メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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※ 前話のラストからダイレクトに繋がっております。


その22 誓いの咆哮

 

 

 マイスの中で、戦わされるのを拒む“少女”の悲痛な叫びは続く。

 

《いつか迎えが来るから待つように言われて、ずっとここに閉じ込められて! 変な人しかいませんでしたが、それでも死んでいくのをただジッと見ていることしか出来なかった! どうして居なかったの……?》

 

 ――あの時に居れば戦えたのに……助けられたかもしれないのに。

 

 おそらく自覚してはいないのだろう。決壊したダムのように流れ出る感情を剥き出しにして喋る言葉の裏には、自分自身が語ったことへの矛盾とも取れる音無き声が含まれていた。

 

“――どうしてとうさんもかあさんもいないの!? いつになったらかえってくるの!? いつまでまっていればいいの……? だれか、おしえてよ”

 

 少女の叫びが幼い自分のそれと重なり、見えない衝撃となってナヴィの耳を打つ。

 

 それは幼き頃――旅に出たまま帰らぬ両親を、今日か明日かと待ち続けた自分自身の声。

 

 しかし、自分にはアクアとウィンがいた。隣家にはエティアもいたし、彼女の両親は友人の息子が道を誤らないよう、陰に陽に見守り続けてくれた恩人だ。

 

 それでも、両親には近くにいてほしかった。

 

 温もりのあるムーセムの街から旅に出て、見聞を広めていくうちに知った。死と隣り合わせなこの世界にあって、自分は随分と恵まれた環境にあったことを。

 

 エティアの父―――ウルフェアには威勢の良いことを言ったが、やはり“世界を知らない”夢見がちな子供の戯言。それは先輩ハンターとして、父親代わりを務めてくれた男にも分かっていた筈だ。

 

『仲間と一緒に世界を見てこい』という、旅に出る前に彼から贈られた言葉がその証拠。先達からの激励とも取れるこの言葉は、現実を受け入れられないなら止めておけという忠告でもあったのだ。

 

 様々なことを体験しながら学ぶ今、それでもナヴィは前に進むことを望む。

 

 傷付いたみんなが、少しでも安心して暮らせる世界の一歩になれるような。

 

 そんな夢を、今度は決して退かぬ確かな覚悟を持って見るために。

 

 そのためには強くならなければならない。いつか両親と出会った時、胸を張って“夢”を語っても許されるくらいには。

 

 目の前で傷付いている者達を、一人ずつでも助けていければと思う。

 

(まぁ、やるなら自分に出来る範囲でやれって言われるんだろうな)

 

“助けられないのに手を伸ばしても、双方が辛い思いをするだけだから”と語ったのは、意外にもウィンであった。

 

 ――だからボクは、誰よりも強くなる。

 

 子供の頃、街の防衛のために外へ出る彼女に強くなるコツを聴き、返ってきたのがソレだ。

 

 あの頃はその意味が分からず、首を捻るしかなかったが……今なら分かる。

 

 はたして、今の自分の手は届くだろうか?

 

 孤独に悲しみ、今も苦しんでいるこの子に。

 

《今頃になって来ても! あの時に、誰かがここに居てくれれば》

 

「ごめんな」

 

 そんな一言が、少年の口を突いて出た。

 

《え?》

 

「来るのが遅くなって。もっと早くに、ここへ来れたら良かったな」

 

 突然の謝罪に、相手は随分と困惑しているらしい。彼への返答に、初めて間が空いた。

 

《……どうしてあなたが謝るのですか? 理解が出来ません。あなたの年齢からすれば、どうやってもあの時間には――》

 

「まあ、それはどうやっても間に合わないな。まだ産まれてなかったかもしれないし。けどさ」

 

《そうです。だから》

 

「けどな? 早くここに来ていれば、それだけお前の寂しさを紛らせられたかもしれないだろ?」

 

《…………っ!?》

 

「俺をここに入れてくれたのは、お前自身なんだろ? どうして入れてくれたんだ?」

 

《……………………》

 

 絶句したような雰囲気を感じ取り、ナヴィは優しく笑みを浮かべる。

 

「寂しかったんだよな? 俺ではあの人達の代役は務まらないだろうし、外ではイヤな戦いもたくさんさせてしまうけど」

 

《……………………》

 

「それでも、一人で寂しい思いだけは絶対にさせないと誓う。だから、俺達と一緒にここを出ないか?」

 

 降りた静寂の幕が上がるまでに、先程よりも多くの待ち時間を必要とした。

 

《そんな歯の浮くような台詞、恥ずかしげもなくよく口に出来ますね。バカじゃないですか? バカですよね? 病院でじっっっくり診てもらった方が良いですよ?》

 

「まあ、後先を考えないバカとはたまに言われるな」

 

《そんな言葉でこの私がデレるとでも? バカにしないで下さい。私の理想は高いのです。清潔で身だしなみの整った、性別は問いませんが、美醜……は、良ければ気持ち嬉しいかもしれません》

 

「やっぱりお前もここの人達と同類だということは、よっく分かった」

 

《失礼な!》

 

「お前がな!」

 

 本気で嫌がっているその態度に、ナヴィの方も遠慮なくツッコミを入れる。

 

 彼らの死を悲しみ、さっきは寂しさで泣いていただろう、と。

 

《趣味と嗜好だけで、その人自身を断定するのは早計です。それに誰が泣いたというのですか? 勝手に変な妄想をして、頭は大丈夫ですか?》

 

「だから、考えを読むなって!」

 

《……本当にそんなことを考えていたのですか。そんなに読みやすいようでは、逆にこちらが不安になりますね。そのうち足下を掬われて、抜け出せない穴に真っ逆さまなレベルです》

 

「ぐ……」

 

 ああ言えばこう言う。泣いた子が笑うという諺があるように、気が付けば元のつっけんどんな物言いで全く口の減らない相手に、ナヴィは深く嘆息する。

 

 クスクスという小さな笑い声らしきものは、はたして幻聴だろうか?

 

「本当に口が悪いな」

 

《文句はこんな設定をした人に言って下さい。ただもう亡くなっていますから、もし逝くのなら特別にお手伝いしてあげますよ?》

 

「そんな特別はいらね。それに今は地獄も満員らしいから、遠慮しとく」

 

《そうですか……では仕方がありません。地獄にあなたの空きが出来るまで、近くで待っていてあげます。感謝しなさい》

 

 ナヴィはウィンが言っていた台詞を真似して言ったのだが、それで相手も納得したらしい。

 

 逆に、言った彼の方が納得いかずに首を傾げるのだが――相手の告げた内容に気付いてハッとする。

 

「良いのか? 俺宛の切符は、なかなか回ってこないかもしれないぞ?」

 

《構いませんよ。それと勘違いしないで下さい。私は外の世界を見に、ここを出て散歩に行くだけなのですから。それには誰かいないと困るというだけです》

 

 大人ぶって腕組みした女の子がプイと顔を背けるビジョンが浮かび、思わず彼の頬が緩んだ。

 

「理想は高いんじゃなかったのか? 俺は美形でも、王子でもないぞ?」

 

 そして茶化すように言った彼を、《なに当たり前のことを言ってるんです? ついさっき鏡を見せたでしょう》と遠慮の欠片もない台詞が抉る。

 

《散歩の間は……しばらくはあなたで妥協してあげるというだけです! 本命が見付かるまでの、キープというやつです》

 

「ヒデぇな」

 

《そうですよ?》

 

 今度の笑い声はハッキリ聴こえた。それを合図にして、車内にポツポツと灯りが点っていく。

 

 まるで闇を打ち払うかのように。

 

《あなたこそ、ただ状況に流されてとか、何となく乗ろうというのであれば、後悔しても知りませんよ? 私は、“私の乗り手”が私以外のクルマに乗ることも許しませんから》

 

「あ~……お前に乗るのは確かに状況に流されてではあるな。ウソはつきたくないから、それは言っとく」

 

《今までの流れが台無しになるくらい、バカ正直ですね。正直者はバカを見るという言葉がありますが、あなたのためにあるのかもしれませんね》

 

「交渉事には向いてないって散々言われてるよ。その代わり、後半は良いぞ。俺は一台を徹底的に改造する派だからな。お前こそ覚悟しとけよ?」

 

 四方のモニターに火が入り、それらが周囲の様子を映し出す。中の変化を感じ取ったのか、アクアとエティアが車体から離れていくのが見える。

 

《つまり、乙女の柔肌を思うがまま徹底的に弄り回したいと。やはりあなたも変人達の仲間でしたか。この変態》

 

「無理矢理に俺を変な奴にするなよ!? ホントに面倒臭い奴だなぁ、お前も」

 

《何を今更》

 

 喋っている間、正面に据えられたモニターでは次々と文字が羅列で表示されては消えていっていた。それらのログは高速で押し流されているためにほとんど拾えないが、中には別枠でゆっくり表示されたものもある。

 

 もっとも、そのほとんどは彼に理解出来ないものであったが。

 

 β――α――η

 

 integrated system.

 

 start up――――

 

 A.Ma.Te.Ra.Su.

 

「あま……て、らす? マイスじゃないのか?」

 

《マイスはシャシーの固有名、あちらは開発作業中のコードネームです。そういう感じのを付けるのが基本で流行らしいですが、なにが基本で流行なのかは知りません。理解に苦しみますね》

 

「俺にも分からん」

 

 けど、と胸中で呟く。

 

 俺の胸に、何かこう、クるものはあるけどな、と。

 

《最終確認です》

 

 集中しないと分からないほど僅かな振動に揺られながら、少年はシートベルトを締める。

 

 クルマの心臓部であるエンジンの鼓動が、徐々に高まっていくのが分かった。

 

 モニターに『user name?』の文字だけを残し、

 

《あなたは……私の乗り手(マスター)になってくれるのですか?》

 

「お前こそ。俺で、ナヴィ・ルルムがお前のマスターで良いのか?」

 

 操縦桿を握り、

 

了承です(Yes)私のご主人様(only my Master)

 

「ああ……行こう、アマテラス!」

 

 表示された『ready』の文字を見て、ナヴィはフットペダルを踏み込む。

 

 まるで産声を上げたかのようだった。

 

 勢いよく車軸を回転させて転輪を動かすと、キャタピラは車体をゆっくり……などというものではなく、文字通り飛び出していく。

 

《その名前で呼ばないで下さい。ライフシステムを止めますよ?》

 

「そうか? 良い名前だと思うんだけどなぁ……あ、そうそう。もう一つ聞きたいことがあったんだ」

 

《なんです?》

 

「デレるってなんだ?」

 

《……ホントに台無しな人ですね》

 

 ため息を吐かれ、少年は首を傾げる。

 

 急発進して部屋を飛び出したかと思えば、その勢いのまま転進しようとガリガリ床を削り始めた戦車の姿を、エティアとアクアの二人は揃って額に手を当て、頭痛でも堪えるかのような姿勢で眺めていた。

 

「大丈夫なのかしら?」

 

「かなりのじゃじゃ馬戦車らしい。これで、より一層賑やかになる」

 

「頭が痛いわ」

 

「胃炎にも気を付けた方が良い……ウィン、暴れ馬がそっちに行った」

 

 エティアのiゴーグルを借りて呼び掛ければすぐに反応が返ってくる。

 

『それって、私の愛馬は狂暴ですってヤツ!?』

 

「近い……かな?」

 

「二人が何を言ってるのかさっぱりですわ……」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「シーザー、お馬さんが来るから気を付けて!」

 

「ウォン!」

 

 左腕の無い空色の髪をした少女の意味の分からぬ呼び掛けに、しかしホワイトシェパードは戸惑うことなく応えた。

 

 向かってくるデュアルヘッドセンチビート。

 

 牙を剥き出して迫る右の頭を素早い横へのステップで避け、それが床にかじりついたところで戻って思い切り両足で踏みつける。

 

「ギィイイ」

 

 分厚い鎧のような装甲に阻まれダメージはないが、不満気に鳴くそれを足場にして、ウィンは残っている左の頭を目指して駆ける。

 

 残った右手の、シーザーを介してアクアから渡された連結剣が高熱を帯び、刃はみるみる赤く染まっていく。

 

「ハッ!」

 

 鞭状にはせず、剣として振るう。

 

 一閃。

 

 二閃。

 

 三閃。

 

 闇の中、赤い軌線が続けざまに弧を描いた。

 

 伝わる、硬い手応え。

 

 ごくごく浅いが、センチビートの皮膚に傷が入っていた。

 

「ギリギギィィィ!」

 

「ギイイイィィ!」

 

 怒りの声を上げ、傷付けられた頭は片腕の少女を追い、残る頭もウィンに続いて踏みつけたホワイトシェパードを狙う。

 

 ウィンはすぐさま下へと飛び降り、シーザーは小山のような胴部を目指して走り始める。

 

 シーザーに噛みつこうと右頭が細い身体を反転させたところで、出来た隙間に左頭を引き連れたウィンが通り過ぎた。

 

「シーザー!」

 

「ウォン!」

 

 一人と一匹が巧みに位置を入れ換えながら、足を止めることなく跳ね回る。

 その度に、怒りで我を忘れた双頭は首を振り回す。

 

「ギッ……ギィ」

 

「ギギュイーー……」

 

 気付いた時には、デュアルヘッドセンチビートの二つの頭はもつれにもつれていた。

 

 もがいてもほどけず、苦しそうに巨体を右に左にと揺らす。

 

「一矢は報いた、かな? ナヴィ、時間は稼いだよ? ……下がろ、シーザー」

 

「ウォーーン」

 

 ドスン、バタンと暴れるのを尻目に、一人と一匹はこちらに砲門を向けているであろう戦車がいる方向に声援を送ると、仲間達と合流すべくその場を離れた。

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「あの勢いで飛び出しておいてエネルギー不足って、情けないだろ……」

 

《……あの部屋は機密保持のため、他のブロックとは独立したつくりになっています。そのため、電力の供給ルートも別に用意して使われていたのですが、残念ながらそれが壊れてしまいました。途絶えて以降は、私もかなり切り詰めていたのですよ?》

 

 少年のボヤきに、ムッとした様子の<アマテラス>もすぐさま《私だから動けたのです》と言い返す。

 

 そう、現在マイスはエネルギー枯渇中だった。

 

 聞くところによると、マイスは二つのエンジン――いわゆるダブルエンジンのクルマらしい。

 その内の片方は従来と全く異なる概念の先行試作型であり、安定して高出力が得られる通常タイプのものと併せて使うことで、半永久的に活動することも可能であるという。

 

 ただ、燃料は引き取り先が現れてから入れるつもりだったため、万が一用にと予備バッテリーに蓄えていたのを僅かばかり残すのみだ。

 

 短距離を移動するくらいなら大丈夫らしいのだが、言い換えればそれ以外のことを行う余裕も無いということでもある。

 

 今も主砲発射のためにアレコレ試算し、当座必要のないエネルギーを回しながらどうやってか急速補給している最中なのだ。

 

《この私がこんな節約を強いられるなんて……。それもこれも、あの変人達がもっと周辺設備を整えておかないからです》

 

「いや、むしろかなり良くしてくれていた気がするんだが。……あ、それと」

 

《なんですか?》

 

 手慰みにシートベルトで遊んでいたナヴィは、忘れていたある事実を告げる。

 

「うちのパーティ、常に節約だからな?」

 

《えっ》

 

「車に火をともすそうだ」

 

《……は? それは爪に火をともすって言いたいのですか? それとも火の車ですか? もしくは燃費が悪いと、遠回しな嫌味とも取れますが……エネルギー転換完了。主砲、いつでも発射可能です》

 

 掛け合い染みた、緊張感のまるでない会話。

 

 少年の名誉のために言っておくとすれば、それらは全てモンスターを倒す作業を進めながらであり、完了したという彼女の言葉がその証拠だ。

 

 ワンマンオペレーションシステムとはよく言ったもので、《あなたのやることは指示と操縦のみです》という彼女の言葉に偽りはなく、突き詰められたソレによって操縦に関する搭乗者への負担はほとんど無い。

 

 おかげで作業の間、口を動かす以外に少年のやることが何も無かったほどだ。

 

 二つの首を、失敗したあやとりの紐みたいにしたモンスターを中心に捉える正面モニター。その右隅に、マイスに搭載された兵装データが呼び出されていた。

 

 それらのほとんどに不可とある中、唯一これから使われる主砲にのみ十%と、その隣にはOKの文字。

 続いてモンスターを挟んだモニターの左隅に、車体を緑の線で3Dに描いたもの――ワイヤーフレーム図が表れ、そこからさらに主砲部分がピックアップされた。

 その砲身の上下側……根元から先端へ向けて赤のラインが入って左右に分割されると、実物の方もその通りに稼働していく。

 

 エンジンの出力が徐々に上がっていくにつれ、まるで獣の唸り声のような音が聞こえてきた。

 

 ――ここからだ!

 

 ようやくの出番に、ナヴィは大きく深呼吸する。

 

 少年はトリガーを引こうと手を伸ばし――ボタンだのスイッチだのレバーだのが幾つも並ぶコンソールを見て硬直した。

 

「頼むから、みんなと喧嘩だけはしないでくれよっと……で、どれだ?」

 

《前向きに善処する努力をしようと思います、音声でどうぞ。それらのほとんどは無用の長物ですので》

 

「なんだよそれは……」

 この子とはまだまだ話し合う必要があるなと思うと同時に、結局やることは無いのかと暗嘆たる気持ちになる。

 

 振り上げた拳の下ろし場所に困るというのはこういう状況も言うのだろうか? 伸ばした手をそろそろと元の位置に戻しながら、なんとも微妙な表情の少年は気を取り直すと指示を飛ばす。

 

「よ、よしアマテラス! 主砲発射!」

 

《下手に触れられて自爆なんかしたくありませんしって、その名前で呼ぶの止めてください。――真神(まかみ)砲、ロアリング!》

 

 ゥオオォーーーーン!

 

 なにやら物騒な響きの彼女の言葉は、幸か不幸か少年には届かず。

 

 代わりに狼の遠吠えにも似たくぐもった音が、辺りに反響しながら轟いた。

 

 飛び出したそれは直径三メートルほどの黒い球状の物体であり、瞬く間に一キロほど先の怪物へと迫る。

 

 デュアルヘッドセンチビートはそれが見えていないのか、それとも二つの頭が結ばれていて身動き出来ないせいか、まるで避けようともしない。交互にギーギーと激しく鳴いているため、どうやら言い合いをしているようだ。

 

 砲弾は二本の首の付け根辺りに命中し、そこで一気に一回り近く膨張した。

 

「ギ、ギィーーーッ!」

 

「ギュ、リ、ギギ……」

 

 大きく何かが砕けるような音が響くと、二つの頭はその声を一際高くする。

 

 やがて風船が萎むようにして球体は収縮し、やがて完全に消え去った後には首の半ばから胴体の大部分までを失った怪物の姿があった。

 

 それは獰猛な肉食獣に襲われ、抉り取られたかのようにも見える。

 

 どうやら完全に息絶えているらしく、その身体は地に崩れ落ちたまま、駆け寄ったウィンに蹴られても最早ピクリともしない。

 

 ナヴィも座席の背もたれを足場にハッチから顔を出すと、その様子をやってきたエティア達と共に唖然として見つめる。

 

「す、スゲェ……アイツを一撃かよ」

 

《今回のこれは、あくまでも状況が揃った結果です。いつも出来るわけではありませんよ?》

 

「へ? そうなのか?」

 

《はい。私は完成にして不完全、究極にして最弱ですから。()()()()()()()、これ程のことは出来ません。ですので今後も出来るかは……あなた次第、ですね》

 

 <アマテラス>の言葉を口の中で反芻し、眉間に皺を寄せた少年は額を揉みほぐしながら恨めしそうな視線をコンソールへ落とす。そこには例のレーザーミミズもどきのコードが出てきていた。

 

 どうもセンサーの類いらしく、こちらもナヴィの方を見上げている。

 

「……お前、俺の頭が良くないからってややこしいことばかり言ってるだろ?」

 

《それは心外です。こんなにも私はご主人様♪思いだというのに……言ってて気持ち悪いですね、コレ》

 

 『ご主人様』のところで可愛らしく声を作っておきながら、すぐさま被った猫を脱ぎ捨てる行為をする彼女にナヴィはジト目を向けた。……センサーに。

 

「お前な、自分で言っといて……後でちょっと話し合おうぜ?」

 

《良いですね、望むところです。私からも言いたいことがありますし。その際は車内を綺麗に掃除して汚れを完全に落とした上で、清潔な手袋とスリッパを身に付けてから来て下さいね。話はそれからです》

 

 言って、ワームセンサーはフンと大きく仰け反る。どうやら胸を張っているつもりらしい。

 

「って、お前がやたら汚いを連呼するのは素か! まさかの潔癖症!?」

 

《む……綺麗好きと言って下さい》

 

「度を越してるだろっ!? 緊急時にいちいち綺麗に出来るかーーーっ!」

 

《そんなものは普段からの習慣付けでどうにかなります。そうすれば、無意識に身体が動くでしょう。それに、男は不可能を可能にすると聞きましたよ?》

 

「無茶言うな! あの人達はホントに何をやってたんだっ!?」

 

「ほら、ナヴィ! いつまでも喋ってないで、街まで帰るかここで一泊するか、決めますわよ?」

 

 絶叫して戦車を相手に口論を始めた幼馴染みの少年に呆れつつ、エティアは下から声をかける。

 

 

 

「アクア~。これ、返しとく~。……アクア?」

 

 そんな二人の様子を微笑ましく見ながら、ウィンは少し離れた場所に立ったまま動かないアクアに歩み寄ると、借りていた連結剣を差し出す。

 しかし戦闘が終わっても未だ青の鎧を纏ったままの彼女はそれに反応することなく、その視線は広げた自らの両手に注がれていた。

 

「どうかした?」

 

「ウィン……どうして、わたし達はモード移行が出来る?」

 

「う?」

 

 唐突な問い掛けに首を傾げる“姉”を、アクアは静かに見上げる。

 二人にとってはごく当たり前な質問なのだが、下から向けられる眼差しは真剣そのもの。

 そこに只ならぬ何かを感じて、ウィンは真剣に考え始めた。

 もしかして自分は本気でバカにされてるのかとも思ったが、それならアクアはハッキリ口に出して言うからだ。

 片腕しかないため剣を持ったまま、柄頭でポリポリと頭を掻く。

 

「どうしてって、ボクに聞かれてもなぁ。ボク達はそう出来るように造られたんだし」

 

「……質問を変える。わたし達の()()はどうやって行ってる?」

 

「どうやってって、転送装置の原理を応用した兵器転送システムでしょ? もっとも、ボク達のはプロトタイプだけどさ」

 

 それは“多数の兵器を瞬時に用意し、状況に応じた使い分けを可能とする”をコンセプトに、ウィン達が所属していたプロジェクトグループで試験運用していたものだ。

 

 テストの成果は上々で軍の他プロジェクトにも採用されたが、ウィン達は更なる性能の向上のため、母艦であるエアで改良を加えながら実験を繰り返し続けてきた。

 

 そうして得られたデータは、ウィン達―――Wシリーズと同様に専用兵装を扱うアルファシリーズの発展にも大いに役立てられたらしい。

 

 もちろん、ウィンやアクアの言うモード移行にもこのシステムは遺憾なく性能を発揮していた。

 

『それがどうしたの?』と語るウィンの視線と、いつもは眠そうなアクアのそれが正面から交わる。

 

「じゃあ、わたし達の兵装は()()に保管されてる?」

 

「そりゃあ―――」

 

 エアに。

 

 そう答えようとしたウィンはアクアの言いたいことを悟り、驚きに目を丸くして小さな息を漏らした。

 

「――――――っ!?」

 

 自分達の装備は母艦であるエアに保管されている。至って当たり前なことで、そこに何の疑問も挟まなかった。

 

 いつの間にか三人分になっている騒ぎ声にも気付かず、茫然としたウィンの手から滑り落ちた剣が床に突き刺さる。

 

 アクアはそれを引き抜きながら、その可能性を口にした。

 

「他にも予備の兵装を保管した場所はあるかもしれない。けれど、二人とも元の指定場所から変更していないし、それが行われた形跡もない。……つまり」

 

 ――エアは、今もどこかにある。

 




 
 
※ 今回を持ちまして第一部が終了となります。プロットと致しましては『新人モンスターハンターの見習い少年から見習いの文字が取れるまで』になるのでしょうか?

第二部は幕間を挟みまして、より深くこの世界を描いていけたらと思っております。戦車戦を多くした上で、ライバルや敵組織の登場など。


余り間を置かずに投稿出来るよう、ミンチ先生のお世話にならない程度に頑張ります。

ご意見ご感想など、ありましたらドシドシお寄せ下さいませ。


ここまで遅くなってしまったこと、深く御詫び申し上げます。

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