メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その14.5 幕間――約束と誓い

 

 

   【はらはら平原】

 

 嵐のような兄妹と別れてから、一週間が過ぎた。

 

 色々あったはらはら平原も終わりに近付き、目的地であるフォレストビレッジはもう目と鼻の先という地点。

 

 そこで偶然見かけたトレーダーキャンプに、ナヴィ達はお邪魔していた。

 

 夕食の材料狩りとナヴィの戦車乗りの練習を兼ね、指導役にアクアが付いて、シーザーを伴った二人は外に出払っている。

 

 その間、ウィンとエティアは自主的にキャンプの見張りをかって出ており、狩りに出た二人を待ちながらその任を果たす。

 

 あの兄妹から、もう使わないからといくつか装備を譲渡されていたこともあって、ここまでの旅は順調に進んでいた――。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「はい、これ!」

 

「あ……ありがとうございます、レイナさん。でも、よろしいのですの?」

 

 レイナが差し出している袋を、エティアは受け取りながらも再度確認を取る。

 

 夜、テントの中で一緒に休んでいる時に、レイナからそういう話は確かに出てはいたのだが……。

 

 冗談と受け取っていたエティアと違い、レイナは本気だったようだ。

 

「もちろん! あたしの目で見た感じの、今のエティアちゃんとナヴィ君に見繕った装備だから」

 

「今の、私達?」

 

「そ。強すぎる装備はみんな……と言うよりは、エティアちゃんとナヴィ君のためにならないから渡さないけどねー。それにさ、今はもう袋で眠ってるだけのこの子達も、誰かに使われてる方が喜ぶでしょ?」

 

「それは、そうですけど」

 

「ほらエティアちゃん、まだ固いぞー。……ま、その分だけお金は浮くだろうから、それを戦車に回したら良いわ。で、いつか戦車戦やろうね!」

 

 茶目っ気タップリにウィンクしながら話す、少しだけ年上のベテランハンターの心遣いに、エティアも柔らかな笑みを浮かべた。

 

「では、装備はありがたく受け取らせていただきますわ」

 

「うん。……で、戦車戦の方は?」

 

 さりげなく聞かなかったことにしたのだが、レイナは袋を手渡しながらもう一度訊いてくる。

 

 満面の笑みで。

 

「冗談……ではなくて?」

 

「逆に訊くけど、あたしが冗談で言うと思う?」

 

 二人で話した感じで言えば、サッパリした性格の美少女でノリも良く、会話術も上手い。

 

 喋ろうと思えば一日中でも雑談が出来るだろうし、そんな彼女であるからこそ冗談も良く口にしていた。

 

 ただし、あくまでも他愛のないことについてのみ。

 

 夜中の雑談で分かったことだが、彼女は戦車戦が大の好物であるようだ。

 

 曰く、『美少女のたしなみ』。

 

 かといって、中毒のようなバトルジャンキーといった類ではなく、趣味の一貫らしいが。

 

「あたしが今、ハンターパーティーを組んでいることは話したよね? でもね、専門の戦車乗りの数は少ないのよ。メカニックやソルジャーは多いけど」

 

「そうなのですか?」

 

 彼女が参加しているのだから、さぞかし多くのハンター達が参加しているのだろうと思っていただけに、その内容は意外であった。

 

「“乗る”だけならメカニックや、苦手なだけでソルジャーだって乗れるしね。専門は、多いようで結構少ないのよ? まあ、そこにいるのは腕は抜群だけど、腕は。あたしも負ける時あるし」

 

 

「え゚……レイナさんでも負けることが?」

 

 日中にあったトラウマと化しそうな光景を思い出して、エティアは信じられないとでも言いたそうな表情になる。

 

「エティアちゃーん、何か言いたそうね? いくらあたしが完全無欠な天才美少女であっても、負ける時もあるわよ」

 

 

 

 しかし彼女は、いつものさばさばとした態度であっさりと頷いてみせた。

 

「ま、仲間内での模擬戦だから良いのよ。勝つも負けるも関係無し! お互いに切磋琢磨しあうんだから。メカニック達は泣くけど。……本当に負けたくない奴に、勝たないといけない時に生き残るために、ね?」

 

「レイナさん……」

 

 そう割り切れるからこそ生まれてくる、彼女の強さの本質。

 

 過去については多くを語らない彼女のそれに関係しているのは、おそらく以前訊かれた一人の男と、その者が所属していたと思しき組織。

 

 何があったのかは分からないが、良好な関係でないのは確かである。

 

 レイナが今の強さに至るまでに潜り抜けてきた“世界”に、エティアは想いを馳せた。

 

「あたしの昔が気になるのかな? エティアちゃん」

 

 そんな内面を見透かしたかのような、レイナの目と言葉。

 

 それに、エティアは臆することなく頷く。

 

「ええ。……でも、今はまだ止めておきますわ。いつか、ハンターとしてもっと成長した時に、改めて」

 

 今の自分にはきっとまだ早い、そう思えたから。

 

「OK。話すにはちょっと長いし、内容もちょっとハードだからね。いつか、エティアちゃん達とあたし達の道が交錯した時に、話してあげる。先輩ハンターの昔語りってやつね」

 

「はい、レイナさん。……でも、昔語りって聞くと不吉な感じが」

 

「ん?……ああ、そんなの平気平気!」

 

 エティアの不安を、レイナが笑い飛ばす。

 

 サムズアップしながらのウィンク、そして笑顔で言い放った。

 

「そんなフラグとか何だのなんか、あたしは叩き折るから!」

 

「強すぎますわ……」

 

「ま、あたしからのアドバイスとしては、良い仲間を見つけることね。安心して背中を預けられる戦友と、外部支援してくれる人。この時代を生き抜くには、どっちもかけがえの無い大切なものよ」

 

 自分の言葉を真摯に聞きながら頷く後輩に、レイナも満足そうだった。

 

「エティアちゃんやナヴィ君は、あたしとしては将来有望と睨んでるのよね。いつか、あたし達と一緒に旅に行きましょ? パーティー仲間のね、ハンター君がそんな夢を持ってるのよ。この世の果て、限界まで遠い所まで行って、この目で見てみたいってね」

 

「壮大な夢ですね」

 

 ナヴィが自分の夢を語った際の、父親と似たような反応を示すエティア。

 

「あいつは大きな夢を持ってたよ」と、笑いながら父に言われたがその内容は教えてくれなかった。

 

 本人に直接訊ねても恥ずかしそうにするばかりで答えようとはせず、アクアやウィンも笑うだけで教えてはくれない。

 

 ウィンが良い夢だよと言っていたため、ナヴィのことだから子供染みた夢なのだろうと推測していた。

 

「でしょ? だから一人でも多く、信頼出来るメンバーが必要なのよ。それで、今はその準備中ってわけ。……ってことで頑張って、早く追い付いてきてね!」

 

「レイナさんや、そのチームに追い付くとなると相当な時間がかかりますわね」

 

「そこは、ま、亀でも狩りながら頑張って。……そうね、“その先”に辿り着けるかどうかは、エティアちゃんやナヴィ君達の努力次第ってとこだけど、ね?」

 

「頑張ってみますわ」

 

 先輩からの応援に、エティアが苦笑しながらも頷いた時だった。

 

 ニヤリと、レイナが邪な笑みを浮かべたのは。

 

「承諾の返事、確かに受け取ったわ!」

 

「え?」

 

 その表情と発した言葉の意味に、彼女が気が付くよりも早く――。

 

『クエスト;再会 を受領しました』

 

『クエスト;模擬戦の約束 を受領しました』

 

 身に付けたままだった自身のiゴーグルに、そんなシステムメッセージが流れた。

 

「え゜?」

 

 滅多に崩すことがない真面目な顔を、はっきりと引きつらせているエティア。

 

 そして、つい先程までの話が脳裏を過ぎる。

 

 その狼狽している顔を見ながら、一方のレイナはしてやったりという会心の表情であった。

 

「快く引き受けてくれてありがとうね。エティアちゃん?」

 

(快くなんかでは!? そもそも、後者は引き受けたつもりもありません!!でも、今のは……)

 

 バーイショで引き受けた女の子からの依頼はオフィスを介していない非公式のものであるが、今のは正式な手順を踏んだ公式なものであった。

 

(どうして? レイナさん達はオフィスの関係者でもあるというの?)

 

「あー、勘違いしないように言っとくけど、あたしはオフィスの職員とかじゃないから」

 

 明らかに目の前の少女が混乱し始めたのを見て取ったレイナが、ヒラヒラと手を振りながら考えているであろうことを読んで、否定する。

 

 そして、驚かせたことを軽く謝った上で、種明かしを始めた。

 

「ほら、よくiゴーグルのクエストの所を確認してみて?」

 

「え? え?」

 

 混乱しつつも、言われた通りiゴーグルに手を当てて確認してみる。

 

 現在引き受けているクエスト数、0。

 

「0? え、でも、ついさっき二つ……」

 

 エティアの眼が、問うような視線を向けた。

 

「引き受けた時に、よく確認したら分かったんだけどね。オフィスからの正式なものだったら:になってるところが、;になってたんだけど……」

 

「そ、そんなの分かるわけありませんわ!」

 

 アクアやウィンからの指導を受けながら、ナヴィよりも先にハンター稼業を始めたエティア。

 

 それでも、ヒヨッコと呼ばれる域をようやく抜け出せるかどうか、といったところである。

 

 身内が多いムーセムのオフィスでは、練習として渡されたいくつかの依頼をこなしてはいた。

 

 しかしまだまだ数が少ないエティアが、すぐに消えてしまうメッセージに短時間で気付くというのは、無理な話ではある。

 

 そして、驚き慌てふためいた分だけ、落ち着きを取り戻した感情は怒りへと移っていく。

 

 それを理解して、怒る相手を宥めすかしながら『やりすぎちゃったか』と反省しつつ、説明を続ける。

 

「アクセルとキリヤ君……うちのチームのメカニック達が見つけたんだけどね。iゴーグルやBSコントローラーには回線の穴があって、それを使うことで擬似的なメッセージが流せるのよ」

 

「回線に穴……そんなのあるんですのね」

 

 普段が普段なだけに、怒りが収まるのも早いエティア。

 

 まだ表情に憮然とした感じは残っているが、声はいつものそれに戻っている。

 

 ウィンから受けたイタズラで鍛えた忍耐の賜物でもあったが。

 

「で、イタズラ者と天才君が片手間に作ったのがさっきのアレってわけ。仲間内でのやりとりには意外と役立つのよねー。このメッセージが流れたら、ウソと分かっていてもみんな自然と気合いが入るから」

 

 ハンター稼業で身に付いた習性とも言えるそれを、見事に突いている。

 

「あたし達の時は、大抵期限付きだけどね。方向音痴で帰ってこれないバイク乗りのハンター以外は、ちょっと必要になったものは全部クエスト扱いにしてるのよ。電子部品百個を二時間で集めてこいって感じで」

 

「無茶苦茶ですわね……って、方向音痴のハンターって大丈夫ですの? ハンター稼業に、激しく支障が出そうですが」

 

 住む世界の違いに呆れるしかなかったが、その中にどうしても気になることがあった。

 

「腕はずば抜けてるし、その点は心配はしてないわ。修理を終えたばかりのバイクで、『ちょっと試し乗りしてくる』ってどっかに走りだしちゃって。しかも、ドッグシステムも降ろしたままだったから、帰巣本能で帰ってくるのを待つしかないのよ」

 

「き、帰巣本能って、動物扱いはどうかと……」

 

「気が付いたら、いつもヒョッコリ帰ってきてるし。凄く目立つから、もし会ったらヨロシクね」

 

 気楽そうに言う。

 

 その様子から、本当に心配はしていないらしい。

 

 それを信頼と取るか別の何かと判断するかは微妙な所ではあるが、ここは前者と思う……思いたかったエティアである。

 

 そちらで取るなら、レイナ達のパーティーはみんな強い信頼で結ばれているようだ。

 

「……良いですわね」

 

「ん?」

 

 ポツリと呟いた声が聞き取れず、レイナが小首を傾げる。

 

 どこかサッパリとした顔になったエティアが、微笑みながら先輩ハンターに告げる。

 

「期限はお約束出来ませんが、いつか模擬戦で一矢だけでも報える位には頑張ってみますわ」

 

 さっきまでとは真逆の反応にキョトンとしたレイナだったが、すぐに勝ち気だが嬉しそうな顔になる。

 

「ええ、楽しみにしてるわね、エティアちゃん。……でも、先輩に対してナマイキだぞー?」

 

「友達同士ということならどうですの?」

 

「それなら、許す!」

 

 二人が同時に上げた屈託の無い笑い声が、静かな平原に響き渡った。

 

『クエスト:二人の約束 を受領しました』

 

「ええええっ!?」

 

「オフィスの人ではないけど、出来ないとも言ってないわよ?」

 

 

 

「良いか、ナヴィ君? この世界は男より、はるかに女の方が強く、図々しい上に逞しいことが多い。だから、負けないように頑張って生き抜いてくれ。本当に護りたくなる女性なんて、ほんの一握りしか――」

 

「ゲンゲンさん……。妙に実感がこもってて、言葉が重いんですが……って後ろ後ろ!?」

 

「え……うおぅうわぁぁああっ!?」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……。……ぃ? えてぃってば、大丈夫?」

 

「え、あ、ウィン?」

 

 ハッと意識を取り戻したエティアの視界に、不思議そうなウィンの顔が入る。

 

「ボーッとしてたけど、もしかして珍しく立ったまま寝てた? 廊下に立ってる夢とか!」

 

「バケツを持って、うちの廊下に立ってたのはあなたでしてよ、ウィン?」

 

 ニヤニヤしながら言うウィンに、エティアも慣れた様子で返す。

 

「ナヴィ達も帰ってきてるし、ご飯だよ」

 

 それで戻ってこないエティアを心配して、ウィンが探しに来たようだ。

 

「ありがとう、ウィン」

 

「何のこと? ボクはご飯が食べたいだけだよ?」

 

 並んで歩きながら感謝を伝えても、ウィンはシレッとそう言った。

 

 バカな発言も多いが、ウィンもアレコレと細やかな気配りをする。

 

 日頃の言動と、アクアの関係で余り目立たないが。

 

「ウィン」

 

「なに、えてぃ?」

 

「私も、頑張って強くなってみせますわ」

 

 静かな宣言を聞いて、ウィンは黄昏時の空を見上げた。

 

「大丈夫。えてぃとナヴィなら、もっともっと伸びていけるよ」

 

 片方の拳を上げながら言うと、それにエティアも拳を上げ――。

 

“コツン”と、二人の拳が音を鳴らした。

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 夜半。

 

 見張りに立つアクアとシーザーの元に、人知れず誰かがやってくる。

 

「咆哮する」

 

「大地の王者」

 

 気配を殺して背後に立つ男の言葉に、振り向かずにアクアが答える。

 

 それはヌッカの宿の、情報屋達のキーワード。

 

「“家族の商売人は西から東への行商中”。確かに伝えたぜ」

 

「ありがとう」

 

 それは以前に自分が訊ねた情報であった。

 

 自分達とは因縁がある敵と、繋がっているかもしれないコレデファミリーの動向調査。

 

 正確には、彼らの入手していた戦車の場所を。

 

「クルマは、“成長する大密林”グロアプの森が怪しいと睨んでる。森が出来る前には、軍の施設もあったらしいからな」

 

「情報、とても感謝する」

 

 そう言って、アクアは男に五百Gを手渡す。

 

 ヌッカには後日別途で料金を振り込むし、そこから男にも回ることになっているが、これはアクアの感謝料である。

 

「へへ、毎度!」

 

「一ついい?」

 

「お、何だ?」

 

「ヌッカに連絡先を知らせてあったはずだけど?」

 

「そんな味気無い。こうやった方が、断然格好良いじゃねぇか」

 

 キッパリと言い切る。

 

「男のロマンというのがさっぱり分からない……」

 

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