メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その2 その道 繋ぐ道

 エティアの実家、すなわちスノ家の屋敷で、彼女の家族と共に朝食を摂った、ナヴィ達ルルム三兄妹。

 

 その食堂(正式名称は対地絶対無敵食堂)で、食後のお茶を楽しんでいた時だった。

 

「そうそう、ナヴィ君」

 

 席を立ち、部屋に戻ろうとしていた青年。40を越えても、それを微塵も感じさせない若々しい偉大なハンター、“成功者”ウルフェア・スノだった。

 

「……え、はい?」

 

 スノ家お付きのメイド達が、天井裏や地下に移動する際に付随するあるものの動きを、席でお茶を飲みながら横目で注視していたナヴィ。

 

 探索から帰らない自分の両親とは別に、付き合いも長く、もう一人の父とも呼べるウルフェアに呼ばれ、湯飲みを下ろしながらそちらに振り向き――。

 

「ぶばぁっ!?」

 

 湯飲みを下ろし振り向こうとした……その一瞬を突いて、ナヴィの顔面を回転を加えて飛んできたお茶受け皿が直撃した。口の中のものを飲み干していたのは幸いだった。

 

 顔に皿がめり込むような衝撃に堪えきれず、椅子ごとひっくり返る少年。

 

 真横で派手な音を立てているのを全く気にせずに、ゆっくりお茶を飲んでいたアクアが、ナヴィの顔から離れて宙を舞い、床に落ちそうな皿を片手を伸ばして受け取った。

 

 その姿勢のまま、アクアの視線は横に長いテーブルの、対面上に座っている人物――投げた素振りも見せず、涼やかな顔でお茶を飲んでいるエティアに向けられた。

 

 ウルフェアと共に退室しようとしていた、エティアが少し成長したようにしか見えない女性、母――アティア・スノも何かを言いたそうな視線を娘に向けていたが、ため息を一つ吐くと頭を左右に振っていた。

 

「ぃ……ってぇーっじゃねぇか、エティア!」

 

「あら、何のことかしら? それよりも、椅子ごと倒れるのは行儀が悪くてよ、ナヴィ?」

 

 椅子を起こしながら立ち上がりわめく銀の少年に、太陽の少女はそのイメージとは真逆の冷たい視線を向ける。

 

 暖かくても冷たくても、彼女の視線を真っ直ぐに受けて、ナヴィはいつもの様にたじろいで口ごもってしまう。

 

「……いや、その……皿の一撃が痛かったんだけど」

 

 それでも、何とかそれだけは声に出すことが出来た。

 

「あら、こちらの方が良かったのかしら?」

 

「エティア!」

 

 どこからともなく銃――護身用のショットガンを取り出して息子とも呼べる少年に向けた娘に、アティアは鋭い声を上げる。

 

 アティアは、自分を見上げてホッとしている少年をチラッと見て、すぐに視線を娘へと戻す。

 

「暴れるなら外でしなさい!」

「え、そっち? 銃は!? アティアさん!?」

 

 驚愕の表情で「外なら良いの!?」と続けるナヴィに、「もちろん」と頷き返すアティア。

 

 それがだめ押しとなり、ショックにうちひしがれるナヴィに、ウルフェアがどこか勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「まだまだだな、ナヴィ君。見るならもっと自然に「あ な た」……っ!?」

 

 何やら口走っていたウルフェアが、突然苦悶の表情を浮かべて、その場で崩れ落ちていく。

 

 うずくまって唸っているウルフェアの横には、浮かべた笑顔とは真逆の……先程のエティアの様な冷たい視線をしたアティアが立っていた。

 

 ナヴィに今のを視線で問われて、それにエティアは勢いよく左右に首を振って答えると、二人は床で唸る伝説のハンターを引きつった顔で見つめていた。

 

「肝臓、腎臓、鳩尾、肺への高速の四連撃。絶妙な力加減と打点をずらすことで、苦痛だけを与えてる。確か、人体の急所だけを狙い打つ武術があると聞く」

 

 そんな二人に、表情を変えずにアクアが解説を加えた。

 

「母様がそんな武術を……」

 

「母さんと違ってアティアさんは普通だと思ったのに……」

 

「二人共、どうかしたのかしら?」

 

 呆然と呟いた二人に、アティアが笑顔で問いかける。慌ててシンクロしながら「何でもありません」と返している。

 

「不器用な似た者同士」

 

 それを見ていたアクアが、一人以外に聞かれる事もなく小さくこぼした。

 

「住み込みのメイドのみんなが居ると言っても、この時代にか弱い女の身で屋敷で暮らすなら、この程度出来なくてどうするの」

 

 ナヴィとエティアに、アティアがさも当然とばかりに話していた。

 

 メイドのみんなが床下や天井裏に移動しているのはよく目にするが、お嬢様や淑女にしか見えないアティアの一面を知ったナヴィのショックは大きいようだった。

 

 その表情のまま、ナヴィはアクアに話しかける。

 

「なあ、アクア」

 

「なに?」

 

「うちの母さんは、改造や過去の文明が好きなだけのメカニックだよな?」

 

「うん。ちょっと魔改造や過去の文明や未知の物質が好きで好きで仕方がない、ちょっとした戦車ならすぐに解体出来る位の普通のメカニック」

 

「そうだよな……って普通じゃねぇだろ!?」

 

 かけ離れた返答に、朝から何度目かの少年の絶叫が広い食堂に響き渡った。

 

「さて、ナヴィ君」

 

 一分程で復活してきたウルフェアが、痛みを感じさせない口調で再び口を開いた。

 

「ちょっと話があるから、部屋まで来てくれないかな」

「はい」

 

 両親と共に部屋を出るナヴィを、複雑な表情で見送るエティア。

 

 この後行われるであろう会話を予想し、展開を見通して一人小さくため息をついた。

 

 そして、ずっと静かだった隣の人物に話しかける。

 

「どこまで組み上げるつもりかしら、ウィン」

 

「もう……ちょっとで……記録が」

 

 湯飲み茶碗を土台に、一心不乱にトランプタワーを組み上げている“空”の少女。

 

「相変わらず変に器用よね、あなた」

 

「話し……待って……後少しで……一ケース使い……切れるから」

 

「カミカゼは きょうもげんきに はしりさっていった」

 

「ちょっ……アクア、震動やめ、あああああああ--っ!?」

 

 

      ※ ※ ※

 

 

「あいつら何やってるんだ?」

 

「ははは、賑やかで良いじゃないか」

 

 アティアと別れ、二階にあるウルフェアの部屋に入る直前に下から聞こえてきた絶叫。

 

 それに首を傾げながらも、先に入ったウルフェアに促され中へ。

 

 しっかり扉を閉めて、久し振りに入る必要なモノだけが揃えられた室内を見渡す。やがて、一点で止まる。そこにあるのは独特な風情がある置物。

 

「あ、タヌキ。ウルフェアさんの所にも、父さんから送られてきたんですね」

 

「うむ。あいつは昔からこういうのが好きだったからな。俺がインテリアとか買ったのは、ここに住むようになってからだが、あいつは昔からおかしなモノを買っていたからな」

 

「父さんの部屋、あちこちから送られてきたよく分からない物でグチャグチャですよ」

 

「はは、家なんか無かったからな。それまではハンター用の倉庫に預けていたんだ。ここにあいつも家を建てると言い出して、それで引き取ったのさ」

 

「なるほど。でも、このタヌキしっかり磨かれていませんか?」

 

 近くでツヤのあるタヌキを見ながら言うナヴィに、ウルフェアは頬を掻きながら苦笑する。

 

「妙に愛着が湧いてしまってな」

 

 そんなウルフェアを見て、ナヴィも笑みを浮かべた。

 

「さて、話というのはな」

 

「はい」

 

 ウルフェアが真面目に話を切り出すと、ナヴィもまた表情を引き締めた。

 

「あいつから、お前の父さんから連絡が途絶えてもう結構な年月が流れた」

 

「……はい」

 

「あいつの戦車には、リスポラさんが造り出した特製の、車用簡易転移装置“ドッグシステム”がある。シオンの腕もあるし、今回は同期の確かな腕の仲間達も一緒だ。そうそう何かあるとは思えない」

 

「……はい」

 

「連絡が入らないのも、リスポラさんの調査が長引いて、通信が届かないエリアに踏み入れたのかもしれない」

 

「はい」

 

「それでも、君は行くか? この荒れ果てた世界へ」

 

 静かに、熟練の迫力を持ったハンターとしての眼で見つめられる。

 

 嘘も、虚勢も許さない。真実だけを、本音で答えろと。

 

「はい……!」

 

 だからこそナヴィも、その一言に本気の想いを込めた。

 

「自分……俺も行きたいです。そして、この世界の色々を見てみたい。傷付いたみんなが、安心して暮らせるそんな世界の、後のみんなが続けられるような第一歩を築ける、そんな何かを見つけたいんです」

 

「夢……みたいな話だな」

 

「夢だからこそ良いんじゃないですか。夢も見れない世界よりは」

 

「限界を知らない子供だからこそ見れる夢……か。そして、だからこそ今の俺ではその一歩を見つけられないのかもしれないな。自分の限界を知ってしまった」

 

 寂しそうなウルフェアにナヴィは首を横に振る。

 

「何を言っているんですか。ウルフェアさんや父さん達の一歩があって、今のムーセムの街があるんです。いえ、ウルフェアさん達が頑張った分だけ、他にも救われた場所があると思います」

 

 「生意気な事言ってしまってすみません」というナヴィに「そんなことはない」と返すウルフェア。

 

 憑き物が落ちたかの様に。

 

「むしろ、ありがとうだな。そうだな、ポジティブに考えるか。シオンみたいにな」

 

「子供の立場で言うなら、もうちょっと落ち着いて欲しいですね」

 

「あいつにはまだ限界が見えていないんだろう。ナヴィ君にとって大きな父親の背中となって、立ち塞がるぞ?」

 

「超え甲斐があって良いじゃないですか。それに、ウルフェアさんも限界を言うのは早いでしょう。エティアの前に立ち塞がらないと」

 

 笑いながら二人は語り合う。先輩後輩、親子、先に歩く者とその道を追い駆ける者として。

 

「そうだな。あいつは理性で限界を決めてしまいそうだからな、しっかり俺や君よりも先を目指してもらわないと」

 

「あの、俺や父さんに理性がないみたいに聞こえるんですが……」

 

「どちらかと言えば野生の本能や勘に近いな」

 

「ひでぇ……」

 

 ニヤリと笑いながらのウルフェアに、ナヴィも言っている内容とは裏腹に楽しそうに笑ったままだった。

 

「理性も、野生の本能に勘、どれもこの世界を生き抜くには必要なものだ」

 

「はい」

 

「昔、聞いた話だ。「この世界では、どれだけ遠くへ行ったか、どれだけ多くの人間と出会ったか、その二つが人生の値打ちを決める!」……とな」

 

「良い……言葉ですね。胸に刻んでおきます」

 

 ナヴィに頷くと、ウルフェアは窓の方に手を向けた。

 

「仲間と一緒に世界を見てこい、若きハンター!」

 

「ウルフェアさん、ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げる。

 

 それを見て満足そうに頷くと、ウルフェアは「それで、だ」と話を続ける。

 

「今すぐに旅立つのは良くない。請け負った修理の依頼はやり遂げること、これはハンターになってからも変わらない常識だ」

 

「そうですね。後少しですし、終わらせます。もちろん、手も抜きません!」

 

「うむ。旅にはエティアに、ウィン君とアクアちゃんも一緒なのだろう?」

 

「ウィンとアクアで呼び方が異なるのがいつも気になりますが、出来れば一緒に行きたいです」

 

「細かい事は気にするな。アクアちゃんのバイト契約の更新日は残念だが今日の筈だ。続けてほしいが、忘れずに酒場のマスターに話をしておくのを忘れないように」

 

「途中の表現も気になりましたが、分かりました」

 

「細かい事は気にするな。することが終われば、これを」

 

 ウルフェアが執務机から取り出したのは、ナヴィにも見覚えのある物だった。

 

「ゴーグルキャップ? ハンターの誰しもが被るという」

 

「そうだ。これと、エティアに渡してあるのは特注のだぞ?」

 

 ウルフェアから渡されたのはゴーグル付きの灰色の帽子。

 

 それは『モンスターハンター』と呼ばれる者達の中で、特に戦車を駆る『ハンター』と呼ばれる者達の多くが好んで使用している。

 

「それをハンターオフィスの受付に見せれば、ハンター登録をしてくれるだろう」

 

「なるほど……って、もしかして俺がハンターになれなかった理由って……」

 

 感慨深そうに手渡された帽子を見ていたナヴィだが、次第にそれはジト目になりウルフェアへと。

 

「話は以上だ。さあ、今日は忙しくなるだろう。行きなさい」

 

「その前に! ウルフェアさんがオフィスの人に言ったんでしょう!? 凄いショックだったんですよ! どうしてあんな事を!?」

 

 早々と話を打ち切ろうとするウルフェアに、食ってかかるナヴィ。

 

 ウルフェアも机に手を叩き付けて立ち上がる。

 

「エティアに頼まれたからに決まってるだろう! 娘の願いなら叶えねばならん!」

 

「叶え方が間違ってます! しばらく待ってほしいとか、一言言ってくれればいいじゃないですか!」

 

 ウルフェアの元に詰め寄り、執務机を挟んで向かい合う二人。

 

「思い付きもしなかったな」

 

「くっ……、さらっと流しましたね。じゃあ、あの塀は!?」

 

「あれはシオンへの嫌がらせも兼ねてる。まあ、リスポラさんとウィン君とアクアちゃんには悪いかなとは思ったが……」

 

「俺! 俺も、関係ありませんよ!」

 

「馬鹿者! シオンとエティアの希望なんだから、思いっきり関係者だろうが!」

 

 ヒートアップしていく二人は、徐々に口調も激しいものへと。

 

「叶え方が、嫌がらせありきと言ってるんだ、オッサン!」

 

「オッサンとは何だ! 俺はまだ41だぞ!」

 

 顔を付き合わせ、怒鳴り合う二人。

 

「充分ですよ!」

 

「言いおったな!」

 

「言いましたとも!」

 

 お互い、拳を硬く握りしめ――。

 

「来い!」

 

「行きます!」

 

 二人がほぼ同時に腰を深く落とし、真っ直ぐに相手を――。

 

「ふっ……」

 

「はは……」

 

 突き出された拳が相手を突く! ……かと思われたが、握り締められた拳は、互いの拳に軽く突き合わされていた。

 

「無事に帰ってこいよ。俺は、シオンと君の三人で飲み交わすのが夢の一つ何だからな?」

 

「もちろんです。ウルフェアさんの道と志、継いだ上でいつか、越えさせてもらいます」

 

 

 

 

「おかしい。殴り合いでもするかと思ったけど、何も聞こえない」

 

「むしろ、分かり合えてる男同士の友情だよね。漢同士かもしれないし、実は薔薇かもしれないけど」

 

 父の部屋でのやりとりを、姉妹の混線しているような会話で聞いていたエティアは、しかし旅云々よりも気になる事があった。主に、隣にいる人物の所為で。

 

「二人の耳がどうなっているのか気になるけど、何よりもウィンが何を言っているのかさっぱり分からないわ……。とりあえず、椅子の背もたれで片手倒立するのは止めなさい。父様が許可したし、ナヴィの事だから明日には出発になるわよ?」

 

「大丈夫だよ、えてぃ。ボクは早起きだから、きちんと出発できるよ」

 

 倒立しながら、器用に三人の中で一番薄い胸を張って答える。

 

「そんな話はしていないんだけど……。おかしな事で怪我しないようにって言っているの。四人で行くんでしょ?」

 

「大丈夫、任せて! 椅子は動かないし、これ位でバランスを崩すほど――」

 

 ブイサインをしているウィンの近くに、いつの間にかアクアが忍び寄っていた。

 

 そして、背伸びしながらウィンの耳元で囁く。

 

「ドラムかん」

 

「おしてもいいんだよ。「分かった」……なつかしのって、アクア!? これ椅子だか……らああああ!?」

 

「ちょっと!? こっちに倒れてこな……きゃあああ!?」

 

「まだ未熟……っていつの間にわたしを掴ん……」

 

 そして、食堂に派手な音が響き渡り……。

 

「ヒヨコが」

 

「とんでる」

 

「ぴよ ぴよ ぴよ」

 

 何故か食堂で、三人娘達がメイドに介抱されているという一幕は有ったものの、少年の夢は翌日から始まる事になる。

 

 

 

 

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