メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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その6 ロストメモリー

 

 

 刻一刻と状況は悪くなる一方だった。

 

 赤の非常灯が照らす陸上戦艦エアのブリッジ内では、鳴り響いていた警報は最早不要とばかりに誰かの手で切られた後、艦内の状況や他部所へ伝達する声が途切れる事無く続いていた。

 

 そして、それらの全てがブリッジに居るメンバーにとって、良くない知らせばかりであった。

 

「左舷後方、被弾! 火災発生! 消火には向かっています!」

 

「陸軍本部との通信は完全に途切れました。一番艦ティアマット及びその他分隊、基地とも通信は繋がりません」

 

「えと……機密ブロック兼第一脱出艇は、探査遮断システムを使用しながら研究所に向けて発進しました!」

 

「こちら側の無人航空戦力の五割は撃墜されてました~。あちらは六割です~。後、白旗の準備は出来てます~」

 

「白旗上げても、無理だろうけどね。多分、ノアに乗っ取られた無人だろうし」

 

 後方から迫る幾度目かのチュウニからの砲撃の際、自らが座る艦長席のコンソールに強かに打ち付けた額からの止血をしながら、若き艦長はそう呟いた。

 

「エアの迎撃システムは自慢の設計だったんだけどな。チュウニの火力が強すぎたか」

 

「仕方がない部分はありますな。普通の艦や戦車程度であれば防げたのでしょうが、長距離砲撃特化に設計されたチュウニでは」

 

 二メートルを超える身長の副長が、揺れるブリッジ内で直立不動を保ったまま、艦長にそう返した。

 

 ブリッジ内のメインモニターの一画には、被害状況を知らせる表示があるが、それが増えることは有っても減ることは無い。

 

 それを見つめながら副長が口を開いた。

 

「さて、艦長。どうしますか?」

 

「あんなものを連れて研究所に向かうわけには行かない。SWシリーズが起動される前に、チュウニを破壊、もしくは停止する」

 

 この状況の中で、そう若き指揮官は宣言した。

 

「スリープ状態のGシリーズは、機密ブロックと共に既に研究所に向かわせた今。エアの放棄も視野に入れる。残りの乗組員も脱出艇に移動せよ! そして、ウイング達三人をチュウニへ。SWシリーズが起動する前に、チュウニのシステムを止める」

 

『了解。指示が来るのを待ちくたびれたよ』

 

 ブリッジ内の通信システムから、少女らしきやや高めの声が聞こえてきた。

 

 その声に艦長は苦笑を浮かべる。

 

「仕方ないだろう? 君達、特に“その子”が僕達にとっての切り札。しかも、切れるのは一度だけ。二度目を切る頃には全滅してる。タイミングがを見極めないとな」

 

『難しい事は良い。泥船に乗ったつもりで凶報を待ってて』

 

「うん。色んな意味で駄目だな。だが、頼むぞ三人共」

 

『『了解』』

 

『分かりました』

 

 通信を終えると艦長は副長に視線をやり、それに副長は頷きを返すとブリッジ内を見渡して、声を張り上げた。

 

「ブリッジクルーも脱出艇の方へ移動せよ!」

 

「え……え!?」

 

「えーっ!?」

 

 声を上げたのは数人。比較的経験の浅いメンバーばかりだった。

 

 予想外の指示に狼狽える後輩達に、経験の長いメンバー達は先に行くように声をかけていた。

 

「で……でも、先輩達が!?」

 

「そうですよ~……先輩達を置いては行けません!」

 

 口々にそう言う後輩達。

 

「大丈夫よ、私達は慣れているから。でも、あなた達はまだ私達と同じ事は出来ないでしょう? だから、先に行っていなさい。ね?」

 

「それに、みんなにまだいくらか貸していた筈よね? 何かあったら困る」

 

「そうそう! 後から私達に追い抜かれたら、罰金で追加されちゃうぞ? 今なら私が運転してるから、楽に走れるよ!」

 

 逆に尊敬している先輩達に言われて、躊躇いつつも一人また一人とブリッジを離れていく。

 

「せ……先輩達、艦長、副長! ぜ、絶対に来てくださいね!?」

 

「約束ですよー!?」

 

 出ていく後輩達に、ブリッジに残ってるメンバーは笑みを浮かべて見せる。

 

「みんなにはまだまだ教えることがありますからね。頭を柔軟にして幅広い思考を持つ訓練もするから、楽しみにね?」

 

「周りが慌てる時ほど落ち着いてね。今何が必要か、常に考え、考えることを止めないで」

 

「ほらほら、早く行った行った! すると決めたら出前迅速、電光石火!」

 

「出前、今もあるか? まぁ、今は僕達に任せて、君達は先に脱出艇に行きなさい」

 

「研究所に着いたら、美味い茶を淹れてやろう」

 

 それらの言葉を受けて駆けて行く後輩達の背を、自動で閉まるドアが隠した。

 

「エアに乗ってから、慣れる程退避訓練なんかしていないだろう?」

 

「あら、そうでしたか? 嫌ですわ、艦長。お忘れになって」

 

「……って、僕か!?」

 

「あの者達にも貸していたのか?」

 

「貸していましたが、艦長にツケました」

 

「どうして僕に!? おかしいと思ったんだよ、借りた覚えが無いのに借用書は増えてくし。食事はおごらされるし」

 

「艦長ー? 変と思いながら払うから余計かと!」

 

 ひとしきり話した後、艦長は「すまない」と頭を下げる。

 

「万が一の時は、君達の命を僕にくれ」

 

 頭を下げる艦長に向けて、操舵の者以外の三名は敬礼で応える。

 

「承知の上ですわ、艦長」

 

「高く買ってね」

 

「どこまでも案内します!」

 

「ははは、お供しましょう。そう言えば、とっておきのお茶が……」

 

 付き合いが長いメンバーで構成されているエアのクルーの中でも、特に長い五人。

 

 彼らからは死ぬことへの恐怖は感じられい。仲間達と、ちょっと違う旅に出るかもしれない。その程度の認識だった。

 

「ああ、ウィナ操舵主?」

 

「艦長、何でしょうー?」

 

 相変わらず、自動に切り替えた迎撃システムを掻い潜って後方から迫る長距離砲撃を、傷付いた艦で避ける。

 

「君をサンプリングモデルにした子が言っていたあれだが、やはり泥船と凶報はいかんよ」

 

「ええっ!? 私じゃなくて、あの子に言って下さいよ!」

 

 

 

『――頼むぞ、三人共』

「「了解」」

 

「分かりました」

 

 各々が耳に当てていた片手を離して通信を終えるが、その手には通信機らしき物は何も持っていない。

 

「03 策はありますか?」

 

 問いかけたのは、やや暗めの赤色の髪と瞳をした生真面目そうな少女。

 

「似た状況を例示したシミュレーション通り。01 は私をチュウニまで運び、02 あなたは障害があれば随時排除を」

 

 答えたのは、小柄で澄んだ海を思わせる少女。

 

「分かりました」

 

「二人共、行くよ」

 

 二人の前に出て宣言したのは、爽やかな空を思わせる背の高い少女。

 

 そのまま三人は待機していた外に繋がるハッチを開くと、飛び出していく。

 

「GWーX01 SYSTEMーWING startup.

 

Under starting.

 

It connects with the system air of a mother ship.

 

Under connection.

 

Connection completion.

 

It checked that all the systems had started normally.

 

All weapons can also be used.

 

GWーX01 SYSTEMーWING startup completion」

 

 少女の口から漏れたのは機械音声。

 

 しかし、それと同時に少女の身体を微かに光が包み込み……

 

 一秒にも満たぬその間に、その身を白と青で塗装された外装が包んでいた。胸部の丸いクリスタルが、エメラルドの様に鮮やかな輝きを放つ。頭部も装甲が覆うが、顔はそのままオープンにしていた。

 

 その名の通りの外装の背面部分にある翼状の物を広げ、海の少女を抱えて大空へと舞い上がる。

 

「GW-X02 SYSTEMーEPYON startup.

 

Under starting.

 

Then, the ηーprogram of system air is accessed.

 

Under connection.

 

Connection completion.

 

A system link with an arsenal is also completed.

 

It checked that all the systems had started normally.

 

All weapons can also be used.

 

GW-X02 SYSTEMーEPYON startup completion.

 

It was ready for eliminating all targets」

 

 同様に僅かな時間の光に包まれて、02と呼ばれた少女の身体も、暗赤色と暗灰色の特殊な外装に覆われる。

 

 身軽そうに高空を行く少女の物とは違い、背面の翼や胸部の緑のクリスタル等の似た構成はされているものの、その外見は鋭角部分が多いなどで細部は異なっている。さらに力強さを感じさせる厚めの装甲を纏い、こちらはやや低めの中空を進む。

 

「先に行く!」

 

 上を行く二人に、先程までと違って勇ましく一声かけると、翼を大きく左右に展開して一気に加速……フェイス部分も完全に覆われて、緑色のツインアイが一際鋭い光を放った。

 

 左腕の独特な形状をしたシールドを構え、右手は右腰部からコードで繋がった剣の柄の様な物を引き抜く。

 

 そのまま加速を続け、相手の猛攻を受けて三割以下にまでその数を減らした、こちら側の残存戦闘機群を一気に抜き去る!

 

 みるみる敵の航空戦力へと近付いていく彼女――迎撃しようと無数の機銃から放たれる銃弾の嵐を、盾で身体を庇いながら身を捻って縦横無尽の動きで避け、次々と飛来するミサイル群はその隙間を縫うようにして、いつしかその身体は雲を引いてひたすら前へと……

 

 右手の柄からは、彼女の身体よりも大きな光の刃が形勢され――

 

「全て排除する!」

 

 さらに大型化した光の刃を一閃!

 

 翼を斬られた機体はその衝撃でバランスを崩し、そのまま近隣の他の機体を巻き込みながら墜落し、胴体部分を斬られた機体はその切断面からゆっくりとずれていき、やがて地と空で順次爆散していく。

 

 航空戦力を次々と削りながら徐々に高度を落とし――ノアから派遣されたのであろう人類抹殺を掲げる陸上機械戦力、そのやや大型の戦車タイプの頭上から、シールドから伸びた伸縮自在の高熱を帯びた鞭を突き刺すと――

 

「ははははは! 貴様らなど必要ない、全て消えろ!!」

 

 雄叫びと共に鞭を刺したまま車体を引きずると、他の陸上戦力が固まっている辺りに向けて投げつける。

 

 激しく、重い金属同士がぶつかる音が轟き渡ると、連鎖的に爆発が発生――それを背景にして彼女の装甲の数ヵ所が開いて、そこから排熱が行われる。

 

 空を見上げれば、敵機の射程外――探知妨害の効果の元、遥か高高度から目的の場所へ急降下しようとする、仲間二人の姿があった。

 

「頼むぞ……お前達の道は、私が斬り開く!」

 

 排熱を終えると、再び翼を大きく広げ、二人の進路の邪魔になりそうな敵の元へと――

 

 空からの爆撃によって地表を覆う土煙、それを突き抜けて光の刃を振り上げる!

 

「はああぁぁーーーっ!」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「おおおーーーっ!」

 

「うるさくてよ!」

 

「――ぶふっ!?」

 

 顔面に、突如襲いかかった柔らかい物の感触で目を覚ました少年――ナヴィ。

 

 顔の上のそれ――枕を脇にどけて、いきなり浮上させられた意識と、ぼんやりとした頭で辺りを見渡す。

 

 夜明け前の暗い室内。

 

 この辺りの中心、バーイショの街にある宿屋『燃える手のひら』亭……の松の部屋。

 

 広くて、華美なインテリアが置かれるなど、力の入れ具合が分かる室内――の床で、眠っていたナヴィ。

 

 二つあるベッドの内の一つで上半身を起こしているのは、エティア。

 

 暗い室内でもはっきりと分かる輝く金髪と――半分据わっている、暖かな太陽を思わせる筈の目。

 

 今もその目には熱が込もっているが、それは暖かな太陽……ではなく怒りによって。

 

 視線を下に向けていけば、普段はコートなどで隠されているが寝間着の上からでもはっきりと分かる胸と……ショットガン。

 

「ショットガン?」

 

 欠伸混じりに呟く少年の前で、半眼の少女は銃を持った腕を振り上げ――

 

「早く寝なさい!」

 

 躊躇なく投げ付けた。

 

「(そういや、エティアって寝起き悪かったな)」

 

 再び闇へと沈む意識の中で、ナヴィが思ったのはそんなことであった。

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