メタルマックス 未来への砲口   作:ショウマ

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修正及び加筆しました。


その7 バーイショにて 前編

 

 

 バーイショの街に幾つか存在する宿屋。その内の一つが、ここ『燃える手のひら』亭。

 

 老主人と若夫婦が切り盛りしているこの宿屋は、多くの宿と同様に一階が飲食が出来る酒場、二階以降が宿泊施設となっていた。

 

 出される料理も独特の味付けがされており、訪れた宿泊客の胃袋をしっかり掴むことで、脅威の数のリピーター客を確保している。

 

 屋上には宿としては珍しく修練場があり、以前に武術をたしなんでいたらしい老主人が認めた者には、そこで技術指導が行われているという噂がある。

 

 ナヴィ達四人がここに泊まっているのも、以前この街を訪れたナヴィ以外の三人……とりわけ、ウィンが始めてここを利用した際に気に入ったからである。

 

 武術云々には興味が無いエティアや、泊まれればどこでもというアクアにも料理が好評だったため、結果仲良くリピーター客と化していた。

 

 そんな、『燃える手のひら』亭の四階にある松の間。

 

 二階の梅や三階の竹の間と違って、インテリアやベッドなど、居心地や寝心地を第一に設計されていた。

 

 もちろん他の宿の竹の間がそうであるように、蚊の存在は認められない。

 

 もっとも、この宿では蚊の生存権は得られていないらしく、老主人とその弟子の若主人に全て撃退されるそうである。

 

 閑話休題。

 

 カーテンの隙間から射し込む朝日を受けて、意識が覚醒に向かう。

 

 眼を開けて、ボーッとした頭で天井を眺める。

 

 普段、人前で見せているきびきびとした動きとは真逆の、のろのろとした動きで上半身を起こし始める。

 

 起き上がった拍子に、キラキラと輝く――母と同じく黄金の河と評される髪が、今は輝きもどこか力なく前に垂れてくる。

 

 しかしそれを直すことなく、太陽と評される目は、未だ朝日に至っていないようだ。ボーッと虚空を見つめている。

 

 規則正しい彼女は、毎朝起きる時間もほぼ変わらない。

 

 起きても意識があるかと言えば、また別問題である。

 

 数分程そうした後、エティアはゆっくりとした動きでベッドから下りる。

 

 そのままフラフラした動きで、この宿の松の間にのみ備えられた浴室に向かう。

 

 途中で何かを踏んでも、今の眠れる“太陽の娘”が気が付くことはなかった。

 

 

(しばらくお待ち下さい)

 

 

 浴室から出て、黄金の輝きを取り戻した髪の毛の水気をタオルで取りながら、ふと足を止めて太陽の輝きを放つ目を足下に向けると、それは不可解なものを見る視線に変わる。

 

「どうしてナヴィが私のショットガンを顔に乗せて寝てるのかしら?」

 

 枕元に置いてあった筈よね……と言いながら、髪の水気取りを再開する。

 

 ベッドに戻って、一緒に休んでいたアクアの肩が出ているのに気付き、布団を掛け直す。

 

 静かに寝息を立てているアクアに優しい笑みを浮かべると、視線を動かす。

 

 部屋に二つ置かれているベッド。もう片方はグチャグチャに乱れた状態で、もぬけの殻。

 

 それについては、エティアはもう何も言うことはない。

 

 トラブルさえ起こさなかったら良いわ、とだけ思っていた。

 

「とりあえず、ナヴィが起きる前に着替えましょうか」

 枕元に纏めておいた手荷物から、すぐに手が届く位置に用意してあった物を取り出す。

 

 床で白眼を向いたまま気持ちよく寝ているナヴィを踏まないように気を付けて、エティアは再び浴室へ向かった。

 

(老師! 弩級覇王翔吼拳が出ません!)

 

(馬っ鹿もん! まだまだ修行が足りぬわ!)

 

 どこからか聞こえてきた声に、エティアの足が動きを止める。

 

 こめかみを軽く揉み解し、良し! と小さく呟く。

 

「空耳ね」

 

 

 

 四人の中で一番に目覚めるのがエティアなら、最後になることが多いのはアクアである。

 

 ただ、それは家や特定の宿だけに限られており、護衛の依頼を受けて夜営をした際はほとんど寝付けないらしく、襲撃があった際はその知らせより早く飛び起きて戦闘に参加していた。

 

 ウィンはその日その時で差が激しく、徹夜をしたり一日中寝ていたりと、不規則極まりない生活を送っている。

 

 よって、二番目に目は覚ますのはナヴィになるが、彼の場合は『起きる』よりも『起こされる』方が多かった。

 

「ナヴィ、そろそろ起きなさい!」

 

 エティアが起きて二時間。着替え終わり、いつもの赤いロングコートの上から両腰に手を当てるエティアが、ナヴィに起床を呼び掛ける。

 

 昨日の旅立ちに加えて初の実戦、さらに賞金首との戦闘と……もうしばらく寝かせておこうとも思ったが、次に備えての準備を整える必要もある。

 

 自分達三人だけでしても良いが、ハンター希望の道を進むなら、ナヴィにも早く慣れて欲しいという思いもある。

 

 数回呼び掛けても起きる要素の無いナヴィに、エティアは溜め息を吐くと、彼の耳元に口を近付ける。

 

「起きないと、ウィンかアクアに起こさせるわよ」

 

「それだけはやめろーーーっ!?」

 

 囁き一回で、慌てて少年が飛び起きる。

 

 その弾みで、顔の上にあったショットガンが布団の上に落ちた。

 

 それを拾い上げながら、エティアが呆れた様にキョロキョロと周りを見渡しているナヴィを見ていた。

 

「おはよう、ナヴィ。試しで言ってみただけなんだけど、あの子達何したの?」

 

「ん……あ、ああ、おはようエティア」

 

 言われてようやくエティアに気が付いたようだ。かなり近くにいた彼女に驚きつつも、寝起きが良い彼はしっかりとした声で、挨拶を返す。

 

「それで、あの子達はどういう起こし方をしてるのよ? ウィンはともかく、アクアはそんなに変な起こし方はしないと思うけど」

 

 アクアという少女は非常に淡白である。ウィンの様に羽目を外すこともなく、淡々とそつなく仕事をこなしていく。

 

 支出や収入などの管理を担当しているためそういった面では厳しく、さらに怒るときも表面上では何も変化を示さない。

 

 静かに怒る。静かな水面が、水面下では荒れに荒れて、それは手段となって現れる。

 

 ウィン曰く「しつこくネチネチ延々と、どこが悪いかを口で語りながら、それ以上に手が動く」

 

「起きない程度では、あの子そんなに怒らないでしょうし」

 

 エティアは見たことない(昨日のバケツ等は特に怒っていないため)が、ウィンから話は聞いていた。

 

「アクアはな、耳元で銃の撃鉄を起こすんだよ……前は、あのバズーカのセーフティを解除だぜ? 悪寒がして毎回目が覚めるが、起きなかったらどうなってるやら……」

 

「もちろん発射」

 

 思い出した所為で浮かんできた冷や汗を拭うナヴィに、ベッドの上から声が飛んできた。

 

「あら、アクア。おはよう」

 

「おはよう、エティア」

 

 いつの間にか体を起こしていたアクアは、手帳を開いて中身を確認していた。

 

「おはよう……ってか、発射する気だったのか!? 死んだらどうするんだ!?」

 

「獣の生存本能を信じるしかない。この世界で生きるには、それを磨かないと。私はあなたの成長を促すために、仕方なくしている」

 

 少年の抗議もどこ吹く風で受け流す。

 

「エティア。補給と賞金の受け取り、買い物、次の場所を選ぶ情報収集で良い?」

 

 まだ続いている抗議を無視して、エティアに話しかけるアクア。

 

「ええ、それでいいわ。出来れば旧文明の施設の話が聞ければ良いけど。直接戦車の話でもいいけれど、大抵デマよね……」

 

「狙えるならハンターがとっくに狙ってる。戦車を造れる技術者の話も時々聞くけど、あだ名が云々のおかしなものしか無い。戦車を狙うなら、施設の未発見エリアの方が可能性は高い。それも基地」

 

 エティアの話にアクアも同意を示す。

 

 今の時代、戦車などを生産出来る環境はほとんど残っておらず、あるとしてもノアの人類抹殺軍団の物だけという説もある。

 

 大規模な工場などは破壊され、個人で生産ラインを持つ者もいるらしいが、どれも眉唾な話しか聞かない。

 

 この時代で貴重な戦車を造れるなら、莫大な資産をもたらす物でもある故に、もっと広まっていても良いはずだ。

 

 お金に興味が全く無い博士も居るかもしれないが……

 

 少なくとも、個人でしっかりと戦車を造れる確実な情報を、今まで彼女達は聞いたことが無かった。

 

「可能性が高いのは基地だけど、戦車を降りて戦うのは不安ね。私もだけど、ナヴィも」

 

「だから、防弾用のプロテクターを幾つか買っておいた方が良い。他の街で情報を得ても、そこで装備が揃うとも限らない」

 

「その点、ここなら大抵は揃うわね……それでいきましょう。私とウィンでティーガーの補給に向かうから、あなたとナヴィでハンターオフィスをお願いね。人間用の装備の店で合流しましょう」

 

「了解。良いものがあれば、Cユニットも買うと良い」

 

「ええ、そうするわ」

 

 二人で打ち合わせを終えると、喋り続けて息切れをしているナヴィに視線を向ける。

 

「ということでナヴィ? 早く着替えて下さる?」

 

「私も着替える。それにそろそろ……」

 

 アクアが言いかけた時、派手な音と共に部屋の扉が開け放たれた。

 

 そのままダカダカと部屋に入ってきたのは言わずと知れた、メンバーの一人。

 

「みんなー! 早く起きてご飯に行こうよ! ナヴィ、まだ起きていないなら、人間魚雷遊覧船コースだよ!」

 

 両サイドにスリットが入った、どこかの女性用民族衣装を着たウィンの、いつもの様に明るい声が松の間に響いた。

 

「起きてるよ! ってか、俺の扱い酷いだろ!?」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 

「チクショー……ここでも登録できねぇとか」

 

 ハンターオフィスの建物から出てくるなり、ナヴィは嘆きの言葉を吐き出す。

 

 ――美味しい食事を終えた後の幸福感が、あっという間に消えた感じがする。

 

 そんな想いもあって、エラー表示を出したコンピューターに振り返って恨めしそうな視線を向ければ、それを遮るかの様に視線の高さの部分だけが半透明のガラスになった鉄製のドアが閉ざされる。

 

「ナヴィ。あなたどこかで呪われたか、もしくはわたし達に内緒で旅行にでも行った? この間、わたし達が護衛の依頼で数日家を開ける時、チラシが入っていたはず。金輪際グループの格安極楽旅行」

 

 続く出来事に、ナヴィに同行している小柄な“海の少女”は、不審そうに兄貴分を見つめる。

 

 

「行ってねぇよ! 大体、うちにそんな金が無いことは、お前が一番知ってるだろうに」

 

「確かに」

 

 ナヴィ達の家の家計簿と、パーティーの財務を兼ねている担当者にそうあっさり頷かれると、それはそれで納得出来ない気持ちになる。

 

 ナヴィは嘆息一つ、建物に入る前に取り、手に持っていた帽子を被り直す。

 

 それは出発前にウルフェア――エティアの父にしてナヴィも尊敬しているハンターの一人――から貰った、ナヴィの髪や瞳の色に合わせてくれたのだろう灰色のゴーグルキャップで、これだけは彼もずっと使いようと思っている。

 

 そして、この街に初めて来たナヴィに代わってアクアが前を歩き始め、彼ははぐれないように気を付けながら、その後をついて行く。

 

 商業都市の名の通り、この辺りで一番の盛況さを誇るここは、ナヴィ達の故郷であるムーセムの街より断然活気が違った。

 

 このバーイショの街は、街を取り囲むバリケードも含めれば、空から見ると丁度漢字の田の字に見えると言われている。

 

 東西南北にある四門を繋ぐ、十字のメインストリートには様々な店が面しており、中には流れの商人……トレーダー達専用の区画も用意されている。

 

 生活必需品はもちろん、珍品やがらくたにちょっと変わった品物まで。メインストリートを見て回るだけで、『使うつもりが無かった財布の紐すら緩んでいた』というのは、この街では良く聞く話である。

 

 大通りに行くなら目的を持って、その店だけを目指せ!

 

 無目的に行くなら財布を持つな!

 

 置いていった財布をユーシャ様に盗られたら諦めろ!

 

「いらっしゃい、いらっしゃい! 汚染された海で獲れたピチピチの奇形魚だよー! 今が旬! 美味しいよ!」

 

「皆さん! 今の時代、信じられるものは何か!? それは、誰しもが持ち日常的に使うもの! そう、あなたの筋肉です!」

 

「アタクシ達の賞金が安すぎるザマスー!!」

 

「酒代を、払えねーよーな野郎に飲ます酒は置いてねーんだよ! 田舎者は帰れ帰れ!」

 

「新鮮な死体はねぇがー?」

 

 種々様々な叫びがあちこちから響き渡り、それに負けず劣らず通りを往く人々の声で溢れている。

 

「なぁ、何か変な叫びも混じってないか?」

 

「ここはいつもそう。余り気にしない方が良い」

 

「そうなのか」

 

 肩口までの青い髪を揺らしながら前を歩くアクアからのそっけない返事を聞くと、ナヴィは本当にここは賑やかだなと一人ごちる。

 

 ハンターオフィスで、この街に来る途中に倒したコサイドンの賞金を受け取り、二人は別行動中のエティアとウィンとの合流場所である、南東部の人間装備屋に向かっている。

 

 ハンター……戦車関連の施設が多い北西部よりも、南東部にある商業エリアの方が良い品物を置いてある事が多いためである。

 

 それは生産されてすぐに直営店に並ぶ為でもあるが、必ず大通りを通るように区画分けされたという説もある。

 

 北東部は民間人エリアとなってはいるが、南東部にだけ用事がある戦車乗りでは無いハンター……ソルジャー達を狙った宿屋も少ないが存在しており、それらは北西部に比べると割高な料金設定がされている。

 

 もちろん北東部だけにしか民間人が住んでいない訳では無く、それぞれの区画に配置された自警団(本局は南東部、北西部はオフィスに隣接)やハンター達に守られるような形となっている。

 

 ちなみに余談だが、歓楽街は南西部に多く配置されている。

 

 人々の熱気で息苦しさも感じたため、迷彩服の両方の袖口を捲り上げて、襟元にも指を入れて少し隙間を作る。

 

 その間にあることに気が付き、アクアへ疑問を口にする。

 

「なぁ、アクア。そのメイド服って一着しか無かったんじゃ? 昨日、破れて無かったっけ?」

 

「違う。あれは戦闘用で、これはムーセム以外の街着用。酒場のバイト用も別にある」

 

「あ……なるほどって、見分けが付かない服を何着も持ってたのか!?」

 

 

「見た目がちょっとずつ違う。同じように見えて、実は別の機能がある……かもしれない。他にも」

 

「あ~……いやいい。口で勝てるとは思わない」

 

 パッと見た所で彼には違いが分からず、もし何かを言った所で彼女には上手く言いくるめられる。長い付き合いでそれを知っているため、ナヴィはアクアへの追求を早々に諦めた。

 

 色々な品が置かれた通りの店へと興味を示すナヴィに合わせて、アクアはガイド代わりをしながら歩調を僅かに落とす。

 

 並んであれこれ話を続けながら歩く二人が、中央広場の入り口に差し掛かった時。

 

 何やらそこの中心に大勢の人々が集まり、喧騒と共に輪を作っていた。

 

「何だろ?」

 

 目立つ場所のため、その光景は当然二人の視界にも入ってくる。

 

 自分よりも詳しいアクアに訊ねると、そちらを見て暫し考える仕草をした後、もしかしたらと思い至った事を口にする。

 

「ここの商人か流れのトレーダーが、普通の店では扱えない品物を売っているのかもしれない」

 

「例えば?」

 

「戦車」

 

 

「おいおい、おちょくってんのかい? 戦車だぜ、せ・ん・しゃ! 顔洗って出直して来な!」

 

 輪の外へ二人が近寄ると、資材を組んで作ったらしい高台の上にソルジャー風の武装をした女性が座り、喧騒の中にあってなお聞き取りやすい威勢の良い喋りを発していた。

 

 その売り物は。

 

「でけぇ……!?」

 

 遠目にも分かる程の大きさ。

 

 女性の横に見える放物曲面を持つ凹型の物は、主砲かSーE――特殊兵装かは分からないが、エティアの乗るティーガー等の一般的な戦車とは、明らかに様相が違っていた。

 

「あれは……ナヴィ肩車」

 

「ん? おう。……よいしょ……っと。この間の戦闘の時も思ったが、ウィンとお前は軽すぎるぞ。やっぱりもっとしっかり食べ……グエッ!?」

 

「心配してくれるのは嬉しい。けど、余計」

 

 ヒョイとばかりに軽々と持ち上げながら、妹分達のそれが心配になったナヴィだが、最後は口から悲鳴が漏れる。

 

「大破壊以前から、女性の体重を気にした者は処刑……らしい。わたしは気にしないけど、エティアの前では言わない方が良い」

 

「き、気にしないと言うなら首を締めないでくれ」

 

「ナヴィがうっかり口にして、処刑されないようにしてあげてるだけ」

 

 スカート越しに太股でナヴィの首筋を締めたアクアは、ポケットから小さな手のひらサイズの何かを取り出した。

 

 白くて丸い機械部分を左耳に当ててセットしスイッチを入れると、そこから薄いカラーレンズ状の物が伸びて左目を覆う。

 

 四人も使っているiゴーグルの簡易版であり、ハンタースカウターと呼ばれるアクセサリーに分類されている一種。

 

 iゴーグルと違い様々なセンサー機能は登載されておらず、通信機能とハンターオフィスから提供されている情報だけを閲覧出来る。

 

 あくまでも、オフィスが提供する一般品は。

 

 これはナヴィの母にして、アクアとウィンの保護者である“未知の解明者”魔カニックのリスポラが、『片手間に』改良した物である。

 

 オフィスからのものだけではなく、(偏りはあるが)様々な情報が掲載されており、使い方を知っていれば新たに追加することも出来る。

 

 リスポラからアクアにプレゼントされた品であり、彼女はこれをとても大事にしていた。

 

 視界を確保したアクアが戦車を見つめると、付けている彼女にだけ分かる文字列が、左眼を覆う青いレンズ面に表示される。

 

「照合、66式メーサー戦車。本来はミサイル迎撃用に開発されたらしく、あの目立つパラボラは射撃レーダーを兼ねた照射装置で、武装はその十万ボルト相当のメーサー光線兵器が一基。それを搭載した車と、牽引する装甲車からなる二両編成」

 

「へ~、あの搭載した車だけでは駄目で、引っ張る車も要るんだな。他の戦車で引っ張るってのは駄目なのかな?」

 

「出来る……とは思う。ただ、あれは初期に製作されたタイプだから機動性に問題があり、更に肝心の照射する内蔵電源が入っていない可能性がある」

 

 アクアは一声かけると、彼の後ろ腰に括りつけているある物に片足を置いた。それを足場にして飛び下りながら説明を行うが、実際のところは触ってみないと詳細は分からない。

 

 かといって触らせてはくれないだろうし、資料にある小型原子炉というのも(本当に搭載されていたとしても)厄介な代物だった。

 

「それに、あれを照射するには後部の車にも二人ないし三人が乗って操作しないといけないから、リスクを考えるとわたし達の今の戦法と噛み合わない代物。Cユニットが適用していればいいけど、何よりもハンター稼業には余り有用じゃない」

 

 ナヴィより早く、ハンターとしての活動をしている三人には既に狩りの流れが出来ており、これを崩すやり方は現状では得策とは思えなかった。

 

 それに加え、使用出来るか分からない主武装や運用上のリスクも考えると、戦車といえど必要性の低い車となる。

 

 出来れば、確実にナヴィ一人で操作出来るタイプが良かった。

 

「今の時代の使用目的を考えると、牽引型はやはりその機動性に問題がある」

 

 一方的に攻撃出来る場面を除くと、回避することを考えずに動きの遅いモンスターを相手に、それでも使い捨て覚悟で用いる位だろう。

 

 正面でかつ仰角も狭い66式よりも、砲塔の可動域が僅かに増した70式。

 

 使用しているシステム性能の大幅な向上により、運転や照射に必要な乗員を二人にまで減らした、90式やその改型及び95式。

 

 しかしそれらの後期型でも、小回りが可能で群れで襲ってくるモンスターを始め、コサイゴンの様な一気に距離を詰めてくるタイプのモンスターにも、やはり二台分の全長が仇になりやすい。

 

 極端な例だが、サイゴン型と大型マシーン、飛行型の大型モンスターに同時に襲われ、荒野に散ったモンスターハンター達の報告も、辛うじて生き残った者達からオフィスには寄せられている。

 

 もっとも、狭いようで広いこの世界。ハンター達の中には、そんな変わった車すらも乗りこなす者も居るだろうが。

 

「とりあえず、ナヴィ。ここを離れる」

 

 珍しい物見たさに、後から後から増えてくる人から離れるようと、アクアはナヴィを促して再び歩き始めた。

 

「え、あ、ああ……おっと」

 

 思っていた以上の人の多さに、背中の荷物が他人を傷付けないようにと、向きを変えて急いで背負い直していたナヴィ。

 

「おう、ハンターの兄ちゃんゴメンよ!」

 

「いえ!」

 

 賑わう人々の関係で思うように動けず、避けきれずに時々ぶつけられたりしながらも、器用に人波の中を移動するアクアの後を追いかける。

 

 そのアクアは南西ブロックに向かっているようだ。

 

「おい、アクア。方向違うぞ?」

 

「必要になった」

 

 簡潔にそう答えると、南西部へと足を踏み入れていく。

 

 先程までの喧騒とは別の、そこには違う空気が満ちている。

 

「お……おい、アクア。まさかお前、普段からこんな所に」

 

「さっきの販売していたグループ」

 

 妖しい店を見て声をかけてくるナヴィを遮り、アクアが口を開く。

 

「衣装の一部にボムの入れ墨が有った。あれはコレデファミリーというトレーダーグループで、裏では『販売から犯罪まで』を謳い文句にしている」

 

「コレデファミリー?」

 

「証拠が無いからそこまではいっていないけど、賞金がかけられそうな位に悪い噂がある。たぶん、利用価値の低い戦車を二台分の料金で高く売りつけにきた。牽引の装甲車は使えるかもしれないけど、怪しい」

 

 そして、南西部の中央に近い一軒の酒場に躊躇なくアクアは入っていく。

 

「ん~……ぬ……っか?」

 

 

 

「いらっしゃ~……あらアクアちゃん! 良く来てくれたわね。それで、後ろのコサイゴンの角を背負った、冷や汗を垂らしてあたしを見ている坊やが、話にあったお兄ちゃんね? ようこそ、ヌッカの酒場へ! あたしが店主のヌッカよ、ヨロシクね」

 

「よ……よろしくお願いします?」

 

 カウンターの中に居た、クネクネと怪しいポージングをしながら喋る、スキンヘッドで確実に二メートルを超える黒い肌の大男を見て、ナヴィの腰は完全に引けていた。

 

「大丈夫。これでも良い人。でもヌッカ。筋肉男は苦手、寄ってこないで」

 

「あらん。もう、アクアちゃんたら相変わらず口が悪いんだからん」

 

 そう言いながらも全く気にした様子は無い。

 

「それで、今日は何の御用かしら?」

 

 アクアはメイド服の内側から、小袋を取り出し、カウンターの上に置いた。

 

 置いた時に、ジャラ……という音が客の居ない店内に鈍く響いた。

 

「12501G」

 

「緊急で戦車の情報?」

 

「コレデファミリーの戦車の情報が欲しい。出来れば、入手した場所。方角でも良い」

 

「ああ、あいつらね。良いわ。ただ、少し時間かかるかも」

 

「それで良い。お願い」

 

 ちょっと待っててと主人が奥に消えると、アクアは話の展開についていけていないナヴィに説明を始めた。

 

「ここはバーイショの歓楽街。様々な情報が入ってくる。このヌッカは元優秀なソルジャーで、あちこちにコネを持ってる。オフィスにも隠れて協力してるくらい」

 

「アクアは何で知ってたんだ?」

 

「個人的に知ってただけ。ウィンも知ってるかもしれないけど、多分忘れてる」

 

「さっきの金はパーティー資金?」

 

「さっきぶつかってきた男はコレデファミリーの人間。ああして、集まってきた人間のお金をメンバーがすってる。モンスターハンターも集まりやすいし」

 

「それで? 何か胃が痛くなってきた……」

 

「情報代分すった」

 

「もっとわりぃーーっ!?」

 

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