『くる大砲がサイを背負った--!?』
『ウィン。落ち着いて、理解出来る言葉を話して下さる?』
三人が身に付けている精密機械の塊――通信機機能も兼ね備えたiゴーグル。そこから響いてきた先行しているウィンからの絶叫に、エティアが冷静に返事を返している。
ただ、そう言いながらもエティアは愛車ティーガーの頭脳――CユニットのウォズニアクSIに、指を――指先の無い革の手袋から出ている白いそれを、まるで踊っているかの様に走らせる。
アクセルに軽く下ろしていた、新人のハンター達が身に付けるのと同じ――だがデザインがアレンジされたブーツに包まれた足に込める力を強める。
心臓部――エンジンであるギガブルが、更に鼓動を速めていく。
『アクア!』
「大丈夫、出して」
車軸を回転、転輪を動かし、徐々に加速しながらキャタピラを南東へと進めていく。
その甲板に腰かけていたアクアが、振り落とされない様に重心を前に移しながら姿勢を低くする。その手には、彼女の容姿には不釣り合いなバズーカを構えている。
背には狙撃銃も背負い、風に煽られて彼女が着ているメイド服――改良が施され、見た目より防御力が高められているらしいそれが、大きくはためいている。
「俺を置いていくなよ……っと……跳べ、ガイアウォーカー!」
迷彩服を着込んだナヴィの声に従って、四脚に支えられたボディが大きく飛び跳ねて、狙い誤らずティーガーのハッチ上へと賑やかに着地する。
「結構のりのり?」
「違う! ぅ……っぷ」
後方にチラリと少しだけ視線を向けて、意外そうに言うアクア。
それにナヴィは否定を返すも、顔色はまだ悪かった。
「ナヴィ、こっちには絶対向かないで」
「アクアさん、あなた結構冷たくありませんか?」
「しかし、何も聞こえなかった」
「おーい……?」
「話は後で、覚えていて気が向いたら聞くかもしれない。……ターゲット」
その言葉で、いつの間にかかなり前に出ていたウィンの姿が、ナヴィの眼にも確認出来た。
背負っている訳ではなく、背中側の首元から直接大砲を生やしたサイ。
その突進を身軽な動きで左右に避けながら、手に持った四四マグナムで応戦していた。
彼女のみ普段と変わらない格好のため、その姿で大きな四足動物との戦闘している図は見る者の不安感を募らせる。
つまり、白いシャツにショートパンツ、厚めの赤いジャンパー姿である。背負っているSMGグレネードは、家に置きっぱなしだったものである。
「ターゲット、照合――確認。オフィスに連絡があった、他方から流れてきたはぐれコサイゴンと断定。賞金六千G」
『良かったわね、ナヴィ。旅に出てすぐに、賞金首なんて』
iゴーグルを下ろして淡々と敵の情報を伝えるアクアと、楽しそうなエティアの声。
『ボクの心配もしてほしいな!?』
『ウィン。あれを倒したら、しばらく美味しい物が食べられるわよ?』
『ボクに任せて!』
「いきなりやる気になったな」
「こういうのは気分も大事。生きるも死ぬも」
「アクアさん、最後のは要らないんじゃないかな?」
ぼやくナヴィには答えず、アクアはバズーカをコサイゴンに向ける。
「ちなみに、ナヴィ? 基本問題。大破壊後の環境に適する様に独自の進化を遂げた生物や、あの様な生き物と機械が混ざった敵を、まとめて何と呼ぶ?」
「え? そんなの簡単だろ、答えは――」
唐突なアクアからの問いに面食らいつつも、ナヴィが答えようとした所で――。
『それでは舞台の幕を上げましょう』
主砲――八八ミリ砲の砲塔がサイゴンの方へと向きつつ、iゴーグルからエティアの声がする。
「今宵の演目は、砲撃演舞」
構えたバズーカの、引き金に伸ばした指先に力を込めながら。
『今日も地獄は満員だ!』
「ウィン、それ違う」
言葉と同時にバズーカから放たれた弾と、咆哮と共に吐き出された八八ミリの砲弾が、ウィンに気を取られていたコサイゴンの横っ面と横っ腹に突き刺さる。
片や視界を覆う黒い煙幕を、片や身を削る痛みと爆発を。
思わぬ所からの攻撃に、コサイゴンはまとわりつく煙幕を払い除けようと、苛立たしげにその場で暴れていた。
そこに、どこに持っていたのか白いガスが入った瓶を、コサイゴンに向けて投げるウィン。
瓶は暴れるコサイゴンに触れて割れると、中に入っていた白いガスを撒き散らす。
アクアが放った二発目の砲弾は左前足へと。
が、暴れるコサイゴンに避けられて荒野に小さな爆発を起こしただけだった。
エティアの方の砲弾は、寸分違わず同じ場所に着弾し爆煙を上げていた。
『ごめーん、スイミン品切れかも!』
『だから、この間補充忘れないでって言ったでしょう!』
『アクアがしてくれるかな~って?』
「ナヴィのは管理してるけど、ウィンのは知らな……ウィン!」
エティアの物よりも大きな咆哮と共に、コサイゴンの背から生えた主砲から砲弾が吐き出される。
『やばっ!?』
見えない苛立ちからの砲弾を、咄嗟に横に跳んだ事で避けたウィン。
一回二回と転がりながらも、何とか体勢を整える。
ウィンを援護するために放たれた弾と砲弾が、今度は二発共が左前足に直撃する。
「ウィン! 大丈夫か!?」
ガイアウォーカーで飛び跳ねながらやって来たナヴィが、ウィンの腰を掴んで抱き上げると、その広くはないウォーカーの背に座らせた。
予想よりもかなり軽かった事を不思議に思ったナヴィだが、きっと火事場の馬鹿力だろうと結論付けた。
「ありがとー、ナヴィ! でも、せっかくの初陣なのに目立ってないよね?」
明るく笑顔で言われる。
「ニセンイチローのバットで殴りに行け……と?」
背中に背負ったバットを示しながら言うナヴィに、ウィンはサムズアップで応える。
「きっと伝説になれるよ!」
「なれるな! “金属バット片手にサイゴンに挑んで死んだヒヨッコ”ってな!」
「良かったね!」
「良かねぇよ!」
『二人とも漫才は後で。煙幕がそろそろ切れるから、その前に左前足を狙って動けなくする。その後で、急所をエティアに砲撃してもらってトドメ。もしくは、スイミンが効いてくれれば良いけど』
ウォーカーに乗って、コサイゴンから離れながら喋っていた二人だが、そこにアクアから通信が入る。
「トドメ……か。何か可哀想だよな」
ポツリと。
『ナヴィ、その考えは危険』
「アクア……」
「それで躊躇うなら命を落とす。それを続けるなら、帰った方が良い。わたし達が躊躇すれば、その分誰かが犠牲になる。今は……そういう世界だから」
「……分かってる。分かっているさ。俺達は、ハンターなのだから!」
アクアの珍しく力の入った言葉に、ナヴィもまた変な考えをしてしまった自身を叱咤する様に。
「悲しい時代だよね。でも、ボクは……ボク達は振り返らずに進むんだ!」
鋭利なバイオ魚のヒレで出来た刀を構えながら――ただ、真っ直ぐに前を見つめてウィンが。
『そうね、私達一人一人、希望を託されて……生き残る希望であるモンスターハンターになったのだから。父様達がしたように、辛い思いをする人を減らすために!』
Cユニットを操作しながら、モンスターハンターという言葉の意味を噛み締めながら、砲弾を装填するエティア。
『ここから……わたし達の本当のスタートは、今から始まる。悲劇と悲しみを』
どこかアクアもバズーカをゆっくりと構えながら。
「誓ったんだ。道を継いで、更に延ばすって。ここで、止まれるかーっ!」
ウォーカーに備えられた、目立つ大きな大砲の下から伸びた小さな主砲――ホッパーキャノンが放たれる。
煙幕が晴れて、憎々しげに視線を――手痛いダメージを与えたと思える、エティア達の方へと。
そこに放たれた気迫のこもった小さな砲弾は、しかし無情にもまだ成体ではないにも関わらず、コサイゴンの硬い皮膚に弾かれた。
次に、睨んでいた方から飛んできた弾丸を意外に身軽な動きで避けたが、砲弾の方は避けられずコサイゴンの身体を爆発が包み込む。
よろけた身体を、震える四肢で踏ん張って戦車に向けて主砲を撃ち返す。
向かってくる砲弾に、アクアは旋回して回避行動を取るティーガーから飛び下りながら、バズーカから弾を放つ。
驚異的な狙いで弾は砲弾をとらえたが、迎撃は出来ず――だが狙いを逸らす事は出来た。
砲弾が逸れた事を確認し、そしてアクアの表情が固まる。
更なる砲撃をしながら、角を突き出し突進してくるコサイゴンを見て。
ティーガーは回避行動を取るのに精一杯で、砲塔を向けようとはしているが――エンジンにもよるが砲塔の旋回速度は元々余り早くは無い。
アクアはバズーカをその場に躊躇無く投げ捨てると、スカートの裾から手を入れ――太股の辺りに巻いていた黒い金属製の鞭を引き抜いた。
「エティア、焦らず狙いを」
『分かったわ』
ただ、それだけの会話。
簡潔な会話を終えると――アクアは自ら、ウィンにも劣らない速度でコサイゴンへと突っ込む。
「――フッ!」
左側面へと回り込みながら、気合いと共に大きく振り回した鞭を――徐々に赤みがかったそれを、傷痕残る前足に叩き付ける。
赤い光のラインを描きながら振るわれた鞭は、弱っていた皮膚を易々と切り裂いていく。
『お前達みたいな、悲しい生き物が生まれない様な世界の一歩を築いてみせる! だから今はっ!』
「その未来の為の、障害はわたしが排除する」
通信機能を切っての小さな一言は、続く音にかき消される。
足が動かなくなった事に苦痛の声を上げていたコサイゴンの顔面に、上からコサイゴンの近くへと跳び下りてきたガイアウォーカーの――一発だけの主砲が、未来を誓うナヴィの言葉と共に咆哮を上げる。
至近距離からのその一撃が伴う衝撃で、その巨体が大きく傾いた――ティーガーの射線上に左側面を見せる形で。
ウォーカーは砲撃後すぐに、アクアを乗せてその場を離脱している。
荒廃した世界で、人類の牙たる戦車から放たれた砲弾は、三度……同じ場所を撃ち抜いた。
その巨体はついに倒れ伏すが、残された力を振り絞りって背の主砲の狙いをつけようと――。
「だから今は……おやすみ」
空からコサイゴンの近くに舞い降りてきたウィンが、うつむいたまま――生命活動の中枢部分に刀を深々と突き立てられ、動かなくなった巨体に向かって言葉をかけた。
コサイゴン:賞金首モンスターであるサイゴンの子供と目される同種のモンスター。近年になって複数の個体が目撃される様になり、賞金首から通常のやや強めのモンスターへの変更が検討されている。
ドロップ:コサイゴンの角、九五ミリサイガン
某スクラップなヴードゥーが通常雑魚で出てきた衝撃→奇襲→全滅