ブリッジ内を赤色灯が照らし、様々な警報器が鳴り響いている。
「各員、落ち着いて状況を報告せよ!」
まだ日も昇らぬ暗闇の中、土煙を巻き上げながら荒野を進む、大型の双胴型陸上戦艦が一隻。
試作評価実験部隊、ティアマット級陸上戦艦三番艦エア。
そのざわめくブリッジ内、艦長席に座るまだ若い男が、警報器に負けずに声を張り上げる。
「聞こえたな!? 報告、順に開始!!」
艦長席の隣に立つ、長身で禿頭の男が、体躯に相応しい大声を上げた。
「陸軍本部との連絡が取れません! 直前の通信から、ノアの軍団との戦闘に入っているものと思われます!」
「一番艦ティアマット及び、二番艦チュウニとも連絡が着きません。本部の連絡では、チュウニは数時間前に、ノアの小規模部隊との交戦が確認されています」
「え、えっと……海軍の最重要機密潜水艇ジャガンナートの護衛部隊、全滅! 増援部隊とも連絡が着きません! 尚、ジャガンナートは現在のところ不明!」
「クロモグラ~、護衛部隊が戦闘中。ノアの抹殺部隊に対して、大損害を与えたものと期待されるも、我が方の七割が戦闘不能、二割が消滅、一割が連絡断絶との報告あり……」
「壊滅と言わんか! 肝心のクロモグラはどうした!?」
「数分前に入電、『我 未来二種ヲ』。以上」
怒鳴る副長に対し、言われた担当者では無く別のオペレーターが答える。
報告は、全てこちらの不利を伝えるものばかりだった。
「これは非常にまずい。エア、第一種戦闘配置! 即座に対応出来るように、各員警戒せよ! 来るときは、一瞬で詰めてくるぞ」
「第一種戦闘配置!! 各員、担当部門に通達せよ!」
指示を出すと、艦長と副長は即座に今後についての立案をし始める。
「ノアがこのタイミングで動くとはね。最終段階に入った各プロジェクトの内容が、どこからか漏れたのかもしれない」
「その可能性は高いですな。どうしますか? このまま目的地の研究所に向かうか、どこかの軍基地に向かうかですが……」
「基地……と言っても、ここから一番近い場所までどれくらいかかる?」
「およそ、進路西に三時間。ただし、通信が封鎖されているのか、別の理由か、繋がりません。距離だけであれば、北に二時間の研究所の方が近いです。こちらには通信は繋がり難いものの、現在戦闘は確認されず」
艦長の問いに答えたのは先程フォローをした女性オペレーター。お金を借りたら、それ以上の食事をいつもたかられる関係の彼女だが、一人でほぼ何でもこなせる彼女は、今回も必要な情報を逐次メインモニターの端に表示させていた。
「ふむ……あそこは軍のデータベースには載っておりませんし、ある程度の防衛設備もありますな」
顎に手をやりながら、副長がどうします? と艦長に指示を仰いだ。
「……気になる」
「は?」
腕組みをしながら、トントンと指先で肘を叩いていた艦長がポツリと呟いた。
「何か気になるんだ。レーダーの範囲を最大まで拡大! それと、うちの“娘達”はどうなってる?」
「えと、エータプロジェクトGシリーズの内、バリエーションWの三人――GWーX01、02、03は、明朝一番に研究所で行うテストの為に待機中! 他のバリエーションは、現在スリープモードのままです!」
「その呼び方は好きじゃないんだけどな……」
ぼやくも、それどころじゃないだろうと、自分の頭を小突いて戒める。
「ウイング達三人に、いつでも出られる様に連絡を……」
『聞こえてる。ボク達なら大丈夫。兵装解除完了、すぐにでも出られる』
「分かった、指示があるまで待機を頼む。他、すぐに“起こせない”ならそこの区画に、研究者や非戦闘要員を移動させるんだ。急いで!」
「聞こえたな、伝達急げ!!」
「了解です! こちら……」
「機密ブロック、切り離し脱出挺モードへの変更開始。変更後は艦長の合図でエアから離脱させます」
艦長と副長の指示を受け、ブリッジ内では艦内向けの放送が、ひっきりなしに行われる。
そんな中で、ブリッジ内で索敵を行っていた者が驚愕の声を上げる。
「……ん? こ、これは……!?」
「どうした?」
「報告せよ!」
艦長は静かに訊ね、副長は大声で訊ねる。
「な、南西より接近する艦あり。識別はティアマット級二番艦チュウニ!」
それを聞いて、ざわつくブリッジ内。
「静かに。チュウニとの連絡は?」
「通信障害。繋がりません」
艦長の問いに、ざわつくブリッジ内では落ち着いている数人の内の一人である、オペレーターの子が答えた。
「先の西の基地も?」
「現在も繋がりません」
それを聞いて、若き艦長は決断する。すなわち――。
「二番艦チュウニを、現時刻を以て敵と認定! ただし、通常兵装は向けず、こちらからは仕掛けるな。特殊兵装は迎撃重視で備えるんだ!」
「か、艦長!? 味方の艦なのに、良いんですか!?」
予想外のその指示に、一部のメンバーはさらに慌てる。
「エアの武装の内、一部は相手に分からない擬装設定になっている。そういう風に僕が設計したんだから。向こうに問題が起きてなければ、何も問題は無いよ」
「でも~……」
「大丈夫、艦長を信じましょう。それにこの状況では、この艦のメンバーしか信用出来ない」
「各部門への伝達終わりました。そうね、この艦のメンバーで無理なら、軍の精鋭中の精鋭部隊じゃないと無理かもね。そういう風に思いなさい。ね?」
先輩のオペレーターや通信士達に諭されて落ち着いたのか、慌てていた後輩達も自分の作業に戻る。
「避けられるものは避けるけどね! でも、艦長ー? チュウニって確か……」
操舵を担当している女性の疑問に、艦長はしっかり頷いた。
「そう。長距離及び火力特化。そういう風に僕が設計した。更に、あちらでテスト中のSWシリーズは、一騎当千、単機での短時間施設制圧をコンセプトに設計されている。だから、向こうが本気なら――」
ブリッジ内に、新たな警報が鳴り響く。それが意味するのは、何者かにロックオンされた事。
すぐに分かるよ、という言葉は、発せられる事は無かった。
※ ※ ※
雲一つ無い晴れ渡ったムーセムの街の中で――。
「ぉおぉぉぉぅぉぉ………」
大地にガックリと両手を着いて、項垂れる少年が一人。
その口からは、呪詛の様に低く重いうめき声がこぼれ続ける。
「あはは、そんなに喜んで貰えるなんてボクも嬉しいよ、ナヴィ! 造った甲斐があった!」
そんな少年にサムズアップして見せている、背の高い空色の少女――ウィン。
「喜んでいる様には見えないけど、まだ出発しないの?」
少年の横にしゃがんでつついているのは、背の低い青い少女――アクア。
『待望の旅立ちでしょ? 早くしなさい、ナヴィ』
三人が頭部に身に付けている小型装置から、この場には居ない少女――エティアの声がする。
やがて、ルルム家の逆側に設けられた、スノ家の地下にある格納庫と繋がっているスロープから、重低音と共にキャタピラを動かす――灰色に塗装された戦車が、陽光に迎えられて姿を現した。
父――ウルフェアから借り受けた、人類の希望の牙。その中で、モンスターハンター達にティーガーと呼ばれるシャシーであった。
大破壊前では、Ⅵ号重戦車ティーガーⅠと呼ばれていたらしいが、現在ではティーガーという呼び名だけが使われている。
シャシーと同色の塗装が施され、取り付けられた主砲の八八ミリ砲と、副砲のガトリングガンが陽光に照らされ、その先端は光を反射していた。
『昨日ハンターオフィスで登録出来ず、目の前の“それ”も……まぁ、あれだろうけど……、それはともかく旅立つと決めたのではなくて?』
そう、ナヴィはまだ“正式な”ハンターでは無かった。
昨日、意識を取り戻した三人娘と合流した後の事。用事があるというエティアとウィンと別れて、手伝いを申し出てくれたアクアに一部を手伝って貰いながら、全ての用事を終わらせたナヴィ。
そのままアクアと共に、モンスターハンター達を支援する組織の窓口であるハンターオフィスを訪ねたのは、陽が傾き始めて結構な時間が過ぎた頃だった。
ハンターオフィス。街や村、一部の有力者等から資金援助を受けて運営される、大破壊後の世界で生まれた巨大な組織である。
荒れ果てた世界を生き残る為に、モンスターハンター達の支援を行うそこには多くの者が参加し、街の安全確保や住人からの難事の依頼引き受け、特に危険なモンスターには莫大な賞金をかけるなど……、多岐に渡る役目を担う場所である。
オフィスのある建物内に入り、カウンターに座っている男に、ウルフェアから貰ったゴーグルキャップを見せる。
「ああ、ようやくか」の一言で登録作業を始められた時には、ウルフェア共々いつか殴ると心に誓ったものだ。
男が入力を始めてすぐに、手のひらサイズの一枚の金属片のカードと、小さなナイフを手渡してきた。
口頭で言われるままに親指の先を軽くナイフで切り、カードの端に押し当てる。
血の指紋が付いたカードを男に渡すと、近くのカートリッジの中に血が付いていない方を挿入。続いて何か――データベースとコードで繋がったスコープを渡される。
網膜パターンや顔写真を登録し終えて、アクアや男と雑談しながら待つこと暫し。
最後に、カートリッジからカードを抜き取り、ハンディタイプの機械を押し当てて、全ての登録が終わる――筈だった。
「……ありゃ?」
男が首を傾げてキーボードを叩き始める。
「どうかしたんですか?」
ブツブツ言いながらキーボードを叩き続ける男を、不思議に思ってナヴィが訊ねると、手招きの後で画面の一点を示される。
カウンター越しに覗き込むと、ナヴィのデータが書かれている中で、名前の部分が?で埋め尽くされていた。
「何ですか、これは?」
「いや、分からん」
打ち直しても?は消えず、その内キー自体も受け付けなくなる。
「ナヴィ、魔カニックのリスポラさんと一緒で、お前機械の扱い上手いだろ? 直せるか?」
「いえ、ちょっと……って、今何て言いました?」
名前以外の部分は入力を受け付けているので、単純にパソコンだけの問題でも無さそうだった。
ナヴィは、横の眠そうな目で画面を見ていたアクアに視線を移す。
「アクア。お前も機械系に強かったろ? 出来るか?」
「無理」
ナヴィの問いに、青い髪を揺らしながらアクアは首を横に振った。
「わたしは壊したり分解したりが専門だから、細かいのは苦手」
「そうか……」
そんな二人のやりとりを聞きながら、男は店などにも置かれているハンディタイプの読み取り機をカードに当てた。
「むぅ、名前以外は表記されるな」
サブ画面に、オフィス認証のハンターの印と、顔写真が表示されている。
「結局、どういう状況何ですか?」
ナヴィが聞くと、男はお手上げと言わんばかりにキーボードから手を離した。
「お前さんのハンターとしての情報は登録出来たが、匿名ということになってる」
「匿名?」
「ああ、何かの事情で名前を使えなくなった奴が、たまに使うんだ。ただ、そんな怪しい奴を登録するからには、かなりチェックを厳しくするんだが……。お前さんは身元もはっきりしてるしな……。名前入力だけ出来ないって何でだ? 仕方ない、メモを入力しとくから、他の街でも試してみてくれないか? 詳しい奴がいるだろうしな」
「はい、分かりました」
残念ではあるが、ここではこれ以上の事は無理と判断し、ナヴィは頷いた。
そのままカードを受け取って帰ろうとする少年の袖を掴んで引き留めると、アクアが男に向き直る。
「ナヴィのハンターとしての特典は大丈夫?」
「ああ、そちらは大丈夫だ。ショップや宿のサービスはきちんと得られる。説明はアクアちゃん達に任せるが、二ヶ月に一回オフィスに上納金を納めるか、相当分のモンスター退治はきちんとな。最近、登録だけしてサービスを受ける奴が増えたから、その当たりチェックがきついからな。違反者として追われるぞ?」
「それは……」
ナヴィが答えるよりも早く、アクアが答えていた。そして、身を乗り出してそのまま男とのやりとりを始める。
「それは大丈夫。チーム登録は?」
「しておいたよ。エティアちゃん、ウィンちゃん、アクアちゃんと同じチーム、畜生め。知っての通り、一括扱いだが、人数が増えた分だけ上納金が増えるからね、気を付けてくれよ?」
「大丈夫、問題ない」
「おい、おっさん。さっきから表現とか言葉遣いが違ってるぞ!?」
そんなやりとりがあり、ナヴィは現在匿名のハンターになっていた。
匿名の間は、サービス等は受けられるものの、大きな実績を積むまでは正式なハンターとは認められない。
信用が第一のハンター達にとって、怪しい者が起こしたトラブルで他の者が被害を被るのは、避けるべき事柄だからである。
ただ、ナヴィの場合はきちんとしたオフィスの認証印を貰っているため、正式と呼んでも差し支えない感じではあるが。匿名のままであれば、やはりある程度の実績が必要になってくる。
「ナヴィ、行かないの?」
「早く行こうよー!」
『早く行きましょう、ナヴィ』
大地に向かって昏いものを呟き続けていた少年だが、少女達三人に急かされつつようやく立ち上がる。力無く、ふらつきながらではあるが……。
「ほら、ナヴィ用の戦車もあるんだよ!」
と、ウィンが近くに置いてあったそれを指し示した。
陽光に、キラリと輝くスパルク砲――に、見えない事もない大砲。
その大砲の下に姿を見せている、やや小さめの主砲。
そして、それらを支える――四本足。
「一発ホッパー……は、語呂が悪いから……うん、ガイアウォーカー! 格好良いでしょう!?」
「お前の趣味が本気で分からんわ!!」
得意気な少女に向けた、少年の絶叫が青空の中に響き渡っていった。
ムーセムの街の入口で、自警団のメンバーに別れを告げて一時間。
とりあえず、この辺りの中心都市でもある南の商業都市を目指す一向。
エティアの駆るティーガーが、荒野にくっきりとキャタピラの跡を残しながら、エンジンであるギガブルが生み出すパワーを以て力強く前進していた。
「――というわけで、カードを携帯してモンスターを狩れば……」
そのティーガーの側面に腰掛けて、アクアが延々と説明を行っていた。
「……ぅぇ……」
「カードにモンスターの出す波長が届き、撃破すれば記録される。それを、オフィスで照会すれば倒したモンスターに応じたゴールドが振り込まれる」
「……ぅぐぅ……」
「撃破記録が一定になれば、登録者を守るパーソナルバリア……と言ってもかなり弱いけど……等の特典が得られ、それらは徐々に強化される。ベテランは、ちょっとした戦車の主砲にも耐えられるらしい」
「……おふぅ……」
「わたし達はチーム登録しているから、誰が倒しても良いけど、報酬金と違って撃破記録は近くにいないと駄目だから、そこは注意……」
『アクア、そこの車……くるま? 酔いしてる人には聞こえていないのではなくて?』
「……聞こえてる……さ……。通信機も兼ねてる……うっ……iゴーグルからも聞こえるしな……」
「大丈夫、抜かりない」
『それなら良いけど、聞いていて気持ち良いものではないわね。こっちに乗れば良いのに……』
そう、ナヴィはウィン命名のガイアウォーカーに乗っていた。歩いたり跳ねたりを繰り返す移動の関係で、ナヴィの顔色は酷く悪かった。
「……一応、ウィンが頑張って作ったんだ……一日だけでも……ぐっ……乗ってやらないと、な」
『言っている事は良いんだけど……』
「見栄で死ぬ」
ぐったりと前面の大砲にしがみついているナヴィの姿に、エティアは呆れ、アクアは視線を前方……先行しているウィンに向ける。
「もう逃げられないよ! バキューン!」
ティーガーのやや前方……元気に荒野を駆けながら、右手に持った四四マグナムと、左手に持ったバイオ魚の鋭利なヒレで作られた刀でモンスターを次々に狩っていた。
“飛ぶような”と評される通りの動きで、耳がパラボラになったネズミのパラボラット、小型の機関銃と組み合わされた巨大蜘蛛のバルカンチュラやキャノンホッパーが倒されていく。
周りのモンスターを倒し終えると、残弾を確認して次の獲物を探す。
程なく、前方から迫ってくる土煙を見つけて満面の笑みを浮かべる。
眼を凝らして、抜群の視力を活かし近付いてくるモノを確認――!
「高速で走る鳥型モンスター……ロードガンナーの群れはっけーん! ボクだけで充分……! ……ん? 何か、様子が……追われてる?」
ロードガンナーの群れは、ウィンを攻撃するどころか迂回する様な動きを見せつつ、猛烈な速さで駆け抜けようとしていた。
その群れから少し遅れてはいるものの、追いかける大型の四足モンスターの影。
背にはエティアの八八ミリ砲よりも立派な大砲、鼻に立派な角を生やした巨大な――サイ。
その獰猛な目が、ウィンを捉えた様な気がした。突進の向きが変わる。
「あれは……ちょーっと厳しいかな?」
向かって来る巨大なサイを見て、ウィンは珍しく引きつった笑みを浮かべた。
あの世界のハンター登録は実際どうなっているのだろうか。クエストの依頼人や報酬についての確認等、大雑把な感じもしますが……。
公式サイト等、分かる範囲で資料を探して見ましたが見つからなかったために、ハンターオフィス周りはかなり設定が違うと思います。
もし、こんな設定が合ったよ? 等ございましたら、メッセージ等で教えて下さると助かります。
ティーガーのシャシーデータは、メタルサーガの砂塵より、その他の装備データ等は4、3、2R、リターンズから使います。
Cユニットの特性は、申し訳ありませんが現在見送りとさせてもらっております。物語が進んだら入れる可能性はある、とだけ……。