マイス開発チームにマトモな人はいない(意味深
【森林管理局跡:地下?階】
長年に渡って閉ざされていた格納庫。床一面にうず高く積もった埃が、ここへどれだけ誰も足を踏み入れていないかを示していた。
だが――――
とある存在が、長き時を経てここに来た者達の目を釘付けにしている。
それは暗闇の中、頭上からまるでスポットライトのような三条の光によって照らし出された、一台の戦車だ。その光景はさながら物語の主人公のようで、思わず息を飲んでしまうような存在感を放っていた。
バギーや装甲車といった類いのシャシーではない。ジャーマングレーに塗られた車体は従来型の形を保ちながら、それでいてどこか逸脱したデザインも感じさせる。
こだわりとそこへ注がれた熱意は、端から見ているだけでも肌に伝わってくるものがあった。
携わったスタッフ達による妥協を許さない、丹誠込めた丁寧な仕事振りが目に浮かぶようで、これそのものが一つの芸術作品のようだ。
まさに、戦う芸術品とも言える。
それが『マイス』。
“究極”を目指した者達によって作られた、ただ一台の戦車。
「スゲェ……」
月並みだろうが、ナヴィの口から出たのはその一言だった。
「戦車に使うには不適切な気がしますが、綺麗……ですわ」
「あの主砲……ロングTタイプに似ているけど、既存品ではない。オリジナルの専用固定装備?」
ナヴィの横でエティアも感嘆の声を上げ、重厚な青い鎧を纏ったままのアクアはマイスの装備に目を走らせる。
――セキュリティレベル……∞。
――スキャン不可。
――データ不足。
得られた結果に、アクアの普段は眠そうな青い目が驚きで大きく見開かれた。
(わたしと――
考え、少女は嘆息する。
当時の彼女は、自分と同じレベルの機密を調べる権限を有していなかった。つまり、軍が崩壊してしまっている今では書き換えも出来ないためにそのままだ。
もともと、アクアの本領は対ノアを前提とした情報戦である。そんな彼女は本気でやれば軍のトップシークレットにも触れられたため、自らの権限を向上させる必要性を感じなかったのだ。
そのことを、今にして悔やむことになるとは。
せめて本来の能力が発揮出来れば……自分が所属していた母艦のエアさえ無事であれば、システム端末と接続して解析出来たのに。
気にはなるが、分からないものは仕方ない。
そう結論を出した海の少女は見分を止め、視線を外すと相変わらずボーッと立ったままの兄達を促した。
「ナヴィ、エティア。早く中へ」
「そ、そうだった! 行こうぜ、エティア」
「そうね……ウィンのためにも急がないと!」
少年少女が慌てて駆け出していく。
部屋の外ではウィンとシーザーが、ムカデロンの上半身を二つ生やした大型モンスターデュアルヘッドセンチビートを引き付けてくれている。
戦闘力はパーティ内で一番の彼女だ。信頼しているし大丈夫だとは思うが、それとこれはまた別問題。途中で思わぬ事故が起きないとも限らないからだ。早く合流するに越したことはない。
埃舞う部屋を横切り、辿り着いた車体の側面から上部にあるハッチを目指す。
二人を目で追っていたアクアが、つと入り口を振り返った。
ムカデロンの変種も、長年の相棒である“姉”も、賢いホワイトシェパードもやってくる気配は無い。
誰も来ないことを確認すると、重そうな外装の見た目に反した軽快な動きで先に行った二人を追う。
シュタッ、シュタッとまるで木を伝って移動する忍者のように跳びながら、僅か数回のジャンプで戦車の上――ハッチを開けようとする二人の所へと。
「おおぅっ!? 勝手に開いた」
出入り口は二層式のようだ。まずは外蓋が持ち上がり、内側には左右開閉式のシャッターがあった。
触れるよりも先に開いたハッチに驚きつつも、少年はどれどれと中を覗き――
「ドカーン」
「うわぁ……って、耳許で抑揚なく、しかも無表情に言うなよ!」
「一度言ってみたかったけど状況が状況だからどうしようか迷った結果」
「いや、言わなくていいから……ったく。ん、中はかなり狭いな」
「機密保持のためにトラップが仕掛けられてる可能性は考慮すべき……確かに」
「あなた達はもっと緊張感を……ホント。私のティーガーよりも大きいのに」
ナヴィの言葉に、横から覗き込んだ二人も口々に同意を示す。
車体自体はエティアの言う通り彼女の愛車であるティーガーよりも大きいのだが、中はかなり狭い。座席も一人分しか無いようだ。
『その☆通り! 何を隠そうこのマイスにはワンマンオペレーションシステムを採用してる☆ヨ』
「あの喋りウゼェ。ワンマンオペ……って何だ、アクア?」
音声の喋りにイラッとしながらも、その中で聞き慣れない単語に首を捻る。
「簡単に言えば――乗員は一人で良い」
「簡単過ぎるだろ……。つまり、良いCユニットを積んでるってことか」
「……………………」
指揮をする車長を初めとした砲手や通信手、操縦手や砲に弾を込める装填手など、とかく戦車は複数人が乗ることを前提として設計されていた。
それを解決したのがコントロールユニットと呼ばれる電子制御装置であり、戦車を駆ってモンスターを狩るハンターにとって、単独での操作を可能とする無くてはならないものだ。
ちなみに、幾つかといってもそれは一店舗で取り扱われる数であり、Cユニット全体で見ればそれなりに種類は豊富である。
それぞれにクセがあって操作性も異なり、特別な動作を可能とするプログラムや補助機能を搭載した物もあることから、どれを選ぶか頭を悩ますハンター諸氏も多い。
「ヨッ、と……」
ナヴィが暗い車内へ身を躍らせる。
エティアも中を見ようと身を乗り出し、そこで彼女の様子に気づいた。
「どうかしまして? アクア、難しい顔をしてるわ」
彼女の問いかけに、姉とも師とも慕う少女は憂いを帯びた表情でゆっくり頭を振る。
「……なんでもない」
「そう……なにかあれば言ってね? 私ではあなたが気にするようなことの力にはなれないでしょうけど」
「ううん……そんなことはない。ありがとう、エティア。たぶん、わたしが気にし過ぎてるだけだから」
心配させてしまったことを申し訳なく思い、アクアは愛弟子に向けて小さく笑みを浮かべた。
その様子にエティアも安心したようだが、同時に彼女が言ったことに疑問を覚える。
「気にし過ぎてる? それは――あっ!?」
「ハッチが――ナヴィ」
内側のシャッという鋭い音に続けて、二人が反応するよりも早く下ろされる外蓋。
開いた時と同様、ハッチは二人が見ている前で自動的に閉ざされた。
「ナヴィ! 大丈夫!? アクア、こじ開けて!」
「………………ん」
エティアが持ち上げようとするのだが、ロックでもかかったかのようにビクともしない。
叩いても空しく音がするばかりとあって、エティアは最後の手段とばかりにアクアを見る。
だが肝心の相手は車体に視線を落としたまま、顎に手を当てて何やら物思いに耽っていた。
「アクア……?」
「……エティア。iゴーグルは?」
閉じ込められた少年を思い、焦りを覚えつつも小さく自分の名を呼ぶエティアに、アクアは視線を上げないまま静かに尋ねる。
「え?」
「わたしのハンタースカウターは部屋の外。置いてきたまま」
自分の言った意味が分からず呆けた声を上げる愛弟子に、師は自分の左耳を指で示した。
現在のアクアは重装姿であり、頭部にはヘルメットタイプの防具を身に付けている。そのため、いつもなら左耳に付けている筈のデータ集積分析装置も外しており、そこに無い。
他の部分と同じ青色を基調としたヘルムに覆われた耳を示され、エティアは自分が思った以上に慌てていたことを知る。
“指示者はいかなる時も慌てず、困難な時にこそ冷静であれ”
過去に目の前の少女から教わったことを口の中で反芻しながら、自らのハンター御用達である多機能ゴーグルに手を伸ばし、備えられたソレを作動させる。
「ナヴィ? ナヴィ、聞こえて?」
パーティー全体用ではなく、ナヴィ個人への呼び掛け。それは中の様子が分からない今、状況がはっきりするまでは囮役のウィンの気が散らないようにしようと、エティアなりに考えた結果だ。
しかし。
『んん? どうかしたの、エティアちゃん?』
「え、レイナさん?」
席を外していた冷静さんは、どうやらまだお戻りでなかったらしい。
慌ててゴーグルの隅に表示されている名前を確認すれば、そこには“レイナ”の文字。
彼女のは登録番号の呼び出し形式で、ナヴィの横が彼女になっている。どうやら一個余分に動かしてしまったらしい。
『なにか困りごと? デカ物? 吹っ飛ばす?』
「い、いえ……ごめんなさい、操作ミスですわ」
畳み掛けるように物騒なことを口にする相手に少し腰が引けた。
彼女が居れば部屋の外で暴れているのも簡単だろうが、建物ごと倒して高笑いを上げる姿を幻視して思わず頭を下げる。
『そっかぁ。……あっ! ちょっと、はんた君にローズさん! そのデカいのはあたしの獲物だってば! 野獣とパンダもあっち――こら、変身するな! ……じゃあ、今度ゆっくりお喋りしようね? 急いては事を仕損じる、よ』
今はレイナの方も取り込み中だったらしく、途中から早口で捲し立てるように喋ると通信は切れた。
相変わらず嵐のような人だと、エティアはこめかみを揉みほぐしながら再認識する。
それと。
「……………………」
先程から自分に向けられている、無言な口よりも雄弁に語っていそうな視線には気付かないことにして、今度こそ落ち着いて目的の番号を呼び出す。
「わたしもちょっと訓練したいから、今度一緒に行こうか?」
「……お願いしますわ」
ふと思う。
自分達がいない間、ナヴィとウィンはどうするのだろうか?
街で自分達が帰ってくるのをジッと待つ?
ないわね、と即座にその考えを否定した。
ナヴィだけなら旅に出る前と同じようにそうするだろうが、ウィンがそれを拒む気がする。
むしろ嬉々として、引っ張り回しそうだ。
となると、頼みの綱はシーザー。あの賢いホワイトシェパードに、うっかり二人が暴走しないよう手綱を握ってもらうしかない。
聞かれたらアレコレ言われそうな表現だが、とても残念なことに事実だから諦めてもらう。
「ほら……気になって仕方ない。だから、あなたの修行には丁度いい」
ヒクッ、とエティアの頬がひきつる。
彼女が悪意をもって言ったのではないと、頭では分かっていた。
自分に厳しく、他人には一歩引いた立場で、家族には甘々な彼女のことだ。
リーダーたらんと努力していることも、そんな自分があり得ないミスをして落ち込んでいると思い、彼女なりに元気付けようとしてくれただけなのだろう。
理解はしている。
だが、納得出来るかは別問題だ。
「そういうアクアはどうなのかしら?」
考えを読んでいたかのようなタイミングでからかうように、かつ親しい者にしか分からない笑顔で言うアクアに、エティアも負けじと切り返す。
自分がミスをしたせいとはいえ、冗談めかしたからかいには屈したくない。
例えそれが、姉や母に対する子供染みた反発心だと理解していても。
ピククッ、と今度はアクアの顔がひきつった。
「……………………」
「……………………」
タイプの異なる二人の美少女は静かに、言葉を応酬させない代わりに視線を交わす。
ややあって視線を外したのは、小柄な少女の方だった。
「……短時間で効率の良いプランを練る」
家でもパーティーでも家事全般と出納帳を管理している青の少女は何を思い出したのか、苦虫をダース単位で噛み潰した表情でそう口にする。
「お願い――ナヴィ、聞こえて?」
番号が合っていることを何度も確認し、呼ぶ。
そのため――
『さっきからうるさいですよ。静かにしてもらえませんか?』
「「……は?」」
返ってきた年若き少女と思しき無愛想な声に、海と太陽の師弟二人は困惑して顔を見合わせる。
『さて、良いかな?』
続く声は天井から。
どこかに仕掛けがあるのだろう。頭上から流れ始めた音声には、それまでのおちゃらけた雰囲気は微塵も感じさせない。
『おっと、そこに“私”はいないよな? もし居るのなら早めにこれを止めてくれよ、遺言として真面目に喋る自分の声を聞くほど、滑稽なものはないからね』
冗談めかして言うが、男の喋りは真面目そのもの。
『そこにあるマイスのことだ。それも性能如何やといったものではなく、“あの子”についての』
「あの子……?」
「さっきの?」
それは本来なら、部屋に入ると同時に流れ始めるはずだった。だが時が経過する内に劣化し、放送はずれ込んでしまったのである。
自分が人である内に、意識がはっきりしている間にこれを遺したことを告げると、音声は静かに語り始めた。
※ ※ ※
「ヨッ、と……うわ、中は本当に狭いな。他の奴は入れそうにないぞ」
降りてきた少年の靴底から、何か柔らかいモノを踏んだ感触が伝わってきた。どうやら座席に敷かれていたクッションらしい。
明かりの無い車内を見渡せば、出入りとここに座ること以外、何も出来そうにないくらい狭い操縦席だということが分かる。
座席の正面には操縦桿やレバー、スイッチだのボタンだのといった物がたくさん散りばめられたコンソールパネル。それと、四方をモニターが取り囲む。
腰掛けたシート自体には若干の余裕があるものの、それは体型の横幅的な意味である。それにしたってほんの数センチ程度だ。
これでは他のクルマのように複数人で乗り込むことは望めない。
「アクアくらいなら、無理すれば乗れるかな? ……っと、いけね。早くコイツを動かしてウィン達を助けないと」
小柄な彼女なら何とかなるかもしれない。
つらつらと取り留めの無いことを考えていたナヴィだったが、自分が来た目的を思い出す。ペチッ、と自らの頬を叩くとコンソールを見据えた。
《――なんです? さっきから土足で上がり込んでブツブツと。独り言愛好家ですか? 自覚してないんですか? うるさいから静かにしてくれません? 出来ないなら酸素を排出して毒ガスを注入しますよ?》
ツッケンドンな少女の声で、辛辣な言葉が少年に襲いかかる。声からするとナヴィよりも幼い印象を受けた。
「だ、誰かいるのか?」
《誰かいるように見えますか? そんな役に立たない眼はくり抜いて、代わりに銀紙でも貼り付けたらどうです? それとも撃ち貫いてあげましょうか?》
「……………………」
ナヴィは無言で目元を指で揉み始めた。
少なくとも口は悪い。
いや、悪いどころではなく、悪すぎる。
エティアやアクアも機嫌が悪いと酷くなるが、ここまでではない。
彼女達は公私の線引きをきちんとするし、少なくとも――余程礼を失した行為を受けていない限り――初対面の相手にこんな態度は取らないだろう。
深く息を吐き、よし、と気持ちを切り替える。
クッションの上で胡座をかいた彼に、誰かが舌打ちした気がした。
「あー……あんた? にちょっと聞きたいことがあるんだが」
《ちょっとと言っておきながら、どうせ許可したら質問攻めするつもりなんでしょう? 見え見えです。それに初対面の相手をあんた呼ばわりですか。とても失礼ですね。礼儀作法を習ってないんですか?》
“初対面の相手に暴言吐きまくる、お前ほどじゃねぇよ!”
今にも口から飛び出しそうだった言葉をグッと飲み込み、ナヴィは自分に我慢我慢と言い聞かせる。
一つ何かを言う度に、
《“初対面の相手に暴言吐きまくる、お前ほどじゃねぇよ!”と、言いたそうな顔をしてますね。そんなに空気を排出してほしいんですか?》
「どんな顔だ!? てか、俺の声?」
思わず叫んでしまった。
心の声を正確に当てられたこともだが、その部分を彼の声と発音で言われたことにも驚く。
《この程度でいちいち驚かないで下さい。造作もないことです。それと》
「それと?」
疑問に首を傾げる少年の目の前、正面にあるコンソールパネルの一部がパカッと開いた。そこからレーザーミミズみたいなものがニョキッと顔を出したかと思うと、ソレは瞬く間にナヴィへと迫る。
突然のことで動けないナヴィの眼前、ほんの数センチという位置で止まった先端が肉食動物の顎のように開き――
《こんな顔です》
「……教えてくれてありがとよ」
展開した極小のモニターに映し出された自分の顔を見て、少年は思わず悪態を吐く。殺されると思った心臓が、バクバクと激しく鼓動している。
《どういたしまして》
皮肉も通用しない。
そのレーザーミミズみたいなソレはコードの類いらしく、今はまた元の場所に引っ込んでいた。
「なあ、何でそんなに言葉が悪いんだ?」
《女の子にずっと口汚く罵られるなんて最高じゃね? などという設計者の思想です。正直、理解出来ません。他にも、キャタピラで踏んでほしいという輩がいましたが》
「踏んだのか!?」
《まさか。そんな変なのを踏んで私が汚れたらどうしてくれるんです? 冗談ではありません》
どうやら彼女(?)の歪んだ性格は、あのゾンビ男の同僚達が原因らしい。
もし彼らが生きていれば思い切り文句を言ってるところだ。
「なあ。俺、お前に何かしたか?」
自分は彼らがしたこととは一切関係ない。それなのにそれで文句を言われるのは、ナヴィとしては納得がいかなかった。
《今度はお前ですか、馴れ馴れしいですね。それに、何かしたか? 汚い身体で上がり込んだ。ハッチの梯子を使わずに飛び降りてきた。クッションを靴で踏んだ。部屋の入り口を壊してくれたおかげで、外気の汚れが現在進行系で私の玉のようなお肌を》
「まてまてまてまて」
咳を切ったように自分が犯したらしい非を淡々と言い連ねる相手に、少年は慌てて待ったをかける。
《なんです? せっかくお望み通り教えてあげているというのに。弁解するにしても、最後まで相手の話を聞いてからするのが礼儀ですよ?》
「こんな時だけ素直に叶えるのな……いや、弁解って言えば確かにそうかもしれないけどさ。不可抗力っていうか、こっちにも色々と事情が」
事情。
そう、本当はこんなことをしている場合じゃない。
だというのに、どうして自分は彼女(?)と口論をしているのか。
何となく視線を上に向ければ、閉じた出入り口の片側に申し訳程度の梯子が付いているのが見える。
「あれだと、足を掛けるどころか指で掴めるかどうかも――」
言いかけて止めた。
違和感。
何かおかしい。
僅かな光源は天井からのモノだとばかり思っていたが、見ればうっすらと車内灯が点いている。
「いつの間に?」
《いつ……? ああ、なるほど。さっきの“初対面の相手に”と言った時です。外もうるさかったので。人間は暗視が出来ない生き物らしいですからね、サービスで点けてあげました。感謝してくれて良いんですよ?》
最初はナヴィが何を言っているのか分からなかったようだが、どうやら彼の動きから推測したらしい。無愛想な態度でぶっきらぼうに言い放つ。
このゴーグルには暗視機能があるけどな、とは彼も口にしない。またややこしくなるのは分かっていたからだ。
「いや、外の二人は俺の仲間――家族なんだよ! それに、もう一人と一匹が部屋の外でモンスターと戦っているんだ。頼む、力を貸してくれ。それに、あのモンスターをこのまま放置しとけないんだ!」
自分達にこのマイスを託して逝った、あの男とそう約束したのだから。
そろそろナヴィの我慢も限界だった。結局、このクルマは戦えるのだろうか? 戦えないのならウィンと合流して、別の作戦に移らないといけない。
《知ってますよ。さっき外の一人から通信が入ってきましたし、返事もしてあげました。すぐそこで大きな生物とドンパチしてることも。だから、何です?》
「は?」
いったい何を言っているのか? 分からずに声を上げた彼に構わず、相手はどこか冷めた態度で話は続ける。
《私が戦う必要がどこにあるのですか? 私が戦うために作られた車だからですか? 私が望んでそうなったわけじゃないのに!》
少年は言い返そうとするが、出かかったそれを飲み込んで口を噤んだ。
明らかに今までと様子がおかしい。
さっきまでのぶっきらぼうな言い方ではなく、癇癪でも起こしたかのように感情的なソレ。
しかし、ナヴィには何故か“彼女”が泣いているように思えた。
暗闇の中で一人泣いていた、そしてそれを悟られまいと精一杯にこちらを威嚇する“女の子”の姿が脳裏に浮かぶ。
そう感じてしまった彼の頭は、急速に冷えていっていた。
※ ※ ※
『――乗り手と共に成長するはずが、私達がこんなことになったせいできっと良くない影響を与えてしまっていると思う。最悪の場合は、統制管理システムを切ってやってくれ。その状態でも乗れるし、それでも並みの戦車より性能は優れているはずだ。だが、どうか頼む! 出来ることなら、あの子を救ってやってほしい』
その言葉を最後に、音声は途切れてしまった。
静けさを取り戻した部屋に、遠くから大きなモノが暴れている震動が響く。
「大丈夫」
ポツリと呟いたアクアに続き、エティアも誰かに捧げるように、聞く者を安心させるような静かな声音で言葉を紡いだ。
「乗り込んだのは、あなたが望んだ者ですわ。どこまでも真っ直ぐで、バカみたいにお人好しな」
「後先を深く考えず、誰かのために泣き、背負おうとする優しすぎる人」
少女二人はそれで十分だとばかりに頷き合い、車体から降り始めた。
※ ということで……
今回で終わりませんでした(吐血&土下座
詰め込んだら長くなりすぎたため、やむを得ず途中で切り…………。
明日十八日の十八時に投稿します。
残りは推敲作業だけですので、早くしろという声があれば帰宅して終わり次第に上げます(深夜帯ですが)