メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その19 目覚めの刻 前編

 

 

  【森林管理局跡:地下?階】

 

 

 

 ナヴィ達が出てきた部屋と戦車を置いてあるという保管庫とを繋いでいるホールはかなり広く、ちょっとした村をそのまま収容出来るほどのスペースがあった。

 

 広々としたここの壁際には、当時は整理して置かれていたであろう資材が、今では残骸の山となって転がっている。

 

 あの男の話によれば、このフロアからは他にも搬出口――おそらく完成した戦車を外に出すための――とも繋がっているらしい。

 

 人員が居ないことによる定期的なメンテナンスがされていなかったせいか、それとも侵入者に破壊されたのか? 明かりを提供してくれるはずの機器は、そのほとんどが役目を終えてしまっていた。

 

「これはダメだな……」

 

 辿り着いた部屋。“保管庫”と書かれたネームプレートがかかった扉を調べていたナヴィが、ため息と共に手を止める。

 

 仲間達に別行動を提案して承諾された少年の護衛にと、ついてきたホワイトシェパードも話を聞いて心なしか残念そうに耳を伏せた。

 

「イカれた電子ロックの鉄扉。ヘタに壊すわけにもいかないし」

 

 乗ってきたガイアウォーカーや、自分よりも戦闘能力が上のシーザーの方をチラリと見るが、それで万が一にも中で問題が発生したら目も当てられない。破壊という案はひとまず置くことにする。

 

 何よりも、仲間達からの一言二言以上の罵詈雑言を受けるのは、彼としては絶対に避けたいところだ。

 

「……よし、戻ろう。アクアならこれも何とか出来るかもしれないし。それに大丈夫と思っても、やっぱりアッチも心配だしな?」

 

「ウォン!」

 

 自分の意見に同意するように鳴いたシーザーの頭を撫で、少年はすぐさま撤収に入る。

 

 ガイアウォーカーに飛び乗る少年と、その先導をするべく動こうとしたシーザー。だが、経験豊富なシェパードが不意に鼻を鳴らし始め、同時に辺りを見渡し始めた。

 

 その様子を、ナヴィは何も言わずに見守る。

 

 ガイアウォーカーの主砲である一発砲は、既に上でシンデレラウォールを破壊するのに使ってしまっていた。サブ兵装のホッパーガンと、手を後ろ腰に差しているリモコンスパナに伸ばす。SMGじゃないのは、単なる愛着の差だ。

 

 そうして(しき)りに鼻を鳴らしていたシーザーだが、彼にとって満足のいく結果は得られなかったようだ。

 

「ウォン」

 

 首を傾げるような動作の後に、ナヴィの方に向いた彼は『行こう』と促すように鳴く。

 

「ああ」

 

 ナヴィも頷くと、先に進むシーザーの後をガイアウォーカーに追わせ始める。

 

 一人と一匹が居なくなって……しばらく。

 

 モゾリと、天井で何かが動く音がした。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 攻撃による衝撃で魔物が大きく体勢を崩し、こちらに背中を向けたのがハンターゴーグル越しに見える。

 

「そこっ!」

 

 エティアが右手に持つレーザーライフルから、一条の極細な白い光が暗闇を切り裂いて放たれた。

 

 白光は狙い過たず、七メートル程の巨大なムカデ型モンスター(ムカデロン)(ふし)と節の間、テラテラと黒光りする装甲の継ぎ目に小さな穴を穿つ。

 

「ギチギチギチッ!」

 

「装甲が、いくら見た目通りの硬さであっても!」

 

「――うん」

 

 続けて飛来した青白く輝く光の束が、先に穿たれた穴へ正確に突き刺さる。

 

「ギイッ!?」

 

 傷口を抉るようなその一撃に、ムカデロンが呻き声を上げ長大な体をよじらせる。

 

「全く攻撃が効かないわけじゃない」

 

 ツーヘッドライフルの青白い残滓が煌めく銃口を敵に向けたまま、スコープから右眼を離さずにアクアが言う。左眼に装着したハンタースカウターのモニターには、今の攻撃で悶える魔物の姿が映っていた。

 

「そうですわね。……それで、どう? アクア」

 

“キュィィイイッ”と、アクアの構えたライフルの縦に二つ並ぶ内の下側の銃口が、闇の中で青白く光り輝いていく。

 

「あとちょっと、もう一押しってところ。……エティア。同じ場所が見えている内に、もう一回狙える?」

 

「もちろん!」

 

「いい返事。そろそろ免許皆伝かな? ……ウィン、援護お願い」

 

 そして再び、師弟の放つ二色の輝きが魔物に向かって迸る。

 

 ムカデロン。

 

 旧賞金首認定モンスターだ。サイゴンと同じく以前は少なかった魔物の一種であり、現在ではその数が増大――ハンターオフィスの賞金首(第一級危険)モンスターから外されてしまっていた。

 

 だがらといって、それで相手の強さが劣えたわけでもない。むしろ数が増した分、脅威は以前より上がっているのだ。よって、賞金首に次ぐ第二級危険モンスターとされている。

 

 何よりも、ムカデロンについてはその強さもさることながら、厄介なのはその生息域だろう。明かりの無い自然洞窟のような場所を好んで住み着くため、退治に出向いたモンスターハンター達の大半が戦車を降りての戦闘を余儀なくされてしまうのだ。

 

 これがソルジャーやレスラーといった、己の肉体を武器に戦う職の者であればまだしも、戦車ありきのハンターには(いささ)か荷が重い。

 

 洞窟だけでなく、地中に埋没してしまった人工物の中にいた例もある。不意に出くわして、命を落としてしまうモンスターハンターも少なくない。

 

 今でこそハンターゴーグルやスカウターなど、暗視や赤外線スコープなどといった様々な機能が付いた道具が発明されたのも、過去にそういった犠牲があってのものだ。

 

 だが、敵もさるもの。

 

 ムカデらしい意外に俊敏な動きで、頭部の一対二本の触角型センサーを働かせたムカデロンがレーザーを装甲で受け、続くビームに僅かな焦げ目を作る。そして敵意を剥き出しにし、二人の方へと振り向く。

 

 ただのムカデだった頃には意外と軟らかかった外殻も、ムカデロンのそれは見た目通りに重戦車にも劣らぬ強度となっている。

 

 さらに――

 

「ギギッ!!」

 

 鋭い牙がいくつも並ぶムカデロンの口。人間の胴体程度なら一撃で寸断してしまえる大顎と、猛毒を備える顎肢が左右に開き、口内からシャープな造りの大筒が姿を現す。

 

 二人に向けたそれが直撃すれば、特にエティアはタダではすまない。

 

「いただきっ!」

 

 ケブラーチャイナの裾をひるがえし、囮に牽制にところ狭しと駆けずり回っていた空の少女が、声高らかに二人とムカデロンの間へ飛び込んで来た。スリットの隙間から覗く白く健康的な脚が、闇の中に映える。

 

 足を止めると同時、ウィンはアクアから借りたバズーカを片手で豪快にぶっ放す。

 

 弾は一直線に――ムカデロンの口を目指して飛び、

 

「爆発!」

 

 そしてソレは、大筒の中に装填されていたであろう砲弾に命中。内部から爆音を轟かすムカデロンの口から、黒い煙が上がっている。

 

 しかし、まだ死んではいない。それを見たウィンも呆れ顔だ。

 

「あわよくばキルマークって思ったんだけど、アレを受けてまだ死なないんだ。タフだなぁ」

 

「虫がタフなのは昔かららしいぞ」

 

「ウォン」

 

 そこへ、ムカデロンを警戒しながらナヴィとシーザーも到着する。

 

「ナヴィ、シーザー、おかえり~」

 

 そんな一人と一匹を、ヒラヒラ手を振りながらウィンが迎えた。

 

「んで、今のはアクア特製のやつだろ?」

 

「そそ。徹甲弾とホローチャージ、セメント弾を3:5:2で配合したやつ」

 

「何気にエグいな、ソレ」

 

 次弾を装填しながら説明するウィンに、思ったのと違う配合内容を聞いたナヴィが素直な感想を述べる。

 

「ま、あの子の性格が性格だし。それに、アレはまだマシな方だよ」

 

「お前、後で撃たれても知らんぞ……じゃ、じゃあ、次のソレは?」

 

「爆裂、ソニック、ナパーム。確か、2:4:4だったかな? 別名――」

 

 もがくムカデロンよりも早く、次の攻撃を行うウィン。その表情はいつものおちゃらけたものではなく、真剣なモノだった。

 

 狙った先は……頭部。

 

「センサー殺し!」

 

 暴れるムカデロンの頭部の動きを読んで当てるという腕前に、普段は不真面目な彼女もやはりベテランなのだと認識させるのに十分なものだ。

 

 命中した砲弾は音と、辺りに炎を撒き散らす。発生した音と熱に、レーダー兼センサーを狂わされたムカデロンの動きが一瞬止まった。

 

 ――狙撃主達に、背中を向けて。

 

 彼女達がその隙を見逃すはずもなく、トドメを刺すべくレーザーとビームが飛んだ。

 

 先と同じ場所に再び穿たれるレーザーによる穴へ、ビームも全く同じ軌道を描く。

 

 そして今度こそ、ムカデロンの間接各部に内蔵された兵装群へと到達。

 

 胴体の中央部付近で起きた一つの爆発は、瞬く間に両隣へ……連鎖的に全身へと拡がっていった。

 

 幼き頃に見た花火のような光景は徐々に収束に向かっていく。

 

 バラバラになった黒焦げの残骸が飛び散っていっても、仲間のとある一言を待つナヴィやエティア達は警戒を解かない。

 

 その終了宣言、

 

目標(ターゲット)の撃破を確認」

 

「やったー!!」

 

「ウオーーーン!」

 

 ライフルを下ろし、スカウターで確認していたアクアからのソレに、仲間達は一斉に歓声を上げた。

 

「……で、戦車(マイス)は? ナヴィ」

 

 エティアとハイタッチを交わすナヴィに、好奇心でキョロキョロと辺りを見渡すウィンを引きずったアクアが訊ねる。

 

「あ~、その件なんだけどさ……――」

 

 

 

 

「――……と、こういう感じでさ」

 

「なるほど」

 

 ナヴィは自分が見たものを説明しながら、仲間達と共に例の扉の前まで戻ってきていた。

 

 説明の内容と目の前の扉に頷き、ナヴィと並んでアクアも調べ始める。

 

「開かないなら力ずくでやっちゃうとか!」

 

 ナヴィが思っても実行しなかった案をウィンが提案するも、それはすぐさまアクアとエティアにより却下された。

 

「それは最後の手段。もしそれで戦車が壊れでもしたら、パーティーにとっても大きな損失。それに、個人的にも神話コーポレーション製の戦車は気になる」

 

「私達に託してくれたあの人や、仲間の皆さんにも申し訳ないでしょ?」

 

 ――やっぱりな。

 

 言わなくて良かった、と一人コッソリ胸を撫で下ろすナヴィであった。

 

「どうだ?」

 

 とりあえずその件を横にどかして訊ねたナヴィに、返ってきたのは常に赤字な家計のやりくり以外では珍しいアクアの難しい表情。

 

「ん……完全には壊れてないみたい。僅かにだけど、まだ回路は活きてる」

 

「おおっ」

 

 その答えにナヴィは沸くも、妹の顔から他にナニかあるんだなと悟る。

 

「ただ、ちょっと回線が切断されてたりして、侵入にはちょっと手間取りそう」

 

「時間はかかるけど今から試す?」と、アクアはパーティリーダーのエティアに聞く。

 

 外ではもう、陽が沈みかけている時刻だ。

 

 街へと戻るには遅く、今日はここに泊まることになるだろう。

 

 つまり今の問いには、このままここで作業を続けるか、それとも休むために安全な場所を確保しにいくかという二つの意味が込められている。

 

 安全な場所としてはあの男がいた部屋がまず候補になるが、中の点検はまだ十分に行えていないためだ。

 

 聞かれ、エティアは形の良い自らの顎に指を添えて考える。

 

「そうですわね。とりあえず、目下の脅威は排除出来たわけだから、ココと部屋と二手に――」

 

――分かれましょう? という言葉をエティアが口にする前に。

 

「ギュギギリギィ!」

 

「危ない! えてぃ!」

 

 甲高い奇声声と共に、天井からパーティに何かが襲いかかってきた。

 

「えっ!? キャアアッ!?」

 

 天井からの、完全に不意打ちとなった一撃。咄嗟の超反応により庇うのが間に合ったウィンに抱き抱えられたエティアの口から、悲鳴が溢れる。

 

 ノソリと、黒い巨体がコチラを見下ろす。

 

「コイツ!」

 

 現れた異形のソレに、ナヴィがリモコンスパナを投げつける。

 

 クルクル弧を描いて飛んだスパナは、しかし“カアン”と相手の体に弾かれてしまう。

 

「ウオォォーン!」

 

 加速をつけたシーザーによる、ポチバリアによる突進。だが、それすらも相手の装甲のような身体に止められてしまった。

 

“シャアアアッ!”という怪音を伴って、足を止めたシーザーを相手の胴からから伸びた二つの何かが襲う。

 

「シーザー、離れて!」

 

 攻撃をなんとか避け、シーザーは相手から距離を取ることに成功する。

 

 アクアもツーヘッドライフルによる実弾での射撃を行うが、相手の装甲に“カイーン”と音を立ててあらぬ方向に逸れていってしまった。

 

「な、なんなんだ、コイツは!?」

 

 暗視機能によりようやく見えてきた相手の姿。

 

 横に長い胴体は二十メートルほど。小丘状にコンモリと盛り上がっているそこを、継ぎ目の無い黒々とした光沢を放つ装甲が覆っている。

 

 大きさはまだいい。何よりもコイツを異形足らしめているのは、その前部分。ムカデロンの前身が二つ生えているのだ。

 

「データ照合……一件。ムカデロンの変異体、賞金首デュアルヘッドセンチビート! 賞金は四万二千七百G」

 

「賞金首かよ……!?」

 

 苦虫を噛み潰したように言うアクアの様子に、目の前の相手は余程不味いのだということが初見のナヴィにも分かった。

 

 もっとも、それはコチラの攻撃が効かなかった時にも既に感じていたことではあるが、こうしてハッキリ態度に出る方がより強く実感するというものだ。

 

「ちょっと、マズいかな」

 

 ウィンの声にも、いつもの陽気さはない。

 

 それどころか……

 

「ウィン!? あなた、その腕っ!」

 

 悲鳴のようなエティアの声に、ナヴィ達がそちらへ視線を向ければ右腕だけでエティアを抱き抱えるウィンの姿が。

 

 彼女の左腕は二の腕辺りから切断されていた。

 

「コレって、かなりマズそうだな」

 

 相手に向き直りながら妹の言葉を悪い方に修正したナヴィの頬を、一筋の滴が滑り落ちていった。

 

   ――続く――

 

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