 彼女達がハンターパーティで活動している時、そんな噂を偶然聞き付けた。

 

 そしてそれを捜そうとした矢先にハゲワシヤーボと出会い、ここまで来たらしい。

 

「では、こちらで聞くようなことがあれば、お知らせしましょうか?」

 

「ホント!? 助かるわ、ありがとう!」

 

 エティアの申し出に、レイナは本当に嬉しそうにした。

 

 エティアの手を取って感謝を述べる彼女に、エティアの顔も綻ぶ。

 

「あたし達は、明日エティアちゃん達の修理が終わり次第、ここを発つわね」

 

 iゴーグルの回線ナンバーを交換した後、レイナはそう宣言した。

 

「おーい! メシ出来たぞー! 特製ワシナベ」

 

「ウオォオオーーーン!」

 

「――だってさ、あっちのパーティ。ナヴィ、一言どうぞ!」

 

「あー、俺はこっちのパーティで良かった!」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「《――あ、声、聞こえますかー? うん、あたしあたし。そっちは……はんた君だよね?》」

 

「《――また逃げ込んでるんだ。ま、それは良いからこっちのメンバーと代わ……いや、あたしに泣かれても、それはキミ自身の問題だから。あれの修理だってまだなんでしょ? 戻ったらあたしも手伝っ……ん、もしもーし?》」

 

「《――あ、エルピナ? はんた君は……まぁ、いっか。ちょっと長話は出来なくて。……うん、明日こっちを出るから》」

 

「《――ごめん。うん、まだどっちも見つけられてないんだ。マドのみんな、マリアやフェイさん達は……マリアが大火傷のまま元気に歩いてる? 寝かせなさい》」

 

「《――うん。ヤケドトリは、あたし達が絶対に見つけるから……って、周りウルサイわね。修理しちゃうぞって伝えて》」

 

「《――え、何? 星が壊れるからやめてくれ? なにそれ?》」

 

 

 

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