現代風童話物語   作:ekusyd

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おじいさんとおばあさん

 暗い洞窟の中。日の光など到底届かぬ場所。

 

 そこにあるのは空気と水、そして水の流れる音。

 不思議とそこには、魚や蝙蝠ですら一匹たりとも存在していない場所。まるで何かに守られているような、阻まれているような場所。

 

 そんな場所に本来ならありえる事のない光がある。

 人が入ってきたのであろうか?否、それは不可能である。

 

 先も言った通り魚一匹、蝙蝠一匹さえ入れぬようになっている場所に人など入ることなどできるはずがない。では、この光は何か。

 

 突如として現れた光は水の上に、あるモノを浮かせ水に流させた。

 

 「この世界のことを頼みます。直接干渉できない私の代わりに……」

 

 ぽつりと光から声が発せられた。

 

 その声には、今しがた流したモノに本気で託している意志が込められているように感じられた。 

 果たして、その意志の意味するものは何であろうか。

 

 モノが流れて行くのを確認した光はその場から消える。

 まるで最初からそこには光など来てすら居なかったかのように。しかし確実に来ていたことを示すものが流れて行く。

 

 ザプンザプンとその洞窟の中になかった新たな音を立てながら流れて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むかしむかし、それはまだ人と鬼が争いをし、妖物(あやかしもの)がのらりと生きていた時代。

 ある村はずれの山中におじいさんとおばあさんが暮らしておりました。

 

 二人ともすっかり背が曲がり髪の毛も真っ白に、全体的に細くしわしわになっていますが、年を感じさせないほど元気に二人で暮らしておりました。二人の間には残念ながら子は為せなかったものの、それを悲観することなく幸せに暮らしておりました。

 

 おじいさんは家から離れた場所に柴刈りに行きつつ今日の分の食料と村へと降りて行った時にお金に変えれる物を採取しに行きした。

 

 おじいさんは、拾った柴の小枝を縛るための紐を数本腰に巻き付け、背には食料と換金する物を入れるための籠を背負っていました。

 籠の中にはまだ何も入っていないとは言えども、それなりの重量がある。それを軽々と背負っているおじいさんは健康そのものといえるであろう。

 

 健康の文字で片付けて良いのかはわからないが、おじいさんがまだまだ若者に負けないほどの力を持っていることは間違いなさそうです。

 

 「さて、行ってくるかの」

 「怪我をしないように気を付けてくださいね」

 「ああ。ばあさんこそ川に落ちんようにな」

 

 いつものようにお互いの安全に気を配りながらおじいさんは、燃料となる柴と食料等を求めてずんずんと進んでいくのでした。

 

 しばらくおじいさんが歩いていると、丁度よさそうな柴の小枝が落ちているのを発見しました。小枝を拾うために曲がっている腰を更にまげて拾っていきます。

 

 一つ拾うたびに「よっこいしょっ」と言ってしまうことに年を取ったと実感しながら、まだまだ足りない柴を集めていきます。

 

 中には小動物によって折られてしまったようなものもあり、それらは水分を多分に含んでいるため燃料にはならないが、しばらく乾燥させれば使えるようになるため拾っていく。

 ただし燃料として燃やすときに一緒にならないように水分を含んでいる小枝は籠の中に入れて持ち運びます。

 

 柴を集めているときにも、キノコなど食料となる物がたくさんあり忘れずに籠の中へと入れていきます。キノコは毒をもつものもあるのでよく確認してから採取していきます。

 

 しばらくして、腰が少し痛くなってきたおじいさんは、可能な限り背中を反らせます。痛みを感じるが気持ちよくもあるところで数秒止めてゆっくりと元に戻す。

 3回ほど繰り返したおじいさんは、近くにあった石の上に座って休憩をします。

 

 「今日もいい天気だのぉ」

 

 上を見上げて雲一つない青空に頬を緩ませます。

 ポカポカと暖かく目を閉じるとそのまま眠ってしまいそうなほど、ゆったりとした時間が過ぎてゆく。

 

 風のなびく音。鳥のさえずり。それら全てがおじいさんの心を温かくする。

 

 昔はこんな音に耳をかたむけているほど暇ではなかった。……違う。たとえ暇であっても、聞こうとしなかったであろう。この音がどれほど自分を癒してくれるかに気付くこともなく。

 

 だがとおじいさんは思います。今はそれに気づき緩やかにすごしている。これがどれほどの幸せであろうか。昔の自分では到底理解できなかった。

 

 しみじみ思いふけっていたおじいさんの耳に不穏な音が響く。

 

 それは大地を踏み悠々自適に歩く音。閉じていた眼をうっすらと明け音のするほうへと視線をやる。音の正体はまだ視界に入ってきていないが、着実にこちらへと近づいてきている。

 

 ほんの少し待つとフゴフゴと鼻を鳴らしおじいさんの方へと歩いてくる全長4mはあろう猪の姿が現れる。

 猪もおじいさんをその目に映すと立ち止まり殺気を出し始めました。

 

 「ほぅ。こりゃあまたでっかい猪じゃのぅ」

 

 おじいさんは気追うこともなく自然体のまま猪に向き合う。

 通常の猪は大きくとも2m程度なのだが、目の前にいるのは2倍の大きさはある。そんなものに出会ったら恐怖でしかないはずだ。固まって動けなくなるかもしれないし、錯乱し奇声を上げながら走って逃げようとするかもしれない。

 

 特におじいさんなら尚更恐れるはずだ。

 

 しかし、おじいさんの目には恐れなどなく、ただただ獲物を見つけた目をしている。

 手に持っていた小枝を籠の中にしまいながら注意深く見つめます。

 

 猪はおじいさんを餌にしようとよだれを垂らしています。そう、この猪はおじいさんを食らおうとしているのです。

 

 本来猪とは植物を主食としている生き物で、滅多に肉など食べないはずなのだが。

 

 プギィ!と鳴きながらおじいさんへと突進していく猪。おじいさんはそれを冷静に見つめスッと手を出し、突進してきた猪の牙を鷲掴みにする。

 猪も想像していた事と違い一瞬驚くがそのまま下から突き上げるかのように、力任せに進んでいく。現におじいさんは少しづつ押されて行っている。

 

 だが、だからこそ猪は気づかない。だからこそ猪は知れない。

 

 先ほどまで標的にしていたヨボヨボで腰の曲がったおじいさんが、背筋がピンと伸び筋肉モリモリマッチョマンになっていることに。

 

 「はっはっは!こりゃ生きがいい!!仕留めて今夜は牡丹鍋じゃわい」

 

 言うや否やおじいさんはさらに力を込めて猪を持ち上げます。

 

 あまりの事に猪は情けなく、甲高い声で鳴きながら4本の脚をバタつかせますが全く意味をなしていません。

 

 おじいさんは猪を持ち上げたまま軽く5mくらいジャンプし、先程まで座っていた石に向かって頭から叩きつけました。

 

 あまりの衝撃に木が、山が、空気が揺れあたりは土埃だらけになってしまいました。

 しばらくすると風が吹き土埃が流されていきます。

 

 残されたのはヨボヨボのおじいさんと地面に突き刺さって絶命している猪のみ。

 

 「暗くなる前に持ち帰るとするかの」

 

 あれだけの動きをしたのにもかかわらず、何事もなかったかのような籠を背負いつつ片手で猪の脚をつかんで持ち運び始めました。

 

 

 その頃おばあさんは、近くの川へと洗濯をしに行っておりました。

 春になり日は暖かくなってきたといえども川の水はまだまだ冷たく、素手で洗濯をするのにはきつい水温。

 

 しかしおばあさんは、この川を使って洗濯を何年もやってきているため、この程度の水温では何とも思わなくなっていました。夏に比べれば確かに冷たいが、冬に比べれば全然ましであった。

 

 冷たいと思えるのであれば序の口である。冬場は冷たくないのだ。冷たくなく痛いのだ。手は赤くなり感覚もなくって行く。冬は少しだけ洗濯の時間が長くなってしまうのだが、しょうがないことである。

 

 いくら慣れたといっても痛いものは痛いし、感覚が無くなれば洗濯物が上手く掴めず川に流されてしまう。

 

 その昔、今のところに来たばかりのころは寒くて一刻も早く家に帰りたいがために、感覚のなくなった手で洗っていたら流されてしまった経験があるのだ。

 

 そのことをふと思い出したおばあさんは少し頬を染めて、振り払うかのように顔を横に振りました。それでも顔の火照りが冷める様子がなく右手を頬に当てて、火照りを冷ます方法を考えます。

 

 少し考えたおばあさんでしたが、自分が何をしにどこへ来たのかを思い出しました。

 

 皮肉な事に冷たい川の思い出で熱くなった頬を、その冷たい川で冷まします。

 

 それが可笑しくなってふふっと笑みをこぼしています。けれどもおばあさんは、水を汲んだ自分の手を見て寂しそうな顔をしました。

 

 自分のしわしわになった手。仕方ないとはいえども、こんな自分の手が一時期嫌になっていた事がありました。けれど、おじいさんが「例えどんなにしわしわになっていたとしても、千代は千代じゃ。儂が好きになった千代のままじゃ」と言ってくれたことがうれしくてたまらなかった。

 

 その時のことを思い出してまた頬が熱くなってきたおばあさん。せっかく冷やしたばかりなのにともう一度川の水で頬を冷やしています。

 

 

 そんな今の自分の行動に幸せを感じながら、川に来てから洗ったものが自分の顔だけだったことを思い出したおばあさんは気持ち慌てながら、洗濯を開始し始めるのでした。

 

 服が破れてしまわぬように優しく、それでいて汚れを落とすためにこすり合わせる。何十回何百回何千回とやってきた洗濯。慣れた手つきで次々と洗っていくおばあさんですが、ふと違和感を覚えました。

 

 違和感の正体はすぐにわかりました。

 カラスが複数羽群がってカーカーと鳴きながら川の上を旋回していました。

 

 はて?と思ったおばあさんはほとんど終わっている洗濯物を置きカラスを注視します。

 

 カラスが川の方に向かって急降下するのを見て、そのまま視線を川へと下ろしていくとそこには大きな桃が流れておりました。

 

 川の幅は約2m程であるが、その桃は川の幅いっぱいの大きさがありました。

 

 幅2m高さはいかほどなのか。ぱっと見では高さも2m程。

 

 ()()1()()()()()()()()大きさの桃。

 そんな桃がザプンザプンとゆっくりと流れてきていました。

 

 カラスたちは大きな桃を食べようと何度も突撃していますが皮が固いのか、なかなか食べることができないでいました。それでもおばあさんはその桃をカラスたちに食べられるのは癪だと思い近くに落ちていた石を拾い上げました。

 

 しかし桃までは少なく見積もっても数十mは離れており、鍛え上げられた肩を持った人間が全力で投げてやっと届くかどうかの距離。間違ってもおばあさんが全力投げたところで絶対に届かない距離。

 

 おばあさんは手に持った石の感触を確かめるために手の上で転がし、ポンポンと重さを確かめちょうどいい石であることを確かめたおばあさんはひょいッとカラスに向けて投げました。

 何でもないかのように、拾った石をまたそこに投げ捨てるかのように投げた石は時速200kmは出てるであろう速度で飛んでいき、カラスの目と鼻の先を通り過ぎていきました。

 

 カラスは何が起きたのかわからず、しばらく硬直していましたが自分の命に関わることだということが本能で理解し始め急いで逃げだしました。

 

 カラスが逃げたのを確認したおばあさんはうなずきました。

 桃はゆっくりと流れてきています。

 

 洗濯をササっと終わらせたおばあさんは桃が自分のところに流れてくるのを待ちます。

 その間にまたカラスが桃を狙ってこないように石を準備している抜け目ないおばあさんです。

 

 心配は杞憂に終わり桃はおばあさんのところまで流れてきました。遠くからでも見ることのできた大きな桃は、近くによるとより迫力を増して見えます。

 そんな桃をおばあさんは今日のデザートができたくらいにしか思っていませんでした。

 

 おばあさんは大きな桃を両手でつかみ川から引き上げました。

 カラスに襲われているときにも思いましたが手にしてみると皮がとても固く感じました。まるで鉄で出来ているかのように思えるほどです。

 

 それでもおばあさんは、おじいさんなら切れますかねと切れることを前提で持っていくことに決めました。

 

 おじいさんは柴と販売物、夕食のイノシシを。おばあさんは洗濯物とデザートの桃をそれぞれ持ち帰りました。

 

 おばあさんの方が家に近かったことと仕事量が少なかったこともあり先に家につきました。ご飯の準備をしようにもおじいさんが返ってこないことには食材として何を持ってくるかわからないので、とりあえず桃を自分の力で切れないか試してみることにしました。

 

 台所から愛用の包丁を持ってきたおばあさんは無理だと解っていながらも、もしかしたらと普通の桃を切るように包丁を入れます。

 

 やはりというべきか包丁は皮に阻まれて身にたどり着くことができませんでした。

 ならばと刃を当てがいながら全体重をかけてみても桃はビクともしませんでした。どころかもう少しやっていたら包丁の方がダメになっていたかもしれません。

 

 ふむ、と少しばかり残念に思いながらも最初から切れると思っていなかったおばあさんは、包丁と一緒にいろいろと持ってきていました。

 

 その中からまずはと鉈を手に取ります。

 包丁がダメだったのでほぼ無理だと思っていましたが、薪を切るために作られているため念のため持ってきていました。

 

 予想通り鉈でも桃は切ることができませんでした。

 

 ノコギリなども持ってきたおばあさんでしたがこの時点で自分がどれだけ頑張ろうとも切れないと諦めました。

 

 おじいさんが帰ってくるまで何をしようかと思いましたが、洗濯物をまだ干していないことに気づき急いで干しに行きました。

 大きな桃のことで頭がいっぱいになっていたおばあさんは、洗濯物を干すことを忘れていました。今日だけで何度目かの顔に熱を感じます。

 

 一生分熱を感じたのではないだろうかと思うおばあさんでしたが今目の前にある仕事に集中しようと小さく深呼吸をします。

 

 洗濯物を干し終えたおばあさんは囲炉裏に火をくべることにしました。

 ふたりとも家を出るため一旦火を消していましたが、桃に気を取られていた事とそれに伴って顔が熱くなっていたため火をくべていませんでした。

 

 暖かくなってきたとは言えども暗くなれば寒くなるし、この囲炉裏の火が照明にもなる。

 

 それに台所で食材を切ったとしても火を通すときはこの囲炉裏の火を使うのでどのみち火をつけなければいけなかったのです。

 

 どうにも今日はどこか抜けていると実感しているおばあさんですが、過ぎ去ってしまったものはしょうがありません。

 

 しばらくするとおじいさんが帰ってきました。

 

 「ばあさんや帰ったぞ」

 「おかえりなさいおじいさん」

 

 いつもと同じ会話をしているがおじいさんの様子が少しおかしいと感じたおばあさんは尋ねました。

 

 「何かいいことでもあったんですか?」

 

 おじいさんは得意げになって口の端を上げるとおばあさんを手招きします。

 

 なんでしょうと思いながら外に行くと大きな猪がいました。

 目を見開き基地に手をやり「まぁ!」と驚くおばあさんを見ていたずらが成功した子供のように笑顔になるおじいさんです。

 

 それに少しだけムッとしたおばあさんは、今度はおじいさんを手招きし台所へ連れてき行きます。

 首を少しひねりながらついていくおじいさんですが、家に入り台所の方に目をやると大きな桃が置いてあり口を大きく開けて驚いていました。

 

 その様子に満足したおばあさんはおじいさんの肩に手をやり、「負けませんよ」と一言いいました。

 

 後ろから「悔しいのぅ」と聞こえさらに満足したおばあさんでした。

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