メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その16 森の中は火気厳禁

 

 

   【グロアプの森】

 

 時刻が朝ということもあって、気温の方はさほど高くない。むしろ、町中よりも涼しく感じる。

 

 森ということで見渡す限り鬱蒼とした景色が広がっているが、あちらこちらから射し込む木漏れ日が明かりを不要としていた。

 

 静けさに包まれる森の中は、四人と一匹が落ち葉や枝を踏み締める音の他に、この地に住む生物達の発する声が時折聞こえる程度。

 

 植物効果で空気が新鮮なせいか、大きく深呼吸すれば気持ちも安らぐ。

 

 そういった雰囲気や歩くことが余程苦手ということでもない限り、絶好の行楽場所となるだろう。

 

……入って十分くらいまでは。

 

 朝だというのに、湿度を含んだ空気のせいで町中よりも暑く感じる。

 

 陰鬱とした森の中は太陽の光も遮られ、薄暗く見通しも悪い。

 

 絶えずどこからか聞こえてくる生き物達の不気味な声の他には、この地に足を踏み入れた者の悲鳴が木霊する。

 

「うわっ、ガスが!?」

 

 SMGによってまとめて倒された花型のモンスター達が、力尽きる前にと黄色いガスを辺りに撒き散らかした。

 

 それを見たナヴィは、慌てて黄色く染まった空間から距離を離す。

 

「確か、あれ麻痺ガスだったよな? こんな時にそんなもん吸ったら……」

 

 ゾッとしながら、視線を移した先には――。

 

 次々と押し寄せてくる巨大アリ、狩人アリやアシッドアント、アリゲリラ。すぐにどこかに行ってしまうが、ゴールドアントやメタルイーターも居るため、大小様々なアリモンスターが生息しているらしい。

 

 もちろん現れるモンスターは植物やアリだけではない。蜘蛛やバッタ、サソリに蜂、ヒル、イモムシ、カタツムリ。多くのバイオ系モンスターがこの森に住み、豊かな生態系を育んでいたようだ。

 

 森のあちらこちらから姿を現し、襲いかかってくる同族異種が混在しているそれらを、

 

「いっくぞー!」

 

 紅蓮の炎は諸共に飲み込んでいく。木々に燃え移らないよう、細心の注意を払いながら。

 

 ブースター付きの火炎放射器のトリガーを引いたまま、ウィンはふと気になっていたことを、少し離れた所で戦っている相棒に訊ねる。

 

「ねぇ、アクアー!? こういうときにピッタリな台詞ってなかったっけ!?」

 

『――――』

 

「うん、それそれ! さっすが、アクア!」

 

 欲しかった答えを得たウィンの耳が、背後からのそのそと近付いてくる複数の足音を捉えた。

 

 目の前の敵のほとんどを焼き尽くしたが、熱に耐性を持つモノはまだ残っている。……が、ウィンは攻撃を止めるとそれらから背を向けた。

 

 そして、新たな敵が現れた方に火炎放射器を構えると、指をかけたままだったトリガーを引く。

 

「ヒッヒッフー! 蠱物は成仏だー!」

 

 再び放たれた火炎が、色は違えどレーダーを花とするセンサーパンジーと痺れな草、血迷い草といった植物を焼き尽くしていく。

 

「ギチギチギチ……」

 

 そんな彼女の背後で、先の攻撃で生き残った数匹のアリゲリラが怒りに目の色を変えていた。

 

 もともと赤い体色をさらに鮮紅に染めて、獲物との距離を詰めていく。

 

 

 しかし、そんな彼らを右斜め後方から機関銃が襲った。

 

 不意打ちと既に弱っていたことも相まって、その攻撃に撃ち抜かれた彼らはすぐに動かなくなる。

 

「ナヴィー、フォローありがとねー!」

 

 SMGグレネードからスーパー殺虫ガンに持ち換えているナヴィに、ウィンは親指を立てる。

 

 それにサムズアップを返した彼も、すぐにまだまだ寄ってきているモンスターへと向かっていく。

 

 その姿を満足そうに見送り、

 

「――せやっ!」

 

 頭上から襲いかかってきた大きな気配に向かって、ウィンは飛び後ろ回し蹴りを放つ。

 

 靴越しに伝わる、硬いモノを蹴った感触。

 

 その反動を利用して、両者共に距離を取って着地する。

 

 四本の腕それぞれに鋭利な刃の鎌を持つ、カマキリモンスター……キラーリッパー。

 

 人間よりも三回りほど大きな赤い体、背中の羽を大きく膨らませて威嚇している。

 

 ウィンは相手の腕と自分の靴に視線を交わせた。

 

「うへぇ、変なとこ蹴らなくて良かった。それはそうと――」

 

 

 

 打ち付けあう金属音。互いの武器が噛み合うごとに火花が散る。

 

『――ねぇ、アクア? 言葉にしたら少し違和感があったんだけど、さっきのってやっぱり違うのかな?』

 

 攻撃を受け流している最中に、左耳のハンタースカウターから呑気そうな声が聞こえてきた。

 

「さぁ? でも、大きく間違ってはいないはず」

 

 矢継ぎ早に繰り出される敵の攻撃を、金属鞭の柄と本体部分を持つことで棒状にして使い、受け流しながら答える。

 

 通常のモノより、やたらキラキラとツヤのあるキラーリッパーの奇襲を受けたのはつい先程。

 

 執拗に接近戦をしかけてくる相手に、武器の相性上アクアはやや防戦気味であった。

 

 中・長距離を得意とする彼女は、接近されるまでに倒すか、距離を保ちながら戦うという戦闘スタイルである。一定距離内の相手をまとめて薙ぎ払うための鞭も、このような至近戦には不向きだ。

 

 自身その点については十分理解しているため、そんな彼女を今の状況に置いた目の前のカマキリは、それだけの奇襲力を持っていたことになる。

 

 狙われたのがナヴィやエティアであった場合、おそらくタダではすまなかっただろう。パーティーでもっとも小柄なアクアを狙った相手にとっては、不本意な結果であるだろうが。

 

 四本の腕を使った正確無比な連続攻撃を、後退しながら受け流し続けていたアクアの背に木がぶつかる。

 

 すかさず、キラーリッパーは下の二本の腕を左右に広げ、上二本の腕を高々と持ち上げた。

 

 間を置かず、先に左右に広げた二本の腕を、同時に挟むようにして振るう。

 

 アクアは身を沈めることで左右から迫る刃を避け、時間差で頭上から振り下ろされる二本の刃を金属鞭で受け止めた。

 

 腰にバズーカ、右肩には縦にライフルを背負った小柄な少女が、自分の姿を写すカマキリの複眼を見据える。

 

 背後の木が倒れる中、カマキリがニヤリと笑った気がした。

 

“もう逃げられんぞ?”

 

 そんな雰囲気と共に、下二本の腕が再び左右に広げられる。

 

 アクアは受け止めた姿勢のまま、瞑目し、呟く。

 

「……動きを止めたかったのは、こちらも同じ」

 

 左右の腕が振るわれる直前――

 

「ウオオオオーー!」

 

 雄叫びを上げて、ポチバリアを起動させたホワイトシェパードが白い流星となって突っ込んできた。

 

 真横からの強烈な突進を受けたカマキリは吹き飛ばされ、大きな体がきりもみしながら地面に叩きつけられる。

 

 それでも立ち上がるタフさを持つキラーリッパーだが、重低音が響くと同時に腕の一つが千切れ飛ぶ。

 

 その後、続けざまに重低音が響き渡り、

 

「一部の虫類はしぶといという話を聞いたことあるけど、ここまでやれば」

 

 胴と頭が吹き飛ばされて崩れ落ちたカマキリが完全に動きを止めると、少女はようやく構えていたライフルを下ろした。

 

 足元には排莢され、空になった薬莢が六つ転がっていた。腕に一発、胴には二発、頭には三発。

 

「シーザー、ありがとう」

 

 突進の勢いを利用して他のモンスターも倒していた彼に、アクアは言葉少なく感謝を告げる。

 

 こちらに駆け寄ってくるシーザーの気配を感じての作戦だったが、その意図はきちんと伝わっていたようだ。

 

「ウォン!」

 

 尻尾を振って一声。

 

 お互いに、それで十分だった。

 

 ナヴィとエティアの支援をメインに、ゴールドアントを追い回す彼の行動は、飼い主であるヌッカの教育の賜物だろうか?

 

「商魂逞しい。おかげで助かるけど」

 

 そう言うと、再びアクアは縦二層式のライフルを片手で構える。上側の銃口からは、微かに硝煙が立ち上っていた。

 

 ハンタースカウターが表示するデータを見ながら位置を修正し、引き金を引く。

 

 下の銃口から、青白い光が放たれる――。

 

 

 

「もう、鬱陶しいわね」

 

 三つ首の大きな蚊にスーパー殺虫ガンのガスを浴びせながら、エティアは思わず悪態をつく。

 

 倒しても倒しても寄ってくるモスギドラの群れに、いい加減嫌気がさすというものだ。

 

 レイナから貰った中に入っていたガスの効果は絶大で、周りに噴射することでモスギドラの群れは近付くことも出来ず、やがて力尽きて落ちていく。

 

 後は数さえ減ればと考えていた時だった。

 

 頭を締め付けるような音が聞こえてくる

 

「な、なんですの? この音は?」

 

 片耳を塞ぎ、辺りを見渡したエティアはすぐにそれを発見することが出来た。

 

 大きく、目立つ体は黄金に輝くモスギドラ。

 

 木々に隠れるように飛びながら、三つの首から超音波を発している。

 

 モスギドラの上位種であり、キングの名を冠していた。

 

 隠れながら飛ぶことでガスを遮り、超音波でエティアが力尽きるのを待つつもりらしい。

 

「この!」

 

 残っていた通常のモスギドラへまとめてガスを浴びせて落とし、片手で腰の後ろからレーザーライフルを抜つと、王目掛けて放つ。

 

 白い光線はキングの首の一本をかすめて、その向こうにある木の一本に穴を穿った。

 

「外した!? けど、次は当てる!」

 

 キングモスギドラの超音波に眉をしかめながらも、狙いを定めていたエティアの前に上から何かが落ちてくる。

 

「なに? ……ヒッ!?」

 

 それを見たとき、エティアの口から小さな悲鳴が飛び出す。

 

 落ちてきたのは、血の色をしたヒルであった。

 

 多足類が平気なエティアは、蛇などの無足の類いも一部を除いて平気である。

 

 余りにもグロテスクなのはやはり苦手だが……。

 

 その彼女の苦手な一部というのが、ヒル系である。アメーバなんかは平気であるのに、ヒルだけはどうしてもダメであった。

 

 思わず青い顔で後退りする彼女に、ブラッドヒルは構わず近寄ってくる。

 

 その間もずっとキングからの超音波は続いており、エティアの体力をすり減らしていく。

 

 木々の隙間を縫うように飛んできた青白いレーザーが、王の首の一つを貫いたのはこの時だった。

 

 距離としては四十メートルほどだが、乱立する木の隙間を通して動く相手の頭を射抜くのは、ウィン達には出来ない技術である。

 

 それにハッとしたエティアは、ジャンプして飛びかかってきたヒルを咄嗟にレーザーライフルの銃身で打ち返す。

 

 それが視界から消えたことで意識を取り戻した彼女は、痛みに騒ぐ王に向けてレーザーライフルを連射する。

 

 駆け付けたシーザーがヒルをポチファイアで焼き払った頃には、王も動かなくなっていた。

 

「いつか、アレも乗り越えてみせますわ……」

 

 仲間達に感謝を伝えながら、エティアは固くそう決心する。

 

 

 

「キリがねぇな。ヌッカさんがまだ早いって言ったのも、分かる気がする」

 

 地中から顔を出したレーザーミミズの攻撃を避け切れず、左肩から血を流しながらナヴィが一人ごちる。

 

 ちょっとした小広間的な空間である拓けた場所で、バックパックに手を回し漁り始めた。

 

 取り出した回復ドリンクの蓋を口で開け、そのまま中身を一気に飲み干す。

 

 彼の横で、寄ってきたモスギドラを素手で殴り飛ばしながら――相手に目立った武器さえなければ、素手による格闘戦を行う――アクアが口を開く。

 

「情報よりも、敵の種類や数が多い気がする。一度戻る?」

 

「戻ろうにも、こうエンカウントが続くと……方向も分かりにくいわね」

 

 スーパー殺虫ガンとレーザーライフルを使い分けながら、エティアが二人の所にやってくる。

 

 既に、グロアプの森に入ってから二時間は経過していた。

 

 もう昼に近い。

 

「方向はウィンがなんとか出来るから」

 

「だ~いじょ~ぶ、まーかせて! 上から見ればすぐだし!」

 

 火炎放射に飽きたらしいウィンは、右手にサンダーソードを持ち、腰に戦利品らしき鎌みたいな赤い鉄剣を下げていた。

 

「そうですわね……それなら――」

 

「ウォン!」

 

 エティアが言うのを遮って、シーザーが一行に注意を促す。

 

 四人が武器を構えてそちらを見れば、フラフラした動きでこちらに寄ってくる人影が三つ見えた。

 

「なんだ? ここで迷った人間?」

 

 木々の影でハッキリとしないが、身長も体型もまさに人間そのもの。

 

「間違ってはない」

 

 後ろ腰から取り出したバズーカに弾を込めながら、アクアが話す。

 

 

「元だけど」

 

「う゛ぁーーー」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

「――――っ!?」

 

 現れたのは、息絶えた人間――動く死体こと、ゾンビ。

 

 親子だろうか? 身体は腐り衣服もボロボロだが、それは成人した男女と小さな女の子だった。

 

 死後、長い時間が経過しているようで、探している人物ではない。

 

 しかし、それを見たナヴィとエティアは知らず息を呑む。

 

 もちろん、二人も話に聞いたことはある。倒さないといけないモンスターの一種であることも、頭では理解していた。

 

 しかし、実際にそれを見た身体は動かない。

 

 動けと脳が指示を出しても、身体がそれを拒否してしまう。

 

「初めて見たら、大抵の人は躊躇する。二人のその反応は、ある意味間違ってない」

 

「でも、“モンスターハンター”なら、彼らも倒してあげないとね。彼らを楽にしてあげるのも、大事な仕事だから」

 

 淡々と話すアクアと、いつもとは違って静かに真面目な口調で話すウィン。

 

 そう語る二人は、何かを押し殺すような表情をしていた。

 

 でも……と、火炎放射器を構えたウィンが続ける。

 

「ボク達……ボクはアンドロイドだから人間の心は正確には分からないけど、もし大事な人がそうなっていたら、その時に同じことは出来ないかもしれない」

 

 ウィンが話し終えると同時に、二人と一匹はトリガーを引く。

 

 ウィンの言葉の真意が分かるのは、この場ではアクアだけ。

 

 しかし、その彼女もそれについて答えることは出来なかった。

 

 森からゾンビ達が完全に出たところで、二種の火炎放射と赤い弾丸によって、一気に燃え上がる。

 

「……俺、強くなる。この世界の現実を見て、受け入れて、その上でその先を目指す。みんなが安心して暮らせる世界の、足場が出来るように」

 

「お父様達は、そんな世界を目指していたのですものね。私も、もっと頑張りますわ」

 

 天に還るように立ち上る煙を見ながら、ナヴィとエティアは改めてその想いを強くしたのだった。

 

「ん……? ねえ、向こうの方にに見えるアレ、なんだろ?」

 

 森の一角――周囲全て森だが――を指して、ウィンが仲間を呼ぶ。

 

 全員でそちら、彼女の指差す方に従って視線を向けると、遠くない場所で複雑に木が絡みあっているのが見えた。

 

「おおよその位置的に、たぶん廃棄されたという森林管理局の建物。それに、木が巻き付いたんだと思う」

 

 アクアはハンタースカウターの機能を使って拡大しながら、そこに地図を照らし合わせる。

 

 地図と言っても現在では誰も作成していないため、これもかなり古いものであるのだが。

 

 この地図が出来た頃には既にその建物(予想)はあったようで、今一行がいる場所(だいたい)とも合致する。

 

「戻るよりは、行ってみないか? 手がかりがあるかもしれないし」

 

 ナヴィの案に、エティアは口元に手を当てて考え、すぐに決断を下す。

 

「そうね、行きましょ。薬や装備、体力と時間もまだまだ余裕がありますしね」

 

「おう!」

 

「了解」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「ウォン!」

 

 エティアの指示に、全員が賛意を示した。

 

 その時、森から何かが飛び出してきた。

 

 ウィンとアクア、シーザーはすぐにそれに反応し、そちらに武器を構える。

 

 しかし、追加とばかりに周りの木の上からも飛び下りて来られると、ほんの少しばかり後退した。

 

 もちろん怖いというわけではなく、警戒として。

 

 それはドラム缶を背負ったサルの群れ。群れといっても、その数は数十匹単位である。

 

「キキッ!!」

 

「ウッホ、ウホ!」

 

「ウキッキッキ!」

 

 何やら全員が興奮しているらしく、異様な雰囲気で騒いでいた。

 

 チラチラと、先程ゾンビが倒れた辺りを見ている。

 

「な、なんなんだ? なんか、ヤバそうじゃね?」

 

「え、ええ。幸い、建物の方は手薄みたいでしてよ。あちらに向かって走りましょ」

 

 コソコソと話す。

 

 ナヴィ達を守るように立つ二人が小さく頷き、シーザーは尻尾を一振り。

 

 そして走り出す直前に、

 

「思い出した」

 

 ポツリとアクアが言う。

 

「あれは火遊びザルで、困った習性がある」

 

「困った習性?」

 

「火を見ると興奮する」

 

 その言葉を合図に、火遊びザル達は一斉にドラム缶から伸びたノズルを向けると、

 

『キャッキャーッ! オブツ、ショドクーー!』

 

 一斉に炎を噴射する。

 

 押し寄せる炎の壁から逃げながら、ウィンが手を叩く。

 

「それだーー!!」

 

「何を喜んでるんだ、お前はー!? 逃げろー!」

 

 全力疾走で、建物目指して走っていく。

 

 木を避け、立ち塞がるモンスターを倒し、踏み越えながら。

 

 ピョンピョンと真横を跳びながら随行する、見慣れたホッパー戦車を横目に。

 

「……って、ガイアウォーカー!? どうしてここにって……エティア、乗れ!」

 

 考えることをやめ、ナヴィはヒラリとそれに跨がると、エティアに手を伸ばした。

 

 小さいとは言っても、二人が乗るくらいは出来る。

 

 乗るだけだが。

 

 エティアはナヴィの手を借りてガイアウォーカに横座りすると、彼の腰に両手を回す。

 

「ウォン」

 

 アクアに向かって、シーザーが一声。

 

 武器を背負い直し、メイド服の少女はシーザーに飛び乗る。

 

「よぅい、ドン!」

 

 ウィンの合図で、三者はさらに加速する。

 

「シーザー、反則だー!?」

 

「ウオオオオーン!!」

 

 ポチバリアを使い、最短距離で薙ぎ倒しながら進んでいくシーザーに、ウィンはすかさず抗議する。

 

 その抗議に勝ち誇るかのように一鳴きし、シーザーはさらに加速していく。

 

「そっちがその気なら!」

 

 負けじと、ウィンは地上から枝へ、そこから障害物の無い木の上へと。

 

「あいつら、いったい何やってるんだ?」

 

「私に聴かれても知らなくてよ」

 

 シーザーの薙ぎ拓いた道を、ガイアウォーカーも突き進んでいく。

 

 

 

 

 その建物は、森に飲まれるようにしてあった。

 

 最後に二人を乗せたガイアウォーカーが辿り着いた時、

 

「くぅ……! よく考えたら、アクアのガイドで真っ直ぐ行く方が早いじゃないか……」

 

「ウォンウォン」

 

 

 大地に手をついてガックリと項垂れているウィンの肩を、シーザーが慰めるように前足で叩いている。

 

 そんなやりとりをしている一人と一匹の向こう側、根に埋もれるような金属ドアをアクアが丹念に調べていた。

 

「アクア、どう?」

 

「不思議」

 

 訊ねたエティアに、アクアが作業しながら答える。

 

「電子ロックされてる」

 

「電子ロックって、まだ生きてる施設なの?」

 

「非常電源と思うけど、まだ動いてるのは確か」

 

 そう言いながら、アクアは一度ドアから離れる。

 

「じゃ、そこは無理か。他に、どこか入れそうな所を探そうぜ」

 

 シーザーやウィンがいるから大丈夫と思いつつも、念のために周囲を警戒していたナヴィ。

 

 外周沿いに歩こうとした彼を、起き上がったウィンが手の動きだけでそれを止め、例のドアを指す。

 

「でも、電子ロックなら」

 

 無理だろ? という彼の言葉は、

 

「GW-X03 SYSTEM-AQUARIUS startup」

 

 という、アクアの言葉に遮られる。

 

「The virus of system glitches is passed at a target.

The system of a target is suspended.

Hacking is devised at a target」

 

 アクアが再び手を振れると、軋みながらドアが開いた。

 

「わたしが開けられる」

 

 エティアを連れたウィンが中に入り、それに続こうとしたアクアだったが、離れた場所で一人唖然としている兄貴分に気付く。

 

 ため息をつき、その横まで歩いた彼女は、

 

「初めてオフィスに行った時に言ったはず。わたしの得意は――」

 

 小さく微笑む。

 

「機械を壊すことだって」

 

「こういう意味かーっ!?」

 

 少年の絶叫が、むなしく木霊していった。

 




 
 
 
※ この森には様々なバイオ系モンスターが生息しておりますが、今回描写を控えたモノがあります。

モンスターを倒した後に現れるアリと言えば、メタルマックスシリーズをプレイされた方には分かると思いますが……

未プレイもしくは心当たりが無い方は、“森のお掃除屋”さんという綺麗なイメージ“だけ”をお持ち下さい!


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