これは彼が篠ノ之束と出会ってから数日後の出来事である。
両者、共に構えたまま動かない。戦いはすでに始まっているが迂闊に近づく訳にはいかない。故に動かない。 静かに時が流れる。 どれほどの時間が経っただろうか。ついにその時が訪れた。 一方が意図しないほんの僅かな、一瞬の隙を見せた。 そして、対する彼女はそれを見逃さなかった。 瞬間。 一気に間を詰める。 すぐに気づいた相手は防ごうとするがもう遅い。 振り上げられた彼女の得物はすでに、相手の眉間に向け一直線に振り下ろされていた。
「一本! この勝負、織斑千冬の勝利!」
「ちーちゃん凄~い!」
「ああそうだな。とてもいい鋭い一撃だった。」
「ふっ。 ありがとう一夏。」
「えっ⁉ちーちゃん、束さんは⁉」
「知らん。」
「そんなぁ」
「そんなことよりも一夏。せっかくだからお前もやってみたらどうだ?」
「僕が?」
「そうだ。どうする?」
「そうだな。剣道という物には少し興味があったんだ。少しやらせてもらおうかな。」
そうして一夏は剣道を体験したが、才能が良かったのかあっという間に基礎を習得した。
「さすがだな。」
「うむ。筋がいいな。一夏君。どうだろう?是非、我が道場で剣道をやってみては。」
「
「ふむ。それは残念だな。だがいつでも歓迎するぞ。」
「ありがとうございます。ですが、やはり遠慮させてもらいます。」
「そうか。 なら何も言うまい。時間を取らせたな。」
「いえ、問題ありません。先ほども言いましたがかっこいい千冬が見れたので満足です。」
「…一夏君。君、シスコンと言われたことはないかな?」
「あります。シスコンとは悪い事なのでしょうか?」
「いや。姉弟としての一線さえ越えなければ特に問題はないだろう。」
「僕はそんなことはしないので大丈夫ですね。」
「いっく~ん。ちーちゃんの試合もう終わったよ。早くいこうよ‼」
「すいません
「いや。申し訳ないのはこちらだ。時間を取らせたな。それと、束が自由過ぎて申し訳ない。」
「僕が言うのはおかしいかもしれませんが、お互い大変ですね。」
「そうだな。」
「「はぁ~~」」
「いっく~ん。早く早く~。」
「それでは失礼します。」
「さて、束。お前が私たちに見せたいというものは何だ?くだらんモノだったら… 分るな?」
「いっく~ん。ちーちゃんが怖いよー。」
「まぁまぁ、千冬。とりあえずモノを見てからだ。」
「いっくん酷~い。」
「束さんが見せたいというモノだ。別にくだらないモノではないんじゃないかな?」
「その通りなのだよ、いっくん。」
そしてついたのは束のラボだった。
「こんな場所が有ったのか。」
「えへっ。勝手に作っちゃった。」
「…法律的にそれはアウトじゃないのか?」
「ちーちゃん。 ばれなきゃ犯罪じゃないんだよ。」
「はぁ。お前はそういうやつだったな。」
「束さん。見せたいモノっていうのはこの布がかかっているのかな?」
「そうだよそうだよ。それじゃあ、お披露目だ~。」
そう言って束は布を取り払う。
そこにあったのは純白のロボみたいなものだった。
「ほぉ。これが見せたいモノか。」
「こんなものを作れるって束さんは凄いな。装甲が無い所も有るしまだ製作途中かな?」
「いや。装甲はそれで完成だよ。プログラムはまだ途中だけど。」
「なるほど。束さん。これはどういった目的で使うんですか?」
「これはインフィニット・ストラトスて言って宇宙で活動するためのモノなんだ。」
「なるほど。宇宙か。でも束さん。だとしたら装甲が少なくないですか?これじゃあ搭乗者を守れないんじゃないのでは?」
「それは大丈夫。これにはシールドバリアーと絶対防御ていう、搭乗者を守るシステムが有るんだよ。」
「それは凄いな。だがそれにしても少なくないかな。万が一の事態は想定しておいた方がいいんじゃないか?」
「ん~。いっくんの言う事は尤もだね。次は全身フル装甲にしようかな?」
それから束は堰を切ったかのように、このパワードスーツの機能の説明をした。
「なるほど。解らん。一夏。どういうことだ?」
「様々な危険のある宇宙で自由に活動できる鎧。」
「よし。大体理解できた。」
「ちーちゃん… ところでいっくん。これをどう思う?」
「そうだな。まだ試作段階らしいからいくつかの試験や改善点は有るだろうけど、これが実用されたら宇宙開発が大きくはかどるだろう。これはきっと歴史や技術、双方にとってのターニングポイントになるだろね。」
「本当⁉ やったー!」
だが、僕はまだ彼女に伝えなければいけない事が有った。彼女には酷かもしれないが、宇宙世紀を生きた僕にはこれが発表されたらどうなるか。それを想像することができた。
「束さん。喜んでいるところ悪いけれど少し良いかい?」
「なにかな?」
「今これを発表するのはダメだ。絶対に。」
「なんで?どうして?」
彼女は天才だ。だが彼女には、人とまともな会話ができないという欠点がある。今回はそれが、この問題に気付く可能性を奪っていた。だから今、それに唯一気付いている僕が言わなければいけない。
「束さん。これは正しく使えば間違いなく、人類の発展にとって重要なモノになる。だけど、一般人の考えを代表して言わせてもらうと、これは現状、強力な兵器にしか見えない。」
「…えっ。」
「束さん。あなたは他人と一切話をせず、他人を理解しようとしないからこの問題に気付くことができなかった。重要な事だからもう一度言おう。これはどう見ても兵器にしか見えない。」
「でもでもでも」
「落ち着いて、束さん。深呼吸して。 落ち着きましたか?」
「うん。それで。なんでそうなるの?」
「それじゃあ頭の中でイメージしてください。」
「うん」
「まず。無数の兵器に狙われたとしましょう。ミサイルでも狙撃銃でも何でも構いません。だけどそれらは全て、PICを用いた立体的な高機動で躱すかシールドバリアーなどで無力化される。」
「うん」
「そして高機動で翻弄し、拡張領域内に保管されている強力な武装を使用しての攻撃。イメージできましたか?」
「うん。」
「じゃあそれを見て束さん、あなたにはそれが何に見えましたか?」
「…兵器。」
「そうです。これが一般的な考え方です。」
「じゃあ、これを作った意味はないってこと?」
「いいや。そうじゃないんです。世間の認識の仕方が今のままだと、兵器としか捉えてくれないという意味です。」
「じゃあどうすればいいの?」
「そうですね。一番いいのは段階を踏むことです。」
「段階?」
「そうです。今の世間はまだ、これを受け入れられる基盤ができていないんです。それも当然です。これには今までにない系統の技術が使用されています。今発表してもただの戯言程度にしか受け取ってはくれないでしょうしね。なので順を踏んでこれが受け入れられる基盤を作るんです。」
「例えば?」
「例えば、これに使われている技術を用いた別の物を個別に発表する。なんてどうでしょう?PICを搭載した旅客機とか。」
「それでほんとに上手くいくのかな?」
「要はインフィニット・ストラトスが登場しても世間が納得できるよう、今から慣れさせるんです。何もしないよりも可能性はあります。」
「束。私はこの手の話はよく解らんが、お前の発明品の印象が良くなるならそれに越したことはないんじゃないか?」
「わかった。そうしてみるよ。」
「大丈夫です、束さん。僕達も協力しますから。」
「まぁ、お前と親しくしている以上、乗り掛かった舟だ。私も手伝えることは協力しよう。」
「二人とも… ありがとう。」
この日、誰も知らない場所で歴史が変わった。
ウサギは本来の歴史と同じく、静かに涙を流した。
だがそれは、怒りや悔しさから来たものではない。
自身の夢の為に親身になってくれる。
そんなかけがえのない友を得たことによる、
嬉しさや感謝から来た涙だった。
「よし、それじゃあまずは他者と、ある程度の会話ができるようになりましょう。」
「確かに、まずはそこからだな。」
「えぇ~。」
最後まで読んで頂き、有難う御座います。 面白いと思っていただければ幸いです。
感想にて、アムロの一人称に違和感を感じた方がいらっしゃいましたが、本作のアムロはこれが正常です。 というのも、本作のアムロは逆襲のシャア直後のアムロではなく、精神体となって宇宙世紀の歴史を見ていたアムロです。 これはYouTubeのガンダム公式サイトにある、『機動戦士ガンダム 光る命 Chronicle U.C.』<編集版>と言う動画を参考にしています。
僕はアムロの心(精神)は、作品に登場した順に成長していると考えています。この動画のアムロは最初は「俺」でしたが、命の光を見て「僕」と言っているので、彼はまた一つ成長したのではないかと考えました。ただ単に驚いて素が出てしまっただけかもしれませんが、そうであってほしいという思いから、一人称を「僕」に設定しました。