「それでぇ? 今日のアガリはこれだけだってのかい? 思ったより、ずいぶん少ないねぇ」
「へ……ヘェ。部下と手分けして、集まった奴らのはだいたいスッたんでやんすが」
女に男が答えているが、その声には怯えの色が強い。
“ガチャ”と低い金属音が男の耳に届く。
飛び出そうになった悲鳴は、辛うじて押さえ込められた。
「まさか、上前をはねようってハラじゃ……」
「め、滅相もない!? あっしはそんなマネはしないでやんす!」
「アンタのことを言ってるんじゃないよ! 他に、こっちの邪魔をしようって連中がいるんじゃないかって言ってるのさ!」
「あ、なるほど……しかし、居ますかね? コレデファミリーにケンカを売るような連中が」
「なに。そんときは内部犯として処理するだけさ。さて、誰だろうねぇ?」
「ヒ……ヒィッ!?」
見付からなければ、女は本気で殺すだろう。
今まで、邪魔になった者たちをそうしてきたように。
失敗した者達にそうしてきたように。
一切ためらいもせず。
それを知っているがため、男は震えた。
逃げたところで、必ず捕まる。
旅のトレーダーグループ『コレデファミリー』には、各地に有力なスポンサーがいる。
彼らの顔は広く、その情報網から逃れるのは容易ではないのだ。
そして、ファミリーの中での地位を高めていくほどに、深みにハマり抜け出せなくなっていく。
一度でも
それだけ、『死のトレーダーグループ』コレデファミリーに近付いていくのだから。
「ボス。それでいいかい?」
『アア』
それを聞いた男の震えがいっそう強まる。
幹部だけが会うことが出来る、ファミリーのリーダー。
手下に直接指示を出すこともあるが、ほとんどは今のように通信機越しである。
『ダガ モシ ジツザイスルノナラ ケセ』
あっさりと言い切る。
「聞こえたね? 捕まえるのに必要なら、多少の資金の使用は許可してやる。だから、しぃっかり探しておいで。決まった期限は設けないが、あたしが飽きるまでだよぉ?」
いつゼロになるかは分からない、命のカウントダウン。
「はっ! あなた様の右腕たるあっしにお任せを! 汚名は必ずや返上するでやんす」
命が惜しいのならば受けるしかない。
男はすぐに拠点としている場所から飛び出して、部下を呼び集めていく。
その場に残っているのは、販売していたモノよりも巨大なトレーラーと、グループが所有し使用する十台を越える戦車。
「ふふふ。物好きな好事家に、あのガラクタが高く売れたおかげでグループの大きな収入になったけど、お金はたくさんあって困るものじゃないから、ねぇ?」
『ククク。 オオキナ ハナビヲ ワタシタチハ ミセツケナケレバ ナリマセンカラネ』
「手配はしておいたわ。情報が入ったらすぐに伝えるわね」という主人に別れを告げ、ヌッカの酒場を後にしたナヴィとアクア。
二人は歓楽街らしい建物が多い南西区から東に抜けて大通りに出ると、戦車の販売をしていた中央には寄らずにそのまま南東区を目指す。
「しかし、戦車の情報なんて本当に手に入るのか? それに、コレデモファミリーがどこから来たかなんて分からないんじゃ?」
「モはいらない。それはヌッカの広い顔……顔の広さ? に期待するしかない」
ナヴィを先導しながらメイド服の少女が答える。
表の大通りには遠く及ばないが、ここにもそれなりの数の人が往来していた。
商業都市バーイショのさらに商業エリアとなっているだけあって、南東区には生産できる力を持った工場がいくつか存在していた。
大破壊当時には、ここでもノアの人類抹殺兵器を生産されようとしていた。
だが、それに気が付いた工場に勤めていた者達が奮起した。
家族を守るために、大事な工場でノアの兵器を作らせないために。
指揮系統が混乱したまたま滞在していた軍の一部隊が協力を申し出、多くの犠牲を出しつつも、もともと外部からのラインをほとんど引いていないことも幸いして、工場のシステムを停止することに成功した。
現在は外部からの線は使用せず、バーイショの街中だけのシステムを構築していた。
「それが今では、仕方がないこととはいえ一部の工場では兵器を作り出しているという」
「ん? 何の話だ?」
「何でもない。ちなみに、世界には戦車探索請負人という職業の人もいる。信頼性も必要な料金もバラバラで、どこまで信じられるかは分からないけど。巡りめぐって忘れた頃に連絡が入るかも……位の気持ちで頼むにはいいかもしれない」
「前金が必要なら、そのまま踏み倒されそうな話だな~」
いや、信頼出来そうな人ならアリか? などとぶつぶつ呟くナヴィに、アクアも首肯する。
「ヌッカじゃなかったらわたしも出してない」
「なるほどな……って、マテマテマテ。あれはお前の金じゃないだろ!?」
サラッと話したアクアに頷きかけるも、酒場での話を思い出したナヴィはすぐにツッコミをいれた。
「大丈夫。金は天下の回し者という言葉がある……らしい。“天からの刺客であるお金を有効に使え”という意味……だと思う」
「お前、それ本当にあってるか? 何かいろいろ違う気がするんだが……ん?」
「ナヴィ?」
呆れたように言っていたナヴィが、足早に脇道へと逸れていった。
そちらをアクアが見れば、キョロキョロと何かを探している小さな女の子がいた。
「また……」
困っている人を見ると首を突っ込み、頼まれると嫌と言わない兄貴分に嘆息しつつも、少し微笑んだアクアもそちらへと向かった。
「どうしたんだい? 迷子?」
「さがしてるの」
六歳くらいだろうか?
近くに家があるのかもしれないが、付近には少なくとも家族らしき者ははいないようだ。
「何をだい?」
片膝をついて女の子の目線に合わせながら、ナヴィは優しく話しかけている。
「はんたーおふぃす」
後から来たアクアと顔を見合わせる。
「オフィスを? えっと……名前は言えるかな?」
「あたし、エリーゼ」
「エリーゼちゃんは、どうしてハンターオフィスを探しているのかな?」
「ぱぱはお花のガクシャなの。どこかにいってずっとかえってこないの。ままもさびしそうだから、さがしてもらうの!」
暗い顔で話していた女の子の頭を、ナヴィはそっと撫でる。
「そうか……よし、お兄ちゃん達が探してあげるよ!」
「ほんと!?」
パァッと明るくなる女の子の表情。
予想通りの答えに、ナヴィの後ろ……エリーゼからは見えない位置で嘆息を吐くアクア。
「ああ! お兄ちゃん達もハンターなんだ。見つけたら、エリーゼちゃんが探してるから早く帰れって、言ってあげるよ」
「ありがとう! お兄ちゃん」
「なぁ、アク……あ?」
振り向いたナヴィは、ここでようやく渋い表情の妹分に気が付いた。
エリーゼに待つように言って少しだけ離れる二人。
「え、何か不味かった?」
「いろいろと」
簡潔な一言での即答。
しかし、不機嫌……というわけではなさそうだ。
「あるけど、まとめると三つ。
一つ、仲間との相談もなく引き受けたこと。
一つ、漠然としすぎで危険度が判断しにくい。
一つ、オフィスを通した依頼じゃないと、達成してもハンター評価やチーム評価が上がらない……けど、これはいい。わたし達は評価のためにハンターをしている訳じゃないから」
それにこだわらなくても、ハンターとして活動していれば評価は勝手についてくる。
ウィンは知らないが、エティアもそこは変わらない。
「だから、細かいのを外すと二つ。パーティーを組んでいるのだから、引き受ける前にiゴーグルを使ってでも仲間とは相談してほしい。それを必ず受けるとしても」
内容が内容だから、引き受けてもエティアは怒らないだろう。
アクアが重要視しているのは次の方である。
「問題なのは二つ目。オフィスを通していないから、依頼の裏が取れないし危険度が分かりにくい。それは共に行動する仲間を危険に曝すことになる……かもしれない」
「悪かった、次からは気を付けるよ。ちょっと他人事と思えなくて、つい」
そこまでは考えていなかったナヴィは、アクアの話を聞いて神妙に頷いた。
「分かってるからそっちは良い。それより……ん、あの子がいない?」
「えっ!?」
辺りを見渡し近くを探してみるものの、エリーゼの姿は見当たらなかった。
「変だな。どこ行ったんだろ」
「引き受けたことに安心して、家に帰ったのかもしれない」
姿を消したことを訝しく思いながらも、二人は探索を諦めた。
「待ってるように言ったのにな。アクア、さっき言いかけたのは? 『それより』の続き」
「わたし達のとりあえずの目標の一つ、シオンさんとリスポラさんは東。あの子のお父さんが植物学者なら、西……最近変種の生物が増えている方にいる可能性が高い」
それを聞いて考えるナヴィ。
「反対なのか。けどさ、東は父さん達が向かうくらいの地区だし、今の俺達が行っても危険じゃないか?」
「否定はしない」
「それなら、西でもうちょっと力をつけようぜ」
「わたしもみんなも反対はしないと思うけど、パーティーとしての行動指針になるからみんなと相談」
言葉を途中で切ったアクアは、スッと目を細め、鋭い視線をナヴィの背後に向ける。
アクアのその尋常ではない様子に、ナヴィも慌てて振り向いた。
そこに立っていたのは、黒いサングラスに黒いスーツを着た男。
アクアを庇うようにナヴィが立つ。
「な、何だあんた達は? 俺達に何か用ですか?」
「ナヴィ。エティアとウィンの所へ」
小さな声で、アクアはそっとナヴィに話しかける。
ナヴィの腰を後ろに引き、空いている手でスカートの下から金属鞭を引き抜く。
左目を、装着したままだったハンタースカウターが覆う。
戦闘態勢。
黒服の男達も素手で身構えている。
「二人もこっちに来るけど、ナヴィとエティアは危ない。離れていた方が良い」
「あいつら何なんだ!? 知っているのか、アクア!?」
「後で説明する。だから、行って」
真剣な目で、男達からは目は離さない。
「わ、分かった。絶対だぞ!?」
「鉄砲鳥の唐揚げを作って説明する」
「お前、料理できないだろ!」
そう言って、駆け出すナヴィ。
黒服の一人が追おうとするも、その足元を熱を帯びて真っ赤に染まった金属鞭が叩き付けられる。
「行かせない、ノア」
道を塞ぐように、海の少女が立ち塞がる。
『ケェッケッケッケ! 部下の話を聞けば、あっしの命の障害はお前達のようでやんす! 死ぬでやんす!』
「しまった。ナヴィは地理に疎い」
「ここどこだ!?」